ぶうと云って云って making a sound (of)汽船汽船 steamboatがとまると、艀艀 lighter; baggage boatが岸岸 shoreを離れて離れて depart from; separate from、漕ぎ漕ぎ rowing寄せて来た寄せて来た drew near。船頭船頭 boatman; ferrymanは真裸真裸 stark nakedに赤赤 redふんどしふんどし loinclothをしめている。野蛮な野蛮な barbaric所所 placeだ。もっともこの熱さ熱さ heatでは着物着物 clothingはきられまいきられまい probably can't stand to wear。日日 sunが強い強い strong; bright; intenseので水水 waterがやに光る光る glimmer; glisten。見つめて見つめて gaze (at)いても眼眼 eyesがくらむくらむ be dazzled; be blinded。事務員事務員 officer (ship; boat)に聞いて聞いて inquireみるとおれはここへ降りる降りる get off (the boat)のだそうだ。見るところでは見るところでは from the looks of it大森大森 Ōmoriぐらいな漁村漁村 fishing villageだ。人人 a personを馬鹿馬鹿 foolにしていらあ、こんな所に我慢我慢 tolerance; enduranceが出来る出来る can do (something)ものかと思った思った thoughtが仕方がない仕方がない (I) had no choice。威勢よく威勢よく with great energy一番に一番に first飛び込んだ飛び込んだ jumped into (the lighter)。続づいて続づいて following (me)五六人五六人 five or six othersは乗ったろう乗ったろう boarded。外に外に in addition大きな大きな large箱箱 boxesを四つ四つ four (of something)ばかり積み込んで積み込んで loaded赤ふん赤ふん the guy in the red loinclothは岸へ漕ぎ戻して来た戻して来た returned。陸陸 land; the shoreへ着いた着いた arrived時時 whenも、いの一番にいの一番に first of all飛び上がって飛び上がって jumped out、いきなりいきなり immediately、磯磯 beachに立っていた立っていた was standing鼻たれ鼻たれ sniveling小僧小僧 errand boy; urchinをつらまえてつらまえて nabbed; collared中学校中学校 middle schoolはどこだと聞いた。小僧はぼんやりしてぼんやりして thoughtlessly; listlessly、知らん知らん don't knowがの、と云った云った said (replied)。気の利かぬ気の利かぬ dull-witted田舎もの田舎もの bumpkinだ。猫の額ほどな猫の額ほどな postage-stamp size (lit: the size of a cat's forehead)町内町内 townの癖に癖に in spite of (being)、中学校のありかも知らぬ奴奴 guy; chap; characterがあるものか。ところへ妙妙 odd; unusualな筒っぽう筒っぽう tight-sleeved (kimono)を着た着た wearing男男 manがきて、こっちへ来い来い comeと云うから、尾いて行ったら尾いて行ったら followed (conditional form)、港屋港屋 Minatoya (name)とか云う宿屋宿屋 inn; lodging houseへ連れて来た連れて来た brought (me to)。やな女女 womenが声声 voicesを揃えて揃えて in unison (voices)お上がりなさいお上がりなさい welcome; come inと云うので、上がるのがいやになった。門口門口 entrance; gatewayへ立ったなり中学校を教えろ教えろ tell me (where it is)と云ったら、中学校はこれから汽車汽車 (steam) trainで二里二里 two ri (7.85 km; 4.88 miles)ばかり行かなくっちゃいけない行かなくっちゃいけない need to goと聞いて、なお上がるのがいやになった。おれは、筒っぽうを着た男から、おれの革鞄革鞄 bagsを二つ二つ two (items)引きたくって引きたくって grabbed; snatched、のそのそのそのそ slowly; quietlyあるき出したあるき出した set out walking。宿屋のものは変な顔変な顔 strange facial expressionをしていた。
停車場停車場 stationはすぐ知れた知れた found; discovered。切符切符 ticketも訳なく訳なく without difficulty買った買った purchased。乗り込んで乗り込んで get onboardみるとマッチ箱マッチ箱 match boxのような汽車汽車 (steam) trainだ。ごろごろと五分五分 five minutesばかり動いた動いた movedと思ったら思ったら when it seemed (that)、もう降りなければならない降りなければならない time to get off (the train)。道理で道理で no wonder切符が安い安い inexpensiveと思った。たった三銭三銭 three sen (0.03 yen)である。それから車車 car (rickshaw)を傭って傭って hired、中学校中学校 middle schoolへ来たら来たら when (I) arrived、もう放課後放課後 after school hoursで誰も誰も no one (with negative verb)居ない居ない not be there。宿直宿直 person on night dutyはちょっと用達用達 running errandsに出た出た went outと小使小使 janitorが教えた教えた told me。随分随分 very much気楽気楽 carefree; easygoingな宿直がいるものだ。校長校長 principalでも尋ねよう尋ねよう visit; call onかと思ったが、草臥れた草臥れた tired; worn outから、車に乗って乗って boarded (rickshaw)宿屋宿屋 innへ連れて行け連れて行け take (someone somewhere)と車夫車夫 rickshaw manに云い付けた云い付けた ordered; instructed。車夫は威勢よく威勢よく with great energy山城屋山城屋 Yamashiroya (name)と云ううちへ横付けにした横付けにした drew up to。山城屋とは質屋質屋 pawn shopの勘太郎勘太郎 Kantarō (name of neighbor boy with whom Botchan fought during his school days)の屋号屋号 name (of a store)と同じ同じ the sameだからちょっと面白く面白く interesting思った。
何だか何だか for some reason二階二階 second floorの楷子段楷子段 stairway; stairsの下下 belowの暗い暗い dark部屋部屋 roomへ案内した案内した lead (a person) to。熱くって熱くって hot居られやしない。こんな部屋はいやだと云ったらあいにくみんな塞がって塞がって occupiedおりますからと云いながら革鞄革鞄 bagsを抛り出した抛り出した tossed downまま出て行った出て行った left; went out。仕方がない仕方がない there was nothing to be done (about it)から部屋の中中 insideへはいって汗をかいて汗をかいて sweating我慢していた我慢していた endured; put up with。やがて湯に入れ湯に入れ the bath is readyと云うから、ざぶりとざぶりと with a splash飛び込んで飛び込んで jumped into、すぐ上がった上がった got out (of the bath)。帰りがけ帰りがけ on the way backに覗いて覗いて look inみると涼しそうな涼しそうな cool (temperature) looking部屋がたくさん空いている空いている be open; be vacant。失敬失敬 disrespectful; impertinentな奴奴 folks; peopleだ。嘘嘘 lie; fibをつきゃあがった。それから下女下女 the maidが膳膳 dining trayを持って来た持って来た brought。部屋は熱つかったが、飯飯 food; mealは下宿下宿 (Botchan's former) lodgingsのよりも大分大分 considerably旨かった旨かった was delicious。給仕給仕 table serviceをしながら下女がどちらからおいでになりましたと聞くから、東京東京 Tōkyōから来たと答えた答えた answered。すると東京はよい所所 placeでございましょうと云ったから当り前当り前 of course; (that) goes without sayingだと答えてやった。膳を下げた下げた took away (lit: lowered)下女が台所台所 kitchenへいった時分時分 when ...、大きな大きな loud (big)笑い声笑い声 laughterが聞えた聞えた could be heard。くだらないくだらない foolish; inaneから、すぐ寝た寝た went to bedが、なかなか寝られない。熱いばかりではない。騒々しい騒々しい noisy; loud。下宿の五倍五倍 five times (magnitude)ぐらいやかましい。うとうとしたらうとうとしたら (when I) dozed off清清 Kiyo (name of Botchan's former maidservant)の夢夢 dreamを見た見た saw。清が越後越後 Echigo (old province in north-central Japan - now part of Niigata-ken)の笹飴笹飴 sweet rice jelly wrapped in a bamboo leafを笹ぐるみ笹ぐるみ bamboo leaf and all、むしゃむしゃむしゃむしゃ (munching sound)食っている食っている was eating。笹は毒毒 poisonousだからよしたらよかろうよしたらよかろう (you) should stopと云うと、いえこの笹がお薬お薬 medicineでございますと云って旨そうに食っている。おれがあきれ返ってあきれ返って greatly amazed大きな口口 mouthを開いて開いて openedハハハハと笑ったら眼が覚めた眼が覚めた woke up。下女が雨戸雨戸 shuttersを明けて明けて openingいる。相変らず相変らず as before空空 the skyの底底 bottomが突き抜ぬけた突き抜けた pierced throughような天気天気 weatherだ。
道中道中 a journey; travelをしたら茶代茶代 a tip (lit: tea money)をやるものだと聞いていた聞いていた had heard。茶代をやらないと粗末粗末 coarseness; crudenessに取り扱われる取り扱われる be treatedと聞いていた。こんな、狭くて狭くて cramped暗い暗い dark部屋部屋 roomへ押し込める押し込める coop up (in)のも茶代をやらないせいだろう。見すぼらしい見すぼらしい shabby; poor-looking服装服装 appearance; dressをして、ズックの革鞄ズックの革鞄 jute bagと毛繻子毛繻子 sateenの蝙蝠傘蝙蝠傘 umbrella (lit: "bat" umbrella - from bat wing-like black color and edge shape)を提げてる提げてる carry; take alongからだろう。田舎者田舎者 country folksの癖にの癖に as one would expect of人人 a personを見括った見括った disparaged; belittledな。一番一番 first; foremost茶代をやって驚かして驚かして surprise (someone)やろう。おれはこれでも学資学資 education fundsのあまりを三十円三十円 thirty yenほど懐懐 pocketに入れて入れて put into東京東京 Tōkyōを出て来た出て来た departed fromのだ。汽車汽車 (steam) trainと汽船汽船 steamboatの切符代切符代 ticket fareと雑費雑費 miscellaneous expensesを差し引いて差し引いて subtract (from); deduct、まだ十四円十四円 fourteenほどある。みんなやったってこれからは月給月給 monthly salaryを貰う貰う receiveんだから構わない構わない doesn't matter。田舎者はしみったれしみったれ stinginess; misersだから五円五円 five yenもやれば驚ろいて眼眼 eyesを廻す廻す roll; spinに極っているに極っている is a given (that); is certain。どうするか見ろ見ろ let's seeと済して済して decided; settled; concluded顔顔 faceを洗って洗って washed、部屋へ帰って帰って returned待ってる待ってる was waitingと、夕べ夕べ yesterday eveningの下女下女 maidが膳膳 (breakfast) trayを持って来た持って来た brought。盆盆 trayを持って給仕給仕 table serviceをしながら、やににやにや笑ってるにやにや笑ってる grinning; smirking。失敬な失敬な rude; discourteous奴奴 folksだ。顔顔 (my) faceのなかをお祭りお祭り festival; feteでも通りゃ通りゃ pass throughしまいし。これでもこの下女の面面 face; mugよりよっぽど上等上等 superior; refinedだ。飯飯 mealを済まして済まして finishedからにしようと思っていた思っていた was thinkingが、癪に障った癪に障った was provoked; was irritatedから、中途で中途で in the middle五円札五円札 a five-yen noteを一枚一枚 one (note; bill)出して出して took out、あとでこれを帳場帳場 the front deskへ持って行け持って行け takeと云ったら云ったら when I said、下女は変な変な strange顔をしていた。それから飯を済ましてすぐ学校学校 schoolへ出懸けた出懸けた set out for。靴靴 shoesは磨いてなかった磨いてなかった were not polished。
学校は昨日昨日 yesterday車車 car (rickshaw)で乗りつけた乗りつけた rode up toから、大概大概 generally; for the most partの見当見当 estimate (of where things are)は分っている分っている understood。四つ角四つ角 street cornerを二三度二三度 two or three times曲がったら曲がったら turned (a corner)すぐ門門 gateの前前 in front ofへ出た出た came out; arrived。門から玄関玄関 entranceまでは御影石御影石 graniteで敷きつめてある敷きつめてある be paved (with)。きのうこの敷石敷石 paving stonesの上上 top ofを車でがらがらと通った通った passed; traveled時時 when ...は、無暗に無暗に indiscreetly仰山な仰山な loud; ostentatious音音 sound; noiseがするので少し少し a little弱った弱った be embarrassed。途中途中 on the wayから小倉小倉 (black) duck clothの制服制服 (school) uniformを着た着た wearing生徒生徒 studentsにたくさん逢った逢った met; encounteredが、みんなこの門をはいって行く。中には中には among (them)おれより背が高くって背が高くって tall強そう強そう powerful; strong (looking)なのが居る居る to be。あんな奴を教える教える teachのかと思ったら何だか何だか somehow気味が悪るく気味が悪るく be nervous; feel uneasyなった。名刺名刺 calling cardを出したら出したら present; hand over校長室校長室 principal's officeへ通した通した showed (someone to a place)。校長校長 (school) principalは薄髯薄髯 light beardのある、色色 colorの黒い黒い dark; black、目目 eyesの大きな大きな large狸狸 tanuki (raccoon dog)のような男男 manである。やにもったいぶっていたもったいぶっていた put on airs。まあ精出して精出して exert oneself勉強して勉強して word hard at; studyくれと云って、恭しく恭しく respectfully; ceremoniously大きな印印 (official) sealの捺った捺った affixed (seal)、辞令辞令 letter of appointmentを渡した渡した handed over (to)。この辞令は東京東京 Tōkyōへ帰る帰る returnとき丸めて丸めて ball up; crumple up海海 seaの中へ中へ into抛り込んで抛り込んで throw into; hurl intoしまった。校長は今に今に soon職員職員 staffに紹介して紹介して introduceやるから、一々一々 one by oneその人にこの辞令を見せる見せる show; present (to)んだと云って聞かした。余計な余計な excessive手数手数 trouble; botherだ。そんな面倒な面倒な troublesome; difficult事事 act; factをするよりこの辞令を三日間三日間 three days職員室職員室 staff roomへ張り付ける張り付ける post; display方方 option; alternativeがましまし preferableだ。
教員教員 instructorsが控所控所 loungeへ揃う揃う gatherには一時間目一時間目 first hourの喇叭喇叭 bugleが鳴らなくてはならぬ鳴らなくてはならぬ would have to sound。大分大分 a fair amount時間時間 timeがある。校長校長 principalは時計時計 watchを出して出して take out見て見て look at、追々追々 by and by; in due timeゆるりとゆるりと leisurely話す話す tellつもりだが、まず大体大体 overallの事事 act; factを呑み込んで呑み込んで grasp; swallowおいてもらおうと云って云って say、それから教育教育 educationの精神精神 spirit; ethosについて長い長い longお談義お談義 discourse; lectureを聞かした聞かした told (me)。おれは無論無論 of courseいい加減にいい加減に politely but indifferently聞いていたが、途中から途中から from partway throughこれは飛んだ飛んだ preposterous; outrageous所所 placeへ来た来た came (to)と思った思った thought。校長の云うようにはとても出来ない出来ない can't do。おれみたような無鉄砲無鉄砲 rash; recklessなものをつらまえてつらまえて seize; get hold of、生徒生徒 studentの模範模範 role modelになれの、一校一校 the schoolの師表師表 paragonと仰がれなくてはいかん仰がれなくてはいかん must be looked up to (as)の、学問学問 learning; scholarship以外に以外に in addition to個人個人 individualの徳化徳化 moral influenceを及ぼさなくて及ぼさなくて (must) make (someone) feelは教育者教育者 educatorになれないの、と無暗に無暗に out of nowhere法外な法外な exorbitant; unreasonable注文注文 requestをする。そんなえらい人人 personが月給月給 monthly salary四十円四十円 forty yenで遥々遥々 from a great distanceこんな田舎田舎 backwater townへくるもんか。人間人間 people; human beingsは大概大概 for the most part似た似た similarもんだ。腹が立てば腹が立てば get angry (provisional form)喧嘩喧嘩 quarrelの一つ一つ onceぐらいは誰でも誰でも anyoneするだろうと思ってたが、この様子様子 state of affairsじゃめったにめったに seldom口も聞けない口も聞けない cannot speak、散歩散歩 a walkも出来ない。そんなむずかしい役役 position; postなら雇う雇う hire前前 beforeにこれこれだと話す話す tell; explainがいい。おれは嘘をつく嘘をつく tell a lie; be dishonestのが嫌い嫌い detested; repugnantだから、仕方がない仕方がない there's no other choice、だまされてだまされて be deceived; be tricked来たのだとあきらめてあきらめて resolve oneself to、思い切りよく思い切りよく with firm resolve、ここで断わって断わって refuse; turn down帰っちまおう帰っちまおう go homeと思った。宿屋宿屋 innへ五円五円 five yenやったから財布財布 wallet; purseの中中 insideには九円九円 nine yenなにがししかない。九円じゃ東京東京 Tōkyōまでは帰れない。茶代茶代 tipなんかやらなければよかった。惜しい惜しい regrettable事事 act; factをした。しかし九円だって、どうかならない事はない。旅費旅費 travel expensesは足りなくっても足りなくっても even if not enough嘘をつくよりましだと思って、到底到底 in (no) wayあなたのおっしゃる通りおっしゃる通り as you sayにゃ、出来ません、この辞令辞令 letter of appointmentは返します返します returnと云ったら、校長は狸狸 tanuki (racoon dog)のような眼眼 eyesをぱちつかせておれの顔顔 faceを見ていた見ていた looked at。やがて、今今 just nowのはただ希望希望 wish; hopeである、あなたが希望通り出来ないのはよく知っている知っている knowから心配心配 worryしなくってもいいと云いながら笑った笑った laughed。そのくらいよく知ってるなら、始めから始めから from the start威嚇さなければ威嚇さなければ not threaten; not frightenいいのに。
そう、こうする内に内に while (doing something)喇叭喇叭 bugleが鳴った鳴った sounded。教場教場 classroomの方方 directionが急に急に suddenlyがやがやする。もう教員教員 instructorsも控所控所 loungeへ揃いましたろう揃いましたろう (should be) gatheredと云う云う say; tellから、校長校長 principalに尾いてに尾いて following教員控所へはいった。広い広い spacious細長い細長い rectangular部屋部屋 roomの周囲周囲 perimeterに机机 desksを並べて並べて be in a rowみんな腰をかけている腰をかけている were seated。おれがはいったのを見て見て see; notice、みんな申し合せた申し合せた agreed in advanceようにおれの顔顔 faceを見た。見世物見世物 spectacle; exhibitionじゃあるまいし。それから申し付けられた申し付けられた told; instructed通り通り as; according to一人一人一人一人 each personの前前 frontへ行って行って go; move辞令辞令 letter of appointmentを出して出して present挨拶挨拶 greeting; salutationをした。大概大概 for the most partは椅子椅子 chairを離れて離れて get up from (lit: separated from)腰をかがめる腰をかがめる bowばかりであったが、念の入った念の入った meticulousのは差し出した差し出した held out辞令を受け取って受け取って received一応一応 once拝見拝見 viewing; inspectionをしてそれを恭しく恭しく politely返却した返却した returned。まるで宮芝居宮芝居 minstrel showの真似真似 imitationだ。十五人目十五人目 fifteenth personに体操体操 physical educationの教師教師 instructorへと廻って廻って make a round来た来た came時時 whenには、同じ同じ the same事事 act; factを何返も何返も a number of timesやるので少々少々 a bit; a littleじれったくじれったく impatient; annoyedなった。向う向う they; the other partiesは一度一度 one timeで済む済む be done (with); suffice。こっちは同じ所作所作 performanceを十五返十五返 fifteen times繰り返して繰り返して repeatいる。少し少し a littleはひとの了見了見 thoughts; viewpointも察して察して perceive; be sensitive toみるがいい。
挨拶挨拶 greetings; introductionsをしたうちに教頭教頭 head teacherのなにがしなにがし of a certain nameと云う云う calledのが居た居た there was。これは文学士文学士 degree holderだそうだ。文学士と云えば大学大学 universityの卒業生卒業生 graduateだからえらい人人 personなんだろう。妙に妙に strangely女のような女のような effeminate; woman-like優しい優しい gentle; delicate; soft声声 voiceを出す出す speak (voice)人だった。もっとも驚いた驚いた surprisingのはこの暑い暑い hot (weather)のにフランネルの襯衣襯衣 shirtを着ている着ている was wearing。いくらか薄い薄い thin; light地地 fabricには相違なくっても相違なくっても even though there's no doubt that暑いには極ってる極っている is certain; is a given。文学士だけにご苦労千万ご苦労千万 extreme effort; great painsな服装服装 appearance; dressをしたもんだ。しかもそれが赤シャツ赤シャツ red shirtだから人を馬鹿馬鹿 fool; idiotにしている。あとから聞いたら聞いたら asked; inquiredこの男男 manは年が年中年が年中 year round赤シャツを着るんだそうだ。妙な病気病気 illness; afflictionがあった者者 person; individualだ。当人当人 the person in questionの説明説明 explanation; storyでは赤は身体身体 body; physical conditionに薬薬 medicineになるから、衛生衛生 healthのためにわざわざわざわざ specially; expressly誂らえる誂らえる place a custom orderんだそうだが、入らざる入らざる unnecessary心配心配 concernだ。そんならついでに着物着物 kimono (coat)も袴袴 (formal Japanese) pantsも赤にすればいい。それから英語英語 Englishの教師教師 instructorに古賀古賀 Koga (name)とか云う大変大変 terribly顔色顔色 complexion; facial colorの悪るい悪るい bad; unwell男が居た。大概大概 in general顔顔 faceの蒼い蒼い pale; sickly (lit: blue)人は瘠せてる瘠せてる thin; lean; gauntもんだがこの男は蒼くふくれているふくれている swollen。昔昔 long ago小学校小学校 elementary schoolへ行く行く go (to school)時分時分 time; period、浅井の民さん浅井の民さん Tami (first name) Asai (family name)と云う子子 childが同級生同級生 classmateにあったが、この浅井のおやじおやじ fatherがやはり、こんな色つや色つや complexion; colorだった。浅井浅井 Mr. Asaiは百姓百姓 farmerだから、百姓になるとあんな顔になるかと清清 Kiyo (name of Botchan's former maidservant)に聞いてみたら、そうじゃありません、あの人はうらなりうらなり fruit grown near the top end of the vineの唐茄子唐茄子 pumpkin; squashばかり食べる食べる eatから、蒼くふくれるんですと教えて教えて explain; inform; teachくれた。それ以来それ以来 since that (time)蒼くふくれた人を見れば見れば (when I) see必ず必ず invariablyうらなりの唐茄子を食った食った ate酬い酬い payback (for); result ofだと思う思う think; consider。この英語の教師もうらなりばかり食ってるに違いない違いない no doubt。もっともうらなりとは何の事何の事 what sort of thingか今もって今もって still; even now知らない。清に聞いてみた事事 act; factはあるが、清は笑って笑って laughed答えなかった答えなかった didn't answer。大方大方 probably清も知らないんだろう。それからおれと同じ同じ the same数学数学 mathematicsの教師に堀田堀田 Hotta (name)というのが居た。これは逞しい逞しい stout; brawny毬栗毬栗 close-cropped head (lit: chestnut with burrs)坊主坊主 monk; one with a shaved headで、叡山叡山 Eizan (name of a temple)の悪僧悪僧 renegade monkと云うべき面構面構 look; facial expressionである。人人 a person (Botchan in this case)が叮寧に叮寧に politely辞令辞令 letter of appointmentを見せたら見せたら showed見向き見向き looking toward; taking notice ofもせず、やあ君君 youが新任新任 new man; new hireの人か、ちと遊び遊び visit; social callに来給え来給え come overアハハハと云った。何何 whatがアハハハだ。そんな礼儀礼儀 manners; courtesyを心得ぬ心得ぬ not be aware of奴奴 fellowの所所 place; homeへ誰誰 whoが遊びに行く遊びに行く pay a visitものか。おれはこの時からこの坊主に山嵐山嵐 Yama Arashi (mountain storm; frightful mountain deity)という渾名渾名 nicknameをつけてやった。漢学漢学 Chinese study; classicsの先生先生 teacherはさすがに堅い堅い stiff; formalものだ。昨日昨日 yesterdayお着きお着き arrivalで、さぞお疲れお疲れ fatigue; exhaustionで、それでもう授業授業 classをお始めお始め beginで、大分大分 considerableご励精ご励精 diligenceで、――とのべつにのべつに ceaselessly弁じた弁じた spokeのは愛嬌愛嬌 personal charm; engaging mannerのあるお爺さんお爺さん older gentlemanだ。画学画学 drawing; artの教師は全く全く completely芸人芸人 artist; performer風風 style; typeだ。べらべらしたべらべらした thin; flimsy透綾透綾 thin silk materialの羽織羽織 haori (Japanese half-coat)を着て、扇子扇子 (folding) fanをぱちつかせてぱちつかせて wielding、お国お国 home (country); native regionはどちらでげす、え? 東京東京 Tōkyō? そりゃ嬉しい嬉しい glad、お仲間お仲間 comradeが出来て出来て form; be established……私私 Iもこれで江戸っ子江戸っ子 native of Tōkyō (Edo = pre-Meiji name for Tōkyō)ですと云った。こんなのが江戸っ子なら江戸には生れたくない生れたくない do not want to have been born (there)もんだと心中に心中に at heart; innermost (thoughts)考えた考えた thought; considered。そのほか一人一人一人一人 each person; one by oneについてこんな事を書けば書けば (if I) writeいくらでもある。しかし際限がない際限がない would go on foreverからやめる。
挨拶挨拶 greetings; introductionsが一通り一通り for the time being済んだら済んだら (when) finished、校長校長 principalが今日今日 todayはもう引き取って引き取って withdraw; leaveもいい、もっとも授業上授業上 concerning classesの事事 act; factは数学数学 mathematicsの主任主任 head (teacher)と打ち合せをして打ち合せをして arrange; consultおいて、明後日明後日 day after tomorrowから課業課業 lessons; teachingを始めて始めて beginくれと云った云った said。数学の主任は誰誰 whoかと聞いて聞いて askedみたら例の例の the aforementioned; none other than山嵐山嵐 Yama Arashi (nickname for Hotta, the head mathematics teacher)であった。忌々しい忌々しい hateful; accursed、こいつの下下 beneath; underに働く働く workのかおやおやと失望した失望した despaired。山嵐は「おい君君 youどこに宿ってる宿ってる stayingか、山城屋山城屋 Yamashiroya (name of inn)か、うん、今に今に soon行って行って go (come to you)相談する相談する talk (with someone about something)」と云い残して云い残して say in parting白墨白墨 chalkを持って持って take教場教場 classroomへ出て行った出て行った left (for); set out (for)。主任の癖にの癖に for ...; being ...向う向う he; him (the other party)から来て来て come相談するなんて不見識な不見識な lacking dignity男男 manだ。しかし呼び付ける呼び付ける summon (a person)よりは感心感心 admirableだ。
それから学校学校 schoolの門門 gateを出て出て leave (out of)、すぐ宿宿 innへ帰ろう帰ろう returnと思った思った thought; consideredが、帰ったって仕方がない仕方がない can't do anythingから、少し少し a little町町 townを散歩散歩 walkしてやろうと思って、無暗に無暗に at random足の向く方足の向く方 the direction my feet pointedをあるき散らしたあるき散らした wandered; strolled。県庁県庁 prefectural (government) officeも見た見た saw。古い古い old前世紀前世紀 former centuryの建築建築 architectureである。兵営兵営 barracksも見た。麻布麻布 Azabuの聯隊聯隊 regiment (=連隊)より立派立派 grand; splendidでない。大通り大通り main streetも見た。神楽坂神楽坂 Kagurazakaを半分半分 halfに狭くした狭くした narrowed; made narrowぐらいな道幅道幅 road widthで町並町並 shops and houses (lining a street)はあれより落ちる落ちる be inferior to。二十五万二十五万 250,000 (25 x 10,000)石石 koku (measure of rice used to assess wealth; approximately one person-year of rice)の城下城下 castle townだって高高 amountの知れた知れた triflingものだ。こんな所所 placeに住んで住んで liveご城下だなどと威張ってる威張っている take pride in人間人間 peopleは可哀想可哀想 pitiful; patheticなものだと考えながら考えながら while thinkingくると、いつしか山城屋の前前 front ofに出た。広い広い expansiveようでも狭い狭い limitedものだ。これで大抵大抵 mostly; generallyは見尽した見尽した seen everythingのだろう。帰って飯飯 mealでも食おう食おう eatと門口門口 entrance; gatewayをはいった。帳場帳場 the front deskに坐っていた坐っていた was seated (at)かみさんかみさん hostessが、おれの顔顔 faceを見ると急に急に quickly; suddenly飛び出してきて飛び出してきて hurried toward (me)お帰り……と板の間板の間 wooden floorへ頭をつけた頭をつけた bowed (lit: attached her head to the floor)。靴靴 shoesを脱いで脱いで take off上がる上がる enter (step up into)と、お座敷お座敷 roomがあきましたからと下女下女 maidが二階二階 second floorへ案内案内 guidance; escortをした。十五畳十五畳 15 mats (about 25 sq meters; about 250 sq ft)の表表 front side二階で大きな大きな large床の間床の間 alcoveがついている。おれは生れてから生れてから in one's life (lit: since being born)まだこんな立派な座敷へはいった事事 act; factはない。この後後 afterいつはいれるか分らない分らない don't knowから、洋服洋服 Western-style clothesを脱いで浴衣浴衣 summer (cotton) robe一枚一枚 one layerになって座敷の真中真中 right in the middleへ大の字に大の字に like the character 大寝て寝て lie downみた。いい心持ち心持ち feelingである。
手紙手紙 letterをかいてしまったら、いい心持ち心持ち feelingになって眠気眠気 drowsinessがさしたから、最前最前 a short time earlierのように座敷座敷 roomの真中真中 right in the middleへのびのびと大の字に大の字に like the character 大寝た寝た slept。今度今度 this timeは夢夢 dreamも何も何も (not) anything見ない見ない not seeでぐっすり寝た。この部屋部屋 roomかいと大きな大きな large; loud声声 voiceがするので目目 eyesが覚めたら覚めたら awakened、山嵐山嵐 Yama Arashi (nickname for Hotta, the head mathematics teacher)がはいって来たはいって来た entered。最前は失敬失敬 rudeness、君君 youの受持ち受持ち one's responsibilitiesは……と人人 a personが起き上がる起き上がる wake upや否やや否や as soon as談判談判 conference; conversationを開かれた開かれた beganので大いに大いに considerably狼狽した狼狽した panicked; felt confused。受持ちを聞いて聞いて listen toみると別段別段 particularlyむずかしい事事 act; factもなさそうだから承知した承知した consented to; agreed to。このくらいの事なら、明後日明後日 day after tomorrowは愚愚 foolishness、明日明日 tomorrowから始めろ始めろ begin (imperative form)と云ったって云ったって (even if he) said驚ろかない驚ろかない (I) would not be surprised。授業上の授業上の concerning teaching打ち合せ打ち合せ discussionが済んだら済んだら (when it was) ended、君はいつまでこんな宿屋宿屋 innに居る居る be; stayつもりでもあるまい、僕僕 Iがいい下宿下宿 lodgingsを周旋して周旋して arrange; intercede (on behalf of someone)やるから移りたまえ移りたまえ please relocate。外外 otherのものでは承知しないが僕が話せば話せば (provided I) talk (to them)すぐ出来る出来る can be done。早い早い soon方方 alternativeがいいから、今日今日 today見て、あす移って、あさってから学校学校 schoolへ行けば行けば go (provisional form)極りがいい極りがいい will be settled nicelyと一人で一人で by oneself; on one's own呑み込んで呑み込んで figured outいる。なるほど十五畳敷十五畳敷 15-mat roomにいつまで居る訳訳 reason; causeにも行くまい。月給月給 salaryをみんな宿料宿料 room chargesに払って払って pay; spendも追っつかない追っつかない not keep upかもしれぬ。五円五円 five yenの茶代茶代 tipを奮発して奮発して splurge (on)すぐ移るのはちと残念残念 a pity; too badだが、どうせ移る者なら者なら if one has to ...、早く引き越して引き越して move; relocate落ち付く落ち付く settle in方が便利便利 expediencyだから、そこのところはよろしく山嵐に頼む頼む request; look to (a person for help)事にした。すると山嵐はともかくもいっしょに来てみろと云うから、行った。町はずれ町はずれ the edge of townの岡岡 hillの中腹中腹 halfway (up a hill)にある家家 houseで至極至極 extremely閑静閑静 quiet; tranquilだ。主人主人 the husbandは骨董骨董 curios; antiquesを売買する売買する trade; buy and sell; deal inいか銀いか銀 Ikagin (name)と云う男男 manで、女房女房 the wifeは亭主亭主 husbandよりも四つ四つ four (years)ばかり年嵩年嵩 elderの女女 womanだ。中学校中学校 middle schoolに居た時時 time; periodウィッチと云う言葉言葉 wordを習った習った learned事があるがこの女房はまさにウィッチに似ている似ている looked like; resembled。ウィッチだって人の女房だから構わない構わない doesn't matter (to me)。とうとう明日明日 tomorrow; the next dayから引き移る事にした。帰り帰り returnに山嵐は通町通町 Tōrichō (place name - old)で氷水氷水 ice waterを一杯一杯 one cup奢った奢った treated (someone to something)。学校で逢った逢った met時はやに横風な横風な arrogant失敬な奴奴 fellowだと思った思った thoughtが、こんなにいろいろ世話世話 help; assistanceをしてくれるところを見ると、わるい男でもなさそうだ。ただおれと同じ同じ sameようにせっかちせっかち hasty; quick-temperedで肝癪持肝癪持 hot-headedらしい。あとで聞いたらこの男が一番一番 most生徒生徒 studentsに人望人望 popularity; favorable reputationがあるのだそうだ。