Botchan - Chapter 9

vocabulary bar - use mouse hover or touch to display furigana and definition of underlined terms

うらなりうらなり Uranari (nickname for Koga, the English teacher)くん (suffix of familiarity for males)送別会送別会そうべつかい farewell partyのあるという dayあさ morning学校学校がっこう school出たらたら arrived (at); made one's appearance山嵐山嵐やまあらし Yama Arashi (nickname for Hotta, the head mathematics teacher)突然突然とつぜん suddenlyきみ you (used here as form of address)先だってせんだって the other dayいか銀いかぎん Ikagin (name of Botchan's former landlord)来てて came; called (on)、君が乱暴して乱暴らんぼうして act rudely; be disorderly困るこまる be troubled; be upsetから、どうか出るように話してはなして tell; persuadeくれと頼んだたのんだ asked; requestedから、真面目に真面目まじめに seriously; at face value受けてけて accepted; took (as)、君に出てやれと話したのだが、あとから聞いていて check into; learnみると、あいつは悪るいるい underhanded; nefariousやつ fellowで、よく偽筆偽筆ぎひつ forgery (writing or painting); imitationにせ fake; sham落款落款らっかん artist's sealなどを押してして imprint (seal)売りつけるりつける peddle; hawkそうだから、全くまったく absolutely君のこと facts; story出鱈目出鱈目でたらめ nonsense; wild talkに違いないちがいない there's no doubt that ...。君に懸物懸物かけもの paintings; scrolls骨董骨董こっとう antiques; curiosを売りつけて、商売商売しょうばい business; transactionsにしようと思ってたおもってた thought (to do)ところが、君が取り合わないわない take no heed of; have nothing to do with儲けもうけ profit; gainがないものだから、あんな作りごとつくりごと fabrication; false storyこしらえてこしらえて create; concoct胡魔化した胡魔化ごまかした deceived; trickedのだ。ぼく Iはあの人物人物じんぶつ character; personality知らなかったらなかった didn't know about; wasn't aware ofので君に大変大変たいへん terrible; great失敬失敬しっけい discourtesy; rudenessした勘弁したまえ勘弁かんべんしたまえ please pardon (me)長々しい長々ながながしい lengthy謝罪謝罪しゃざい apologyをした。

おれは何とも云わずになんともわずに without saying anything、山嵐のつくえ deskうえ top (of)にあった、一銭五厘一銭五厘いっせんごりん 1 sen and 5 rin (0.015 yen)をとって、おれの蝦蟇口蝦蟇口がまぐち coin purse (lit: toad mouth)のなかへ入れたれた put into。山嵐は君それを引き込めるめる take back; withdrawのかと不審そうに不審ふしんそうに doubtfully; distrustingly聞くから、うんおれは君に奢られるおごられる be treatedのが、いやだったから、是非是非ぜひ by all means返すかえす return; give backつもりでいたが、その後その since thenだんだん考えてかんがえて consider; think overみると、やっぱり奢ってもらうほう alternative; choiceがいいようだから、引き込ますんだと説明した説明せつめいした explained。山嵐は大きなおおきな big; loud (voice)こえ voiceをしてアハハハと笑いながらわらいながら laughing; chuckling、そんなら、なぜ早くはやく sooner取らなかったらなかった didn't take (back)のだと聞いた。実はじつは in truth; actually取ろう取ろうと思ってたが、何だかみょう strange; uncomfortableだからそのままにしておいた。近来近来きんらい recentlyは学校へ来て一銭五厘を見るる seeのが苦になるになる be a burden; weigh on one's mindくらいいやだったと云ったらったら said; explained、君はよっぽど負け惜しみの強いしみのつよい can't tolerate defeat; hate to loseおとこ manだと云うから、君はよっぽど剛情張り剛情張ごうじょうっぱり obstinate typeだと答えてこたえて answered; respondedやった。それから二人二人ふたり two (people)あいだ betweenにこんな問答問答もんどう dialogue; exchange起ったおこった occurred; took place

「君は一体一体いったい anyway; after allどこのさん birth(place)だ」

「おれは江戸っ子江戸えど native of Tōkyōだ」

「うん、江戸っ子か、道理で道理どおりで no wonder ...; that explains ...負け惜しみが強いと思った」

「きみはどこだ」

「僕は会津会津あいづ Aizu (region in Fukushima Prefecture; historically renowned for martial skills)だ」

会津っぽ会津あいづっぽ native of Aizuか、強情な強情ごうじょうな stubborn; headstrongわけ reasonだ。今日今日きょう todayの送別会へ行くく go (to); attendのかい」

「行くとも、君は?」

「おれは無論無論むろん of course行くんだ。古賀古賀こが Koga (a.k.a. Uranari)さんが立つつ leave; departとき time; occasionは、はま shoreまで見送り見送みおくり send-off; goodbyeに行こうと思ってるくらいだ」

「送別会は面白い面白おもしろい amusing; entertainingぜ、出て見たまえ。今日は大いに飲むむ drinkつもりだ」

勝手に勝手かってに as you please; as you like飲むがいい。おれはさかな fish食ったらったら eat、すぐ帰るかえる return homeさけ sakéなんか飲む奴は馬鹿馬鹿ばか fools; idiotsだ」

「君はすぐ喧嘩喧嘩けんか quarrel; dispute吹き懸けるける stir up (trouble)男だ。なるほど戸っ子の軽跳な軽跳けいちょうな reckless; indiscreetふう style; mannerを、よく、あらわしてる」

「何でもいい、送別会へ行くまえ beforeにちょっとおれのうちへお寄りり stop by; drop by、話しがあるから」

山嵐山嵐やまあらし Yama Arashi (nickname for Hotta, the head mathematics teacher)約束通り約束通やくそくどおり as promised; as agreedおれの下宿下宿げしゅく lodgings寄ったった stopped by。おれはこの間からこのあいだから in recent daysうらなりうらなり Uranari (nickname for Koga, the English teacher)くん (suffix of familiarity for males)かお face見るる see; look atたび each time ...気の毒どく pitiableでたまらなかったが、いよいよ送別送別そうべつ farewell今日今日きょう todayとなったら、何だかなんだか somehow憐れっぽくってあわれっぽくって miserable; wretched出来る出来できる possible; doableこと act; factなら、おれが代りにかわりに in (someone's) place行ってって goやりたい様な気がしだしたようがしだした began to feel that ...。それで送別会送別会そうべつかい farewell party席上席上せきじょう on the occasion ofで、大いにおおいに greatly演説演説えんぜつ speech; talkでもしてその行を盛にしてそのこうさかんにして give (a person) a hearty send-offやりたいと思うおもう think (to do)のだが、おれのべらんめえ調子べらんめえ調子ちょうし rough style; unrefined mannerじゃ、到底到底とうてい (not) at all物にならないものにならない serve no purpose; be ineffectualから、大きなこえ voice出すす put forth山嵐を雇ってやとって use; employ一番一番いちばん first off; first of all赤シャツあかシャツ Red Shirt (nickname for the head teacher)荒肝を挫いで荒肝あらぎもひしいで strike some fear into (someone)やろうと考え付いたかんがいた planned; thought toから、わざわざ山嵐を呼んだんだ called; invitedのである。

おれはまず冒頭として冒頭ぼうとうとして for starters; to begin with マドンナ事件事件じけん affair; goings onから説き出したした started to explainが、山嵐は無論無論むろん of courseマドンナ事件はおれより詳しくくわしく in detail; intimately知っているっている knew of; was aware of。おれが野芹川野芹川のぜりがわ Nozeri River土手土手どて embankmentはなし tale; storyをして、あれは馬鹿野郎馬鹿野郎ばかやろう idiotだと云ったらったら said、山嵐はきみ youはだれを捕まえてつらまえて nab; get hold ofも馬鹿呼わりをするよばわりをする call (someone something)。今日学校学校がっこう school自分自分じぶん oneself (Yama Arashi referring to himself in this case)の事を馬鹿と云ったじゃないか。自分が馬鹿なら、赤シャツは馬鹿じゃない。自分は赤シャツの同類同類どうるい same typeじゃないと主張した主張しゅちょうした insisted; emphasized。それじゃ赤シャツは腑抜けの腑抜ふぬけの doltish; spoony呆助呆助ほうすけ jackassだと云ったら、そうかもしれないと山嵐は大いに賛成した賛成さんせいした agreed。山嵐は強いつよい strong; sturdy事は強いが、こんな言葉言葉ことば vocabulary; sayingsになると、おれより遥かにはるかに by far words (characters)を知っていない。会津っぽ会津あいづっぽ native of Aizuなんてものはみんな、こんな、ものなんだろう。

それから増給増給ぞうきゅう pay raise事件と将来将来しょうらい future重くおもく heavier (in responsibility)登用する登用とうようする elevate; promoteと赤シャツが云った話をしたら山嵐はふふんとはな noseから声を出して、それじゃぼく me免職する免職めんしょくする dismiss (from one's post)考えだなと云った。免職するつもりだって、君は免職になる気かと聞いたらいたら askedだれ whoがなるものか、自分が免職になるなら、赤シャツもいっしょに免職させてやると大いに威張った威張いばった swaggered; took on an attitude。どうしていっしょに免職させる気かと押し返してかえして pushing back尋ねたらたずねたら inquired、そこはまだ考えていないと答えたこたえた answered。山嵐は強そうだが、智慧智慧ちえ wisdomはあまりなさそうだ。おれが増給を断わったことわった refused; turned downと話したら、大将大将たいしょう old fellow大きに喜んでよろこんで be delighted; be pleasedさすが江戸っ子江戸えど native of Tōkyōだ、えらいと賞めてめて compliment; praiseくれた。

うらなりうらなり Uranari (nickname for Koga, the English teacher)が、そんなに厭がっていやがって be loathe (to do); be unwillingいるなら、なぜ留任留任りゅうにん stay; remain (in one's position)運動運動うんどう action; movementをしてやらなかったと聞いていて askみたら、うらなりからはなし story; newsを聞いたとき time; momentは、既にすでに alreadyきまってしまって、校長校長こうちょう (school) principal二度二度にど twice赤シャツあかシャツ Red Shirt (nickname for the head teacher)一度一度いちど once行ってって went (to); visited談判して談判だんぱんして talk; bargainみたが、どうすること action出来なかった出来できなかった could not be doneと話した。それについても古賀古賀こが Koga (a.k.a. Uranari)があまり好人物過ぎる好人物過こうじんぶつすぎる too good-naturedから困るこまる be troubled; have difficulty。赤シャツから話があった時、断然断然だんぜん resolutely; decisively断わることわる refuse; turn downか、一応一応いちおう once; tentatively考えてかんがえて consider; think overみますと逃げればげれば evade; escapeいいのに、あの弁舌弁舌べんぜつ (eloquent) speech胡魔化されて胡魔化ごまかされて be hoodwinked; be taken in即席に即席そくせきに immediately; on the spot許諾した許諾きょだくした gave in; acquiescedものだから、あとからお母さんっかさん mother泣きついてきついて plead; begも、自分自分じぶん oneselfが談判に行っても役に立たなかったやくたなかった was of no use非常に非常ひじょうに extremely残念がった残念ざんねんがった be disappointed

今度今度こんど this time事件事件じけん incident; affair全くまったく absolutely; completely赤シャツが、うらなりを遠ざけてとおざけて keep at a distance、マドンナを手に入れるれる get; take possession of策略策略さくりゃく schemeなんだろうとおれが云ったらったら said; commented無論無論むろん of courseそうに違いないちがいない without a doubt。あいつは大人しい大人おとなしい gentle; well-manneredかお face; countenanceをして、悪事悪事あくじ villainy; wrong-doing働いてはたらいて commit; perpetrateひと a person何かなにか something云うと、ちゃんと逃道逃道にげみち an out; a means of escape拵えてこしらえて invent; concoct待ってるってる be ready; be preparedんだから、よっぽど奸物奸物かんぶつ rascal; crookだ。あんなやつ fellowにかかっては鉄拳鉄拳てっけん iron fist制裁制裁せいさい punishmentでなくっちゃ利かないかない have no effectと、こぶ lump; contourだらけの腕をまくってうでをまくって bare one's arm (roll up one's sleeve)みせた。おれはついでだから、君のきみの your腕は強そうつよそう looks strongだな柔術柔術じゅうじゅつ Jūdō; martial artsでもやるかと聞いてみた。すると大将大将たいしょう old fellow二の腕うで upper arm; biceps力瘤を入れて力瘤ちからこぶれて flex (muscles)、ちょっと攫んでつかんで grip; grabみろと云うから、指の先ゆびさき finger tips揉んでんで feel; testみたら、何の事はないなんことはない nothing short of湯屋湯屋ゆや bathhouseにある軽石軽石かるいし pumice (stone); float stone様なような like ...ものだ。

おれはあまり感心した感心かんしんした be impressedから、君そのくらいの腕なら、赤シャツの五人五人ごにん five (people)六人六人ろくにん six (people)は一度に張り飛ばされるばされる be defeated; be disposed ofだろうと聞いたら、無論さと云いながら、曲げたげた bent腕を伸ばしたりばしたり extend縮ましたりちぢましたり contractすると、力瘤がぐるりぐるりとかわ skinのなかで廻転する廻転かいてんする roll; undulate。すこぶる愉快愉快ゆかい amusing; entertainingだ。山嵐の証明する証明しょうめいする attest (to)ところ place; pointによると、かんじん綯りかんじんり twisted-paper string二本二本にほん two (strands)より合せてよりあわせて twisted together、この力瘤の出るる protrude所へ巻きつけてきつけて wrap around、うんと腕を曲げると、ぷつりと切れるれる be cut; be brokenそうだ。かんじんよりなら、おれにも出来そうだと云ったら、出来るものか、出来るならやってみろと来たた came (back with); replied。切れないと外聞がわるい外聞がいぶんがわるい be embarrassing; be shamefulから、おれは見合せた見合みあわせた put off; deferred

きみ you (used here as form of address)どうだ、今夜今夜こんや this evening; tonight送別会送別会そうべつかい farewell party大いにおおいに a great deal飲んだんだ drinkあと、赤シャツあかシャツ Red Shirt (nickname for the head teacher)野だだ Noda (short for Nodaiko, nickname for Yoshikawa, the art teacher)撲ってなぐって hit; drubやらないかと面白半分に面白半分おもしろはんぶんに half-jokingly勧めてすすめて suggestedみたら、山嵐山嵐やまあらし Yama Arashi (nickname for Hotta, the head mathematics teacher)はそうだなと考えていたかんがえていた considered; thought overが、今夜はまあよそうと云ったった said; replied。なぜと聞くく askと、今夜は古賀古賀こが Koga (a.k.a. Uranari)気の毒どく too bad (for someone)だから――それにどうせ撲るくらいなら、あいつらの悪るい所るいところ misdeed; malfeasance見届けて見届みとどけて witness; see with one's own eyes現場で現場げんばで on the spot撲らなくっちゃ、こっちの落度になる落度おちどになる be at fault; take blame (for)からと、分別分別ぶんべつ discretionのありそうなこと fact; information附加した附加つけたした added。山嵐でもおれよりは考えがあると見えるえる appear; seem

じゃ演説演説えんぜつ speechをして古賀くん (suffix of familiarity for males)を大いにほめてやれ、おれがすると江戸っ子江戸えど native of Tōkyōぺらぺらぺらぺら glibnessになって重みおもみ weight; gravityがなくていけない。そうして、きまった所へ出るる come (to)と、急にきゅうに suddenly溜飲溜飲りゅういん sour stomach; gastric disturbance起っておこって occurs; happens咽喉咽喉のど throatの所へ、大きなたま ball; lump上がって来てがってて rise up言葉言葉ことば wordsが出ないから、君に譲るゆずる turn over (to); leave (to)からと云ったら、妙なみょうな strange; odd病気病気びょうき afflictionだな、じゃ君は人中人中ひとなか (in) company; (in) publicじゃ口は利けないくちけない can't speakんだね、困るこまる be troubled; be inconveniencedだろう、と聞くから、何そんなになにそんなに (not) that much困りゃしないと答えてこたえて answered; respondedおいた。

そうこうするうち時間時間じかん timeが来たから、山嵐と一所一所いっしょ together (with)会場会場かいじょう the place; the site行くく go (to)。会場は花晨亭花晨亭かしんてい Kashintei (name)といって、当地当地ここ here; this place第一等第一等だいいっとう first rate料理屋料理屋りょうりや restaurantだそうだが、おれは一度も一度いちども (not) even once足を入れたあしれた set foot in; entered事がない。もとの家老家老かろう chief retainer (of a feudal lord)とかの屋敷屋敷やしき mansion; residence買い入れてれて purchased; procured、そのまま開業した開業かいぎょうした opened for businessというはなし storyだが、なるほど見懸見懸みかけ appearanceからして厳めしいいかめしい majestic; imposing構えかまえ structure; constructionだ。家老の屋敷が料理屋になるのは、陣羽織陣羽織じんばおり coat worn over armor (feudal Japan)縫い直してなおして re-tailor; re-sew胴着胴着どうぎ undergarmentにする様なような like ...ものだ。

二人二人ふたり two (people)着いたいた arrivedころ timeには、人数人数にんず (expected) number of personsももう大概大概たいがい for the most part揃ってそろって be gathered五十畳五十畳ごじゅうじょう 50 mats (about 80 sq meters; about 870 sq feet)広間広間ひろま hall; parlor二つ三つふたみっつ two or three人間人間にんげん peopleかたまり groups; clusters出来ている出来できている were formed。五十畳だけにとこ alcove素敵に素敵すてきに terribly; exceedingly大きい。おれが山城屋山城屋やましろや Yamashiroya (name of an Inn)占領した占領せんりょうした occupied十五畳敷十五畳敷じゅうごじょうしき 15-mat room (about 25 sq meters; about 250 sq feet)の床とは比較比較ひかく comparisonにならない。尺を取ってしゃくって measure (the length of)みたら二間二間にけん 2 ken (about 3.6 m; about 12 feet) in widthあった。みぎ right (side)ほう directionに、赤いあかい red模様模様もよう pattern; designのある瀬戸物瀬戸物せともの porcelain; potteryかめ jar; vase据えてえて position; place、そのなか insideまつ pineの大きなえだ branch挿してして insert; put intoある。松の枝を挿して何にする intention知らないらない don't knowが、何ヶ月何ヶ月なんかげつ any number of months立ってって pass (time)散るる fall; shed (needles)気遣い気遣きづかい worry; concernがないから、ぜに money懸らなくってかからなくって doesn't cost (money)、よかろう。あの瀬戸物はどこで出来るんだと博物博物はくぶつ natural history教師教師きょうし teacher; instructorに聞いたら、あれは瀬戸物じゃありません、伊万里伊万里いまり Imari (porcelain from Arita, in Saga Prefecture in Kyūshū)ですと云った。伊万里だって瀬戸物じゃないかと、云ったら、博物はえへへへへと笑っていたわらっていた laughed。あとで聞いてみたら、瀬戸で出来る焼物焼物やきもの pottery; ceramicsだから、瀬戸と云うのだそうだ。おれは江戸っ子だから、陶器陶器とうき pottery; ceramicsの事を瀬戸物というのかと思っていたおもっていた thought。床の真中真中まんなか very middleに大きな懸物懸物かけもの hanging scroll; paintingがあって、おれのかお faceくらいな大きさな characters二十八二十八にじゅうはち twenty eight字かいてある。どうも下手な下手へたな amateur; poorly doneものだ。あんまり不味い不味まずい ugly; unskillfulから、漢学漢学かんがく Chinese study; classics先生先生せんせい teacherに、なぜあんなまずいものを麗々と麗々れいれいと boldly; prominently懸けてけて hangおくんですと尋ねたたずねた asked; inquiredところ、先生はあれは海屋海屋かいおく Nukina Kaioku (famous painter and calligrapher from Shikoku; 1778-1863)といって有名な有名ゆうめいな famous書家書家しょか calligrapherのかいたもの work; objectだと教えておしえて inform; teachくれた。海屋だか何だか、おれは今だにいまだに still; even now下手だと思っている。

やがて書記書記しょき secretary川村川村かわむら Kawamura (name)がどうかお着席着席ちゃくせき please be seatedをと云うう saidから、はしら pillar; columnがあって靠りかかるりかかる lean against; recline onのに都合のいい都合つごうのいい convenientところ place; spot坐ったすわった sat down海屋海屋かいおく Nukina Kaioku (famous painter and calligrapher from Shikoku; 1778-1863)懸物懸物かけもの hanging scroll; paintingまえ front (of)たぬき Tanuki (nickname for the school principal)羽織羽織はおり haori (Japanese half-coat)はかま hakama (men's formal pleated skirt)で着席すると、ひだり left (side)赤シャツあかシャツ Red Shirt (nickname for the head teacher)同じくおなじく likewise; similarly羽織袴で陣取った陣取じんどった took up (his) positionみぎ right (side)ほう direction主人公主人公しゅじんこう the guest of honorだというのでうらなりうらなり Uranari (nickname for Koga, the English teacher)先生先生せんせい teacher、これも日本服日本服にほんふく Japanese dress控えてひかえて be in waitingいる。おれは洋服洋服ようふく Western-style dressだから、かしこまるかしこまる sit formally (on one's heels)のが窮屈窮屈きゅうくつ uncomfortableだったから、すぐ胡坐をかいた胡坐あぐらをかいた sat in a cross-legged position隣りのとなりの next; neighboring体操体操たいそう physical education教師教師きょうし instructor; teacherくろ blackずぼんで、ちゃんとかしこまっている。体操の教師だけにいやに修行が積んでいる修行しゅうぎょうんでいる be well-trained (in)。やがてお膳ぜん (dinner) trays出るる appear; be brought out徳利徳利とくり (saké) bottles (usually 徳利とっくり)並ぶならぶ be lined up幹事幹事かんじ master of ceremonies立ってって rose; stood up一言一言いちごん a word開会開会かいかい opening of an event formal remarks述べるべる deliver (speech; remarks)。それから狸が立つ。赤シャツが起つつ rose; stood upことごとくことごとく all; one and all送別送別そうべつ farewellの辞を述べたが、三人共三人共さんにんとも all three (together)申し合せたもうあわせた arranged; agreed (upon)ようにうらなりくん (suffix of familiarity for males)の、良教師良教師りょうきょうし good instructor好人物好人物こうじんぶつ good-natured personこと fact; matter吹聴して吹聴ふいちょうして proclaim; tout今回今回こんかい this time去られるられる go awayのはまことに残念残念ざんねん disappointmentである、学校学校がっこう schoolとしてのみならず、個人個人こじん individual (person)として大いに惜しむしむ regret; be sorry aboutところであるが、ご一身上一身上いっしんじょう personalご都合都合つごう circumstancesで、切にせつに earnestly; keenly転任転任てんにん transferご希望希望きぼう desireになったのだから致し方がないいたかたがない nothing can be done (about it)という意味意味いみ gist; essenceを述べた。こんなうそ lies; falsehoodsをついて送別会送別会そうべつかい farewell party開いてひらいて hold; sponsor、それでちっとも恥かしいはずかしい shamefulとも思っておもって think; considerいない。ことに赤シャツに至っていたって as far as三人のうちで一番一番いちばん most (of all)うらなり君をほめた。この良友良友りょうゆう good friend失ううしなう loseのは実にじつに really; truly自分自分じぶん oneselfにとって大なるだいなる great不幸不幸ふこう sorrow; griefであるとまで云った。しかもそのいい方いいかた manner of speaking; choice of wordsがいかにも、もっともらしくって、例のれいの usual; signatureやさしいこえ voice一層一層いっそう still moreやさしくして、述べ立てるてる elaborate onのだから、始めてはじめて for the first time聞いたいた heardものは、誰でもだれでも anyone; no matter whoきっとだまされるに極ってるきまってる it's a given that ...。マドンナも大方大方おおかた probablyこの method; means引掛けた引掛ひっかけた ensnared; seduced (a woman)んだろう。赤シャツが送別の辞を述べ立てている最中最中さいちゅう middle of向側向側むかいがわ opposite sideに坐っていた山嵐山嵐やまあらし Yama Arashi (nickname for Hotta, the head mathematics teacher)がおれの顔を見てて look atちょっと稲光稲光いなびかり wink; meaningful glance (lit: lightning)をさした。おれは返電返電へんでん reply message (lit: reply telegraph)として、人指し指人指ひとさゆび index fingerべっかんこうをしてべっかんこうをして pull down on one's lower eyelid (sign of contempt)見せた。

赤シャツあかシャツ Red Shirt (nickname for the head teacher) seat復するふくする return (to)のを待ちかねてちかねて wait (for)山嵐山嵐やまあらし Yama Arashi (nickname for Hotta, the head mathematics teacher)がぬっと立ち上がったがった rose; stood upから、おれは嬉しかったうれしかった was glad; was pleasedので、思わずおもわず without thinking handsをぱちぱちと拍ったった clapped。するとたぬき Tanuki (nickname for the school principal)始めはじめ beginning with一同一同いちどう all presentがことごとくおれのほう direction見たた looked (at)には少々少々しょうしょう a bit; somewhat困ったこまった troubled; embarrassed。山嵐はなに what云うう say; speakかと思うおもう think; wonderただ今ただいま just now校長校長こうちょう (school) principal始めことに教頭教頭きょうとう head teacher古賀古賀こが Koga (a.k.a. Uranari)くん (suffix of familiarity for males)転任転任てんにん transfer非常に非常ひじょうに extremely; greatly残念がられた残念ざんねんがられた found disappointment inが、わたくし I; myselfは少々反対で反対はんたいで of opposite (opinion)古賀君が一日も早く一日いちじつはやく as soon as possible当地当地とうち this place去られるられる take leave (of)のを希望して希望きぼうして desire; hope forおります。延岡延岡のべおか Nobeoka (city in Miyazaki Prefecture)僻遠の僻遠へきえんの remote; outlying land; regionで、当地に比べたらくらべたら in comparison to物質物質ぶっしつ material goodsじょう concerning ...不便不便ふべん inconvenienceはあるだろう。が、聞くく hearところによれば風俗風俗ふうぞく manners; moralsのすこぶる淳朴な淳朴じゅんぼくな simple and honestところ placeで、職員職員しょくいん staff members生徒生徒せいと studentsことごとく上代上代じょうだい (from) antiquity樸直樸直ぼくちょく simplicity; honesty気風気風きふう temper; ethos帯びているびている be vested with; take onそうである。心にもないこころにもない not heartfelt; insincereお世辞世辞せじ flattery振り蒔いたりいたり scatter; disperse美しいうつくしい handsome; charmingかお face; countenanceをして君子君子くんし a gentleman; a man of virtue陥れたりおとしいれたり entrap; ensnareするハイカラハイカラ stylish野郎野郎やろう rogue; rascal一人一人ひとり one (person)もないと信ずるしんずる believe; be confident inからして、きみ youのごとき温良温良おんりょう gentle; amiable篤厚の士篤厚とっこう virtuous man必ずかならず without fail; absolutelyその地方地方ちほう region一般の一般いっぱんの universal; widespread歓迎歓迎かんげい welcome受けられるけられる receiveに相違ない相違そういない without a doubt吾輩吾輩わがはい I大いにおおいに greatly古賀君のためにこの転任を祝するしゅくする celebrate; wish someone luck withのである。終りに臨んでおわりにのぞんで in conclusion君が延岡に赴任されたら赴任ふにんされたら set out for a new post、その地の淑女淑女しゅくじょ ladies; womenにして、君子の好逑好逑こうきゅう wifeとなるべき資格資格しかく qualificationsあるものを択んでえらんで choose; select一日も早く円満なる円満えんまんなる harmonious; peaceful家庭家庭かてい home; householdかたち作ってかたちつくって create; bring about、かの不貞不貞ふてい unchaste; wanton無節なる無節むせつなる unchaste; inconstantお転婆転婆てんば hussy事実の上において事実じじつうえにおいて in fact; in effect慚死せしめん慚死ざんしせしめん die of shame; be deeply ashamed (せしめん=をする)こと act; factを希望します。えへんえへんと二つふたつ two; twiceばかり大きな咳払いをして咳払せきばらいをして clearing one's throat席に着いたせきいた sat down。おれは今度今度こんど this time手を叩こうたたこう clapと思ったが、またみんながおれのかお faceを見るといやだから、やめにしておいた。山嵐が坐ると今度はうらなりうらなり Uranari (nickname for Koga, the English teacher)先生先生せんせい teacher起ったった rose; stood up。先生はご鄭寧に鄭寧ていねいに politely自席自席じせき one's own seatから、座敷座敷ざしき room; parlorはし end; extremity末座末座まつざ end-most seatまで行ってって went (to)慇懃に慇懃いんぎんに courteously; gallantly一同に挨拶挨拶あいさつ greeting; salutationをしたうえ after ...今般今般こんぱん now; at this time一身上の一身上いっしんじょうの personal都合都合つごう circumstances九州九州きゅうしゅう Kyūshū参るまいる go (to)事になりましたについて、諸先生方諸先生方しょせんせいがた many teachers小生の小生しょうせいの myためにこの盛大なる盛大せいだいなる magnificent; extravagant送別会送別会そうべつかい farewell partyお開き下さったひらくださった held; sponsored (for my sake)のは、まことに感銘感銘かんめい (deep) impression至りにいたりに to the utmost堪えぬ次第でえぬ次第しだいで being overwhelmed by――ことにただ今は校長、教頭その他その those others諸君諸君しょくん you; my friendsの送別の formal remarks頂戴して頂戴ちょうだいして receive; be honored with、大いに難有く難有ありがたく thankfully; gratefully (usually 有難ありがたく)服膺する服膺ふくようする take in; drink inわけ (is) the case that ...であります。私はこれから遠方遠方えんぽう distant land; far awayへ参りますが、なにとぞなにとぞ please ( =どうぞ)従前従前じゅうぜん heretofore通りとおり exactly as ...お見捨てなく見捨みすてなく without forsakingご愛顧愛顧あいこ favor; patronageのほどを願いますねがいます ask; request。とへえつく張ってへえつくって making a deep bow席に戻ったもどった returned (to)。うらなり君はどこまで人が好いひとい be of good nature; be of a charitable natureんだか、ほとんど底が知れないそこれない there was no apparent limit自分自分じぶん oneselfがこんなに馬鹿馬鹿ばか foolにされている校長や、教頭に恭しくうやうやしく respectfullyお礼れい thanks; appreciationを云っている。それも義理一遍義理一遍ぎりいっぺん (from) a sheer sense of dutyの挨拶ならだが、あの様子様子ようす appearance; look; feelや、あの言葉つき言葉ことばつき choice of wordsや、あの顔つきかおつき facial expressionから云うと、しん heartから感謝している感謝かんしゃしている feel gratitudeらしい。こんな聖人聖人せいじん saint; holy man真面目に真面目まじめに seriously; sincerelyお礼を云われたら、気の毒どく pitiableになって、赤面赤面せきめん blushing (for shame); flusteredしそうなものだが狸も赤シャツも真面目に謹聴して謹聴きんちょうして listen intentlyいるばかりだ。

挨拶挨拶あいさつ formalities済んだらんだら be concluded、あちらでもチュー、こちらでもチュー、というおと soundがする。おれも真似をして真似まねをして doing likewiseしる soup飲んでんで drinkみたがまずいもんだ。口取口取くちとり side dish蒲鉾蒲鉾かまぼこ kamaboko (boiled fish paste)はついてるが、どす黒くてどすぐろくて darkish竹輪竹輪ちくわ chikuwa (baked fish paste)出来損ない出来損できそこない failed attemptである。刺身刺身さしみ sashimi (sliced raw fish)並んでるならんでる be set out; be laid outが、厚くってあつくって thick (size)まぐろ bluefin tuna切り身 fillet; cut ofなま raw食うう eat同じおなじ same (as)こと act; matterだ。それでも隣りとなり next; nearby近所近所きんじょ vicinity連中連中れんちゅう group; party; companyはむしゃむしゃ旨そうにうまそうに appreciatively食っている。大方大方おおかた probably江戸前の江戸前えどまえの Edo style料理料理りょうり dish; cuisineを食った事がないんだろう。

そのうち燗徳利燗徳利かんどくり bottles of warmed saké頻繁に頻繁ひんぱんに at frequent intervals; incessantly往来し始めたら往来おうらいはじめたら began to come and go四方四方しほう all directions急にきゅうに suddenly賑やかにぎやか lively; animatedになった。野だだ Noda (short for Nodaiko, nickname for Yoshikawa, the art teacher)こう prince; lord (mockingly)恭しくうやうやしく respectfully校長校長こうちょう (school) principalまえ front of出てて appear; present oneself盃を頂いてるさかずきいただいてる drink to someone's health。いやなやつ fellowだ。うらなりうらなり Uranari (nickname for Koga, the English teacher)くん (suffix of familiarity for males)順々に順々じゅんじゅんに in order; one after another献酬をして献酬けんしゅうをして exchange cups of saké一巡周る一巡周いちじゅんめぐる make a full roundつもりとみえる。はなはだご苦労苦労くろう toil; troubleである。うらなり君がおれの前へ来てて arrived一つひとつ one (drink)頂戴致しましょう頂戴致ちょうだいいたしましょう receive (humble form)はかま hakama (men's formal pleated skirt)ひだひだ pleat; fold正してただして straighten申し込まれたもうまれた proposed; offeredから、おれも窮屈に窮屈きゅうくつに uncomfortablyズボンのままかしこまってかしこまって sit formally (on one's heels)一盃一盃いっぱい one cup差し上げたげた presented (something to someone)。せっかく参ってまいって came; arrived、すぐお別れわかれ goodbye; farewellになるのは残念残念ざんねん disappointment; unfortunateですね。ご出立出立しゅったつ departureはいつです、是非是非ぜひ by all meansはま shoreまでお見送り見送みおくり see (someone) offをしましょうと云ったらったら said、うらなり君はいえご用多用多おお (you're) very busyのところ決してけっして (not) at allそれには及びませんおよびません not worth (the trouble)答えたこたえた answered。うらなり君がなん what; whateverと云ったって、おれは学校学校がっこう school休んでゆすんで take time off (from)送るおくる send; see off intentionでいる。

それから一時間一時間いちじかん one hourほどするうちに席上席上せきじょう the gathering大分大分だいぶ a great deal乱れて来るみだれてる let loose; become lively。まあ一杯一杯いっぱい one cup、おやぼく I飲めめ have a drinkと云うのに……などと呂律の巡りかねる呂律ろれつまわりかねる be inarticulate; be slurring one's wordsのも一人二人一人二人ひとりふたり one or two (people)出来て来た出来できた came to be少々少々しょうしょう a little; somewhat退屈した退屈たいくつした became bored; grew weary ofから便所便所べんじょ toilet行ってって went (to)昔風な昔風むかしふうな traditional styleにわ yard; garden星明り星明ほしあかり starlightにすかして眺めてながめて gaze (at)いると山嵐山嵐やまあらし Yama Arashi (nickname for Hotta, the head mathematics teacher)が来た。どうださっきの演説演説えんぜつ speechはうまかったろう。と大分得意得意とくい proud; self-satisfiedである。大賛成大賛成だいさんせい complete agreementだが一ヶ所一ヶ所いっかしょ one place; one point気に入らないらない don't like抗議抗議こうぎ objectionを申し込んだら、どこが不賛成不賛成ふさんせい disagreeable; objectionableだと聞いたいた asked

美しいうつくしい handsome; charmingかお face; countenanceをしてひと a person陥れるおとしいれる entrap; ensnareようなハイカラハイカラ stylish野郎野郎やろう rogue; rascal延岡延岡のべおか Nobeoka (city in Miyazaki Prefecture)居らないらない aren't anyから……ときみ you云ったろうったろう said

「うん」

「ハイカラ野郎だけでは不足不足ふそく insufficient; inadequateだよ」

「じゃなん whatと云うんだ」

「ハイカラ野郎の、ペテン師ペテン impostor; swindlerの、イカサマ師イカサマ fraud; cheatの、猫被り猫被ねこっかぶり hypocriteの、香具師香具師やし racketeer; charlatanの、モモンガーモモンガー lecherの、岡っ引きおかき snitchの、わんわん鳴けばけば bark; yelpいぬ dog同然同然どうぜん same thing; virtually identicalやつ fellowとでも云うがいい」

「おれには、そう舌は廻らないそうしたまわらない not that articulate。君は能弁能弁のうべん eloquence; fluency of speechだ。第一第一だいいち first of all; for starters単語単語たんご vocabulary大変大変たいへん innumerably; immenselyたくさん知ってるってる know。それで演舌演舌えんぜつ speech (usually 演説えんぜつ)出来ない出来できない be incapable (of)のは不思議不思議ふしぎ strange; mysteriousだ」

「なにこれは喧嘩喧嘩けんか quarrelのときに使おう使つかおう use; deploy思っておもって think (to do)用心用心ようじん guard; vigilanceのために取っておくっておく hold in reserve言葉言葉ことば words; languageさ。演舌となっちゃ、こうは出ないない can't produce

「そうかな、しかしぺらぺら出るぜ。もう一遍もう一遍いっぺん one more timeやって見たまえやってたまえ give it a try

何遍でも何遍なんべんでも any number of timesやるさいいか。――ハイカラ野郎のペテン師の、イカサマ師の……」と云いかけていると、椽側椽側えんがわ verandaどたばた云わしてどたばたわして creating a commotion (throughout)二人二人ふたり two (people)ばかり、よろよろしながらよろよろしながら staggering; drunkenly馳け出して来たしてた came running out

両君両君りょうくん you twoそりゃひどい、――逃げるげる escapeなんて、――ぼく I居るる be (in a place)うちは決してけっして (not) by any means逃さないにがさない won't let (you) get away、さあのみたまえ。――いかさま師?――面白い面白おもしろい amusing; what fun、いかさま面白い。――さあ飲みたまえみたまえ please drink

とおれと山嵐をぐいぐい引っ張ってって pull along行くく go; proceed実はじつは actually; in factこの両人共両人共りょうにんとも the two of them便所に来たのだが、酔ってって drunk; intoxicatedるもんだから、便所へはいるのを忘れてわすれて forgetおれ等おれ usを引っ張るのだろう。酔っ払いぱらい drunk person目の中るあたる catch sight ofところ place; object用事用事ようじ business; doings拵えてこしらえて make; concoct前のまえの previousこと mattersはすぐ忘れてしまうんだろう。

「さあ、諸君諸君しょくん gentlemen; my friends、いかさま師を引っ張って来た。さあ飲ましてくれたまえ。いかさま師をうんと云うほど、酔わしてくれたまえ。君逃げちゃいかん」

と逃げもせぬ、おれを壁際壁際かべぎわ next to the wall圧し付けたけた pushed; pressed諸方諸方しょほう all sides見廻して見廻みまわして look aroundみると、ぜん traysうえ top; surface満足な満足まんぞくな satisfactoryさかな fish乗っているっている be resting onのは一つひとつ one (thing)もない。自分の自分じぶんの one's ownぶん portion奇麗に奇麗きれいに cleanly食い尽してつくして eat up五六間五六間ごろっけん five or six placesさき ahead遠征遠征えんせい expedition; campaignに出た奴もいる。校長校長こうちょう (school) principalはいつ帰ったかえった returned (home)姿姿すがた figure; formが見えない。

ところへお座敷座敷ざしき room; parlorはこちら? と芸者芸者げいしゃ geisha三四人三四人さんよにん three or four (people)はいって来たはいってた came in; entered。おれも少しすこし a bit驚ろいたおどろいた be surprisedが、壁際壁際かべぎわ next to the wall圧し付けられてけられて be pushed; be pressedいるんだから、じっとしてただ見てて watch; lookいた。するといま now; this pointまで床柱床柱とこばしら alcove postへもたれて例のれいの usual; signature琥珀琥珀こはく amberのパイプを自慢そうに自慢じまんそうに proudly啣えてくわえて hold in one's mouthいた、赤シャツあかシャツ Red Shirt (nickname for the head teacher)急にきゅうに suddenly起ってって stood; straightened up、座敷を出にかかったにかかった made to leave; prepared to exit向うむこう the far side; the opposite sideからはいって来た芸者の一人一人ひとり one (person)が、行き違いながらちがいながら in passing笑ってわらって smiling; laughing挨拶挨拶あいさつ greeting; salutationをした。その一人は一番一番いちばん most; foremost若くてわかくて young一番奇麗な奇麗きれいな pretty; attractiveやつ one (of them)だ。遠くとおく distant聞えなかったきこえなかった couldn't hearが、おや今晩は今晩こんばんは good eveningぐらい云ったった said; remarkedらしい。赤シャツは知らん顔をしてらんかおをして feigning ignorance; pretending not to know出て行ったった left; exitedぎり、顔を出さなかった。大方大方おおかた probably; most likely校長校長こうちょう (school) principalのあとを追懸けて追懸おいかけて follow帰ったかえった returned (home)んだろう。

芸者が来たら座敷中座敷中ざしきじゅう the entire room; throughout the room急に陽気陽気ようき liveliness; merrimentになって、一同一同いちどう all present鬨の声を揚げてときこえげて raise a triumphant cry歓迎歓迎かんげい welcome; receptionしたのかと思うおもう think; seems that ...くらい、騒々しい騒々そうぞうしい boisterous; noisy。そうしてあるやつ fellowsなんこを攫むなんこをつかむ play nanko (guessing game played with wooden sticks)。その声の大きな事こえおおきなこと loudness of their voices、まるで居合抜居合抜いあいぬき quick draw (of a sword)稽古稽古けいこ training; practiceのようだ。こっちでは拳を打ってるけんってる play morra (number game played using fingers or objects)。よっ、はっ、と夢中で夢中むちゅうで engrossed; riveted; enthralled両手両手りょうて both hands振るる shakeところは、ダークダーク D'Arc (Lambert D'Arc, founder of famous marionette show)一座一座いちざ theatrical company操人形操人形あやつりにんぎょう marionetteよりよっぽど上手上手じょうず skillfulだ。向うのすみ cornerではおいお酌だしゃくだ serve saké; pour saké、と徳利徳利とくり saké bottleを振ってみて、酒ださけだ (bring) saké酒だと言い直してなおして restated; corrected one's wordsいる。どうもやかましくて騒々しくってたまらない。そのうちで手持無沙汰手持てもち無沙汰ぶさた idleness; ennui下を向いてしたいて looking down考え込んでかんがんで be sunk in thought; broodるのはうらなりうらなり Uranari (nickname for Koga, the English teacher)くん (suffix of familiarity for males)ばかりである。自分自分じぶん oneselfのために送別会送別会そうべつかい farewell party開いてひらいて hold; sponsorくれたのは、自分の転任転任てんにん transfer惜んでおしんで regret; lamentくれるんじゃない。みんなが酒を呑んでんで drink遊ぶあそぶ have a good timeためだ。自分独りひとり alone; by oneselfが手持無沙汰で苦しむくるしむ suffer; be miserableためだ。こんな送別会なら、開いてもらわないほう alternative; choiceがよっぽどましだ。

しばらくしたら、めいめい胴間声胴間声どうまごえ loud raucous voice出してして put forth (voice)何かなにか something唄い始めたうたはじめた started to sing (something)。おれのまえ front of来たた arrived; appeared一人一人ひとり one (person)芸者芸者げいしゃ geishaが、あんた、なんぞ、唄いなはれ、と三味線三味線しゃみせん shamisen (three-stringed instrument)抱えたかかえた held; carried (in one's arms)から、おれは唄わない、貴様貴様きさま you唄ってみろと云ったらったら saidかね bell; gong (usually かね)太鼓太鼓たいこ drumでねえ、迷子の迷子まいごの missing; wandering迷子の三太郎三太郎さんたろう Santarō (name)と、どんどこ、どんのちゃんちきりん。叩いてたたいて banging廻ってまわって making a round逢われるわれる can meetものならば、わたしなんぞも、金や太鼓でどんどこ、どんのちゃんちきりんと叩いて廻って逢いたいひと personがある、と二た息いき two breathsにうたって、おおしんどと云った。おおしんどなら、もっと楽ならくな easy; comfortableものをやればいいのに。

すると、いつの間にかいつのにか all of a sudden; before one realizesそば side; next toへ来て坐ったすわった sat down野だだ Noda (short for Nodaiko, nickname for Yoshikawa, the art teacher)が、すず Suzu (name)ちゃん逢いたい人に逢ったと思ったらおもったら thought; seemed that ...、すぐお帰りかえり returned homeで、お気の毒さまどくさま too bad (for you)みたようでげすと相変らず相変あいかわらず as always噺し家はな professional storyteller (噺 = 話)みたような言葉使い言葉使ことばづかい diction; manner of speakingをする。知りまへんりまへん don't knowと芸者はつんと済ましたました ended; dispensed with。野だは頓着なく頓着とんじゃくなく paying no heed、たまたま逢いは逢いながら……と、いやなこえ voiceを出して義太夫義太夫ぎだゆう Takemoto Gidayū (creator of jōruri style of chanted narration)真似真似まね imitationをやる。おきなはれやと芸者は平手平手ひらて open hand; palmで野だのひざ knee; thighを叩いたら野だは恐悦恐悦きょうえつ joy; delightして笑ってるわらってる laughed。この芸者は赤シャツあかシャツ Red Shirt (nickname for the head teacher)挨拶挨拶あいさつ greetingをしたやつ one (of them)だ。芸者に叩かれて笑うなんて、野だもおめでたいおめでたい half-witted; doltishもの person; fellowだ。鈴ちゃんぼく I紀伊の国紀伊くに Ki no Kuni (dance from the Kii region - current Wakayama Prefecture)踴るおどる danceから、一つひとつ one; once弾いていて play (stringed instrument)頂戴頂戴ちょうだい please云い出したした said; brought up。野だはこの上このうえ on top of all thisまだ踴る intentionでいる。

向うの方むこうのほう the far side (of the room)漢学漢学かんがく Chinese study; classicsお爺さんじいさん old man歯のないのない toothlessくち mouth歪めてゆがめて contort; twist、そりゃ聞えませんきこえません can't hear (you)伝兵衛伝兵衛でんべい Denbei (name)さん、お前まえ youとわたしのそのなか relationshipは……とまでは無事に無事ぶじに without mishap済したすました finished; completedが、それから? と芸者に聞いていて askいる。爺さんなんて物覚え物覚ものおぼえ memory; retentive facultyのわるいものだ。一人一人ひとり one (of the geisha)博物博物はくぶつ natural history (teacher)捕まえてつらまえて get hold of近頃近頃ちかごろ recently; of lateこないなのが、でけましたぜ、弾いてみまほうか。よう聞いて、いなはれや――花月巻花月巻かげつまき hair style with top knot and pony tail wrapped onto top of head白いしろい whiteリボンのハイカラハイカラ stylish; Western-styleあたま head; face and hair乗るる ride自転車自転車じてんしゃ bicycle、弾くはヴァイオリン、半可の英語半可はんか英語えいご broken Englishでぺらぺらと、I am glad to see you と唄うと、博物はなるほど面白い面白おもしろい interesting、英語入りり included; mixed inだねと感心している感心かんしんしている be impressed

山嵐山嵐やまあらし Yama Arashi (nickname for Hotta, the head mathematics teacher)馬鹿に大きな声馬鹿ばかおおきなこえ ridiculously loud voiceを出して、芸者、芸者と呼んでんで called; yelled (for)、おれが剣舞剣舞けんぶ sword danceをやるから、三味線を弾けと号令を下した号令ごうれいくだした gave a command。芸者はあまり乱暴な乱暴らんぼうな violent; unruly声なので、あっけに取られてあっけにられて be astonished; be dumbfounded返事返事へんじ answer; responseもしない。山嵐は委細委細いさい details; particulars構わずかまわず paying no attention toステッキステッキ (walking stick); cane持って来てってて bring out踏破千山万岳烟踏破千山万岳烟ふみやぶるせんざんばんがくのけむり (sword dance words)真中真中まんなか middle (of the room)へ出て独りでひとりで by himself隠し芸かくげい parlor trick; hidden talent演じてえんじて performいる。ところへ野だがすでに紀伊の国を済まして、かっぽれかっぽれ a Japanese comic danceを済まして、棚の達磨さんたな達磨だるまさん (name of a dance)を済して丸裸丸裸まるはだか stark naked越中褌越中えっちゅうふんどし Etchū loincloth (string waistband)一つになって、棕梠箒棕梠箒しゅろぼうき hemp fiber broom小脇小脇こわき under one's arm抱い込んでんで carry; hold日清日清にっしん Sino-Japanese談判談判だんぱん negotiations破裂して破裂はれつして be broken off; fall through……と座敷中座敷中ざしきじゅう throughout the room練りあるき出したりあるきした began to parade; began to march。まるで気違い気違きちがい madness; insanityだ。

おれはさっきから苦しそうにくるしそうに looking miserableはかま hakama (men's formal pleated skirt)脱がずがず without taking off; without changing out of控えているひかえている show restraint; hold backうらなりうらなり Uranari (nickname for Koga, the English teacher)くん (suffix of familiarity for males)気の毒どく pitiableでたまらなかったが、なんぼ自分の自分じぶんの one's own送別会送別会そうべつかい farewell partyだって、越中褌越中えっちゅうふんどし Etchū loincloth (string waistband)はだか nakedおどり danceまで羽織羽織はおり haori (Japanese half-coat)袴で我慢して我慢がまんして endure; put up withみている必要必要ひつよう necessityはあるまいと思ったおもった thought; consideredから、そばへ行ってって went (to)古賀古賀こが Koga (a.k.a. Uranari)さんもう帰りましょうかえりましょう let's go home退去退去たいきょ leaving; withdrawal勧めてすすめて recommend; counselみた。するとうらなり君は今日今日きょう today私のわたしの my送別会だから、私がさき first; beforeへ帰っては失礼失礼しつれい improper; rudeです、どうぞご遠慮なく遠慮えんりょなく as you please動くうごく move景色景色けしき sign; indicationもない。なに構うかまう matter; be of concernもんですか、送別会なら、送別会らしくするがいいです、あのさま spectacle; scene (= 有様ありさま)ご覧なさいらんなさい take a look at気狂会気狂会きちがいかい gathering of lunaticsです。さあ行きましょうと、進まないすすまない hesitateのを無理に無理むりに under compulsion; against one's will勧めて、座敷座敷ざしき room; parlor出かかるかかる start to leave; make one's way outところへ、野だだ Noda (short for Nodaiko, nickname for Yoshikawa, the art teacher)ほうき broom振り振りり shaking; brandishing進行して来て進行しんこうしてて advanced; came forward、やご主人主人しゅじん guest of honorが先へ帰るとはひどい。日清日清にっしん Sino-Japanese談判談判だんぱん negotiationsだ。帰せないと箒をよこ sidewaysにして行く way; means塞いだふさいだ blocked; closed off。おれはさっきから肝癪が起って肝癪かんしゃくおこって temper was arousedいるところだから、日清談判なら貴様貴様きさま you (condescending)ちゃんちゃんちゃんちゃん Chinamanだろうと、いきなり拳骨拳骨げんこつ (clenched) fist; knucklesで、野だのあたま headぽかりと喰わしてぽかりとわして thwack someone (on the head)やった。野だは二三秒二三秒にさんびょう two or three secondsあいだ interval (time)毒気を抜かれた毒気どっきかれた be stunned; be dumbfoundedてい appearance; airで、ぼんやりしていたが、おやこれはひどい。お撲ちになったのちになったの hitting (a person)情ないなさけない cruel; coldhearted。この吉川吉川よしかわ Yoshikawa (a.k.a. Nodaiko)ご打擲打擲ちょうちゃく thrashing; beatingとは恐れ入ったおそった be taken aback; be astonished。いよいよもって日清談判だ。とわからぬこと thingsをならべているところへ、うしろから山嵐山嵐やまあらし Yama Arashi (nickname for Hotta, the head mathematics teacher)何かなにか something; some kind of騒動騒動そうどう disturbance始まったはじまった had begun見てとっててとって understand; perceive剣舞剣舞けんぶ sword danceをやめて、飛んできたんできた came running (over)が、このていたらくていたらく state of affairsを見て、いきなり頸筋頸筋くびすじ scruff of the neckをうんと攫んでつかんで seize; grab by引き戻したもどした pulled backward。日清……いたい。いたい。どうもこれは乱暴乱暴らんぼう violence; an outrageだと振りもがくりもがく struggle; squirmところを横に捩ったらねじったら twistedすとんとすとんと with a thud倒れたたおれた went down; fell。あとはどうなったか知らないらない don't know途中で途中とちゅうで on the way (home)うらなり君に別れてわかれて parted (from)、うちへ帰ったら十一時十一時じゅういちじ 11 o'clock過ぎぎ after; past ... (time)だった。