Botchan - Chapter 7

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おれは即夜即夜そくや that same night下宿下宿げしゅく lodgings引き払ったはらった vacated; cleared out (of)宿宿やど house; lodging帰ってかえって return (to)荷物荷物にもつ possessions; thingsをまとめていると、女房女房にょうぼう (master's) wife何かなにか something; some sort of不都合不都合ふつごう problem; troubleでもございましたか、お腹の立つはらつ be angry; be dissatisfiedこと matterがあるなら、云ってって say; tellおくれたら改めますあらためます remedy; improveと云う。どうも驚ろくおどろく be surprised; be appalled世の中なか the world; societyにはどうして、こんな要領を得ない要領ようりょうない making no sense; impertinent; cluelessもの peopleばかり揃ってるそろってる be gathered togetherんだろう。出てて leaveもらいたいんだか、居てて stayもらいたいんだか分りゃしないわかりゃしない can't tell。まるで気狂気狂きちがい madness; lunacyだ。こんな者を相手相手あいて adversary; the other party喧嘩喧嘩けんか quarrelをしたって江戸っ子江戸えど Tōkyō man名折れ名折なおれ discredit; dishonorだから、車屋車屋くるまや rickshaw manつれて来てつれてて lead; bringさっさと出てきた。

出た事は出たが、どこへ行くく goというあてもない。車屋が、どちらへ参りますまいります goと云うから、だまって尾いて来いいてい follow; come with今にいまに soon enough; before longわかる、と云って、すたすたすたすた briskly; in hasteやって来たやってた came away面倒面倒めんどう troublesome; a botherだから山城屋山城屋やましろや Yamashiroya (name of an inn)へ行こうかとも考えたかんがえた thought about; consideredが、また出なければならないから、つまり手数手数てすう trouble; effortだ。こうして歩いてるあるいてる walkingうちには下宿とか、何とかなんとか something看板看板かんばん sign; noticeのあるうちを目付け出す目付みつす discoverだろう。そうしたら、そこが天意天意てんい will of heaven; providence叶ったかなった answered; fulfilledわが宿と云う事にしよう。とぐるぐる、閑静閑静かんせい quite; tranquil住みよさそうなみよさそうな desirable as a place to liveところ placeをあるいているうち、とうとう鍛冶屋町鍛冶屋かじやちょう Kajiyachō (place name)出てて came to; arrived (at)しまった。ここは士族士族しぞく descendants of samurai屋敷屋敷やしき residences; estates下宿屋下宿屋げしゅくや boarding houseなどのあるまち town; area; neighborhoodではないから、もっと賑やかなにぎやかな livelyほう direction引き返そうかえそう return (to)かとも思ったおもった thoughtが、ふといい事を考え付いたかんがいた thought of; came up with。おれが敬愛する敬愛けいあいする respect; hold in high regardうらなりうらなり Uranari (nickname for Koga, the English teacher)くん (suffix of familiarity for males)はこの町内町内ちょうない part of town; district住んでんで live; resideいる。うらなり君は土地の人土地とちひと local; native先祖代々の先祖代々せんぞだいだいの ancestral屋敷を控えているひかえている have; holdくらいだから、このへん area; surroundings事情事情じじょう circumstances; situationには通じているつうじている be well versed inに相違ない相違そういない no doubt。あの人を尋ねてたずねて visit; call on聞いたらいたら ask; inquire、よさそうな下宿を教えておしえて teach; informくれるかも知れないかもれない may; mightさいわい fortunately一度一度いちど once挨拶挨拶あいさつ greetings; visitingに来て勝手は知ってる勝手かってってる be familiar with (a place)から、捜がしてがして search; look forあるく面倒はない。ここだろうと、いい加減にいい加減かげんに more or less; haphazardly見当をつけて見当けんとうをつけて guessing (one's way); finding intuitivelyご免めん pardon; excuse meご免と二返二返にへん two timesばかり云うと、おく interiorから五十五十ごじゅう fiftyぐらいな年寄年寄としより older person古風な古風こふうな old fashioned紙燭紙燭しそく paper lanternをつけて、出て来たた came out; appeared。おれは若いわかい youngおんな woman嫌いきらい disliked; not fond ofではないが、年寄を見るる seeと何だかなつかしい心持ち心持こころもち feelingがする。大方大方おおかた most likely; probablyきよ Kiyo (name of Botchan's former maidservant)がすきだから、そのたましい soul; spirit方々方々かたがた all (persons)お婆さんばあさん old woman乗り移るうつる transfer (to); carry over toんだろう。これは大方うらなり君のおっ母さんおっさん motherだろう。切り下げげ loose-cut hair (style worn by widows in Meiji period)品格品格ひんかく grace; dignityのある婦人婦人ふじん lady; womanだが、よくうらなり君に似ているている resemble。まあお上がりがり please come in (lit: come up)と云うところを、ちょっとお目にかかりたいにかかりたい would like to seeからと、主人主人しゅじん master (of a house)玄関玄関げんかん entry hallまで呼び出してして call out実はじつは actuallyこれこれだが君どこか心当り心当こころあたり knowledge; an ideaはありませんかと尋ねてみた。うらなり先生先生せんせい teacherそれはさぞお困りこまり difficulty; a bindでございましょう、としばらく考えていたが、この裏町裏町うらまち back street; alley萩野萩野はぎの Hagino (family name)と云って老人老人ろうじん older persons; seniors夫婦夫婦ふうふ couple; husband and wifeぎりで暮らしてらして live; lead one's lifeいるものがある、いつぞや座敷座敷ざしき room; apartment明けておいてけておいて keep empty無駄無駄むだ waste; wastefulだから、たしかな人があるなら貸してして rent outもいいから周旋して周旋しゅうせんして broker; mediateくれと頼んだたのんだ requested事がある。今でもいまでも even now; still貸すかどうか分らんわからん don't knowが、まあいっしょに行って聞いてみましょうと、親切に親切しんせつに kindly連れて行ってれてって lead (someone)くれた。

そのよる eveningから萩野萩野はぎの Hagino (name of Botchan's new landlord)いえ house下宿人下宿人げしゅくにん lodger; boarderとなった。驚いたおどろいた surprisedのは、おれがいか銀いかぎん Ikagin (name of Botchan's former landlord)座敷座敷ざしき room; apartment引き払うはらう vacateと、翌日翌日あくるひ the next dayから入れ違いにちがいに passing (each other)野だだ Noda (short for Nodaiko, nickname for Yoshikawa, the art teacher)平気な平気へいきな nonchalantかお faceをして、おれの居たた resided部屋部屋へや room占領した占領せんりょうした took overこと act; factだ。さすがのおれもこれにはあきれたあきれた be flabbergasted; be dumbfounded世の中なか the worldいかさま師いかさま cheat; crookばかりで、お互にたがいに mutually乗せっこせっこ cheating; one-uppingをしているのかも知れないかもれない could be that ...。いやになった。

世間世間せけん the worldがこんなものなら、おれも負けないけない indomitable spiritで、世間並世間並せけんなみ as the world does; on par with the rest of societyにしなくちゃ、遣りきれないりきれない can't manageわけ circumstancesになる。巾着切巾着切きんちゃくきり pickpocket上前をはねなければ上前うわまえをはねなければ unless one takes a cut from; unless one squeezes for money三度三度さんど three timesご膳ぜん meal戴けないいただけない cannot receiveと、事が極まればまれば be determined; be a givenこうして、生きてきて live (one's life)るのも考え物かんがもの open to questionだ。と云ってって that said ...ぴんぴんした達者な達者たっしゃな healthy; robustからだで、首を縊っちゃくびくくっちゃ hang oneself; strangle oneself先祖先祖せんぞ ancestors済まないまない unpardonable; inexcusable上にうえに in addition to外聞が悪い外聞がいぶんわるい be publicly shameful。考えると物理物理ぶつり physics学校学校がっこう schoolなどへはいって、数学数学すうがく mathematicsなんて役にも立たないやくにもたない useless; serving no purposeげい skill; art覚えるおぼえる learnよりも、六百円六百円ろっぴゃくえん 600 yen資本資本もとで capital; fundingにして牛乳屋牛乳屋ぎゅうにゅうや milk deliveryでも始めればはじめれば start; establishよかった。そうすればきよ Kiyo (name of Botchan's former maidservant)もおれのそば side; vicinity離れずにはなれずに without leaving; without separating (from)済むむ be done; be settledし、おれも遠くとおく (from) a distanceから婆さんばあさん old womanの事を心配しずに心配しんぱいしずに without worrying (about)暮されるくらされる can live。いっしょに居るうちは、そうでもなかったが、こうして田舎田舎いなか the country来てて come (to)みると清はやっぱり善人善人ぜんにん virtuous personだ。あんな気立のいい気立きだてのいい good-natured; kindheartedおんな woman日本中日本中にほんじゅう throughout Japanさがして歩いたあるいた walked; traversedってめったにはない。婆さん、おれの立つつ leave; departときに、少々少々しょうしょう a bit; somewhat風邪を引いて風邪かぜいて catch a coldいたが今頃今頃いまごろ now; at this timeはどうしてるか知らんらん don't know先だってせんだって the other day手紙手紙てがみ letter見たらたら looked at; readさぞ喜んだろうよろんだろう was glad; was happy。それにしても、もう返事返事へんじ replyがきそうなものだが――おれはこんな事ばかり考えて二三日二三日にさんにち two or three days暮してくらして live; pass the timeいた。

気になるになる weigh on one's mindから、宿宿やど houseお婆さんばあさん old womanに、東京東京とうきょう Tōkyōから手紙手紙てがみ letter来ませんかませんか has (anything) arrived?時々時々ときどき occasionally尋ねてたずねて ask; inquireみるが、聞くく askたんびにたんびに each time ...何にもなんにも nothing参りませんまいりません came; arrived気の毒そうなどくそうな sympatheticかお face; expressionをする。ここの夫婦夫婦ふうふ couple; husband and wifeいか銀いかぎん Ikagin (name of Botchan's former landlord)とは違ってちがって different、もとが士族士族しぞく samurai familyだけに双方共双方共そうほうども both (of them)上品上品じょうひん refined; of good tasteだ。爺さんじいさん old man夜るる eveningになると、変なへんな strangeこえ voice出してして speak with (voice)うたい chanting of a Noh (drama) textをうたうには閉口する閉口へいこうする be annoyed byが、いか銀のようにお茶ちゃ tea入れましょうれましょう put on (tea)無暗に無暗むやみに unreasonably出て来ないない doesn't approach (one)から大きにおおきに greatlyらく better; easierだ。お婆さんは時々部屋部屋へや room来てて came (to)いろいろなはなし talk; discussionをする。どうして奥さんおくさん wifeお連れなさってれなさって bring along、いっしょにお出でなんだでなんだ didn't come; didn't arriveのぞなもしなどと質問質問しつもん questionをする。奥さんがあるように見えますえます appear; seemかね。可哀想に可哀想かわいそうに pity though it may beこれでもまだ二十四二十四にじゅうし twenty four (old counting system; not full years of age)ですぜと云ったらったら said; repliedそれでも、あなた二十四で奥さんがおありなさるのは当り前あたまえ proper; naturalぞなもしと冒頭を置いて冒頭ぼうとういて seize on the topic (of conversation)、どこの誰さんだれさん someone二十二十はたち twentyお嫁よめ brideお貰いたもらいた took; receivedの、どこの何とかさんは二十二二十二にじゅうに twenty two子供子供こども children二人二人ふたり two (people)お持ちたちた hadのと、何でもれい example半ダースはんダース half dozenばかり挙げてげて raise; enumerate反駁反駁はんばく refutation; rebuttal試みたこころみた tried one's hand atには恐れ入ったおそった be confounded; be overwhelmed。それじゃぼく Iも二十四でお嫁をお貰いるけれ、世話をして世話せわをして find; introduce; recommendおくれんかなと田舎言葉田舎言葉いなかことば country dialect真似て真似まねて imitate頼んでたのんで request; ask forみたら、お婆さん正直に正直しょうじきに seriously本当本当ほんとう really; in truthかなもしと聞いた。

「本当の本当本当ほんま really; in truth (regional pronunciation)のって僕あ、嫁が貰いたくって仕方がない仕方しかたがない be unbearableんだ」

「そうじゃろうがな、もし。若いわかい youngうちは誰もそんなものじゃけれ」この挨拶挨拶あいさつ answer; responseには痛み入っていたって be overwhelmed (by)返事返事へんじ reply出来なかった出来できなかった was unable (to do); was incapable (of)

「しかし先生先生せんせい teacher (used here to address Botchan)はもう、お嫁がおありなさるに極っとらいきまっとらい certainly ... (dialect for にきまってる)。私はちゃんと、もう、睨らんどるらんどる see through someone's guise (dialect for らんでる or 見抜みぬいてる)ぞなもし」

「へえ、活眼活眼かつがん keen eyeだね。どうして、睨らんどるんですか」

「どうしててて。東京東京とうきょう Tōkyōから便り便たより correspondenceはないか、便りはないかてて、毎日毎日まいにち every day便りを待ち焦がれてがれて be impatient for; wait anxiously forおいでるじゃないかなもし」

「こいつあ驚いたおどろいた be surprised大変な大変たいへんな very much活眼だ」

中りましたろうあたりましたろう hit the mark; got it right (usually あたりましたろう)がな、もし」

「そうですね。中ったかも知れませんかもれません could be; might beよ」

「しかし今時今時いまどき today; nowadays女子女子おなご girl; womanは、むかし old times; previous times違うてちごうて different (dialect for ちがって)油断が出来ん油断ゆだん出来できん one can't be too cautiousけれ、お気をお付けたをおけた be careful; be alertがええぞなもし」

なん whatですかい、僕のぼくの my奥さんおくさん wife東京東京とうきょう Tōkyō間男間男まおとこ adulterer; secret loverでもこしらえてこしらえて make; bring aboutいますかい」

「いいえ、あなたの奥さんはたしかじゃけれど……」

「それで、やっと安心した安心あんしんした feel relieved; be reassured。それじゃなに whatを気を付けるんですい」

「あなたのはたしか――あなたのはたしかじゃが――」

「どこに不たしかなたしかな untrustworthyのが居ますます be; existかね」

ここ等ここ hereabouts; in these partsにも大分大分だいぶ very much; many居りますります be; exist先生先生せんせい teacher (used here to address Botchan)、あの遠山遠山とおやま Tōyama (family name)お嬢さんじょうさん daughter; young ladyご存知存知ぞんじ know of; be familiar withかなもし」

「いいえ、知りませんりません don't know aboutね」

「まだご存知ないかなもし。ここらであなた一番の一番いちばんの first; foremost別嬪さん別嬪べっぴんさん beauty; belleじゃがなもし。あまり別嬪さんじゃけれ、学校学校がっこう school先生方先生方せんせいがた teachersはみんなマドンナマドンナと言うといでるうといでる refer to as (dialect for とってる)ぞなもし。まだお聞きんのかきんのか haven't (you) heardなもし」

「うん、マドンナですか。僕あ芸者芸者げいしゃ geisha nameかと思ったおもった thought

「いいえ、あなた。マドンナと云うと唐人唐人とうじん foreigner言葉言葉ことば speech; wordsで、別嬪さんの事こと referring to ...じゃろうがなもし」

「そうかも知れないね。驚いたおどろいた surprised

大方大方おおかた probably; likely画学画学ががく artの先生がお付けたけた attached; assigned名ぞなもし」

野だだ Noda (short for Nodaiko, nickname for Yoshikawa, the art teacher)がつけたんですかい」

「いいえ、あの吉川吉川よしかわ Yoshikawa (name of the art teacher, a.k.a. Nodaiko)先生がお付けたのじゃがなもし」

「そのマドンナが不たしかなんですかい」

「そのマドンナさんが不たしかなマドンナさんでな、もし」

厄介厄介やっかい annoyance; botherだね。渾名渾名あだな pet name; nicknameの付いてるおんな womanにゃ昔から碌なろくな decent; respectableものは居ませんからね。そうかも知れませんよ」

ほん当にほんとうに really; in truthそうじゃなもし。鬼神のお松鬼神きじんのおまつ Kijin no Omatsu (famous female burglar from late Edo period)じゃの、妲妃のお百妲妃だっきのおひゃく Dakki no Ohyaku (middle Edo period woman famous for lasciviousness) じゃのてて怖いこわい frightful女が居りましたなもし」

「マドンナもその同類同類どうるい like kindなんですかね」

「そのマドンナさんがなもし、あなた。そらあの、あなたをここへ世話をして世話せわをして help; be of assistanceおくれた古賀古賀こが Koga (a.k.a. Uranari)先生なもし――あのかた person (respectful)ところ place; houseお嫁よめ bride行くく go (to)約束約束やくそく promise; arrangement出来ていた出来できていた was concluded; was in placeのじゃがなもし――」

「へえ、不思議な不思議ふしぎな wondrous; incredibleもんですね。あのうらなりうらなり Uranari (nickname for Koga, the English teacher)くん (suffix of familiarity for males)が、そんな艶福のある男艶福えんぷくのあるおとこ ladies' manとは思わなかった。ひと people見懸け見懸みかけ (outward) appearanceによらないもの thingsだな。ちっと気を付けよう」

「ところが、去年去年きょねん last yearあすこのお父さんとうさん fatherが、お亡くなりてくなりて pass away; die、――それまではお金かね moneyもあるし、銀行銀行ぎんこう bankかぶ stock; shares; equity持ってお出るっておいでる have; possessし、万事万事ばんじ everything; all things都合がよかった都合つごうがよかった was favorable; was going wellのじゃが――それからというものは、どういうものか急にきゅうに suddenly暮し向きくらき circumstances思わしくなくなっておもわしくなくなって went sour; became unfavorable――つまり古賀古賀こが Koga (a.k.a. Uranari)さんがあまりお人ひと character; as a person好過ぎる好過よすぎる too good; too generousけれ、お欺されただまされた was taken advantage ofんぞなもし。それや、これやでお輿入輿入こしいれ wedding延びてびて be delayedいるところへ、あの教頭教頭きょうとう head teacher (a.k.a. Red Shirt)さんがお出でてでて appeared是非是非ぜひ by all meansお嫁よめ brideにほしいとお云いるいる say; declareのじゃがなもし」

「あの赤シャツあかシャツ Red Shirt (nickname for the head teacher)がですか。ひどいやつ fellow; guyだ。どうもあのシャツはただのシャツじゃないと思ってた。それから?」

ひと a person; someone頼んでたのんで request懸合うて懸合かけおうて negotiate (dialect for 懸合かけあって)おみると、遠山遠山とおやま Tōyama (family name of Madonna)さんでも古賀さんに義理義理ぎり obligationがあるから、すぐには返事返事へんじ answer出来かねて出来できかねて not in a position to do――まあよう考えてかんがえて consider; think overみようぐらいの挨拶挨拶あいさつ answer; responseをおしたのじゃがなもし。すると赤シャツさんが、手蔓手蔓てづる influence; contact求めてもとめて seek; pursue遠山さんのほう direction出入出入でいり come and go; call onをおしるようになって、とうとうあなた、お嬢さんじょうさん young lady手馴付けて手馴付てなづけて bring round; win overおしまいたのじゃがなもし。赤シャツさんも赤シャツさんじゃが、お嬢さんもお嬢さんじゃてて、みんなが悪るくるく badly云いますいます speak (of)のよ。いったん古賀さんへ嫁に行くく go (to)てて承知承知しょうち consent; agreementをしときながら、今さらいまさら at this (belated) point学士学士がくし scholar; degree holderさんがお出たけれ、その方に替えよえよ change; switch (to)てて、それじゃ今日様へ済むまい今日様こんにちさまむまい offensive before heaven (lit: unacceptable to the sun god)がなもし、あなた」

全くまったく completely済まないまない unacceptableね。今日様今日様こんにちさま the sun god (can also be read as "today" god)どころか明日様明日様あしたさま the tomorrow god (pun)にも明後日様明後日様みょうごにちさま the day after tomorrow god (pun)にも、いつまで行ったって済みっこありませんね」

「それで古賀さんにお気の毒どく wretched; pitiableじゃてて、お友達友達ともだち friend堀田堀田ほった Hotta (a.k.a. Yama Arashi)さんが教頭のところ place; residence意見をし意見いけんをし argue a caseにお行きたら、赤シャツさんが、あしは約束約束やくそく promiseのあるものを横取りする横取よこどりする usurp; snatchつもりはない。破約破約はやく broken engagementになれば貰うもらう receiveかも知れんかもれん might (do)が、今のところいまのところ for now遠山家遠山とおやま the Tōyama householdとただ交際交際こうさい friendship; acquaintanceをしているばかりじゃ、遠山家と交際をするには別段別段べつだん in particular古賀さんに済まんこと matter; actionもなかろうとお云いるけれ、堀田さんも仕方がなしに仕方しかたがなしに having no further recourseお戻りたもどりた took his leave; returnedそうな。赤シャツさんと堀田さんは、それ以来それ以来いらい since then折合折合おりあい relationsがわるいという評判評判ひょうばん rumor; gossipぞなもし」

「よくいろいろなこと facts; things知ってますってます know aboutね。どうして、そんな詳しいくわしい detailed事が分るわかる know; understandんですか。感心しちまった感心かんしんしちまった impressed

狭いせまい confined; limitedけれ何でもなんでも anything分りますぞなもし」

分り過ぎてわかぎて know too much困るこまる be troubling; be disconcertingくらいだ。この容子じゃこの容子ようすじゃ at this rateおれの天麩羅天麩羅てんぷら tempura団子団子だんご dumplingsの事も知ってるかも知れないかもれない might be; could be厄介な厄介やっかいな meddlesome; bothersomeところ placeだ。しかしお蔭様で蔭様かげさまで thanks to ...マドンナの意味意味いみ meaningもわかるし、山嵐山嵐やまあらし Yama Arashi (nickname for Hotta, the head mathematics teacher)赤シャツあかシャツ Red Shirt (nickname for the head teacher)関係関係かんけい relationshipもわかるし大いにおおいに greatly後学後学こうがく background information; future referenceになった。ただ困るのはどっちが悪る者もの villainだか判然しない判然はんぜんしない isn't clear。おれのような単純な単純たんじゅんな simple; uncomplicatedものにはしろ whiteとかくろ blackとか片づけてかたづけて organize; classifyもらわないと、どっちへ味方味方みかた ally; friendをしていいか分らない。

「赤シャツと山嵐たあ、どっちがいいひと personですかね」

「山嵐てなん whatぞなもし」

「山嵐というのは堀田堀田ほった Hotta (a.k.a. Yama Arashi)の事ですよ」

「そりゃ強いつよい strong; powerful事は堀田さんの方が強そうじゃけれど、しかし赤シャツさんは学士学士がくし scholar; degree holderさんじゃけれ、働きはあるはたらきはある capable; resourcefulかた person (respectful)ぞな、もし。それから優しいやさしい kind; gentle事も赤シャツさんのほう alternativeが優しいが、生徒生徒せいと students評判評判ひょうばん (general; public) opinionは堀田さんの方がええというぞなもし」

「つまりどっちがいいんですかね」

「つまり月給月給げっきゅう salary多いおおい much; many; greater方が豪いえらい eminent; illustriousのじゃろうがなもし」

これじゃ聞いたいた ask; listenって仕方がない仕方しかたがない be of no useから、やめにした。それから二三日二三日にさんにち two or three daysして学校学校がっこう the schoolから帰るかえる return homeお婆さんばあさん old womanがにこにこして、へえお待遠さま待遠まちどうさま here it is (at last)。やっと参りましたまいりました came; arrived。と一本一本いっぽん one (long object)手紙手紙てがみ letter持って来てってて broughtゆっくりご覧ゆっくりごらん read at your leisure云ってって say; remark出て行ったった left; returned取り上げてげて pick upみるときよ Kiyo (name of Botchan's former maidservant)からの便り便たより correspondenceだ。符箋符箋ふせん forwarding slip二三枚二三枚にさんまい two or three (flat objects); severalついてるから、よく調べる調しらべる check; look intoと、山城屋山城屋やましろや Yamashiroya (name of an inn)から、いか銀いかぎん Ikagin (name of Botchan's former landlord)ほう direction廻してまわして circulate; forward (letter)、いか銀から、萩野萩野はぎの Hagino (name of Botchan's landlord)へ廻って来たのである。その上そのうえ on top of that山城屋では一週間一週間いっしゅうかん one weekばかり逗留している逗留とうりゅうしている stay; stop; be held up宿屋宿屋やどや innだけに手紙まで泊るとめる accommodate; put up (overnight)つもりなんだろう。開いてひらいて openみると、非常に非常ひじょうに exceedingly長いながい long; lengthyもんだ。坊っちゃんっちゃん Botchanの手紙を頂いていただいて receivedから、すぐ返事返事へんじ replyをかこうと思ったおもった thought (to)が、あいにく風邪を引いて風邪かぜいて catch a cold一週間ばかり寝ていたていた was in bedものだから、つい遅くなっておそくなって became late済まないまない pardon; excuse me。その上今時の今時いまどきの current; modernお嬢さんじょうさん young ladiesのように読み書きき reading and writing達者達者たっしゃ proficient; skilled (in)でないものだから、こんなまずい charactersでも、かくのによっぽど骨が折れるほねれる costs one considerable effortおい nephew代筆代筆だいひつ dictation頼もうたのもう requestと思ったが、せっかくあげるのに自分で自分じぶんで by oneself; on one's ownかかなくっちゃ、坊っちゃんに済まないと思って、わざわざ下たがきたがき rough draft一返一返いっぺん one timeして、それから清書清書せいしょ clean copy; clear copyをした。清書をするには二日二日ふつか two days済んだんだ finished; sufficedが、下た書きをするには四日四日よっか four daysかかった。読みにくいみにくい hard to readかも知れないかもれない might beが、これでも一生懸命に一生懸命いっしょうけんめいに to the best of one's abilityかいたのだから、どうぞしまいまで読んでんで readくれ。という冒頭冒頭ぼうとう introduction; preamble四尺四尺よんしゃく four shaku (about 120cm; about four feet)ばかり何やらかやらなにやらかやら this and that認めてしたためて write; noteある。なるほど読みにくい。字がまずいばかりではない、大抵大抵たいてい for the most part平仮名平仮名ひらがな hiraganaだから、どこで切れてれて break (words in a text)、どこで始まるはじまる beginのだか句読をつける句読くとうをつける punctuate; parseのによっぽど骨が折れる。おれは焦っ勝ちなちな impatient; hurried性分性分しょうぶん nature; temperamentだから、こんな長くて、分りにくいわかりにくい hard to understand手紙は、五円五円ごえん five yenやるから読んでくれと頼まれても断わることわる refuse; declineのだが、このとき time; occasionばかりは真面目真面目まじめ serious; intent (on doing something)になって、始からしまい end; finishまで読み通したとおした read through。読み通したこと act; fact事実事実じじつ truth; realityだが、読む方に骨が折れて、意味意味いみ meaningがつながらないから、またあたま start (lit: head)から読み直してなおして re-readみた。部屋部屋へや roomのなかは少しすこし a bit; somewhat暗くくらく darkなって、前のまえの earlier時より見にくくにくく hard to see、なったから、とうとう椽鼻椽鼻えんばな edge of the veranda; edge of the porch出てて went out (to)腰をかけながらこしをかけながら while sitting鄭寧に鄭寧ていねいに carefully; thoroughly拝見した拝見はいけんした perused; looked over。すると初秋初秋はつあき early autumnかぜ breeze; wind芭蕉芭蕉ばしょう plantain leaves動かしてうごかして stirred; moved素肌素肌すはだ exposed skin吹きつけたきつけた blow against帰りに、読みかけた手紙をにわ gardenの方へなびかしたなびかした let flutterから、しまいぎわには四尺あまりの半切れ半切はんぎれ narrow writing scrollがさらりさらりと鳴ってって rustled hand; grip放すはなす release; let goと、向うむこう the other side生垣生垣いけがき hedgeまで飛んで行きそうんできそう looking like it would fly off (to)だ。おれはそんな事には構ってかまって mind; noticeいられない。坊っちゃんはたけ bamboo割ったった splitような気性気性きしょう character; dispositionだが、ただ肝癪肝癪かんしゃく passion; temper強過ぎて強過つよすぎて too strong; too volatileそれが心配心配しんぱい worry; concernになる。――ほかのひと people無暗に無暗むやみに recklessly; rashly渾名渾名あだな nicknameなんか、つけるのは人に恨まれるうらまれる invite resentmentもとになるから、やたらに使っちゃ使つかっちゃ useいけない、もしつけたら、清だけに手紙で知らせろらせろ inform; tell about。――田舎者田舎者いなかもの country folkは人がわるいそうだから、気をつけてをつけて be carefulひどい目ひどい bad end; difficulty遭わないわない don't meet (with)ようにしろ。――気候気候きこう climate; weatherだって東京東京とうきょう Tōkyōより不順不順ふじゅん irregular; changeableに極ってるきまってる is certainly ...から、寝冷寝冷ねびえ night chillをして風邪を引いてはいけない。坊っちゃんの手紙はあまり短過ぎて短過みじかすぎて too short容子容子ようす situation; doingsがよくわからないから、このつぎ next timeにはせめてこの手紙の半分半分はんぶん halfぐらいの長さのを書いていて writeくれ。――宿屋へ茶代茶代ちゃだい tipを五円やるのはいいが、あとで困りゃこまりゃ face difficultyしないか、田舎田舎いなか countryへ行って頼りになるたよりになる can depend onお金かね moneyばかりだから、なるべく倹約倹約けんやく thrift; frugalityして、万一の時万一まんいちとき unlikely event (lit: one in ten thousand occurrence)差支えない差支さしつかえない not be hindered (from doing something)ようにしなくっちゃいけない。――お小遣小遣こづかい pocket moneyがなくて困るかも知れないから、為替為替かわせ money order十円十円じゅうえん ten yenあげる。――先だってせんだって the other day坊っちゃんからもらった五十円五十円ごじゅうえん fifty yenを、坊っちゃんが、東京へ帰って、うちを持つつ have; own時の足しし supplement; assistanceにと思って、郵便局郵便局ゆうびんきょく post office (postal savings account)預けてあずけて deposit; entrust toおいたが、この十円を引いていて withdraw; subtractもまだ四十円四十円よんじゅうえん forty yenあるから大丈夫大丈夫だいじょうぶ okay; no problemだ。――なるほどおんな womanと云うものは細かいこまかい detail-oriented; meticulousものだ。

おれが椽鼻椽鼻えんばな edge of the veranda; edge of the porchきよ Kiyo (name of Botchan's former maidservant)手紙手紙てがみ letterひらつかせながらひらつかせながら while allowing to flutter (in the wind)考え込んでいるかんがんでいる be lost in thoughtと、しきりのふすま sliding partitionをあけて、萩野萩野はぎの Hagino (name of Botchan's landlord)お婆さんばあさん old woman晩めしばんめし dinner持ってきたってきた brought。まだ見てお出でるておでる looking at; readingのかなもし。えっぽど長いながい long; lengthyお手紙じゃなもし、と云ったった said; remarkedから、ええ大事な大事だいじな important手紙だからかぜ wind吹かしてかして be blown byは見、吹かしては見るんだと、自分でも自分じぶんでも even to myself要領を得ない要領ようりょうない makes no sense返事返事へんじ responseをして膳についたぜんについた started dinner。見ると今夜今夜こんや tonight薩摩芋薩摩芋さつまいも sweet potato煮つけつけ boiled with soyだ。ここのうちは、いか銀いかぎん Ikagin (name of Botchan's former landlord)よりも鄭寧鄭寧ていねい polite; courteousで、親切親切しんせつ kind; considerateで、しかも上品上品じょうひん refined; of good tasteだが、惜しいしい unfortunate; regretfulこと fact; matter食い物もの foodがまずい。昨日昨日きのう yesterdayいも potato一昨日一昨日おととい the day before yesterdayも芋で今夜も芋だ。おれは芋は大好き大好だいすき very fond ofだと明言した明言めいげんした declared; assertedには相違ないには相違そういない without a doubtが、こう立てつづけにてつづけに continually; in succession芋を食わされてはいのち life; existenceがつづかない。うらなりうらなり Uranari (nickname for Koga, the English teacher)くん (suffix of familiarity for males)笑うわらう laugh at; joke aboutどころか、おれ自身自身じしん myself遠からぬうちにとおからぬうちに in the not so distant future、芋のうらなり先生先生せんせい teacherになっちまう。清ならこんなとき time; occasionに、おれの好きなまぐろ bluefin tunaさし身さし sashimiか、蒲鉾蒲鉾かまぼこ fish cakeつけ焼つけやき fish broiled with soy食わせるわせる prepare food (for someone)んだが、貧乏貧乏びんぼう impoverished士族士族しぞく samurai familyけちん坊けちんぼう stinginessと来ちゃちゃ when dealing with ...仕方がない仕方しかたがない can't be helped。どう考えても清といっしょでなくっちあ駄目駄目だめ no good; unacceptableだ。もしあの学校学校がっこう schoolに長くでも居るる be; remain (in a place)模様模様もよう indication; outlookなら、東京東京とうきょう Tōkyōから召び寄せてせて call (for someone)やろう。天麩羅蕎麦天麩羅蕎麦てんぷらそば tempura soba食っちゃならないっちゃならない not allowed to eat団子団子だんご dumplingsを食っちゃならない、それで下宿下宿げしゅく lodgingsに居て芋ばかり食って黄色く黄色きいろく yellowなっていろなんて、教育者教育者きょういくしゃ educatorはつらいものだ。禅宗坊主禅宗坊主ぜんしゅうぼうず zen monkだって、これよりはくち mouth栄耀栄耀えよう luxuryをさせているだろう。――おれは一皿一皿ひとさら one plateの芋を平げてたいらげて eat upつくえ desk抽斗抽斗ひきだし drawerから生卵生卵なまたまご raw egg二つふたつ two (items; objects)出してして take out茶碗茶碗ちゃわん (rice) bowl; tea bowlふち edgeたたき割ってたたきって crack apart (egg)、ようやく凌いだしのいだ managed; endured。生卵ででも営養営養えいよう nutrition ( usually 栄養えいよう)をとらなくっちあ一週一週いっしゅう one week二十一時間二十一時間にじゅういちじかん twenty one hours授業授業じゅぎょう class出来る出来できる be possibleものか。

今日今日きょう today; this dayきよ Kiyo (name of Botchan's former maidservant)手紙手紙てがみ letter湯に行くく go to bathe時間時間じかん time遅くなったおそくなった became late。しかし毎日毎日まいにち every day行きつけたきつけた visited; frequentedのを一日一日いちにち one dayでも欠かすかす miss; skipのは心持ちがわるい心持こころもちがわるい doesn't feel right汽車汽車きしゃ (steam) trainにでも乗ってって ride; take (train, etc.)出懸けよう出懸でかけよう set out (for)と、例のれいの the usual; the previously mentioned赤手拭赤手拭あかてぬぐい red towelぶら下げてぶらげて dangle停車場停車場ていしゃば stop; stationまで来るる come (to)二三分前二三分前にさんぷんまえ two or three minutes before発車発車はっしゃ departure (train, etc.)したばかりで、少々少々しょうしょう a bit待たなければならぬたなければならぬ have to wait。ベンチへ腰を懸けてこしけて sit down敷島敷島しきしま Shikishima (cigarette brand)吹かしてかして smokeいると、偶然偶然ぐうぜん by chanceにもうらなりうらなり Uranari (nickname for Koga, the English teacher)くん (suffix of familiarity for males)がやって来た。おれはさっきのはなし talk; story聞いていて hearから、うらなり君がなおさら気の毒どく pitiableになった。平常から平常ふだんから ordinarily; from habit天地の間天地てんちあいだ between heaven and earth居候をしている居候いそうろうをしている be a burden; be a nuisanceように、小さくちいさく meekly構えてかまえて position oneself; assume a postureいるのがいかにも憐れあわれ miserable見えたえた appearedが、今夜今夜こんや tonight憐れどころの騒ぎではないあわれどころのさわぎではない 'miserable' can't begin to describe it出来るならば出来できるならば if possible月給月給げっきゅう (monthly) salary倍にしてばいにして double遠山遠山とおやま Tōyama (family name of Madonna)お嬢さんじょうさん young lady明日明日あした tomorrowから結婚結婚けっこん marriageさして、一ヶ月一ヶ月いっかげつ one monthばかり東京東京とうきょう Tōkyōへでも遊びにあそびに for pleasure; as a touristやってやりたい気がした矢先がした矢先やさき at the point of feeling ...だから、やお湯 bathですか、さあ、こっちへお懸けなさいけなさい have a seat威勢よく威勢いせいよく gallantly席を譲るせきゆずる make room (for someone) to sitと、うらなり君は恐れ入ったおそった abashed; feeling small体裁体裁ていさい form; styleで、いえ構うておくれなさるなかもうておくれなさるな don't trouble yourself (on my account)、と遠慮遠慮えんりょ reserve; diffidenceだかなん whatだかやっぱり立ってるってる remain standing少しすこし a bit待たなくっちゃ出ませんません won't depart草臥れます草臥くたびれます get tired; be worn outからお懸けなさいとまた勧めてすすめて advise; offerみた。実はじつは in fact; in truthどうかして、そばへ懸けてもらいたかったくらいに気の毒でたまらない。それではお邪魔を致しましょう邪魔じゃまいたしましょう impose (on someone)とようやくおれの云うう say; requestこと content; meaningを聞いてくれた。世の中なか the worldには野だだ Noda (short for Nodaiko, nickname for Yoshikawa, the art teacher)みたように生意気な生意気なまいきな impudent; insolent出ないで済むないでむ be unwanted; be unneededところ place必ずかならず without fail顔を出すかおす make an appearance; show one's faceやつ fellowもいる。山嵐山嵐やまあらし Yama Arashi (nickname for Hotta, the head mathematics teacher)のようにおれが居なくっちゃなくっちゃ not be present; not be there日本日本にっぽん Japan困るこまる have a difficult time; be at a lossだろうと云うような面を肩の上へ載せてるつらかたうえせてる wear one's face like a badge of honor奴もいる。そうかと思うおもう thinkと、赤シャツあかシャツ Red Shirt (nickname for the head teacher)のようにコスメチックと色男色男いろおとこ beau; lady-killer問屋問屋とんや wholesalerをもって自らみずから for oneself; on one's own initiative任じてにんじて appoint; nominateいるのもある。教育教育きょういく education生きてきて be aliveフロックコートを着ればれば wearおれになるんだと云わぬばかりわぬばかり all but declaringたぬき Tanuki (nickname for the school principal)もいる。皆々皆々みなみな all; each oneそれ相応にそれ相応そうおうに in their respective ways威張ってる威張いばってる swagger; make one's importance feltんだが、このうらなり先生先生せんせい teacherのように在れどもなきがごとくれどもなきがごとく as if not existing人質に取られた人質ひとじちられた taken hostage; held for ransom人形人形にんぎょう puppet; figureのように大人しく大人おとなしく obediently; passivelyしているのは見た事がない。顔はふくれているが、こんな結構な結構けっこうな fine; superbおとこ man捨てててて discard; reject赤シャツに靡くなびく yield to; be won over byなんて、マドンナもよっぼど気の知れないれない unfathomable; beyond understandingおきゃんおきゃん hussy; minxだ。赤シャツが何ダース寄ったった approach; draw nearって、これほど立派な立派りっぱな splendid旦那様旦那様だんなさま husbandが出来るもんか。

「あなたはどっか悪いわるい something wrongんじゃありませんか。大分大分だいぶ a good deal; very muchたいぎそうたいぎそう weary; languid見えますえます appear; seem to beが……」「いえ、別段別段べつだん particularlyこれという持病持病じびょう chronic complaintもないですが……」

「そりゃ結構結構けっこう fine; good to hearです。からだが悪いと人間人間にんげん a person; a human being駄目駄目だめ no goodですね」

「あなたは大分ご丈夫丈夫じょうぶ healthy; hardyのようですな」

「ええ瘠せてせて be thin; be skinny病気病気びょうき sickness; illnessはしません。病気なんてものあ大嫌い大嫌だいきらい most unpleasant; detestedですから」

うらなりうらなり Uranari (nickname for Koga, the English teacher)くん (suffix of familiarity for males)は、おれの言葉言葉ことば words聞いていて listen toにやにやと笑ったわらった laughed

ところへ入口入口いりぐち entrance若々しい若々わかわかしい youthful; fresh女のおんなの female; woman's笑声笑声わらいごえ laughter聞えたきこえた could be heardから、何心なく何心なにごころなく incidentally; reflexively振り返ってかえって turn one's headみるとえらいやつ character; personage来たた came; had arrived色の白いいろしろい of fair complexionハイカラハイカラ stylish; Western-styleあたま head; face and hairの、背の高いせいたかい tall美人美人びじん belle; beautyと、四十五六四十五六よんじゅうごろく 45 or 46奥さんおくさん lady; wifeとが並んでならんで side by side切符切符きっぷ tickets売るる sellまど windowまえ front of立っているっている be standing。おれは美人の形容形容けいよう descriptionなどが出来る出来できる be capable ofおとこ manでないから何にも云えないなんにもえない can't comment全くまったく utterly; completely美人に相違ない相違そういない without a doubt。何だか水晶水晶すいしょう crystalたま ball; bead; globe; sphere香水香水こうすい perfume暖ためてあっためて warmedてのひら palm of one's hand握ってにぎって grip; holdみたような心持ち心持こころもち feelingがした。年寄年寄としより older personほう alternative背は低いせいひくい short; small in stature。しかしかお faceはよく似てて resembleいるから親子親子おやこ mother and daughterだろう。おれは、や、来たなと思うおもう notice; realize途端途端とたん moment; instantに、うらなり君のこと matter; fact全然全然すっかり completely忘れてわすれて forgot若いわかい young女の方ばかり見ていた。すると、うらなり君が突然突然とつぜん suddenlyおれのとなり next to; one's sideから、立ち上がってがって stood up、そろそろ女の方へ歩き出したあるした started walkingんで、少しすこし a bit驚いたおどろいた was surprised。マドンナじゃないかと思った。三人三人さんにん three (people)切符所切符所きっぷじょ ticket place; ticket counterの前で軽くかるく lightly; casually挨拶挨拶あいさつ greeting; salutationしている。遠いとおい distantから何を云ってって sayるのか分らないわからない can't tell; can't make out

停車場停車場ていしゃば stop; station時計時計とけい clock見るる look atともう五分五分ごふん five minutes発車発車はっしゃ departureだ。早くはやく soon汽車汽車きしゃ (steam) trainがくればいいがなと、話し相手はな相手あいて (conversation) partner居なくなったなくなった be no longer presentので待ち遠しくどおしく slow in arriving思っているおもっている thinking; consideringと、また一人一人ひとり one (person)あわてて場内場内じょうない station area馳け込んで来たんでた came running intoものがある。見れば赤シャツあかシャツ Red Shirt (nickname for the head teacher)だ。何だかなんだか some sort ofべらべら然たるべらべらぜんたる flimsy着物着物きもの coat; kimono縮緬縮緬ちりめん silk-crepeおび belt; sashだらしなくだらしなく slovenly; sloppily巻き付けてけて wound around; fastened例の通りれいとおり as usual; as always金鎖り金鎖きんぐさり gold chainをぶらつかしている。あの金鎖りは贋物贋物にせもの fake; imitationである。赤シャツは誰も知るまいだれるまい no one likely knowsと思って、見せびらかしているが、おれはちゃんと知ってる。赤シャツは馳け込んだなり、何かきょろきょろしていたきょろきょろしていた was looking about restlesslyが、切符売下所売下所うりさげじょ sales counterの前に話してはなして talk; converseいる三人へ慇懃に慇懃いんぎんに politely; with much courtesyお辞儀辞儀じぎ bow; greetingをして、何か二ことふたこと two things三ことこと three things云ったった said; remarkedと思ったら、急にきゅうに suddenlyこっちへ向いていて turned (toward)例のごとくれいのごとく as usual; as always猫足に猫足ねこあしに with cat-like stepsあるいて来てあるいてて walked over、やきみ you bathですか、ぼく I乗り後れおくれ miss (the train, etc)やしないかと思って心配して心配しんぱいして be worried急いでいそいで in a hurry来たら、まだ三四分三四分さんよんぷん three or four minutesある。あの時計はたしかかしらんと、自分の自分じぶんの one's own金側金側きんがわ gold watch (short for 金側時計きんがわどけい)出してして take out二分二分にふん two minutesほどちがってると云いながら、おれのそば side; next to腰を卸したこしおろした sat downおんな womenほう directionちっともちっとも (not) at all見返らないで見返みかえらないで without looking back atつえ walking staff; caneうえ top ofあご chinをのせて、正面正面しょうめん straight aheadばかり眺めてながめて gaze; stareいる。年寄の年寄としよりの elderly婦人婦人ふじん lady時々時々とこどき occasionally赤シャツを見るが、若いわかい young方はよこ sideways; away向いたいた facing; turned towardままである。いよいよマドンナに違いないちがいない without a doubt

やがて、ピューと汽笛汽笛きてき (steam) whistle鳴ってって blew; soundedくるま (train) carsがつく。待ち合せたあわせた waited for連中連中れんちゅう group; crowdぞろぞろぞろぞろ in succession; in a stream吾れ勝にがちに vying with one another; scrambling (for seats)乗り込むむ board (train, etc)。赤シャツはいの一号にいの一号いちごうに in the lead上等上等じょうとう first class飛び込んだんだ jumped into。上等へ乗ったって威張れる威張いばれる boast-worthyどころではない、住田住田すみた Sumita (place name)まで上等が五銭五銭ごせん five sen (0.05 yen)下等下等かとう second class三銭三銭さんせん three sen (0.03 yen)だから、わずか二銭二銭にせん two sen (0.02 yen)違いちがい difference上下上下じょうげ first and second (class)区別区別くべつ distinctionがつく。こういうおれでさえ上等を奮発して奮発ふんぱつして indulge oneself; splurge白切符白切符しろきっぷ white ticket握ってにぎって hold; gripるんでもわかる。もっとも田舎者田舎者いなかもの country folkはけちだから、たった二銭の出入出入でいり change in quantityでもすこぶる苦になるになる worry over; fret overと見えて、大抵大抵たいてい for the most partは下等へ乗る。赤シャツのあとからマドンナとマドンナのお袋ふくろ motherが上等へはいり込んだはいりんだ enteredうらなりうらなり Uranari (nickname for Koga, the English teacher)くん (suffix of familiarity for males)活版で押したように活版かっぱんしたように invariably; routinely (lit: as though printed by typesetting)下等ばかりへ乗るおとこ manだ。先生先生せんせい teacher (Uranari)、下等の車室車室しゃしつ compartment; carriage (train)入口入口いりぐち entrance立ってって standing何だかなんだか somehow躊躇躊躇ちゅうちょ hesitation; indecisionてい appearanceであったが、おれのかお faceを見るや否やいなや as soon as ...思いきっておもいきって with resolve、飛び込んでしまった。おれはこのとき time; occasion何となく気の毒どく pitiableでたまらなかったから、うらなり君のあとから、すぐ同じおなじ the same車室へ乗り込んだ。上等の切符で下等へ乗るに不都合不都合ふつごう problem; improprietyはなかろう。

温泉温泉おんせん onsen着いていて arrived (at)三階三階さんがい third floorから、浴衣浴衣ゆかた summer (cotton) robeなりなり appearance; dress湯壺湯壺ゆつぼ bathing area下りてりて descend; go down (stairs)みたら、またうらなりうらなり Uranari (nickname for Koga, the English teacher)くん (suffix of familiarity for males)逢ったった met; encountered。おれは会議会議かいぎ meeting何かなんか somethingでいざと極まるきわまる be at a loss; be in a bindと、咽喉咽喉のど throat塞がってふさがって be blocked up; be clogged饒舌れない饒舌しゃべれない can't speakおとこ manだが、平常平常ふだん ordinarily随分随分ずいぶん a great deal; quite a lot弁ずるべんずる speak; talkほう tendencyだから、いろいろ湯壺のなかでうらなり君に話しかけてはなしかけて engage in conversationみた。何だか憐れぽくってあわれぽくって doleful; mournfulたまらない。こんなとき time; occasion一口一口ひとくち one wordでも先方先方せんぽう the other partyこころ heart; spirit慰めてなぐさめて comfort; consoleやるのは、江戸っ子江戸えど Tōkyō man義務義務ぎむ dutyだと思ってるおもってる consider; think of as。ところがあいにくうらなり君の方では、うまい具合具合ぐあい manner; way; fashionにこっちの調子調子ちょうし tone; mood乗ってって join in withくれない。なに what; whatever云ってって sayも、えとかいえとかぎりでぎりで only; limited to、しかもそのえといえが大分大分だいぶ greatly面倒面倒めんどう burdensomeらしいので、しまいにはとうとう切り上げてげて cut short; make an end of、こっちからご免蒙った免蒙めんこうむった excused oneself

 bathなか inside; withinでは赤シャツあかシャツ Red Shirt (nickname for the head teacher)に逢わなかった。もっとも風呂風呂ふろ bathing areasかず numberはたくさんあるのだから、同じおなじ came汽車汽車きしゃ (steam) trainで着いても、同じ湯壺で逢うとは極まっていないまっていない is not a given別段別段べつだん particularly不思議不思議ふしぎ strange; curiousにも思わなかった。風呂を出てて get out (of); leaveみるといいつき moonだ。町内町内ちょうない street; neighborhood両側両側りょうがわ both sidesやなぎ willow trees植ってうわって be planted、柳のえだ branches丸るいるい round; curvedかげ shadows往来往来おうらい streetの中へ落しておとして drop; cast (shadows)いる。少しすこし a bit散歩散歩さんぽ walk; strollでもしよう。きた north登ってのぼって climb; walk up (slope)まち townのはずれへ出ると、ひだり left (side)大きなおおきな largeもん gateがあって、門の突き当りあたり straight throughお寺てら (Buddhist) templeで、左右左右さゆう left and right妓楼妓楼ぎろう brothelである。山門山門さんもん two-storied gate; temple gateのなかに遊廓遊廓ゆうかく red-light districtがあるなんて、前代未聞前代未聞ぜんだいみもん unheard-of現象現象げんしょう appearance; happeningだ。ちょっとはいってみたいが、またたぬき Tanuki (nickname for the school principal)から会議会議かいぎ meeting; conferenceとき time; occasionにやられるかも知れないかもれない might be; could happenから、やめて素通り素通すどおり pass by (without stopping)にした。門の並びならび line; lined up with (along a street)黒いくろい black暖簾暖簾のれん shop curtainをかけた、小さなちいさな small格子窓格子窓こうしまど latticed window平屋平屋ひらや one-story house; bungalowはおれが団子団子だんご dumplings食ってって ateしくじったしくじった made a blunderところ placeだ。丸提灯丸提灯まるぢょうちん round (paper) lantern汁粉汁粉しるこ adzuki-bean soup with rice cakeお雑煮雑煮ぞうに rice cakes boiled with vegetablesとかいたのがぶらさがって、提灯提灯ちょうちん (paper) lantern lightが、軒端軒端のきば the edge of the eaves近いちかい close to一本一本いっぽん one (tree)の柳のみき (tree) trunk照らしてらして light up; shine onいる。食いたいなと思ったが我慢我慢がまん perseverance; self-controlして通り過ぎたとおぎた passed by; kept going

食いたいいたい want to eat団子団子だんご dumplingsの食えないのは情ないなさけない sorrowful; lamentable。しかし自分の自分じぶんの one's own許嫁許嫁いいなずけ betrothed; fiancée他人他人たにん another person; strangerこころ heart; affection移したうつした shifted; redirectedのは、なお情ないだろう。うらなりうらなり Uranari (nickname for Koga, the English teacher)くん (suffix of familiarity for males)こと matter; affair思うおもう think ofと、団子は愚かおろか asinine; silly三日三日みっか three daysぐらい断食して断食だんじきして fast; abstain from food不平不平ふへい complaintはこぼせないわけ circumstances; situationだ。本当に本当ほんとうに really; in truth人間人間にんげん human beingsほどあてにならないものはない。あのかお face見るる look atと、どうしたって、そんな不人情な不人情ふにんじょうな unkind; callous事をしそうには思えないんだが――うつくしいひと personが不人情で、冬瓜冬瓜とうがん wax gourd水膨れ水膨みずぶくれ (water) blisterのような古賀さん古賀こがさん Koga-san (a.k.a. Uranari)善良な善良ぜんりょうな good; dutiful君子君子くんし gentleman; man of virtueなのだから、油断が出来ない油断ゆだん出来できない one can't be too careful淡泊淡泊たんぱく candid; openheartedだと思った山嵐山嵐やまあらし Yama Arashi (nickname for Hotta, the head mathematics teacher)生徒生徒せいと students煽動した煽動せんどうした incited云うう say; reportし。生徒を煽動したのかと思うと、生徒の処分処分しょぶん punishment校長校長こうちょう school principal逼るせまる urge; force; compelし。厭味厭味いやみ affectation; bad taste練りかためたしぼりかためた extracted into solid formような赤シャツあかシャツ Red Shirt存外存外ぞんがい unexpectedly親切親切しんせつ kind; considerateで、おれに余所ながら余所よそながら indirectly; by hinting at (something)注意注意ちゅうい caution; warningをしてくれるかと思うと、マドンナを胡魔化したり胡魔化ごまかしたり deceive、胡魔化したのかと思うと、古賀のほう alternative; direction破談破談はだん broken engagementにならなければ結婚結婚けっこん marriage望まないのぞまない won't aspire to; won't hope forんだと云うし。いか銀いかぎん Ikagin (name of Botchan's former landlord)難癖をつけて難癖なんくせをつけて criticize; find fault with、おれを追い出すす turn out; drive awayかと思うと、すぐ野だだ Noda (short for Nodaiko, nickname for Yoshikawa, the art teacher)こう prince; lord入れ替ったりかわったり exchange places――どう考えてかんがえて consider; think aboutもあてにならない。こんな事をきよ Kiyo (name of Botchan's former maidservant)にかいてやったら定めてさだめて probably驚くおどろく be surprised事だろう。箱根箱根はこね Hakone (place name)向うもこう other side; beyondだから化物化物ばけもの goblins; monsters寄り合ってって assemble; gather togetherるんだと云うかも知れないかもれない might be; possibly

おれは、性来性来しょうらい by nature構わないかまわない carefree; indifferent; unconcerned性分性分しょうぶん temperamentだから、どんな事でも苦にしないでにしないで without taking seriously; without worrying over今日今日こんにち today; the presentまで凌いでしのいで withstand; get through来たた came (to); arrived (at)のだが、ここへ来てからまだ一ヶ月一ヶ月いっかげつ one month立つつ pass; elapse (time)か、立たないうちに、急にきゅうに suddenly世のなかのなか the world物騒物騒ぶっそう disturbed; troubled; unsafe思い出したおもした began to think of as; began to regard as別段別段べつだん particularly際だったきわだった conspicuous; remarkable大事件大事件だいじけん major incidentにも出逢わない出逢であわない didn't encounterのに、もう五ついつつ five (years)六つむっつ six (years)年を取ったとしった ; took on years; agedような気がするがする have a feeling早くはやく soon切り上げてげて give up; pack it in東京東京とうきょう Tōkyō帰るかえる returnのが一番一番いちばん number one; mostよかろう。などとそれからそれへ考えて、いつか石橋石橋いしばし stone bridge渡ってわたって crossed over野芹川野芹川のぜりがわ Nozeri Riverどて embankment出たた arrived (at)かわ riverと云うとえらそうだが実はじつは in fact; actually一間一間いっけん one ken (about 1.8 meters; about 2 yards)ぐらいな、ちょろちょろした流れながれ current; streamで、土手土手どて embankment沿うて沿うて following alongside十二丁十二丁じゅうにちょう twelve chō (about 1.3 km; about 0.8 miles)ほど下るくだる descend; walk in the downstream direction相生村相生村あいおいむら Aioi Villageへ出る。むら villageには観音様観音様かんのんさま temple of Kannon (goddess of mercy)がある。

温泉温泉 bathsまち town; district振り返るかえる look back (toward)と、赤いあかい red lightsが、つき moonひかり lightなか midst ofにかがやいている。太鼓太鼓たいこ drum鳴るる ring out; soundのは遊廓遊廓ゆうかく red-light districtに相違ない相違そういない no doubt ...かわ river流れながれ flow浅いあさい shallowけれども早いはやい quick; rapidから、神経質神経質しんけいしつ nervous; restlessみず waterのようにやたらにやたらに blindly; wildly光るひかる glitter; sparkle。ぶらぶら土手土手どて embankmentうえ topをあるきながら、やく about三丁三丁さんちょう three chō (about 330 meters; about 1100 feet)来たた came; advanced思ったらおもったら thought; felt that ...向うもこう up ahead人影人影ひとかげ human figure; silhouette見え出したした came into sight月に透かしてみるつきかしてみる see by the light of the moonかげ figure; shape二つふたつ twoある。温泉温泉 bathsへ来てむら village帰るかえる return home若いわかい youngしゅ group; companyかも知れないかもれない could be。それにしてはうた song; tuneもうたわない。存外存外ぞんがい unexpectedly; strangely静かしずか quietだ。

だんだん歩いて行くあるいてく proceed by walkingと、おれのほう alternative早足早足はやあし quick pacedだと見えてえて appeared、二つの影法師影法師かげぼうし shadow figuresが、次第に次第しだいに gradually大きくなるおおきくなる grew larger一人一人ひとり one (person)おんな woman; femaleらしい。おれの足音足音あしおと footsteps聞きつけてきつけて hear; notice (a sound)十間十間じゅっけん ten ken (about 18 meters; about 20 yards)ぐらいの距離距離きょり distance逼ったせまった drew near; closed in onとき time; momentおとこ man; maleたちまちたちまち suddenly振り向いたいた looked back。月は後からうしろから from behind (me)さしている。その時おれは男の様子様子ようす appearance; mannerを見て、はてなはてな Good Lord!と思った。男と女はまた元の通りもととおり as beforeあるき出したあるきした started walking。おれは考えかんがえ thought; ideaがあるから、急にきゅうに suddenly全速力全速力ぜんそくりょく full speed; as fast as possible追っ懸けたけた chased after; pursued先方先方せんぽう the other party何の気もつかずになんもつかずに without noticing anything最初の通り最初さいしょとおり as before; as initially (doing)、ゆるゆる歩を移してうつして step; strollいる。いま now話し声はなごえ voices; conversation手に取るる grasp (in one's hands)ように聞える。土手のはば width六尺六尺ろくしゃく six shaku (about 2 meters; about 6 feet)ぐらいだから、並んでならんで in a line; abreast行けば三人三人さんにん three peopleがようやくだ。おれは苦もなくもなく without difficulty後ろから追い付いていて caught up、男のそで sleeve; arm擦り抜けけ brush pastざまざま state; situation二足二足ふたあし two stepsまえ in frontへ出したくびす heelぐるりと返してぐるりとかえして turn around on; turn back on男のかお face覗き込んだのぞんだ looked into。月は正面正面しょうめん frontからおれの五分刈五分刈ごぶがり close-croppedあたま headからあご jaw辺りあたり area; regionまで、会釈もなく会釈えしゃくもなく dispensing with ceremony; without reserve照すてらす shone on; lit up。男はあっと小声に云った小声こごえった said in a low voice; whispered under one's breathが、急によこ sideways向いていて turned toward; faced、もう帰ろうと女を促がすうながす urge; pressが早いか、温泉温泉 bathsの町の方へ引き返したかえした turned and headed back (toward)

赤シャツあかシャツ Red Shirt (nickname for the head teacher)図太くて図太ずぶとくて audacious; shameless胡魔化す胡魔化ごまかす cover up; gloss overつもりか、気が弱くてよわくて timid名乗り損なった名乗なのそくなった failed to acknowledgeのかしら。ところが狭くてせまくて limited; confined困ってこまって be troubled; have difficultyるのは、おればかりではなかった。