おれは即夜即夜 that same night下宿下宿 lodgingsを引き払った引き払った vacated; cleared out (of)。宿宿 house; lodgingへ帰って帰って return (to)荷物荷物 possessions; thingsをまとめていると、女房女房 (master's) wifeが何か何か something; some sort of不都合不都合 problem; troubleでもございましたか、お腹の立つお腹の立つ be angry; be dissatisfied事事 matterがあるなら、云って云って say; tellおくれたら改めます改めます remedy; improveと云う。どうも驚ろく驚ろく be surprised; be appalled。世の中世の中 the world; societyにはどうして、こんな要領を得ない要領を得ない making no sense; impertinent; clueless者者 peopleばかり揃ってる揃ってる be gathered togetherんだろう。出て出て leaveもらいたいんだか、居て居て stayもらいたいんだか分りゃしない分りゃしない can't tell。まるで気狂気狂 madness; lunacyだ。こんな者を相手相手 adversary; the other partyに喧嘩喧嘩 quarrelをしたって江戸っ子江戸っ子 Tōkyō manの名折れ名折れ discredit; dishonorだから、車屋車屋 rickshaw manをつれて来てつれて来て lead; bringさっさと出てきた。
出た事は出たが、どこへ行く行く goというあてもない。車屋が、どちらへ参ります参ります goと云うから、だまって尾いて来い尾いて来い follow; come with、今に今に soon enough; before longわかる、と云って、すたすたすたすた briskly; in hasteやって来たやって来た came away。面倒面倒 troublesome; a botherだから山城屋山城屋 Yamashiroya (name of an inn)へ行こうかとも考えた考えた thought about; consideredが、また出なければならないから、つまり手数手数 trouble; effortだ。こうして歩いてる歩いてる walkingうちには下宿とか、何とか何とか something看板看板 sign; noticeのあるうちを目付け出す目付け出す discoverだろう。そうしたら、そこが天意天意 will of heaven; providenceに叶った叶った answered; fulfilledわが宿と云う事にしよう。とぐるぐる、閑静閑静 quite; tranquilで住みよさそうな住みよさそうな desirable as a place to live所所 placeをあるいているうち、とうとう鍛冶屋町鍛冶屋町 Kajiyachō (place name)へ出て出て came to; arrived (at)しまった。ここは士族士族 descendants of samurai屋敷屋敷 residences; estatesで下宿屋下宿屋 boarding houseなどのある町町 town; area; neighborhoodではないから、もっと賑やかな賑やかな lively方方 directionへ引き返そう引き返そう return (to)かとも思った思った thoughtが、ふといい事を考え付いた考え付いた thought of; came up with。おれが敬愛する敬愛する respect; hold in high regardうらなりうらなり Uranari (nickname for Koga, the English teacher)君君 (suffix of familiarity for males)はこの町内町内 part of town; districtに住んで住んで live; resideいる。うらなり君は土地の人土地の人 local; nativeで先祖代々の先祖代々の ancestral屋敷を控えている控えている have; holdくらいだから、この辺辺 area; surroundingsの事情事情 circumstances; situationには通じている通じている be well versed inに相違ないに相違ない no doubt。あの人を尋ねて尋ねて visit; call on聞いたら聞いたら ask; inquire、よさそうな下宿を教えて教えて teach; informくれるかも知れないかも知れない may; might。幸幸 fortunately一度一度 once挨拶挨拶 greetings; visitingに来て勝手は知ってる勝手は知ってる be familiar with (a place)から、捜がして捜がして search; look forあるく面倒はない。ここだろうと、いい加減にいい加減に more or less; haphazardly見当をつけて見当をつけて guessing (one's way); finding intuitively、ご免ご免 pardon; excuse meご免と二返二返 two timesばかり云うと、奥奥 interiorから五十五十 fiftyぐらいな年寄年寄 older personが古風な古風な old fashioned紙燭紙燭 paper lanternをつけて、出て来た出て来た came out; appeared。おれは若い若い young女女 womanも嫌い嫌い disliked; not fond ofではないが、年寄を見る見る seeと何だかなつかしい心持ち心持ち feelingがする。大方大方 most likely; probably清清 Kiyo (name of Botchan's former maidservant)がすきだから、その魂魂 soul; spiritが方々方々 all (persons)のお婆さんお婆さん old womanに乗り移る乗り移る transfer (to); carry over toんだろう。これは大方うらなり君のおっ母さんおっ母さん motherだろう。切り下げ切り下げ loose-cut hair (style worn by widows in Meiji period)の品格品格 grace; dignityのある婦人婦人 lady; womanだが、よくうらなり君に似ている似ている resemble。まあお上がりお上がり please come in (lit: come up)と云うところを、ちょっとお目にかかりたいお目にかかりたい would like to seeからと、主人主人 master (of a house)を玄関玄関 entry hallまで呼び出して呼び出して call out実は実は actuallyこれこれだが君どこか心当り心当り knowledge; an ideaはありませんかと尋ねてみた。うらなり先生先生 teacherそれはさぞお困りお困り difficulty; a bindでございましょう、としばらく考えていたが、この裏町裏町 back street; alleyに萩野萩野 Hagino (family name)と云って老人老人 older persons; seniors夫婦夫婦 couple; husband and wifeぎりで暮らして暮らして live; lead one's lifeいるものがある、いつぞや座敷座敷 room; apartmentを明けておいて明けておいて keep emptyも無駄無駄 waste; wastefulだから、たしかな人があるなら貸して貸して rent outもいいから周旋して周旋して broker; mediateくれと頼んだ頼んだ requested事がある。今でも今でも even now; still貸すかどうか分らん分らん don't knowが、まあいっしょに行って聞いてみましょうと、親切に親切に kindly連れて行って連れて行って lead (someone)くれた。
その夜夜 eveningから萩野萩野 Hagino (name of Botchan's new landlord)の家家 houseの下宿人下宿人 lodger; boarderとなった。驚いた驚いた surprisedのは、おれがいか銀いか銀 Ikagin (name of Botchan's former landlord)の座敷座敷 room; apartmentを引き払う引き払う vacateと、翌日翌日 the next dayから入れ違いに入れ違いに passing (each other)野だ野だ Noda (short for Nodaiko, nickname for Yoshikawa, the art teacher)が平気な平気な nonchalant顔顔 faceをして、おれの居た居た resided部屋部屋 roomを占領した占領した took over事事 act; factだ。さすがのおれもこれにはあきれたあきれた be flabbergasted; be dumbfounded。世の中世の中 the worldはいかさま師いかさま師 cheat; crookばかりで、お互にお互に mutually乗せっこ乗せっこ cheating; one-uppingをしているのかも知れないかも知れない could be that ...。いやになった。
世間世間 the worldがこんなものなら、おれも負けない負けない indomitable気気 spiritで、世間並世間並 as the world does; on par with the rest of societyにしなくちゃ、遣りきれない遣りきれない can't manage訳訳 circumstancesになる。巾着切巾着切 pickpocketの上前をはねなければ上前をはねなければ unless one takes a cut from; unless one squeezes for money三度三度 three timesのご膳ご膳 mealが戴けない戴けない cannot receiveと、事が極まれば極まれば be determined; be a givenこうして、生きて生きて live (one's life)るのも考え物考え物 open to questionだ。と云ってと云って that said ...ぴんぴんした達者な達者な healthy; robustからだで、首を縊っちゃ首を縊っちゃ hang oneself; strangle oneself先祖先祖 ancestorsへ済まない済まない unpardonable; inexcusable上に上に in addition to、外聞が悪い外聞が悪い be publicly shameful。考えると物理物理 physics学校学校 schoolなどへはいって、数学数学 mathematicsなんて役にも立たない役にも立たない useless; serving no purpose芸芸 skill; artを覚える覚える learnよりも、六百円六百円 600 yenを資本資本 capital; fundingにして牛乳屋牛乳屋 milk deliveryでも始めれば始めれば start; establishよかった。そうすれば清清 Kiyo (name of Botchan's former maidservant)もおれの傍傍 side; vicinityを離れずに離れずに without leaving; without separating (from)済む済む be done; be settledし、おれも遠く遠く (from) a distanceから婆さん婆さん old womanの事を心配しずに心配しずに without worrying (about)暮される暮される can live。いっしょに居るうちは、そうでもなかったが、こうして田舎田舎 the countryへ来て来て come (to)みると清はやっぱり善人善人 virtuous personだ。あんな気立のいい気立のいい good-natured; kindhearted女女 womanは日本中日本中 throughout Japanさがして歩いた歩いた walked; traversedってめったにはない。婆さん、おれの立つ立つ leave; departときに、少々少々 a bit; somewhat風邪を引いて風邪を引いて catch a coldいたが今頃今頃 now; at this timeはどうしてるか知らん知らん don't know。先だって先だって the other dayの手紙手紙 letterを見たら見たら looked at; readさぞ喜んだろう喜んだろう was glad; was happy。それにしても、もう返事返事 replyがきそうなものだが――おれはこんな事ばかり考えて二三日二三日 two or three days暮して暮して live; pass the timeいた。
気になる気になる weigh on one's mindから、宿宿 houseのお婆さんお婆さん old womanに、東京東京 Tōkyōから手紙手紙 letterは来ませんか来ませんか has (anything) arrived?と時々時々 occasionally尋ねて尋ねて ask; inquireみるが、聞く聞く askたんびにたんびに each time ...何にも何にも nothing参りません参りません came; arrivedと気の毒そうな気の毒そうな sympathetic顔顔 face; expressionをする。ここの夫婦夫婦 couple; husband and wifeはいか銀いか銀 Ikagin (name of Botchan's former landlord)とは違って違って different、もとが士族士族 samurai familyだけに双方共双方共 both (of them)上品上品 refined; of good tasteだ。爺さん爺さん old manが夜る夜る eveningになると、変な変な strange声声 voiceを出して出して speak with (voice)謡謡 chanting of a Noh (drama) textをうたうには閉口する閉口する be annoyed byが、いか銀のようにお茶お茶 teaを入れましょう入れましょう put on (tea)と無暗に無暗に unreasonably出て来ない出て来ない doesn't approach (one)から大きに大きに greatly楽楽 better; easierだ。お婆さんは時々部屋部屋 roomへ来て来て came (to)いろいろな話話 talk; discussionをする。どうして奥さん奥さん wifeをお連れなさってお連れなさって bring along、いっしょにお出でなんだお出でなんだ didn't come; didn't arriveのぞなもしなどと質問質問 questionをする。奥さんがあるように見えます見えます appear; seemかね。可哀想に可哀想に pity though it may beこれでもまだ二十四二十四 twenty four (old counting system; not full years of age)ですぜと云ったら云ったら said; repliedそれでも、あなた二十四で奥さんがおありなさるのは当り前当り前 proper; naturalぞなもしと冒頭を置いて冒頭を置いて seize on the topic (of conversation)、どこの誰さん誰さん someoneは二十二十 twentyでお嫁お嫁 brideをお貰いたお貰いた took; receivedの、どこの何とかさんは二十二二十二 twenty twoで子供子供 childrenを二人二人 two (people)お持ちたお持ちた hadのと、何でも例例 exampleを半ダース半ダース half dozenばかり挙げて挙げて raise; enumerate反駁反駁 refutation; rebuttalを試みた試みた tried one's hand atには恐れ入った恐れ入った be confounded; be overwhelmed。それじゃ僕僕 Iも二十四でお嫁をお貰いるけれ、世話をして世話をして find; introduce; recommendおくれんかなと田舎言葉田舎言葉 country dialectを真似て真似て imitate頼んで頼んで request; ask forみたら、お婆さん正直に正直に seriously本当本当 really; in truthかなもしと聞いた。
「本当の本当本当 really; in truth (regional pronunciation)のって僕あ、嫁が貰いたくって仕方がない仕方がない be unbearableんだ」
「そうじゃろうがな、もし。若い若い youngうちは誰もそんなものじゃけれ」この挨拶挨拶 answer; responseには痛み入って痛み入って be overwhelmed (by)返事返事 replyが出来なかった出来なかった was unable (to do); was incapable (of)。
「しかし先生先生 teacher (used here to address Botchan)はもう、お嫁がおありなさるに極っとらいに極っとらい certainly ... (dialect for に極ってる)。私はちゃんと、もう、睨らんどる睨らんどる see through someone's guise (dialect for 睨らんでる or 見抜いてる)ぞなもし」
「へえ、活眼活眼 keen eyeだね。どうして、睨らんどるんですか」
「どうしててて。東京東京 Tōkyōから便り便り correspondenceはないか、便りはないかてて、毎日毎日 every day便りを待ち焦がれて待ち焦がれて be impatient for; wait anxiously forおいでるじゃないかなもし」
「こいつあ驚いた驚いた be surprised。大変な大変な very much活眼だ」
「中りましたろう中りましたろう hit the mark; got it right (usually 当りましたろう)がな、もし」
「しかし今時今時 today; nowadaysの女子女子 girl; womanは、昔昔 old times; previous timesと違うて違うて different (dialect for 違って)油断が出来ん油断が出来ん one can't be too cautiousけれ、お気をお付けたお気をお付けた be careful; be alertがええぞなもし」
「それで、やっと安心した安心した feel relieved; be reassured。それじゃ何何 whatを気を付けるんですい」
「あなたのはたしか――あなたのはたしかじゃが――」
「どこに不たしかな不たしかな untrustworthyのが居ます居ます be; existかね」
「ここ等ここ等 hereabouts; in these partsにも大分大分 very much; many居ります居ります be; exist。先生先生 teacher (used here to address Botchan)、あの遠山遠山 Tōyama (family name)のお嬢さんお嬢さん daughter; young ladyをご存知ご存知 know of; be familiar withかなもし」
「いいえ、知りません知りません don't know aboutね」
「まだご存知ないかなもし。ここらであなた一番の一番の first; foremost別嬪さん別嬪さん beauty; belleじゃがなもし。あまり別嬪さんじゃけれ、学校学校 schoolの先生方先生方 teachersはみんなマドンナマドンナと言うといでると言うといでる refer to as (dialect for と言ってる)ぞなもし。まだお聞きんのかお聞きんのか haven't (you) heardなもし」
「野だ野だ Noda (short for Nodaiko, nickname for Yoshikawa, the art teacher)がつけたんですかい」
「いいえ、あの吉川吉川 Yoshikawa (name of the art teacher, a.k.a. Nodaiko)先生がお付けたのじゃがなもし」
「そのマドンナが不たしかなんですかい」
「そのマドンナさんが不たしかなマドンナさんでな、もし」
「厄介厄介 annoyance; botherだね。渾名渾名 pet name; nicknameの付いてる女女 womanにゃ昔から碌な碌な decent; respectableものは居ませんからね。そうかも知れませんよ」
「ほん当にほん当に really; in truthそうじゃなもし。鬼神のお松鬼神のお松 Kijin no Omatsu (famous female burglar from late Edo period)じゃの、妲妃のお百妲妃のお百 Dakki no Ohyaku (middle Edo period woman famous for lasciviousness) じゃのてて怖い怖い frightful女が居りましたなもし」
「マドンナもその同類同類 like kindなんですかね」
「そのマドンナさんがなもし、あなた。そらあの、あなたをここへ世話をして世話をして help; be of assistanceおくれた古賀古賀 Koga (a.k.a. Uranari)先生なもし――あの方方 person (respectful)の所所 place; houseへお嫁お嫁 brideに行く行く go (to)約束約束 promise; arrangementが出来ていた出来ていた was concluded; was in placeのじゃがなもし――」
「へえ、不思議な不思議な wondrous; incredibleもんですね。あのうらなりうらなり Uranari (nickname for Koga, the English teacher)君君 (suffix of familiarity for males)が、そんな艶福のある男艶福のある男 ladies' manとは思わなかった。人人 peopleは見懸け見懸け (outward) appearanceによらない者者 thingsだな。ちっと気を付けよう」
「ところが、去年去年 last yearあすこのお父さんお父さん fatherが、お亡くなりてお亡くなりて pass away; die、――それまではお金お金 moneyもあるし、銀行銀行 bankの株株 stock; shares; equityも持ってお出る持ってお出る have; possessし、万事万事 everything; all things都合がよかった都合がよかった was favorable; was going wellのじゃが――それからというものは、どういうものか急に急に suddenly暮し向き暮し向き circumstancesが思わしくなくなって思わしくなくなって went sour; became unfavorable――つまり古賀古賀 Koga (a.k.a. Uranari)さんがあまりお人お人 character; as a personが好過ぎる好過ぎる too good; too generousけれ、お欺されたお欺された was taken advantage ofんぞなもし。それや、これやでお輿入お輿入 weddingも延びて延びて be delayedいるところへ、あの教頭教頭 head teacher (a.k.a. Red Shirt)さんがお出でてお出でて appeared、是非是非 by all meansお嫁お嫁 brideにほしいとお云いるお云いる say; declareのじゃがなもし」
「あの赤シャツ赤シャツ Red Shirt (nickname for the head teacher)がですか。ひどい奴奴 fellow; guyだ。どうもあのシャツはただのシャツじゃないと思ってた。それから?」
「人人 a person; someoneを頼んで頼んで request懸合うて懸合うて negotiate (dialect for 懸合って)おみると、遠山遠山 Tōyama (family name of Madonna)さんでも古賀さんに義理義理 obligationがあるから、すぐには返事返事 answerは出来かねて出来かねて not in a position to do――まあよう考えて考えて consider; think overみようぐらいの挨拶挨拶 answer; responseをおしたのじゃがなもし。すると赤シャツさんが、手蔓手蔓 influence; contactを求めて求めて seek; pursue遠山さんの方方 directionへ出入出入 come and go; call onをおしるようになって、とうとうあなた、お嬢さんお嬢さん young ladyを手馴付けて手馴付けて bring round; win overおしまいたのじゃがなもし。赤シャツさんも赤シャツさんじゃが、お嬢さんもお嬢さんじゃてて、みんなが悪るく悪るく badly云います云います speak (of)のよ。いったん古賀さんへ嫁に行く行く go (to)てて承知承知 consent; agreementをしときながら、今さら今さら at this (belated) point学士学士 scholar; degree holderさんがお出たけれ、その方に替えよ替えよ change; switch (to)てて、それじゃ今日様へ済むまい今日様へ済むまい offensive before heaven (lit: unacceptable to the sun god)がなもし、あなた」
「全く全く completely済まない済まない unacceptableね。今日様今日様 the sun god (can also be read as "today" god)どころか明日様明日様 the tomorrow god (pun)にも明後日様明後日様 the day after tomorrow god (pun)にも、いつまで行ったって済みっこありませんね」
「それで古賀さんにお気の毒お気の毒 wretched; pitiableじゃてて、お友達お友達 friendの堀田堀田 Hotta (a.k.a. Yama Arashi)さんが教頭の所所 place; residenceへ意見をし意見をし argue a caseにお行きたら、赤シャツさんが、あしは約束約束 promiseのあるものを横取りする横取りする usurp; snatchつもりはない。破約破約 broken engagementになれば貰う貰う receiveかも知れんかも知れん might (do)が、今のところ今のところ for nowは遠山家遠山家 the Tōyama householdとただ交際交際 friendship; acquaintanceをしているばかりじゃ、遠山家と交際をするには別段別段 in particular古賀さんに済まん事事 matter; actionもなかろうとお云いるけれ、堀田さんも仕方がなしに仕方がなしに having no further recourseお戻りたお戻りた took his leave; returnedそうな。赤シャツさんと堀田さんは、それ以来それ以来 since then折合折合 relationsがわるいという評判評判 rumor; gossipぞなもし」
分り過ぎて分り過ぎて know too much困る困る be troubling; be disconcertingくらいだ。この容子じゃこの容子じゃ at this rateおれの天麩羅天麩羅 tempuraや団子団子 dumplingsの事も知ってるかも知れないかも知れない might be; could be。厄介な厄介な meddlesome; bothersome所所 placeだ。しかしお蔭様でお蔭様で thanks to ...マドンナの意味意味 meaningもわかるし、山嵐山嵐 Yama Arashi (nickname for Hotta, the head mathematics teacher)と赤シャツ赤シャツ Red Shirt (nickname for the head teacher)の関係関係 relationshipもわかるし大いに大いに greatly後学後学 background information; future referenceになった。ただ困るのはどっちが悪る者悪る者 villainだか判然しない判然しない isn't clear。おれのような単純な単純な simple; uncomplicatedものには白白 whiteとか黒黒 blackとか片づけて片づけて organize; classifyもらわないと、どっちへ味方味方 ally; friendをしていいか分らない。
これじゃ聞いた聞いた ask; listenって仕方がない仕方がない be of no useから、やめにした。それから二三日二三日 two or three daysして学校学校 the schoolから帰る帰る return homeとお婆さんお婆さん old womanがにこにこして、へえお待遠さまお待遠さま here it is (at last)。やっと参りました参りました came; arrived。と一本一本 one (long object)の手紙手紙 letterを持って来て持って来て broughtゆっくりご覧ゆっくりご覧 read at your leisureと云って云って say; remark出て行った出て行った left; returned。取り上げて取り上げて pick upみると清清 Kiyo (name of Botchan's former maidservant)からの便り便り correspondenceだ。符箋符箋 forwarding slipが二三枚二三枚 two or three (flat objects); severalついてるから、よく調べる調べる check; look intoと、山城屋山城屋 Yamashiroya (name of an inn)から、いか銀いか銀 Ikagin (name of Botchan's former landlord)の方方 directionへ廻して廻して circulate; forward (letter)、いか銀から、萩野萩野 Hagino (name of Botchan's landlord)へ廻って来たのである。その上その上 on top of that山城屋では一週間一週間 one weekばかり逗留している逗留している stay; stop; be held up。宿屋宿屋 innだけに手紙まで泊る泊る accommodate; put up (overnight)つもりなんだろう。開いて開いて openみると、非常に非常に exceedingly長い長い long; lengthyもんだ。坊っちゃん坊っちゃん Botchanの手紙を頂いて頂いて receivedから、すぐ返事返事 replyをかこうと思った思った thought (to)が、あいにく風邪を引いて風邪を引いて catch a cold一週間ばかり寝ていた寝ていた was in bedものだから、つい遅くなって遅くなって became late済まない済まない pardon; excuse me。その上今時の今時の current; modernお嬢さんお嬢さん young ladiesのように読み書き読み書き reading and writingが達者達者 proficient; skilled (in)でないものだから、こんなまずい字字 charactersでも、かくのによっぽど骨が折れる骨が折れる costs one considerable effort。甥甥 nephewに代筆代筆 dictationを頼もう頼もう requestと思ったが、せっかくあげるのに自分で自分で by oneself; on one's ownかかなくっちゃ、坊っちゃんに済まないと思って、わざわざ下たがき下たがき rough draftを一返一返 one timeして、それから清書清書 clean copy; clear copyをした。清書をするには二日二日 two daysで済んだ済んだ finished; sufficedが、下た書きをするには四日四日 four daysかかった。読みにくい読みにくい hard to readかも知れないかも知れない might beが、これでも一生懸命に一生懸命に to the best of one's abilityかいたのだから、どうぞしまいまで読んで読んで readくれ。という冒頭冒頭 introduction; preambleで四尺四尺 four shaku (about 120cm; about four feet)ばかり何やらかやら何やらかやら this and that認めて認めて write; noteある。なるほど読みにくい。字がまずいばかりではない、大抵大抵 for the most part平仮名平仮名 hiraganaだから、どこで切れて切れて break (words in a text)、どこで始まる始まる beginのだか句読をつける句読をつける punctuate; parseのによっぽど骨が折れる。おれは焦っ勝ちな焦っ勝ちな impatient; hurried性分性分 nature; temperamentだから、こんな長くて、分りにくい分りにくい hard to understand手紙は、五円五円 five yenやるから読んでくれと頼まれても断わる断わる refuse; declineのだが、この時時 time; occasionばかりは真面目真面目 serious; intent (on doing something)になって、始から終終 end; finishまで読み通した読み通した read through。読み通した事事 act; factは事実事実 truth; realityだが、読む方に骨が折れて、意味意味 meaningがつながらないから、また頭頭 start (lit: head)から読み直して読み直して re-readみた。部屋部屋 roomのなかは少し少し a bit; somewhat暗く暗く darkなって、前の前の earlier時より見にくく見にくく hard to see、なったから、とうとう椽鼻椽鼻 edge of the veranda; edge of the porchへ出て出て went out (to)腰をかけながら腰をかけながら while sitting鄭寧に鄭寧に carefully; thoroughly拝見した拝見した perused; looked over。すると初秋初秋 early autumnの風風 breeze; windが芭蕉芭蕉 plantainの葉葉 leavesを動かして動かして stirred; moved、素肌素肌 exposed skinに吹きつけた吹きつけた blow against帰りに、読みかけた手紙を庭庭 gardenの方へなびかしたなびかした let flutterから、しまいぎわには四尺あまりの半切れ半切れ narrow writing scrollがさらりさらりと鳴って鳴って rustled、手手 hand; gripを放す放す release; let goと、向う向う the other sideの生垣生垣 hedgeまで飛んで行きそう飛んで行きそう looking like it would fly off (to)だ。おれはそんな事には構って構って mind; noticeいられない。坊っちゃんは竹竹 bambooを割った割った splitような気性気性 character; dispositionだが、ただ肝癪肝癪 passion; temperが強過ぎて強過ぎて too strong; too volatileそれが心配心配 worry; concernになる。――ほかの人人 peopleに無暗に無暗に recklessly; rashly渾名渾名 nicknameなんか、つけるのは人に恨まれる恨まれる invite resentmentもとになるから、やたらに使っちゃ使っちゃ useいけない、もしつけたら、清だけに手紙で知らせろ知らせろ inform; tell about。――田舎者田舎者 country folkは人がわるいそうだから、気をつけて気をつけて be carefulひどい目ひどい目 bad end; difficultyに遭わない遭わない don't meet (with)ようにしろ。――気候気候 climate; weatherだって東京東京 Tōkyōより不順不順 irregular; changeableに極ってるに極ってる is certainly ...から、寝冷寝冷 night chillをして風邪を引いてはいけない。坊っちゃんの手紙はあまり短過ぎて短過ぎて too short、容子容子 situation; doingsがよくわからないから、この次次 next timeにはせめてこの手紙の半分半分 halfぐらいの長さのを書いて書いて writeくれ。――宿屋へ茶代茶代 tipを五円やるのはいいが、あとで困りゃ困りゃ face difficultyしないか、田舎田舎 countryへ行って頼りになる頼りになる can depend onはお金お金 moneyばかりだから、なるべく倹約倹約 thrift; frugalityして、万一の時万一の時 unlikely event (lit: one in ten thousand occurrence)に差支えない差支えない not be hindered (from doing something)ようにしなくっちゃいけない。――お小遣お小遣 pocket moneyがなくて困るかも知れないから、為替為替 money orderで十円十円 ten yenあげる。――先だって先だって the other day坊っちゃんからもらった五十円五十円 fifty yenを、坊っちゃんが、東京へ帰って、うちを持つ持つ have; own時の足し足し supplement; assistanceにと思って、郵便局郵便局 post office (postal savings account)へ預けて預けて deposit; entrust toおいたが、この十円を引いて引いて withdraw; subtractもまだ四十円四十円 forty yenあるから大丈夫大丈夫 okay; no problemだ。――なるほど女女 womanと云うものは細かい細かい detail-oriented; meticulousものだ。
おれが椽鼻椽鼻 edge of the veranda; edge of the porchで清清 Kiyo (name of Botchan's former maidservant)の手紙手紙 letterをひらつかせながらひらつかせながら while allowing to flutter (in the wind)、考え込んでいる考え込んでいる be lost in thoughtと、しきりの襖襖 sliding partitionをあけて、萩野萩野 Hagino (name of Botchan's landlord)のお婆さんお婆さん old womanが晩めし晩めし dinnerを持ってきた持ってきた brought。まだ見てお出でる見てお出でる looking at; readingのかなもし。えっぽど長い長い long; lengthyお手紙じゃなもし、と云った云った said; remarkedから、ええ大事な大事な important手紙だから風風 windに吹かして吹かして be blown byは見、吹かしては見るんだと、自分でも自分でも even to myself要領を得ない要領を得ない makes no sense返事返事 responseをして膳についた膳についた started dinner。見ると今夜今夜 tonightも薩摩芋薩摩芋 sweet potatoの煮つけ煮つけ boiled with soyだ。ここのうちは、いか銀いか銀 Ikagin (name of Botchan's former landlord)よりも鄭寧鄭寧 polite; courteousで、親切親切 kind; considerateで、しかも上品上品 refined; of good tasteだが、惜しい惜しい unfortunate; regretful事事 fact; matterに食い物食い物 foodがまずい。昨日昨日 yesterdayも芋芋 potato一昨日一昨日 the day before yesterdayも芋で今夜も芋だ。おれは芋は大好き大好き very fond ofだと明言した明言した declared; assertedには相違ないには相違ない without a doubtが、こう立てつづけに立てつづけに continually; in succession芋を食わされては命命 life; existenceがつづかない。うらなりうらなり Uranari (nickname for Koga, the English teacher)君君 (suffix of familiarity for males)を笑う笑う laugh at; joke aboutどころか、おれ自身自身 myselfが遠からぬうちに遠からぬうちに in the not so distant future、芋のうらなり先生先生 teacherになっちまう。清ならこんな時時 time; occasionに、おれの好きな鮪鮪 bluefin tunaのさし身さし身 sashimiか、蒲鉾蒲鉾 fish cakeのつけ焼つけ焼 fish broiled with soyを食わせる食わせる prepare food (for someone)んだが、貧乏貧乏 impoverished士族士族 samurai familyのけちん坊けちん坊 stinginessと来ちゃと来ちゃ when dealing with ...仕方がない仕方がない can't be helped。どう考えても清といっしょでなくっちあ駄目駄目 no good; unacceptableだ。もしあの学校学校 schoolに長くでも居る居る be; remain (in a place)模様模様 indication; outlookなら、東京東京 Tōkyōから召び寄せて召び寄せて call (for someone)やろう。天麩羅蕎麦天麩羅蕎麦 tempura sobaを食っちゃならない食っちゃならない not allowed to eat、団子団子 dumplingsを食っちゃならない、それで下宿下宿 lodgingsに居て芋ばかり食って黄色く黄色く yellowなっていろなんて、教育者教育者 educatorはつらいものだ。禅宗坊主禅宗坊主 zen monkだって、これよりは口口 mouthに栄耀栄耀 luxuryをさせているだろう。――おれは一皿一皿 one plateの芋を平げて平げて eat up、机机 deskの抽斗抽斗 drawerから生卵生卵 raw eggを二つ二つ two (items; objects)出して出して take out、茶碗茶碗 (rice) bowl; tea bowlの縁縁 edgeでたたき割ってたたき割って crack apart (egg)、ようやく凌いだ凌いだ managed; endured。生卵ででも営養営養 nutrition ( usually 栄養)をとらなくっちあ一週一週 one week二十一時間二十一時間 twenty one hoursの授業授業 classが出来る出来る be possibleものか。
今日今日 today; this dayは清清 Kiyo (name of Botchan's former maidservant)の手紙手紙 letterで湯に行く湯に行く go to bathe時間時間 timeが遅くなった遅くなった became late。しかし毎日毎日 every day行きつけた行きつけた visited; frequentedのを一日一日 one dayでも欠かす欠かす miss; skipのは心持ちがわるい心持ちがわるい doesn't feel right。汽車汽車 (steam) trainにでも乗って乗って ride; take (train, etc.)出懸けよう出懸けよう set out (for)と、例の例の the usual; the previously mentioned赤手拭赤手拭 red towelをぶら下げてぶら下げて dangle停車場停車場 stop; stationまで来る来る come (to)と二三分前二三分前 two or three minutes beforeに発車発車 departure (train, etc.)したばかりで、少々少々 a bit待たなければならぬ待たなければならぬ have to wait。ベンチへ腰を懸けて腰を懸けて sit down、敷島敷島 Shikishima (cigarette brand)を吹かして吹かして smokeいると、偶然偶然 by chanceにもうらなりうらなり Uranari (nickname for Koga, the English teacher)君君 (suffix of familiarity for males)がやって来た。おれはさっきの話話 talk; storyを聞いて聞いて hearから、うらなり君がなおさら気の毒気の毒 pitiableになった。平常から平常から ordinarily; from habit天地の間天地の間 between heaven and earthに居候をしている居候をしている be a burden; be a nuisanceように、小さく小さく meekly構えて構えて position oneself; assume a postureいるのがいかにも憐れ憐れ miserableに見えた見えた appearedが、今夜今夜 tonightは憐れどころの騒ぎではない憐れどころの騒ぎではない 'miserable' can't begin to describe it。出来るならば出来るならば if possible月給月給 (monthly) salaryを倍にして倍にして double、遠山遠山 Tōyama (family name of Madonna)のお嬢さんお嬢さん young ladyと明日明日 tomorrowから結婚結婚 marriageさして、一ヶ月一ヶ月 one monthばかり東京東京 Tōkyōへでも遊びに遊びに for pleasure; as a touristやってやりたい気がした矢先気がした矢先 at the point of feeling ...だから、やお湯お湯 bathですか、さあ、こっちへお懸けなさいお懸けなさい have a seatと威勢よく威勢よく gallantly席を譲る席を譲る make room (for someone) to sitと、うらなり君は恐れ入った恐れ入った abashed; feeling small体裁体裁 form; styleで、いえ構うておくれなさるな構うておくれなさるな don't trouble yourself (on my account)、と遠慮遠慮 reserve; diffidenceだか何何 whatだかやっぱり立ってる立ってる remain standing。少し少し a bit待たなくっちゃ出ません出ません won't depart、草臥れます草臥れます get tired; be worn outからお懸けなさいとまた勧めて勧めて advise; offerみた。実は実は in fact; in truthどうかして、そばへ懸けてもらいたかったくらいに気の毒でたまらない。それではお邪魔を致しましょうお邪魔を致しましょう impose (on someone)とようやくおれの云う云う say; request事事 content; meaningを聞いてくれた。世の中世の中 the worldには野だ野だ Noda (short for Nodaiko, nickname for Yoshikawa, the art teacher)みたように生意気な生意気な impudent; insolent、出ないで済む出ないで済む be unwanted; be unneeded所所 placeへ必ず必ず without fail顔を出す顔を出す make an appearance; show one's face奴奴 fellowもいる。山嵐山嵐 Yama Arashi (nickname for Hotta, the head mathematics teacher)のようにおれが居なくっちゃ居なくっちゃ not be present; not be there日本日本 Japanが困る困る have a difficult time; be at a lossだろうと云うような面を肩の上へ載せてる面を肩の上へ載せてる wear one's face like a badge of honor奴もいる。そうかと思う思う thinkと、赤シャツ赤シャツ Red Shirt (nickname for the head teacher)のようにコスメチックと色男色男 beau; lady-killerの問屋問屋 wholesalerをもって自ら自ら for oneself; on one's own initiative任じて任じて appoint; nominateいるのもある。教育教育 educationが生きて生きて be aliveフロックコートを着れば着れば wearおれになるんだと云わぬばかり云わぬばかり all but declaringの狸狸 Tanuki (nickname for the school principal)もいる。皆々皆々 all; each oneそれ相応にそれ相応に in their respective ways威張ってる威張ってる swagger; make one's importance feltんだが、このうらなり先生先生 teacherのように在れどもなきがごとく在れどもなきがごとく as if not existing、人質に取られた人質に取られた taken hostage; held for ransom人形人形 puppet; figureのように大人しく大人しく obediently; passivelyしているのは見た事がない。顔はふくれているが、こんな結構な結構な fine; superb男男 manを捨てて捨てて discard; reject赤シャツに靡く靡く yield to; be won over byなんて、マドンナもよっぼど気の知れない気の知れない unfathomable; beyond understandingおきゃんおきゃん hussy; minxだ。赤シャツが何ダース寄った寄った approach; draw nearって、これほど立派な立派な splendid旦那様旦那様 husbandが出来るもんか。
「あなたはどっか悪い悪い something wrongんじゃありませんか。大分大分 a good deal; very muchたいぎそうたいぎそう weary; languidに見えます見えます appear; seem to beが……」「いえ、別段別段 particularlyこれという持病持病 chronic complaintもないですが……」
「そりゃ結構結構 fine; good to hearです。からだが悪いと人間人間 a person; a human beingも駄目駄目 no goodですね」
「あなたは大分ご丈夫ご丈夫 healthy; hardyのようですな」
「ええ瘠せて瘠せて be thin; be skinnyも病気病気 sickness; illnessはしません。病気なんてものあ大嫌い大嫌い most unpleasant; detestedですから」
うらなりうらなり Uranari (nickname for Koga, the English teacher)君君 (suffix of familiarity for males)は、おれの言葉言葉 wordsを聞いて聞いて listen toにやにやと笑った笑った laughed。
ところへ入口入口 entranceで若々しい若々しい youthful; fresh女の女の female; woman's笑声笑声 laughterが聞えた聞えた could be heardから、何心なく何心なく incidentally; reflexively振り返って振り返って turn one's headみるとえらい奴奴 character; personageが来た来た came; had arrived。色の白い色の白い of fair complexion、ハイカラハイカラ stylish; Western-style頭頭 head; face and hairの、背の高い背の高い tall美人美人 belle; beautyと、四十五六四十五六 45 or 46の奥さん奥さん lady; wifeとが並んで並んで side by side切符切符 ticketsを売る売る sell窓窓 windowの前前 front ofに立っている立っている be standing。おれは美人の形容形容 descriptionなどが出来る出来る be capable of男男 manでないから何にも云えない何にも云えない can't commentが全く全く utterly; completely美人に相違ないに相違ない without a doubt。何だか水晶水晶 crystalの珠珠 ball; bead; globe; sphereを香水香水 perfumeで暖ためて暖ためて warmed、掌掌 palm of one's handへ握って握って grip; holdみたような心持ち心持ち feelingがした。年寄年寄 older personの方方 alternativeが背は低い背は低い short; small in stature。しかし顔顔 faceはよく似て似て resembleいるから親子親子 mother and daughterだろう。おれは、や、来たなと思う思う notice; realize途端途端 moment; instantに、うらなり君の事事 matter; factは全然全然 completely忘れて忘れて forgot、若い若い young女の方ばかり見ていた。すると、うらなり君が突然突然 suddenlyおれの隣隣 next to; one's sideから、立ち上がって立ち上がって stood up、そろそろ女の方へ歩き出した歩き出した started walkingんで、少し少し a bit驚いた驚いた was surprised。マドンナじゃないかと思った。三人三人 three (people)は切符所切符所 ticket place; ticket counterの前で軽く軽く lightly; casually挨拶挨拶 greeting; salutationしている。遠い遠い distantから何を云って云って sayるのか分らない分らない can't tell; can't make out。
停車場停車場 stop; stationの時計時計 clockを見る見る look atともう五分五分 five minutesで発車発車 departureだ。早く早く soon汽車汽車 (steam) trainがくればいいがなと、話し相手話し相手 (conversation) partnerが居なくなった居なくなった be no longer presentので待ち遠しく待ち遠しく slow in arriving思っている思っている thinking; consideringと、また一人一人 one (person)あわてて場内場内 station areaへ馳け込んで来た馳け込んで来た came running intoものがある。見れば赤シャツ赤シャツ Red Shirt (nickname for the head teacher)だ。何だか何だか some sort ofべらべら然たるべらべら然たる flimsy着物着物 coat; kimonoへ縮緬縮緬 silk-crepeの帯帯 belt; sashをだらしなくだらしなく slovenly; sloppily巻き付けて巻き付けて wound around; fastened、例の通り例の通り as usual; as always金鎖り金鎖り gold chainをぶらつかしている。あの金鎖りは贋物贋物 fake; imitationである。赤シャツは誰も知るまい誰も知るまい no one likely knowsと思って、見せびらかしているが、おれはちゃんと知ってる。赤シャツは馳け込んだなり、何かきょろきょろしていたきょろきょろしていた was looking about restlesslyが、切符売下所売下所 sales counterの前に話して話して talk; converseいる三人へ慇懃に慇懃に politely; with much courtesyお辞儀お辞儀 bow; greetingをして、何か二こと二こと two things、三こと三こと three things、云った云った said; remarkedと思ったら、急に急に suddenlyこっちへ向いて向いて turned (toward)、例のごとく例のごとく as usual; as always猫足に猫足に with cat-like stepsあるいて来てあるいて来て walked over、や君君 youも湯湯 bathですか、僕僕 Iは乗り後れ乗り後れ miss (the train, etc)やしないかと思って心配して心配して be worried急いで急いで in a hurry来たら、まだ三四分三四分 three or four minutesある。あの時計はたしかかしらんと、自分の自分の one's own金側金側 gold watch (short for 金側時計)を出して出して take out、二分二分 two minutesほどちがってると云いながら、おれの傍傍 side; next toへ腰を卸した腰を卸した sat down。女女 womenの方方 directionはちっともちっとも (not) at all見返らないで見返らないで without looking back at杖杖 walking staff; caneの上上 top ofに顋顋 chinをのせて、正面正面 straight aheadばかり眺めて眺めて gaze; stareいる。年寄の年寄の elderly婦人婦人 ladyは時々時々 occasionally赤シャツを見るが、若い若い young方は横横 sideways; awayを向いた向いた facing; turned towardままである。いよいよマドンナに違いないに違いない without a doubt。
やがて、ピューと汽笛汽笛 (steam) whistleが鳴って鳴って blew; sounded、車車 (train) carsがつく。待ち合せた待ち合せた waited for連中連中 group; crowdはぞろぞろぞろぞろ in succession; in a stream吾れ勝に吾れ勝に vying with one another; scrambling (for seats)乗り込む乗り込む board (train, etc)。赤シャツはいの一号にいの一号に in the lead上等上等 first classへ飛び込んだ飛び込んだ jumped into。上等へ乗ったって威張れる威張れる boast-worthyどころではない、住田住田 Sumita (place name)まで上等が五銭五銭 five sen (0.05 yen)で下等下等 second classが三銭三銭 three sen (0.03 yen)だから、わずか二銭二銭 two sen (0.02 yen)違い違い differenceで上下上下 first and second (class)の区別区別 distinctionがつく。こういうおれでさえ上等を奮発して奮発して indulge oneself; splurge白切符白切符 white ticketを握って握って hold; gripるんでもわかる。もっとも田舎者田舎者 country folkはけちだから、たった二銭の出入出入 change in quantityでもすこぶる苦になる苦になる worry over; fret overと見えて、大抵大抵 for the most partは下等へ乗る。赤シャツのあとからマドンナとマドンナのお袋お袋 motherが上等へはいり込んだはいり込んだ entered。うらなりうらなり Uranari (nickname for Koga, the English teacher)君君 (suffix of familiarity for males)は活版で押したように活版で押したように invariably; routinely (lit: as though printed by typesetting)下等ばかりへ乗る男男 manだ。先生先生 teacher (Uranari)、下等の車室車室 compartment; carriage (train)の入口入口 entranceへ立って立って standing、何だか何だか somehow躊躇躊躇 hesitation; indecisionの体体 appearanceであったが、おれの顔顔 faceを見るや否やや否や as soon as ...思いきって思いきって with resolve、飛び込んでしまった。おれはこの時時 time; occasion何となく気の毒気の毒 pitiableでたまらなかったから、うらなり君のあとから、すぐ同じ同じ the same車室へ乗り込んだ。上等の切符で下等へ乗るに不都合不都合 problem; improprietyはなかろう。
温泉温泉 onsenへ着いて着いて arrived (at)、三階三階 third floorから、浴衣浴衣 summer (cotton) robeのなりなり appearance; dressで湯壺湯壺 bathing areaへ下りて下りて descend; go down (stairs)みたら、またうらなりうらなり Uranari (nickname for Koga, the English teacher)君君 (suffix of familiarity for males)に逢った逢った met; encountered。おれは会議会議 meetingや何か何か somethingでいざと極まる極まる be at a loss; be in a bindと、咽喉咽喉 throatが塞がって塞がって be blocked up; be clogged饒舌れない饒舌れない can't speak男男 manだが、平常平常 ordinarilyは随分随分 a great deal; quite a lot弁ずる弁ずる speak; talk方方 tendencyだから、いろいろ湯壺のなかでうらなり君に話しかけて話しかけて engage in conversationみた。何だか憐れぽくって憐れぽくって doleful; mournfulたまらない。こんな時時 time; occasionに一口一口 one wordでも先方先方 the other partyの心心 heart; spiritを慰めて慰めて comfort; consoleやるのは、江戸っ子江戸っ子 Tōkyō manの義務義務 dutyだと思ってる思ってる consider; think of as。ところがあいにくうらなり君の方では、うまい具合具合 manner; way; fashionにこっちの調子調子 tone; moodに乗って乗って join in withくれない。何何 what; whateverを云って云って sayも、えとかいえとかぎりでぎりで only; limited to、しかもそのえといえが大分大分 greatly面倒面倒 burdensomeらしいので、しまいにはとうとう切り上げて切り上げて cut short; make an end of、こっちからご免蒙ったご免蒙った excused oneself。
湯湯 bathの中中 inside; withinでは赤シャツ赤シャツ Red Shirt (nickname for the head teacher)に逢わなかった。もっとも風呂風呂 bathing areasの数数 numberはたくさんあるのだから、同じ同じ came汽車汽車 (steam) trainで着いても、同じ湯壺で逢うとは極まっていない極まっていない is not a given。別段別段 particularly不思議不思議 strange; curiousにも思わなかった。風呂を出て出て get out (of); leaveみるといい月月 moonだ。町内町内 street; neighborhoodの両側両側 both sidesに柳柳 willow treesが植って植って be planted、柳の枝枝 branchesが丸るい丸るい round; curved影影 shadowsを往来往来 streetの中へ落して落して drop; cast (shadows)いる。少し少し a bit散歩散歩 walk; strollでもしよう。北北 northへ登って登って climb; walk up (slope)町町 townのはずれへ出ると、左左 left (side)に大きな大きな large門門 gateがあって、門の突き当り突き当り straight throughがお寺お寺 (Buddhist) templeで、左右左右 left and rightが妓楼妓楼 brothelである。山門山門 two-storied gate; temple gateのなかに遊廓遊廓 red-light districtがあるなんて、前代未聞前代未聞 unheard-ofの現象現象 appearance; happeningだ。ちょっとはいってみたいが、また狸狸 Tanuki (nickname for the school principal)から会議会議 meeting; conferenceの時時 time; occasionにやられるかも知れないかも知れない might be; could happenから、やめて素通り素通り pass by (without stopping)にした。門の並び並び line; lined up with (along a street)に黒い黒い black暖簾暖簾 shop curtainをかけた、小さな小さな small格子窓格子窓 latticed windowの平屋平屋 one-story house; bungalowはおれが団子団子 dumplingsを食って食って ate、しくじったしくじった made a blunder所所 placeだ。丸提灯丸提灯 round (paper) lanternに汁粉汁粉 adzuki-bean soup with rice cake、お雑煮お雑煮 rice cakes boiled with vegetablesとかいたのがぶらさがって、提灯提灯 (paper) lanternの火火 lightが、軒端軒端 the edge of the eavesに近い近い close to一本一本 one (tree)の柳の幹幹 (tree) trunkを照らして照らして light up; shine onいる。食いたいなと思ったが我慢我慢 perseverance; self-controlして通り過ぎた通り過ぎた passed by; kept going。
食いたい食いたい want to eat団子団子 dumplingsの食えないのは情ない情ない sorrowful; lamentable。しかし自分の自分の one's own許嫁許嫁 betrothed; fiancéeが他人他人 another person; strangerに心心 heart; affectionを移した移した shifted; redirectedのは、なお情ないだろう。うらなりうらなり Uranari (nickname for Koga, the English teacher)君君 (suffix of familiarity for males)の事事 matter; affairを思う思う think ofと、団子は愚か愚か asinine; silly、三日三日 three daysぐらい断食して断食して fast; abstain from foodも不平不平 complaintはこぼせない訳訳 circumstances; situationだ。本当に本当に really; in truth人間人間 human beingsほどあてにならないものはない。あの顔顔 faceを見る見る look atと、どうしたって、そんな不人情な不人情な unkind; callous事をしそうには思えないんだが――うつくしい人人 personが不人情で、冬瓜冬瓜 wax gourdの水膨れ水膨れ (water) blisterのような古賀さん古賀さん Koga-san (a.k.a. Uranari)が善良な善良な good; dutiful君子君子 gentleman; man of virtueなのだから、油断が出来ない油断が出来ない one can't be too careful。淡泊淡泊 candid; openheartedだと思った山嵐山嵐 Yama Arashi (nickname for Hotta, the head mathematics teacher)は生徒生徒 studentsを煽動した煽動した incitedと云う云う say; reportし。生徒を煽動したのかと思うと、生徒の処分処分 punishmentを校長校長 school principalに逼る逼る urge; force; compelし。厭味厭味 affectation; bad tasteで練りかためた練りかためた extracted into solid formような赤シャツ赤シャツ Red Shirtが存外存外 unexpectedly親切親切 kind; considerateで、おれに余所ながら余所ながら indirectly; by hinting at (something)注意注意 caution; warningをしてくれるかと思うと、マドンナを胡魔化したり胡魔化したり deceive、胡魔化したのかと思うと、古賀の方方 alternative; directionが破談破談 broken engagementにならなければ結婚結婚 marriageは望まない望まない won't aspire to; won't hope forんだと云うし。いか銀いか銀 Ikagin (name of Botchan's former landlord)が難癖をつけて難癖をつけて criticize; find fault with、おれを追い出す追い出す turn out; drive awayかと思うと、すぐ野だ野だ Noda (short for Nodaiko, nickname for Yoshikawa, the art teacher)公公 prince; lordが入れ替ったり入れ替ったり exchange places――どう考えて考えて consider; think aboutもあてにならない。こんな事を清清 Kiyo (name of Botchan's former maidservant)にかいてやったら定めて定めて probably驚く驚く be surprised事だろう。箱根箱根 Hakone (place name)の向う向う other side; beyondだから化物化物 goblins; monstersが寄り合って寄り合って assemble; gather togetherるんだと云うかも知れないかも知れない might be; possibly。
おれは、性来性来 by nature構わない構わない carefree; indifferent; unconcerned性分性分 temperamentだから、どんな事でも苦にしないで苦にしないで without taking seriously; without worrying over今日今日 today; the presentまで凌いで凌いで withstand; get through来た来た came (to); arrived (at)のだが、ここへ来てからまだ一ヶ月一ヶ月 one month立つ立つ pass; elapse (time)か、立たないうちに、急に急に suddenly世のなか世のなか the worldを物騒物騒 disturbed; troubled; unsafeに思い出した思い出した began to think of as; began to regard as。別段別段 particularly際だった際だった conspicuous; remarkable大事件大事件 major incidentにも出逢わない出逢わない didn't encounterのに、もう五つ五つ five (years)六つ六つ six (years)年を取った年を取った ; took on years; agedような気がする気がする have a feeling。早く早く soon切り上げて切り上げて give up; pack it in東京東京 Tōkyōへ帰る帰る returnのが一番一番 number one; mostよかろう。などとそれからそれへ考えて、いつか石橋石橋 stone bridgeを渡って渡って crossed over野芹川野芹川 Nozeri Riverの堤堤 embankmentへ出た出た arrived (at)。川川 riverと云うとえらそうだが実は実は in fact; actually一間一間 one ken (about 1.8 meters; about 2 yards)ぐらいな、ちょろちょろした流れ流れ current; streamで、土手土手 embankmentに沿うて沿うて following alongside十二丁十二丁 twelve chō (about 1.3 km; about 0.8 miles)ほど下る下る descend; walk in the downstream directionと相生村相生村 Aioi Villageへ出る。村村 villageには観音様観音様 temple of Kannon (goddess of mercy)がある。
温泉温泉 bathsの町町 town; districtを振り返る振り返る look back (toward)と、赤い赤い red灯灯 lightsが、月月 moonの光光 lightの中中 midst ofにかがやいている。太鼓太鼓 drumが鳴る鳴る ring out; soundのは遊廓遊廓 red-light districtに相違ないに相違ない no doubt ...。川川 riverの流れ流れ flowは浅い浅い shallowけれども早い早い quick; rapidから、神経質神経質 nervous; restlessの水水 waterのようにやたらにやたらに blindly; wildly光る光る glitter; sparkle。ぶらぶら土手土手 embankmentの上上 topをあるきながら、約約 about三丁三丁 three chō (about 330 meters; about 1100 feet)も来た来た came; advancedと思ったら思ったら thought; felt that ...、向う向う up aheadに人影人影 human figure; silhouetteが見え出した見え出した came into sight。月に透かしてみる月に透かしてみる see by the light of the moonと影影 figure; shapeは二つ二つ twoある。温泉温泉 bathsへ来て村村 villageへ帰る帰る return home若い若い young衆衆 group; companyかも知れないかも知れない could be。それにしては唄唄 song; tuneもうたわない。存外存外 unexpectedly; strangely静か静か quietだ。
だんだん歩いて行く歩いて行く proceed by walkingと、おれの方方 alternativeが早足早足 quick pacedだと見えて見えて appeared、二つの影法師影法師 shadow figuresが、次第に次第に gradually大きくなる大きくなる grew larger。一人一人 one (person)は女女 woman; femaleらしい。おれの足音足音 footstepsを聞きつけて聞きつけて hear; notice (a sound)、十間十間 ten ken (about 18 meters; about 20 yards)ぐらいの距離距離 distanceに逼った逼った drew near; closed in on時時 time; moment、男男 man; maleがたちまちたちまち suddenly振り向いた振り向いた looked back。月は後から後から from behind (me)さしている。その時おれは男の様子様子 appearance; mannerを見て、はてなはてな Good Lord!と思った。男と女はまた元の通り元の通り as beforeにあるき出したあるき出した started walking。おれは考え考え thought; ideaがあるから、急に急に suddenly全速力全速力 full speed; as fast as possibleで追っ懸けた追っ懸けた chased after; pursued。先方先方 the other partyは何の気もつかずに何の気もつかずに without noticing anything最初の通り最初の通り as before; as initially (doing)、ゆるゆる歩を移して歩を移して step; strollいる。今今 nowは話し声話し声 voices; conversationも手に取る手に取る grasp (in one's hands)ように聞える。土手の幅幅 widthは六尺六尺 six shaku (about 2 meters; about 6 feet)ぐらいだから、並んで並んで in a line; abreast行けば三人三人 three peopleがようやくだ。おれは苦もなく苦もなく without difficulty後ろから追い付いて追い付いて caught up、男の袖袖 sleeve; armを擦り抜け擦り抜け brush pastざまざま state; situation、二足二足 two steps前前 in frontへ出した踵踵 heelをぐるりと返してぐるりと返して turn around on; turn back on男の顔顔 faceを覗き込んだ覗き込んだ looked into。月は正面正面 frontからおれの五分刈五分刈 close-croppedの頭頭 headから顋顋 jawの辺り辺り area; regionまで、会釈もなく会釈もなく dispensing with ceremony; without reserve照す照す shone on; lit up。男はあっと小声に云った小声に云った said in a low voice; whispered under one's breathが、急に横横 sidewaysを向いて向いて turned toward; faced、もう帰ろうと女を促がす促がす urge; pressが早いか、温泉温泉 bathsの町の方へ引き返した引き返した turned and headed back (toward)。
赤シャツ赤シャツ Red Shirt (nickname for the head teacher)は図太くて図太くて audacious; shameless胡魔化す胡魔化す cover up; gloss overつもりか、気が弱くて気が弱くて timid名乗り損なった名乗り損なった failed to acknowledgeのかしら。ところが狭くて狭くて limited; confined困って困って be troubled; have difficultyるのは、おればかりではなかった。