Botchan - Chapter 3

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いよいよ学校学校がっこう school出たた make one's appearance初めてはじめて for the first time教場教場きょうじょう classroomへはいって高いたかい highところ place乗ったった stepped (up) ontoとき time; occurrenceは、何だかなんだか somehowへん strangeだった。講釈講釈こうしゃく lectureをしながら、おれでも先生先生せんせい teacher勤まるつとまる be fit for (a job); function properlyのかと思ったおもった thought; wondered生徒生徒せいと studentsはやかましい。時々時々ときどき sometimes図抜けた図抜ずぬけた exceptionally大きなおおきな big; loud (voice)こえ voiceで先生と云うう call out。先生には応えたこたえた responded; answeredいま the present; nowまで物理物理ぶつり physics学校学校がっこう school毎日毎日まいにち every day先生先生と呼びつけていたびつけていた called out to (someone)が、先生と呼ぶのと、呼ばれるのは雲泥の差雲泥うんでい a world of difference (lit: the difference between clouds and mud)だ。何だか足の裏あしうら bottoms of one's feetむずむずするむずむずする feel itchy。おれは卑怯な卑怯ひきょうな cowardly人間人間にんげん personではない。臆病な臆病おくびょうな timidおとこ manでもないが、惜しいしい unfortunateこと act; fact胆力胆力たんりょく nerve欠けているけている lacking。先生と大きな声をされると、腹の減ったはらった stomach is empty; hungryとき time丸の内まるうち Marunouchi (place name)午砲午砲ごどん noon gun聞いたいた heardような気がするがする feel like最初の最初さいしょの the first一時間一時間いちじかん hourは何だかいい加減にいい加減かげんに improvising; faking; fumbling throughやってしまった。しかし別段別段べつだん particularly困ったこまった troublesome質問質問しつもん questions掛けられずけられず without being posed済んだんだ got through; finished控所控所ひかえじょ staff room帰って来たらかえってたら when (I) came back山嵐山嵐やまあらし Yama Arashi (nickname for Hotta, the head mathematics teacher)がどうだいと聞いた。うんと単簡に単簡たんかんに simply; curtly返事返事へんじ answerをしたら山嵐は安心した安心あんしんした was reassuredらしかった。

二時間目二時間目にじかんめ second hour白墨白墨はくぼく chalk持ってって take控所控所ひかえじょ staff room出たた left; set out fromとき time; whenには何だかなんだか somehow敵地敵地てきち enemy territory乗り込むむ march intoような気がしたがした had the feeling教場教場きょうじょう classroom出るる make one's appearance今度今度こんど this timeくみ classまえ previousより大きなおおきな bigやつ guysばかりである。おれは江戸っ子江戸えど Tōkyō (Edo) man華奢華奢きゃしゃ of slender build小作り小作こづくり small build出来ている出来できている be made; be constructedから、どうも高いたかい highところ place上がってがって climb up (onto)押しし authority利かないかない not be effective喧嘩喧嘩けんか quarrelなら相撲取相撲取すもうとり grapplingとでもやってみせるが、こんな大僧大僧おおぞう big fellows四十人四十人よんじゅうにん forty peopleまえ in front of並べてならべて line up; place in rows、ただ一枚一枚いちまい one (counter for flat objects)した tongueたたいてたたいて beat; strike恐縮させる恐縮きょうしゅくさせる inspire admiration手際手際てぎわ skillはない。しかしこんな田舎者田舎者いなかもの country folks弱身弱身よわみ weakness見せるせる show癖になるくせになる set a bad precedent思ったおもった thoughtから、なるべく大きなこえ voiceをして、少々少々しょうしょう slightly巻き舌じた rolling one's tongue; with a trill講釈講釈こうしゃく lectureしてやった。最初のうち最初さいしょのうち for a whileは、生徒生徒せいと students烟に捲かれてけむかれて bewildered (lit: wrapped in smoke)ぼんやりしていたぼんやりしていた were stupefiedから、それ見ろそれろ Take that!ますますますます more and more得意になって得意とくいになって feeling triumphantべらんめいべらんめい letting them have it調調ちょう tone (of voice)用いてたらもちいていたら using (provisional form)一番一番いちばん most前のれつ row真中真中まんなか middle居たた was、一番強そうつよそう strong-lookingな奴が、いきなり起立して起立きりつして stand up先生先生せんせい Sensei (teacher)云うう call outそら来たそらた here it comesと思いながら、何だなんだ what is it聞いたらいたら asked、「あまり早くてはやくて fast分からんからん can't understandけれ、もちっと、ゆるゆるゆるゆる slowly遣ってって do; deliver (a speech)、おくれんかな、もし」と云った。おくれんかな、もしは生温るい生温なまぬるい tepid; halfhearted言葉言葉ことば wordsだ。早過ぎる早過はやすぎる too fastなら、ゆっくり云ってやるが、おれは江戸っ子だから君等の君等きみらの your言葉は使えない使つかえない can't use分らなければわからなければ (if you) can't understand、分るまで待ってるってる waitがいいと答えてこたえて repliedやった。この調子でこの調子ちょうしで in this manner二時間目は思ったより、うまく行ったうまくった went well。ただ帰りがけかえりがけ on the way backに生徒の一人一人ひとり one (person)がちょっとこの問題問題もんだい problem解釈解釈かいしゃく explanationをしておくれんかな、もし、と出来そう出来できそう looks doableもない幾何幾何きか geometryの問題を持って逼ったせまった approachには冷汗冷汗ひやあせ cold sweat流したながした let flow仕方がない仕方しかたがない had no choiceから何だか分らない、この次このつぎ next time教えておしえて teachやると急いでいそいで hurriedly引き揚げたらげたら withdrew (from a place)、生徒がわあと囃したはやした bantered; hootedその中にそのなかに among them出来ん出来んと云う声が聞えるきこえる could be heard箆棒め箆棒べらぼうめ Idiots!、先生だって、出来ないのは当り前あたまえ not unreasonable; goes without sayingだ。出来ないのを出来ないと云うのに不思議不思議ふしぎ wonder; mysteryがあるもんか。そんなものが出来るくらいなら四十円四十円よんじゅうえん forty yenでこんな田舎田舎いなか country; the sticksへくるもんかと控所へ帰って来た。今度今度こんど this timeはどうだとまた山嵐が聞いた。うんと云ったが、うんだけでは気が済まなかったまなかった didn't seem sufficientから、この学校学校がっこう schoolの生徒は分らずやわからずや bunch of boneheadsだなと云ってやった。山嵐は妙なみょうな odd; curiousかお face; facial expressionをしていた。

三時間目三時間目さんじかんめ third hourも、四時間目四時間目よじかんめ fourth hour昼過ぎ昼過ひるすぎ afternoon一時間一時間いちじかん hour大同小異大同小異だいどうしょうい generally the sameであった。最初の最初さいしょの the first day出たた made an appearanceくみ classesは、いずれも少々少々しょうしょう a little bitずつ失敗した失敗しっぱいした made a mistake; experienced failure教師教師きょうし instructorはたで見るほどはたでるほど as it seems from a distanceらく easyじゃないと思ったおもった thought; realized授業授業じゅぎょう lessonsひと通りひととおり in a general way; respectably enough済んだんだ finished; were concludedが、まだ帰れないかえれない cannot go home三時三時さんじ three o'clockまでぽつ然としてぽつねんとして vacantly; absent-mindedly待ってなくてはならんってなくてはならん must wait。三時になると、受持受持うけもち under one's charge級の生徒生徒せいと students自分自分じぶん (their) own教室教室きょうしつ classroom掃除して掃除そうじして clean報知報知しらせ notificationにくるから検分検分けんぶん inspectionをするんだそうだ。それから、出席簿出席簿しゅっせきぼ attendance list一応一応いちおう once調べて調しらべて checkようやくお暇ひま leisure (hours)出るる present itself。いくら月給月給げっきゅう salary買われたわれた be bought; be purchased身体身体からだ bodyだって、あいた時間時間じかん timeまで学校学校がっこう school縛りつけてしばりつけて tied toつくえ desk睨めっくらにらめっくら stare-downをさせるなんて法があるほうがある to be reasonableものか。しかしほかの連中ほかの連中れんちゅう rest of the company; everyone elseはみんな大人しく大人おとなしく obedientlyご規則通り規則通きそくどおり adhering to the rulesやってるから新参新参しんざん newcomerのおればかり、だだを捏ねるだだをねる make a fuss (about something)のもよろしくないと思って我慢我慢がまん patience; sufferanceしていた。帰りがけかえりがけ on the way backに、きみ you; hey何でもかんでもなんでもかんでも no matter what; regardless of circumstances三時過三時過さんじすぎ after three o'clockまで学校学校がっこう schoolにいさせるのはおろか foolish; asinineだぜと山嵐山嵐やまあらし Yama Arashi (nickname for Hotta, the head mathematics teacher)訴えたらうったえたら complained、山嵐はそうさアハハハと笑ったわらった laughedが、あとから真面目真面目まじめ seriousになって、君あまり学校の不平不平ふへい discontent; grievance云うう say; mentionと、いかんぜ。云うならぼく meだけに話せはなせ tell; talk to随分随分ずいぶん very much妙なみょうな strange; oddひと people居るる to beからなと忠告忠告ちゅうこく warning; cautionがましいがましい sounding like (suffix)こと act; factを云った。四つ角かど corner; intersection分れたわかれた parted (ways)から詳しいくわしい detailed事は聞くく askひまがなかった。

それからうちへ帰ってくるかえってくる come back (to)と、宿宿やど lodging亭主亭主ていしゅ master; landlordお茶ちゃ tea入れましょうれましょう put in; make (tea)云ってって sayingやって来るやってる approached。お茶を入れると云うからご馳走をする馳走ちそうをする treat (someone to something)のかと思うおもう thinkと、おれの茶を遠慮なく遠慮えんりょなく without hesitation; without restraint入れて自分自分じぶん oneself飲むむ drinkのだ。この様子ではこの様子ようすでは at this rate留守中留守中るすちゅう while one is away勝手に勝手かってに as one pleasesお茶を入れましょうを一人で一人ひとりで by oneself履行している履行りこうしている perform; executeかも知れないかもれない might (do)。亭主が云うには手前手前てまえ he (refers to the master in this case)書画書画しょが paintings and calligraphy骨董骨董こっとう antiquesがすきで、とうとうこんな商買商買しょうばい trade; business内々で内々うちうちで privately; informally始めるはじめる beginようになりました。あなたもお見受け申す見受みうもうす judging by looksところ大分大分だいぶ a great dealご風流風流ふうりゅう taste; refinementでいらっしゃるらしい。ちと道楽に道楽どうらくに hobby; pastimeお始めなすってはいかがですと、飛んでもないんでもない absurd勧誘勧誘かんゆう invitation; persuasionをやる。二年前二年前にねんまえ two years beforeある人あるひと a certain person使使つかい errand; business帝国ホテル帝国ていこくホテル Imperial Hotel行ったった went (to)とき time; occasion錠前直し錠前直じょうまえなおし locksmith間違えられた間違まちがえられた be mistaken (for)事がある。ケットを被ってケットをかぶって wrapping (myself) with a blanket鎌倉鎌倉かまくら Kamakura (place name)大仏大仏だいぶつ large Buddha statue見物見物けんぶつ sightseeingした時は車屋車屋くるまや rickshaw driverから親方親方おやかた master; sir云われたわれた was called out toその外そのほか besides this今日今日こんにち todayまで見損われた見損みそくなわれた make a mistake; misjudge (usually みそこなわれた)事は随分随分ずいぶん quite a lot; oftenあるが、まだおれをつらまえてつらまえて catch; take hold of大分ご風流でいらっしゃると云ったものはない。大抵大抵たいてい generally; in most casesなりなり dress; costume様子様子ようす appearanceでも分るわかる can understand風流人風流人ふうりゅうにん a man of taste; connoisseurなんていうものは、 painting; drawing見てて look atも、頭巾頭巾ずきん hood被るかぶる wear短冊短冊たんざく poetry paper (narrow strip)持ってるってる have; holdものだ。このおれを風流人だなどと真面目に真面目まじめに seriously云うのはただの曲者曲者くせもの scoundrel; villainじゃない。おれはそんな呑気呑気のんき easygoing; carefree隠居隠居いんきょ retired person; old manのやるような事は嫌いきらい don't likeだと云ったら、亭主はへへへへと笑いながらわらいながら while laughing、いえ始めから好きなきな take an interest in; likeものは、どなたもございませんが、いったんこのみち pathにはいるとなかなか出られませんられません cannot leave; cannot quitと一人で茶を注いでそそいで pour妙なみょうな strange; odd手付手付てつき way of using one's handをして飲んでいる。実はじつは actually; in factゆうべ茶を買ってって buyくれと頼んでたのんで requestedおいたのだが、こんな苦いにがい bitter濃いい strong (taste)茶はいやだ。一杯一杯いっぱい one cup飲むと胃に答えるこたえる affect (upset) one's stomachような気がするがする get a feeling今度今度こんど next timeからもっと苦くないのを買ってくれと云ったら、かしこまりましたとまた一杯しぼってしぼって press out飲んだ。人の茶だと思って無暗に無暗むやみに excessively; unduly飲むやつ guyだ。主人主人しゅじん landlord引き下がってがって took (his) leaveから、明日明日あした the next day下読下読したよみ preparationをしてすぐ寝てて go to bedしまった。

それから毎日毎日毎日毎日まいにちまいにち every day; day after day学校学校がっこう school出てて make one's appearance規則通り規則通きそくどおり according to the rules働くはたらく work; perform one's duties、毎日毎日帰って来るかえってる return home主人主人しゅじん landlordお茶ちゃ tea入れましょうれましょう put in; make (tea)と出てくる。一週間一週間いっしゅうかん one weekばかりしたら学校の様子様子ようす situationひと通りひととおり in general飲み込めためた grasped; understoodし、宿宿やど lodging夫婦夫婦ふうふ husband and wife人物人物じんぶつ character; personality大概大概たいがい for the most part分ったわかった understood。ほかの教師教師きょうし instructors聞いていて ask; talk withみると辞令辞令じれい letter of appointment受けてけて receive一週間から一ヶ月一ヶ月いっかげつ one monthぐらいのあいだ period of time自分自分じぶん oneself評判評判ひょうばん repute; popularityがいいだろうか、悪るいわるい no goodだろうか非常に非常ひじょうに very much; exceedingly気に掛かるかる be of importance; matterそうであるが、おれは一向一向いっこう (not) at allそんな感じかんじ feelingはなかった。教場教場きょうじょう classroom折々折々おりおり from time to timeしくじるしくじる blunderとそのとき time; occasionだけはやな心持ち心持こころもち feelingだが三十分三十分さんじゅっぷん thirty minutesばかり立つつ elapse (time); pass (time)奇麗に奇麗きれいに cleanly消えてえて disappear; vanishしまう。おれは何事によらず何事なにごとによらず in all matters長くながく long (time)心配心配しんぱい worryしようと思っておもって think (of doing)も心配が出来ない出来できない cannot doおとこ manだ。教場のしくじりが生徒生徒せいと studentsにどんな影響影響えいきょう effect; impression与えてあたえて impart (on someone)、その影響が校長校長こうちょう principal教頭教頭きょうとう head instructorにどんな反応反応はんのう reaction呈するていする present; exhibitかまるで無頓着無頓着むとんじゃく indifferentであった。おれはまえ before; earlier云う通りどおり exactly as statedあまり度胸の据った度胸どきょうすわった having nerves of steel男ではないのだが、思い切りおもり determinationはすこぶるいい人間人間にんげん personである。この学校がいけなければすぐどっかへ行くく go; move on覚悟覚悟かくご resolveでいたから、たぬき Tanuki (nickname for the school principal)赤シャツあかシャツ Red Shirt (nickname for the head teacher)も、ちっとも恐しくおそろしく inspiring fearはなかった。まして教場教場きょうじょう classroom小僧共小僧共こぞうども youngsters; young urchinsなんかには愛嬌愛嬌あいきょう complimentsお世辞世辞せじ flattery使う使つかう use; apply気になれなかったになれなかった could not compel (myself) to。学校はそれでいいのだが下宿下宿げしゅく lodgingsほう direction; alternativeはそうはいかなかった。亭主亭主ていしゅ landlordが茶を飲みみ drink来るる comeだけなら我慢もする我慢がまんもする tolerateが、いろいろなもの things (usually 物)持ってくるってくる bring始めはじめ the first time持って来たってた broughtのは何でもなんでも of all things印材印材いんざい artists' sealsで、十ばかりとうばかり about ten並べてならべて lay out in a rowおいて、みんなで三円三円さんえん three yenなら安いやすい bargainもの things; goodsお買いなさいいなさい please buy (them)と云う。田舎巡り田舎巡いなかまわり travelingヘボ絵師ヘボ絵師えし hack painterじゃあるまいし、そんなものは入らないらない don't needと云ったら、今度今度こんど next time華山華山かざん Kazan (name)とか何とかとかなんとか or something like that云う男の花鳥花鳥かちょう flowers and birds掛物掛物かけもの hanging scrollをもって来た。自分自分じぶん oneself床の間とこ alcoveへかけて、いい出来出来でき workmanship; craftsmanshipじゃありませんかと云うから、そうかなと好加減に好加減いいかげんに halfheartedly挨拶挨拶あいさつ answer; responseをすると、華山には二人二人ふたり two peopleある、一人一人ひとり one (of them)何とかなんとか something華山で、一人は何とか華山ですが、このふく scrollはその何とか華山の方だと、くだらないくだらない worthless; trifling講釈講釈こうしゃく lectureをしたあとで、どうです、あなたなら十五円十五円じゅうごえん fifteen yenにしておきます。お買いなさいと催促催促さいそく pressing; urgingをする。かね moneyがないと断わることわる refuse; declineと、金なんか、いつでもようございますとなかなか頑固頑固がんこ stubbornだ。金があっても買わないんだと、その時は追っ払っちまったぱらっちまった drove off; repelled。そのつぎ nextには鬼瓦鬼瓦おにがわら corner ridge tile; gargoyleぐらいな大硯大硯おおすずり large inkstone担ぎ込んだかつんだ lugged in (on his shoulder)。これは端渓端渓たんけい Tankei (place in China - inkstone-producing region)です、端渓ですと二遍二遍にへん twice三遍三遍さんぺん three times端渓がる端渓たんけいがる Tankei'd (verb form - not a real word)から、面白半分に面白半分おもしろはんぶんに half for amusement端渓た何だいと聞いたら、すぐ講釈講釈こうしゃく lecture始め出したはじした started; launched into。端渓には上層上層じょうそう upper stratum中層中層ちゅうそう middle stratum下層下層かそう lower stratumとあって、今時今時いまどき these daysのものはみんな上層ですが、これはたしかに中層です、このがん texture; grain; markingご覧なさいらんなさい please observe。眼が三つみっつ threeあるのは珍らしいめずらしい unusual溌墨溌墨はつぼく ink formation具合具合ぐあい condition; state至極至極しごく extremelyよろしい、試してためして tryご覧なさいと、おれのまえ front of大きなおおきな largeすずり the ink stone突きつけるきつける push toward。いくらだと聞くと、持主持主もちぬし owner支那支那しな Chinaから持って帰って来てってかえってて brought back是非是非ぜひ by all means売りたいりたい wants to sellと云いますから、お安くして三十円三十円さんじゅうえん thirty yenにしておきましょうと云う。この男は馬鹿馬鹿ばか an idiot相違ない相違そういない no doubt。学校の方はどうかこうか無事に無事ぶじに without mishap勤まりそうつとまりそう perform one's dutiesだが、こう骨董責骨董責こっとうぜめ antique pushing逢ってって meet; encounterはとても長く続きそうつづきそう continueにない。

そのうち学校学校がっこう schoolもいやになった。ある日ある one dayばん evening; night大町大町おおまち Ōmachi (place name)云うう calledところ place散歩散歩さんぽ walk; strollしていたら郵便局郵便局ゆうびんきょく post office隣りとなり next door蕎麦蕎麦そば soba (buckwheat noodles)とかいて、した below東京東京とうきょう Tōkyōちゅう annotation; note加えたくわえた added看板看板かんばん signがあった。おれは蕎麦が大好き大好だいすき very fond of; having a passion forである。東京に居ったった was (in a place)とき time; periodでも蕎麦屋蕎麦屋そばや soba shopまえ in front of通ってとおって pass by薬味薬味やくみ seasoning; spices香いにおい smell; fragranceかぐかぐ smellと、どうしても暖簾暖簾のれん shop curtainくぐりたくくぐりたく want to duck throughなった。今日今日きょう todayまでは数学数学すうがく mathematics骨董骨董こっとう antiquesで蕎麦を忘れていたわすれていた had forgottenが、こうして看板を見るる see; spot素通り素通すどおり pass by出来なく出来できなく can't doなる。ついでだから一杯一杯いっぱい one bowl食ってって eat行こうこう go思っておもって thinking上がり込んだがりんだ went inside。見ると看板ほどでもない。東京と断わることわる make mention of以上以上いじょう so long asもう少しもうすこし a little more奇麗奇麗きれい clean; well keptにしそうなものだが、東京を知らないらない don't know aboutのか、かね moneyがないのか、滅法滅法めっぽう awfullyきたない。たたみ tatami mats (flooring)色が変っていろかわって discoloredお負けにけに (and) on top of thatすな sandざらざらしているざらざらしている feel grittyかべ wallsすす soot真黒真黒まっくろ pitch blackだ。天井天井てんじょう ceilingはランプの油烟油烟ゆえん oil smoke; carbon black燻ぼってるくすぼってる become soot-coveredのみか、低くってひくくって low思わずおもわず involuntarily; reflexively首を縮めるくびちぢめる duck low; bend down one's headくらいだ。ただ麗々と麗々れいれいと conspicuously蕎麦の名前名前なまえ name; titleをかいて張り付けたけた posted; pasted upねだん付けねだんけ price list; menuだけは全くまったく completely新しいあたらしい new何でもなんでも as if古いふるい oldうちを買ってって bought; purchased二三日二三日にさんち two or three daysまえ before; earlierから開業した開業かいぎょうした opened for business違いなかろうちがいなかろう is most probably the case。ねだん付の第一号第一号だいいちごう the first one天麩羅天麩羅てんぷら tempuraとある。おい天麩羅を持ってこいってこい bring me大きなおおきな big; loud (voice)声を出したこえした called out。するとこのとき timeまですみ cornerほう direction三人三人さんにん three peopleかたまってかたまって clustered together、何かつるつる、ちゅうちゅう食ってた連中連中れんじゅう groupが、ひとしくひとしく all together (in a similar manner)おれの方を見た。部屋部屋へや room暗いくらい darkので、ちょっと気がつかなかったがつかなかった hadn't noticed顔を合せるかおあわせる look at each otherと、みんな学校の生徒生徒せいと studentsである。先方先方せんぽう they; the other party挨拶挨拶あいさつ salutationをしたから、おれも挨拶をした。その晩は久し振にひさぶりに first time in a long while蕎麦を食ったので、旨かったうまかった was good (food)から天麩羅を四杯四杯よんはい four bowls平げたたいらげた downed; ate up

翌日翌日よくじつ the next day何の気もなくなんもなく unsuspectingly教場教場きょうじょう classroomへはいると、黒板黒板こくばん blackboard一杯一杯いっぱい full (covering)ぐらいな大きなおおきな large charactersで、天麩羅先生天麩羅てんぷら先生せんせい Tempura Senseiとかいてある。おれのかお face見てて look atみんなわあと笑ったわらった laughed。おれは馬鹿馬鹿しい馬鹿馬鹿ばかばかしい ridiculous; sillyから、天麩羅を食っちゃっちゃ eat可笑しい可笑おかしい funny; amusingかと聞いたいた asked。すると生徒の一人生徒せいと一人ひとり one of the studentsが、しかし四杯四杯よんはい four bowls過ぎるぎる too much; excessiveぞな、もし、と云ったった said; replied。四杯食おうが五杯五杯ごはい five bowls食おうがおれのぜに moneyでおれが食うのに文句文句もんく objection; complaintがあるもんかと、さっさと講義講義こうぎ lecture済ましてまして wrapped up控所控所ひかえじょ staff room帰って来たかえってた returned (to)十分十分じゅっぷん ten minutes立ってって elapse (time)つぎ nextの教場へ出るる make one's appearance一つひとつ one; on the one hand天麩羅四杯なり。但しただし however笑うべからずわらうべからず one must not laugh。と黒板にかいてある。さっきは別にべつに particularly腹も立たなかったはらたなかった was not angry今度今度こんど this time癪に障ったしゃくさわった touched a nerve冗談冗談じょうだん joke度を過ごせばごせば take too farいたずらいたずら misconduct; unacceptable behaviorだ。焼餅焼餅やきもち yakimochi (toasted rice cake)黒焦黒焦くろこげ black charのようなもので誰もだれも no one (with negative verb)賞め手 impressed (person); admirerはない。田舎者田舎者いなかもの country folkはこの呼吸呼吸こきゅう give and take; tact (lit: breathing)分からないからない don't understandからどこまで押して行ってしてって push along構わないかまわない is okay; doesn't matterと云う了見了見りょうけん notion; ideaだろう。一時間一時間いちじかん one hourあるくと見物見物けんぶつ sightseeingするまち townもないような狭いせまい narrow; limitedみやこ city住んでんで live (in)外にほかに otherwise; besides (this)何にもなんにも nothing (at all)芸がないげいがない of no interest; good for nothingから、天麩羅事件事件じけん incident日露戦争日露戦争にちろせんそう Russo-Japanese War (1904-1905)のように触れちらかすれちらかす run around talking aboutんだろう。憐れなあわれな pathetic奴等奴等やつら bunch (of people)だ。小供の時小供こどもとき youth; childhoodから、こんなに教育教育きょういく education; upbringingされるから、いやにひねっこびたひねっこびた gnarled; twisted植木鉢植木鉢うえきばち flower potかえで maple treeみたような小人小人しょうじん small-minded person出来る出来できる are producedんだ。無邪気無邪気むじゃき innocentならいっしょに笑ってもいいが、こりゃなんだ。小供の癖に小供こどもくせに as is common with youths乙におつに singularly; affectedly毒気毒気どくけ malice持ってるってる have; hold。おれはだまって、天麩羅を消してして erase、こんないたずらが面白い面白おもしろい amusingか、卑怯な卑怯ひきょうな cowardly; mean冗談冗談じょうだん jokeだ。君等君等きみら you guysは卑怯と云う意味意味いみ meaning知ってるってる know; understandか、と云ったら、自分自分じぶん you; yourselfがしたこと act; factを笑われて怒るおこる get angryのが卑怯じゃろうがな、もしと答えたこたえた answeredやつ guyがある。やな奴だ。わざわざ東京東京とうきょう Tōkyōから、こんな奴を教えおしえ teaching来たた cameのかと思ったらおもったら considered情なくなったなさけなくなった felt wretched; felt miserable余計な余計よけいな excess減らず口らずぐち back talk; useless argument利かないでかないで without applying勉強しろ勉強べんきょうしろ pay attention (study)と云って、授業授業じゅぎょう class始めてしまったはじめてしまった started。それから次の教場へ出たら天麩羅を食うと減らず口が利きたくなるものなりと書いてある。どうも始末に終えない始末しまつえない incorrigible; out of hand。あんまり腹が立ったから、そんな生意気生意気なまいき smart-aleck; impertinentな奴は教えないと云ってすたすたすたすた in haste帰って来てやった。生徒は休みやすみ time offになって喜んだよろこんだ were pleasedそうだ。こうなると学校学校がっこう schoolより骨董骨董こっとう antiquesほう alternativeがまだましまし preferableだ。

天麩羅天麩羅てんぷら tempura蕎麦蕎麦そば soba (buckwheat noodles)もうちへ帰ってかえって returned一晩一晩ひとばん one night寝たらたら sleptそんなに肝癪に障らなくなった肝癪かんしゃくさわらなくなった no longer bothered me学校学校がっこう school出てて make one's appearanceみると、生徒生徒せいと studentsも出ている。何だかなんだか somehow訳が分らないわけわからない not sure what's going on。それから三日三日みっか three daysばかりは無事無事ぶじ without incidentであったが、四日目四日目よっかめ fourth dayばん evening住田住田すみた Sumita (place name)云うう calledところ place行ってって went (to)団子団子だんご rice dumplings食ったった ate。この住田と云う所は温泉温泉おんせん onsen (hot springs)のあるまち town城下城下じょうか central town (lit: below the castle)から汽車汽車きしゃ steam trainだと十分十分じゅっぷん ten minutesばかり、歩いてあるいて on foot; walking三十分三十分さんじゅっぷん thirty minutesで行かれる、料理屋料理屋りょうりや restaurantsも温泉宿宿やど innsも、公園公園こうえん parkある上にあるうえに in addition to having遊廓遊廓ゆうかく red-light districtがある。おれのはいった団子屋団子屋だんごや dumpling houseは遊廓の入口入口いりぐち entranceにあって、大変大変たいへん terribly; very muchうまいという評判評判ひょうばん renown; reputationだから、温泉に行った帰りがけにかえりがけに on the way homeちょっと食ってみた。今度今度こんど this time生徒生徒せいと studentsにも逢わなかったわなかった didn't meet; didn't seeから、誰もだれも no one (with negative)知るまいるまい should not know思っておもって thought翌日翌日よくじつ next day学校へ行って、一時間目一時間目いちじかんめ first hour教場教場きょうじょう classroomへはいると団子二皿二皿ふたさら two plates七銭七銭ななせん seven sen (0.07 yen)書いてあるいてある has been written実際実際じっさい in fact; indeedおれは二皿食って七銭払ったはらった paid。どうも厄介厄介やっかい annoying; bothersome奴等奴等やつら people; lotだ。二時間目二時間目にじかんめ second hourにもきっと何かなにか somethingあると思うと遊廓の団子旨いうまい tasty; delicious旨いと書いてある。あきれ返ったあきれかえった hopeless; lame奴等だ。団子がそれで済んだんだ be finishedと思ったら今度は赤手拭赤手拭あかてぬぐい red towelと云うのが評判になった。なん whatこと act; factだと思ったら、つまらないつまらない trifling; insignificant来歴来歴らいれき background; originだ。おれはここへ来てて came; arrivedから、毎日毎日まいにち every day住田の温泉へ行く事に極めているめている decided。ほかの所はなに whatever見てて see東京東京とうきょう Tōkyō足元にも及ばない足元あしもとにもおよばない can't compare with; is far inferior toが温泉だけは立派な立派りっぱな outstanding; splendidものだ。せっかく来た者だからせっかくものだから since (I) came all the way毎日はいってやろうという intentionで、晩飯晩飯ばんめし evening mealまえ before運動かたがた運動うんどうかたがた partly also for exercise出掛る出掛でかける set out for。ところが行くときは必ずかならず without fail西洋西洋せいよう Western-made手拭手拭てぬぐい towel; washcloth大きなおおきな big; largeやつ one; thingぶら下げてぶらげて dangle行く。この手拭が hot water (bath)染ったそまった be steeped inうえ having beenへ、赤いあかい redしま stripes流れ出したながした began to bleed (color)のでちょっと見ると紅色紅色べにいろ deep red; crimson見えるえる appear。おれはこの手拭を行きき going帰りかえり returningも、汽車に乗ってって ride (on)もあるいても、常につねに at all timesぶら下げている。それで生徒がおれの事を赤手拭赤手拭と云うんだそうだ。どうも狭いせまい narrow; limited土地土地とち land; region住んでるんでる live inうるさいうるさい pesky; annoyingものだ。まだある。温泉は三階三階さんがい three-story新築新築しんちく new construction上等上等じょうとう premium (service)浴衣浴衣ゆかた cotton robeをかして、流しをつけてながしをつけて scrub one's back八銭で済む八銭はっせんむ for only eight sen (0.08 yen)その上にそのうえに on top of thatおんな woman; maid天目天目てんもく tea bowl stand (short for 天目台てんもくだい)ちゃ tea載せてせて place; set出すす serve。おれはいつでも上等へはいった。すると四十円四十円よんじゅうえん forty yen月給月給げっきゅう monthly salaryで毎日上等へはいるのは贅沢贅沢ぜいたく extravaganceだと云い出したした (people) began saying余計なお世話だ余計よけいなお世話せわだ unneeded assistance; meddling。まだある。湯壺湯壺ゆつぼ bathing area花崗石花崗石みかげいし granite畳み上げてたたげて lay out (in a pattern)十五畳敷十五畳敷じゅうごじょうじき fifteen-mat area (about 24 sq meters, or 260 sq ft)ぐらいの広さひろさ size; area仕切ってある仕切しきってある bounded; marked off大抵大抵たいてい usually十三四人十三四人じゅうさんしにん thirteen or fourteen people漬ってるつかってる are soaking; are immersed inがたまには誰も居ないだれない no one is present事がある。深さふかさ depth立ってって standing乳の辺ちちあたり chest areaまであるから、運動のために、湯の中なか through (around) the bath泳ぐおよぐ swimのはなかなか愉快愉快ゆかい pleasure; enjoymentだ。おれはひと peopleの居ないのを見済して見済みすまして observe carefullyは十五畳の湯壺を泳ぎ巡っておよまわって swim around喜んでいたよろこんでいた enjoyed。ところがある日ある one day三階から威勢よく威勢いせいよく in high spirits下りてりて went downstairs今日今日きょう todayも泳げるかなとざくろ口ざくろぐち entrance to the bathing area覗いてのぞいて take a lookみると、大きなふだ signboard; placard黒々と黒々くろぐろと in deep black湯の中で泳ぐべからずおよぐべからず no swimming; swimming prohibitedとかいて貼りつけてあるりつけてある was posted。湯の中で泳ぐものは、あまりあるまいから、この貼札貼札はりふだ posted signはおれのために特別に特別とくべつに specially新調した新調しんちょうした procured; had madeかも知れないかもれない could be (that)。おれはそれから泳ぐのは断念した断念だんねんした gave up (doing)。泳ぐのは断念したが、学校へ出てみると、例の通りれいとおり as happened before黒板黒板こくばん blackboardに湯の中で泳ぐべからずと書いてあるには驚ろいたおどろいた was surprised。何だか生徒全体生徒全体せいとぜんたい the entire student bodyおれ一人おれ一人ひとり me alone探偵している探偵たんていしている are tailing; are tracking; are spying onように思われた。くさくさしたくさくさした felt wretched。生徒が何を云ったって、やろうと思った事をやめるようなおれではないが、何でこんな狭苦しい狭苦せまぐるしい confined鼻の先がつかえるはなさきがつかえる suffocating; stifling (lit: the tip of one's nose is obstructed)ような所へ来たのかと思うと情なくなったなさけなくなった felt miserable。それでうちへ帰ると相変らず相変あいかわらず as always骨董責骨董責こっとうぜめ antique hawkingである。