いよいよ学校学校 schoolへ出た出た make one's appearance。初めて初めて for the first time教場教場 classroomへはいって高い高い high所所 placeへ乗った乗った stepped (up) onto時時 time; occurrenceは、何だか何だか somehow変変 strangeだった。講釈講釈 lectureをしながら、おれでも先生先生 teacherが勤まる勤まる be fit for (a job); function properlyのかと思った思った thought; wondered。生徒生徒 studentsはやかましい。時々時々 sometimes図抜けた図抜けた exceptionally大きな大きな big; loud (voice)声声 voiceで先生と云う云う call out。先生には応えた応えた responded; answered。今今 the present; nowまで物理物理 physics学校学校 schoolで毎日毎日 every day先生先生と呼びつけていた呼びつけていた called out to (someone)が、先生と呼ぶのと、呼ばれるのは雲泥の差雲泥の差 a world of difference (lit: the difference between clouds and mud)だ。何だか足の裏足の裏 bottoms of one's feetがむずむずするむずむずする feel itchy。おれは卑怯な卑怯な cowardly人間人間 personではない。臆病な臆病な timid男男 manでもないが、惜しい惜しい unfortunate事事 act; factに胆力胆力 nerveが欠けている欠けている lacking。先生と大きな声をされると、腹の減った腹の減った stomach is empty; hungry時時 timeに丸の内丸の内 Marunouchi (place name)で午砲午砲 noon gunを聞いた聞いた heardような気がする気がする feel like。最初の最初の the first一時間一時間 hourは何だかいい加減にいい加減に improvising; faking; fumbling throughやってしまった。しかし別段別段 particularly困った困った troublesome質問質問 questionsも掛けられず掛けられず without being posedに済んだ済んだ got through; finished。控所控所 staff roomへ帰って来たら帰って来たら when (I) came back、山嵐山嵐 Yama Arashi (nickname for Hotta, the head mathematics teacher)がどうだいと聞いた。うんと単簡に単簡に simply; curtly返事返事 answerをしたら山嵐は安心した安心した was reassuredらしかった。
二時間目二時間目 second hourに白墨白墨 chalkを持って持って take控所控所 staff roomを出た出た left; set out from時時 time; whenには何だか何だか somehow敵地敵地 enemy territoryへ乗り込む乗り込む march intoような気がした気がした had the feeling。教場教場 classroomへ出る出る make one's appearanceと今度今度 this timeの組組 classは前前 previousより大きな大きな big奴奴 guysばかりである。おれは江戸っ子江戸っ子 Tōkyō (Edo) manで華奢華奢 of slender buildに小作り小作り small buildに出来ている出来ている be made; be constructedから、どうも高い高い high所所 placeへ上がって上がって climb up (onto)も押し押し authorityが利かない利かない not be effective。喧嘩喧嘩 quarrelなら相撲取相撲取 grapplingとでもやってみせるが、こんな大僧大僧 big fellowsを四十人四十人 forty peopleも前前 in front ofへ並べて並べて line up; place in rows、ただ一枚一枚 one (counter for flat objects)の舌舌 tongueをたたいてたたいて beat; strike恐縮させる恐縮させる inspire admiration手際手際 skillはない。しかしこんな田舎者田舎者 country folksに弱身弱身 weaknessを見せる見せる showと癖になる癖になる set a bad precedentと思った思った thoughtから、なるべく大きな声声 voiceをして、少々少々 slightly巻き舌巻き舌 rolling one's tongue; with a trillで講釈講釈 lectureしてやった。最初のうち最初のうち for a whileは、生徒生徒 studentsも烟に捲かれて烟に捲かれて bewildered (lit: wrapped in smoke)ぼんやりしていたぼんやりしていた were stupefiedから、それ見ろそれ見ろ Take that!とますますますます more and more得意になって得意になって feeling triumphant、べらんめいべらんめい letting them have it調調 tone (of voice)を用いてたら用いていたら using (provisional form)、一番一番 most前の列列 rowの真中真中 middleに居た居た was、一番強そう強そう strong-lookingな奴が、いきなり起立して起立して stand up先生先生 Sensei (teacher)と云う云う call out。そら来たそら来た here it comesと思いながら、何だ何だ what is itと聞いたら聞いたら asked、「あまり早くて早くて fast分からん分からん can't understandけれ、もちっと、ゆるゆるゆるゆる slowly遣って遣って do; deliver (a speech)、おくれんかな、もし」と云った。おくれんかな、もしは生温るい生温るい tepid; halfhearted言葉言葉 wordsだ。早過ぎる早過ぎる too fastなら、ゆっくり云ってやるが、おれは江戸っ子だから君等の君等の your言葉は使えない使えない can't use、分らなければ分らなければ (if you) can't understand、分るまで待ってる待ってる waitがいいと答えて答えて repliedやった。この調子でこの調子で in this manner二時間目は思ったより、うまく行ったうまく行った went well。ただ帰りがけ帰りがけ on the way backに生徒の一人一人 one (person)がちょっとこの問題問題 problemを解釈解釈 explanationをしておくれんかな、もし、と出来そう出来そう looks doableもない幾何幾何 geometryの問題を持って逼った逼った approachには冷汗冷汗 cold sweatを流した流した let flow。仕方がない仕方がない had no choiceから何だか分らない、この次この次 next time教えて教えて teachやると急いで急いで hurriedly引き揚げたら引き揚げたら withdrew (from a place)、生徒がわあと囃した囃した bantered; hooted。その中にその中に among them出来ん出来んと云う声が聞える聞える could be heard。箆棒め箆棒め Idiots!、先生だって、出来ないのは当り前当り前 not unreasonable; goes without sayingだ。出来ないのを出来ないと云うのに不思議不思議 wonder; mysteryがあるもんか。そんなものが出来るくらいなら四十円四十円 forty yenでこんな田舎田舎 country; the sticksへくるもんかと控所へ帰って来た。今度今度 this timeはどうだとまた山嵐が聞いた。うんと云ったが、うんだけでは気が済まなかった気が済まなかった didn't seem sufficientから、この学校学校 schoolの生徒は分らずや分らずや bunch of boneheadsだなと云ってやった。山嵐は妙な妙な odd; curious顔顔 face; facial expressionをしていた。
三時間目三時間目 third hourも、四時間目四時間目 fourth hourも昼過ぎ昼過ぎ afternoonの一時間一時間 hourも大同小異大同小異 generally the sameであった。最初の最初の the first日日 dayに出た出た made an appearance級級 classesは、いずれも少々少々 a little bitずつ失敗した失敗した made a mistake; experienced failure。教師教師 instructorははたで見るほどはたで見るほど as it seems from a distance楽楽 easyじゃないと思った思った thought; realized。授業授業 lessonsはひと通りひと通り in a general way; respectably enough済んだ済んだ finished; were concludedが、まだ帰れない帰れない cannot go home、三時三時 three o'clockまでぽつ然としてぽつ然として vacantly; absent-mindedly待ってなくてはならん待ってなくてはならん must wait。三時になると、受持受持 under one's charge級の生徒生徒 studentsが自分自分 (their) ownの教室教室 classroomを掃除して掃除して clean報知報知 notificationにくるから検分検分 inspectionをするんだそうだ。それから、出席簿出席簿 attendance listを一応一応 once調べて調べて checkようやくお暇お暇 leisure (hours)が出る出る present itself。いくら月給月給 salaryで買われた買われた be bought; be purchased身体身体 bodyだって、あいた時間時間 timeまで学校学校 schoolへ縛りつけて縛りつけて tied to机机 deskと睨めっくら睨めっくら stare-downをさせるなんて法がある法がある to be reasonableものか。しかしほかの連中ほかの連中 rest of the company; everyone elseはみんな大人しく大人しく obedientlyご規則通りご規則通り adhering to the rulesやってるから新参新参 newcomerのおればかり、だだを捏ねるだだを捏ねる make a fuss (about something)のもよろしくないと思って我慢我慢 patience; sufferanceしていた。帰りがけ帰りがけ on the way backに、君君 you; hey何でもかんでも何でもかんでも no matter what; regardless of circumstances三時過三時過 after three o'clockまで学校学校 schoolにいさせるのは愚愚 foolish; asinineだぜと山嵐山嵐 Yama Arashi (nickname for Hotta, the head mathematics teacher)に訴えたら訴えたら complained、山嵐はそうさアハハハと笑った笑った laughedが、あとから真面目真面目 seriousになって、君あまり学校の不平不平 discontent; grievanceを云う云う say; mentionと、いかんぜ。云うなら僕僕 meだけに話せ話せ tell; talk to、随分随分 very much妙な妙な strange; odd人人 peopleも居る居る to beからなと忠告忠告 warning; cautionがましいがましい sounding like (suffix)事事 act; factを云った。四つ角四つ角 corner; intersectionで分れた分れた parted (ways)から詳しい詳しい detailed事は聞く聞く askひまがなかった。
それからうちへ帰ってくる帰ってくる come back (to)と、宿宿 lodgingの亭主亭主 master; landlordがお茶お茶 teaを入れましょう入れましょう put in; make (tea)と云って云って sayingやって来るやって来る approached。お茶を入れると云うからご馳走をするご馳走をする treat (someone to something)のかと思う思う thinkと、おれの茶を遠慮なく遠慮なく without hesitation; without restraint入れて自分自分 oneselfが飲む飲む drinkのだ。この様子ではこの様子では at this rate留守中留守中 while one is awayも勝手に勝手に as one pleasesお茶を入れましょうを一人で一人で by oneself履行している履行している perform; executeかも知れないかも知れない might (do)。亭主が云うには手前手前 he (refers to the master in this case)は書画書画 paintings and calligraphy骨董骨董 antiquesがすきで、とうとうこんな商買商買 trade; businessを内々で内々で privately; informally始める始める beginようになりました。あなたもお見受け申すお見受け申す judging by looksところ大分大分 a great dealご風流ご風流 taste; refinementでいらっしゃるらしい。ちと道楽に道楽に hobby; pastimeお始めなすってはいかがですと、飛んでもない飛んでもない absurd勧誘勧誘 invitation; persuasionをやる。二年前二年前 two years beforeある人ある人 a certain personの使使 errand; businessに帝国ホテル帝国ホテル Imperial Hotelへ行った行った went (to)時時 time; occasionは錠前直し錠前直し locksmithと間違えられた間違えられた be mistaken (for)事がある。ケットを被ってケットを被って wrapping (myself) with a blanket、鎌倉鎌倉 Kamakura (place name)の大仏大仏 large Buddha statueを見物見物 sightseeingした時は車屋車屋 rickshaw driverから親方親方 master; sirと云われた云われた was called out to。その外その外 besides this今日今日 todayまで見損われた見損われた make a mistake; misjudge (usually みそこなわれた)事は随分随分 quite a lot; oftenあるが、まだおれをつらまえてつらまえて catch; take hold of大分ご風流でいらっしゃると云ったものはない。大抵大抵 generally; in most casesはなりなり dress; costumeや様子様子 appearanceでも分る分る can understand。風流人風流人 a man of taste; connoisseurなんていうものは、画画 painting; drawingを見て見て look atも、頭巾頭巾 hoodを被る被る wearか短冊短冊 poetry paper (narrow strip)を持ってる持ってる have; holdものだ。このおれを風流人だなどと真面目に真面目に seriously云うのはただの曲者曲者 scoundrel; villainじゃない。おれはそんな呑気呑気 easygoing; carefreeな隠居隠居 retired person; old manのやるような事は嫌い嫌い don't likeだと云ったら、亭主はへへへへと笑いながら笑いながら while laughing、いえ始めから好きな好きな take an interest in; likeものは、どなたもございませんが、いったんこの道道 pathにはいるとなかなか出られません出られません cannot leave; cannot quitと一人で茶を注いで注いで pour妙な妙な strange; odd手付手付 way of using one's handをして飲んでいる。実は実は actually; in factゆうべ茶を買って買って buyくれと頼んで頼んで requestedおいたのだが、こんな苦い苦い bitter濃い濃い strong (taste)茶はいやだ。一杯一杯 one cup飲むと胃に答える胃に答える affect (upset) one's stomachような気がする気がする get a feeling。今度今度 next timeからもっと苦くないのを買ってくれと云ったら、かしこまりましたとまた一杯しぼってしぼって press out飲んだ。人の茶だと思って無暗に無暗に excessively; unduly飲む奴奴 guyだ。主人主人 landlordが引き下がって引き下がって took (his) leaveから、明日明日 the next dayの下読下読 preparationをしてすぐ寝て寝て go to bedしまった。
それから毎日毎日毎日毎日 every day; day after day学校学校 schoolへ出て出て make one's appearanceは規則通り規則通り according to the rules働く働く work; perform one's duties、毎日毎日帰って来る帰って来る return homeと主人主人 landlordがお茶お茶 teaを入れましょう入れましょう put in; make (tea)と出てくる。一週間一週間 one weekばかりしたら学校の様子様子 situationもひと通りひと通り in generalは飲み込めた飲み込めた grasped; understoodし、宿宿 lodgingの夫婦夫婦 husband and wifeの人物人物 character; personalityも大概大概 for the most partは分った分った understood。ほかの教師教師 instructorsに聞いて聞いて ask; talk withみると辞令辞令 letter of appointmentを受けて受けて receive一週間から一ヶ月一ヶ月 one monthぐらいの間間 period of timeは自分自分 oneselfの評判評判 repute; popularityがいいだろうか、悪るい悪い no goodだろうか非常に非常に very much; exceedingly気に掛かる気に掛かる be of importance; matterそうであるが、おれは一向一向 (not) at allそんな感じ感じ feelingはなかった。教場教場 classroomで折々折々 from time to timeしくじるしくじる blunderとその時時 time; occasionだけはやな心持ち心持ち feelingだが三十分三十分 thirty minutesばかり立つ立つ elapse (time); pass (time)と奇麗に奇麗に cleanly消えて消えて disappear; vanishしまう。おれは何事によらず何事によらず in all matters長く長く long (time)心配心配 worryしようと思って思って think (of doing)も心配が出来ない出来ない cannot do男男 manだ。教場のしくじりが生徒生徒 studentsにどんな影響影響 effect; impressionを与えて与えて impart (on someone)、その影響が校長校長 principalや教頭教頭 head instructorにどんな反応反応 reactionを呈する呈する present; exhibitかまるで無頓着無頓着 indifferentであった。おれは前前 before; earlierに云う通り云う通り exactly as statedあまり度胸の据った度胸の据った having nerves of steel男ではないのだが、思い切り思い切り determinationはすこぶるいい人間人間 personである。この学校がいけなければすぐどっかへ行く行く go; move on覚悟覚悟 resolveでいたから、狸狸 Tanuki (nickname for the school principal)も赤シャツ赤シャツ Red Shirt (nickname for the head teacher)も、ちっとも恐しく恐しく inspiring fearはなかった。まして教場教場 classroomの小僧共小僧共 youngsters; young urchinsなんかには愛嬌愛嬌 complimentsもお世辞お世辞 flatteryも使う使う use; apply気になれなかった気になれなかった could not compel (myself) to。学校はそれでいいのだが下宿下宿 lodgingsの方方 direction; alternativeはそうはいかなかった。亭主亭主 landlordが茶を飲み飲み drinkに来る来る comeだけなら我慢もする我慢もする tolerateが、いろいろな者者 things (usually 物)を持ってくる持ってくる bring。始め始め the first timeに持って来た持って来た broughtのは何でも何でも of all things印材印材 artists' sealsで、十ばかり十ばかり about ten並べて並べて lay out in a rowおいて、みんなで三円三円 three yenなら安い安い bargain物物 things; goodsだお買いなさいお買いなさい please buy (them)と云う。田舎巡り田舎巡り travelingのヘボ絵師ヘボ絵師 hack painterじゃあるまいし、そんなものは入らない入らない don't needと云ったら、今度今度 next timeは華山華山 Kazan (name)とか何とかとか何とか or something like that云う男の花鳥花鳥 flowers and birdsの掛物掛物 hanging scrollをもって来た。自分自分 oneselfで床の間床の間 alcoveへかけて、いい出来出来 workmanship; craftsmanshipじゃありませんかと云うから、そうかなと好加減に好加減に halfheartedly挨拶挨拶 answer; responseをすると、華山には二人二人 two peopleある、一人一人 one (of them)は何とか何とか something華山で、一人は何とか華山ですが、この幅幅 scrollはその何とか華山の方だと、くだらないくだらない worthless; trifling講釈講釈 lectureをしたあとで、どうです、あなたなら十五円十五円 fifteen yenにしておきます。お買いなさいと催促催促 pressing; urgingをする。金金 moneyがないと断わる断わる refuse; declineと、金なんか、いつでもようございますとなかなか頑固頑固 stubbornだ。金があっても買わないんだと、その時は追っ払っちまった追っ払っちまった drove off; repelled。その次次 nextには鬼瓦鬼瓦 corner ridge tile; gargoyleぐらいな大硯大硯 large inkstoneを担ぎ込んだ担ぎ込んだ lugged in (on his shoulder)。これは端渓端渓 Tankei (place in China - inkstone-producing region)です、端渓ですと二遍二遍 twiceも三遍三遍 three timesも端渓がる端渓がる Tankei'd (verb form - not a real word)から、面白半分に面白半分に half for amusement端渓た何だいと聞いたら、すぐ講釈講釈 lectureを始め出した始め出した started; launched into。端渓には上層上層 upper stratum中層中層 middle stratum下層下層 lower stratumとあって、今時今時 these daysのものはみんな上層ですが、これはたしかに中層です、この眼眼 texture; grain; markingをご覧なさいご覧なさい please observe。眼が三つ三つ threeあるのは珍らしい珍らしい unusual。溌墨溌墨 ink formationの具合具合 condition; stateも至極至極 extremelyよろしい、試して試して tryご覧なさいと、おれの前前 front ofへ大きな大きな large硯硯 the ink stoneを突きつける突きつける push toward。いくらだと聞くと、持主持主 ownerが支那支那 Chinaから持って帰って来て持って帰って来て brought back是非是非 by all means売りたい売りたい wants to sellと云いますから、お安くして三十円三十円 thirty yenにしておきましょうと云う。この男は馬鹿馬鹿 an idiotに相違ない相違ない no doubt。学校の方はどうかこうか無事に無事に without mishap勤まりそう勤まりそう perform one's dutiesだが、こう骨董責骨董責 antique pushingに逢って逢って meet; encounterはとても長く続きそう続きそう continueにない。
そのうち学校学校 schoolもいやになった。ある日ある日 one dayの晩晩 evening; night大町大町 Ōmachi (place name)と云う云う called所所 placeを散歩散歩 walk; strollしていたら郵便局郵便局 post officeの隣り隣り next doorに蕎麦蕎麦 soba (buckwheat noodles)とかいて、下下 belowに東京東京 Tōkyōと注注 annotation; noteを加えた加えた added看板看板 signがあった。おれは蕎麦が大好き大好き very fond of; having a passion forである。東京に居った居った was (in a place)時時 time; periodでも蕎麦屋蕎麦屋 soba shopの前前 in front ofを通って通って pass by薬味薬味 seasoning; spicesの香い香い smell; fragranceをかぐかぐ smellと、どうしても暖簾暖簾 shop curtainがくぐりたくくぐりたく want to duck throughなった。今日今日 todayまでは数学数学 mathematicsと骨董骨董 antiquesで蕎麦を忘れていた忘れていた had forgottenが、こうして看板を見る見る see; spotと素通り素通り pass byが出来なく出来なく can't doなる。ついでだから一杯一杯 one bowl食って食って eat行こう行こう goと思って思って thinking上がり込んだ上がり込んだ went inside。見ると看板ほどでもない。東京と断わる断わる make mention of以上以上 so long asはもう少しもう少し a little more奇麗奇麗 clean; well keptにしそうなものだが、東京を知らない知らない don't know aboutのか、金金 moneyがないのか、滅法滅法 awfullyきたない。畳畳 tatami mats (flooring)は色が変って色が変って discoloredお負けにお負けに (and) on top of that砂砂 sandでざらざらしているざらざらしている feel gritty。壁壁 wallsは煤煤 sootで真黒真黒 pitch blackだ。天井天井 ceilingはランプの油烟油烟 oil smoke; carbon blackで燻ぼってる燻ぼってる become soot-coveredのみか、低くって低くって low、思わず思わず involuntarily; reflexively首を縮める首を縮める duck low; bend down one's headくらいだ。ただ麗々と麗々と conspicuously蕎麦の名前名前 name; titleをかいて張り付けた張り付けた posted; pasted upねだん付けねだん付け price list; menuだけは全く全く completely新しい新しい new。何でも何でも as if古い古い oldうちを買って買って bought; purchased二三日二三日 two or three days前前 before; earlierから開業した開業した opened for businessに違いなかろう違いなかろう is most probably the case。ねだん付の第一号第一号 the first oneに天麩羅天麩羅 tempuraとある。おい天麩羅を持ってこい持ってこい bring meと大きな大きな big; loud (voice)声を出した声を出した called out。するとこの時時 timeまで隅隅 cornerの方方 directionに三人三人 three peopleかたまってかたまって clustered together、何かつるつる、ちゅうちゅう食ってた連中連中 groupが、ひとしくひとしく all together (in a similar manner)おれの方を見た。部屋部屋 roomが暗い暗い darkので、ちょっと気がつかなかった気がつかなかった hadn't noticedが顔を合せる顔を合せる look at each otherと、みんな学校の生徒生徒 studentsである。先方先方 they; the other partyで挨拶挨拶 salutationをしたから、おれも挨拶をした。その晩は久し振に久し振に first time in a long while蕎麦を食ったので、旨かった旨かった was good (food)から天麩羅を四杯四杯 four bowls平げた平げた downed; ate up。
翌日翌日 the next day何の気もなく何の気もなく unsuspectingly教場教場 classroomへはいると、黒板黒板 blackboard一杯一杯 full (covering)ぐらいな大きな大きな large字字 charactersで、天麩羅先生天麩羅先生 Tempura Senseiとかいてある。おれの顔顔 faceを見て見て look atみんなわあと笑った笑った laughed。おれは馬鹿馬鹿しい馬鹿馬鹿しい ridiculous; sillyから、天麩羅を食っちゃ食っちゃ eat可笑しい可笑しい funny; amusingかと聞いた聞いた asked。すると生徒の一人生徒の一人 one of the studentsが、しかし四杯四杯 four bowlsは過ぎる過ぎる too much; excessiveぞな、もし、と云った云った said; replied。四杯食おうが五杯五杯 five bowls食おうがおれの銭銭 moneyでおれが食うのに文句文句 objection; complaintがあるもんかと、さっさと講義講義 lectureを済まして済まして wrapped up控所控所 staff roomへ帰って来た帰って来た returned (to)。十分十分 ten minutes立って立って elapse (time)次次 nextの教場へ出る出る make one's appearanceと一つ一つ one; on the one hand天麩羅四杯なり。但し但し however笑うべからず笑うべからず one must not laugh。と黒板にかいてある。さっきは別に別に particularly腹も立たなかった腹も立たなかった was not angryが今度今度 this timeは癪に障った癪に障った touched a nerve。冗談冗談 jokeも度を過ごせば度を過ごせば take too farいたずらいたずら misconduct; unacceptable behaviorだ。焼餅焼餅 yakimochi (toasted rice cake)の黒焦黒焦 black charのようなもので誰も誰も no one (with negative verb)賞め手賞め手 impressed (person); admirerはない。田舎者田舎者 country folkはこの呼吸呼吸 give and take; tact (lit: breathing)が分からない分からない don't understandからどこまで押して行って押して行って push alongも構わない構わない is okay; doesn't matterと云う了見了見 notion; ideaだろう。一時間一時間 one hourあるくと見物見物 sightseeingする町町 townもないような狭い狭い narrow; limited都都 cityに住んで住んで live (in)、外に外に otherwise; besides (this)何にも何にも nothing (at all)芸がない芸がない of no interest; good for nothingから、天麩羅事件事件 incidentを日露戦争日露戦争 Russo-Japanese War (1904-1905)のように触れちらかす触れちらかす run around talking aboutんだろう。憐れな憐れな pathetic奴等奴等 bunch (of people)だ。小供の時小供の時 youth; childhoodから、こんなに教育教育 education; upbringingされるから、いやにひねっこびたひねっこびた gnarled; twisted、植木鉢植木鉢 flower potの楓楓 maple treeみたような小人小人 small-minded personが出来る出来る are producedんだ。無邪気無邪気 innocentならいっしょに笑ってもいいが、こりゃなんだ。小供の癖に小供の癖に as is common with youths乙に乙に singularly; affectedly毒気毒気 maliceを持ってる持ってる have; hold。おれはだまって、天麩羅を消して消して erase、こんないたずらが面白い面白い amusingか、卑怯な卑怯な cowardly; mean冗談冗談 jokeだ。君等君等 you guysは卑怯と云う意味意味 meaningを知ってる知ってる know; understandか、と云ったら、自分自分 you; yourselfがした事事 act; factを笑われて怒る怒る get angryのが卑怯じゃろうがな、もしと答えた答えた answered奴奴 guyがある。やな奴だ。わざわざ東京東京 Tōkyōから、こんな奴を教え教え teachingに来た来た cameのかと思ったら思ったら considered情なくなった情なくなった felt wretched; felt miserable。余計な余計な excess減らず口減らず口 back talk; useless argumentを利かないで利かないで without applying勉強しろ勉強しろ pay attention (study)と云って、授業授業 classを始めてしまった始めてしまった started。それから次の教場へ出たら天麩羅を食うと減らず口が利きたくなるものなりと書いてある。どうも始末に終えない始末に終えない incorrigible; out of hand。あんまり腹が立ったから、そんな生意気生意気 smart-aleck; impertinentな奴は教えないと云ってすたすたすたすた in haste帰って来てやった。生徒は休み休み time offになって喜んだ喜んだ were pleasedそうだ。こうなると学校学校 schoolより骨董骨董 antiquesの方方 alternativeがまだましまし preferableだ。
天麩羅天麩羅 tempura蕎麦蕎麦 soba (buckwheat noodles)もうちへ帰って帰って returned、一晩一晩 one night寝たら寝たら sleptそんなに肝癪に障らなくなった肝癪に障らなくなった no longer bothered me。学校学校 schoolへ出て出て make one's appearanceみると、生徒生徒 studentsも出ている。何だか何だか somehow訳が分らない訳が分らない not sure what's going on。それから三日三日 three daysばかりは無事無事 without incidentであったが、四日目四日目 fourth dayの晩晩 eveningに住田住田 Sumita (place name)と云う云う called所所 placeへ行って行って went (to)団子団子 rice dumplingsを食った食った ate。この住田と云う所は温泉温泉 onsen (hot springs)のある町町 townで城下城下 central town (lit: below the castle)から汽車汽車 steam trainだと十分十分 ten minutesばかり、歩いて歩いて on foot; walking三十分三十分 thirty minutesで行かれる、料理屋料理屋 restaurantsも温泉宿宿 innsも、公園公園 parkもある上にある上に in addition to having遊廓遊廓 red-light districtがある。おれのはいった団子屋団子屋 dumpling houseは遊廓の入口入口 entranceにあって、大変大変 terribly; very muchうまいという評判評判 renown; reputationだから、温泉に行った帰りがけに帰りがけに on the way homeちょっと食ってみた。今度今度 this timeは生徒生徒 studentsにも逢わなかった逢わなかった didn't meet; didn't seeから、誰も誰も no one (with negative)知るまい知るまい should not knowと思って思って thought、翌日翌日 next day学校へ行って、一時間目一時間目 first hourの教場教場 classroomへはいると団子二皿二皿 two plates七銭七銭 seven sen (0.07 yen)と書いてある書いてある has been written。実際実際 in fact; indeedおれは二皿食って七銭払った払った paid。どうも厄介厄介 annoying; bothersomeな奴等奴等 people; lotだ。二時間目二時間目 second hourにもきっと何か何か somethingあると思うと遊廓の団子旨い旨い tasty; delicious旨いと書いてある。あきれ返ったあきれ返った hopeless; lame奴等だ。団子がそれで済んだ済んだ be finishedと思ったら今度は赤手拭赤手拭 red towelと云うのが評判になった。何何 whatの事事 act; factだと思ったら、つまらないつまらない trifling; insignificant来歴来歴 background; originだ。おれはここへ来て来て came; arrivedから、毎日毎日 every day住田の温泉へ行く事に極めている極めている decided。ほかの所は何何 whateverを見て見て seeも東京東京 Tōkyōの足元にも及ばない足元にも及ばない can't compare with; is far inferior toが温泉だけは立派な立派な outstanding; splendidものだ。せっかく来た者だからせっかく来た者だから since (I) came all the way毎日はいってやろうという気気 intentionで、晩飯晩飯 evening meal前前 beforeに運動かたがた運動かたがた partly also for exercise出掛る出掛る set out for。ところが行くときは必ず必ず without fail西洋西洋 Western-made手拭手拭 towel; washclothの大きな大きな big; large奴奴 one; thingをぶら下げてぶら下げて dangle行く。この手拭が湯湯 hot water (bath)に染った染った be steeped in上上 having beenへ、赤い赤い red縞縞 stripesが流れ出した流れ出した began to bleed (color)のでちょっと見ると紅色紅色 deep red; crimsonに見える見える appear。おれはこの手拭を行き行き goingも帰り帰り returningも、汽車に乗って乗って ride (on)もあるいても、常に常に at all timesぶら下げている。それで生徒がおれの事を赤手拭赤手拭と云うんだそうだ。どうも狭い狭い narrow; limited土地土地 land; regionに住んでる住んでる live inとうるさいうるさい pesky; annoyingものだ。まだある。温泉は三階三階 three-storyの新築新築 new constructionで上等上等 premium (service)は浴衣浴衣 cotton robeをかして、流しをつけて流しをつけて scrub one's back八銭で済む八銭で済む for only eight sen (0.08 yen)。その上にその上に on top of that女女 woman; maidが天目天目 tea bowl stand (short for 天目台)へ茶茶 teaを載せて載せて place; set出す出す serve。おれはいつでも上等へはいった。すると四十円四十円 forty yenの月給月給 monthly salaryで毎日上等へはいるのは贅沢贅沢 extravaganceだと云い出した云い出した (people) began saying。余計なお世話だ余計なお世話だ unneeded assistance; meddling。まだある。湯壺湯壺 bathing areaは花崗石花崗石 graniteを畳み上げて畳み上げて lay out (in a pattern)、十五畳敷十五畳敷 fifteen-mat area (about 24 sq meters, or 260 sq ft)ぐらいの広さ広さ size; areaに仕切ってある仕切ってある bounded; marked off。大抵大抵 usuallyは十三四人十三四人 thirteen or fourteen people漬ってる漬ってる are soaking; are immersed inがたまには誰も居ない誰も居ない no one is present事がある。深さ深さ depthは立って立って standing乳の辺乳の辺 chest areaまであるから、運動のために、湯の中湯の中 through (around) the bathを泳ぐ泳ぐ swimのはなかなか愉快愉快 pleasure; enjoymentだ。おれは人人 peopleの居ないのを見済して見済して observe carefullyは十五畳の湯壺を泳ぎ巡って泳ぎ巡って swim around喜んでいた喜んでいた enjoyed。ところがある日ある日 one day三階から威勢よく威勢よく in high spirits下りて下りて went downstairs今日今日 todayも泳げるかなとざくろ口ざくろ口 entrance to the bathing areaを覗いて覗いて take a lookみると、大きな札札 signboard; placardへ黒々と黒々と in deep black湯の中で泳ぐべからず泳ぐべからず no swimming; swimming prohibitedとかいて貼りつけてある貼りつけてある was posted。湯の中で泳ぐものは、あまりあるまいから、この貼札貼札 posted signはおれのために特別に特別に specially新調した新調した procured; had madeのかも知れないかも知れない could be (that)。おれはそれから泳ぐのは断念した断念した gave up (doing)。泳ぐのは断念したが、学校へ出てみると、例の通り例の通り as happened before黒板黒板 blackboardに湯の中で泳ぐべからずと書いてあるには驚ろいた驚ろいた was surprised。何だか生徒全体生徒全体 the entire student bodyがおれ一人おれ一人 me aloneを探偵している探偵している are tailing; are tracking; are spying onように思われた。くさくさしたくさくさした felt wretched。生徒が何を云ったって、やろうと思った事をやめるようなおれではないが、何でこんな狭苦しい狭苦しい confined鼻の先がつかえる鼻の先がつかえる suffocating; stifling (lit: the tip of one's nose is obstructed)ような所へ来たのかと思うと情なくなった情なくなった felt miserable。それでうちへ帰ると相変らず相変らず as always骨董責骨董責 antique hawkingである。