「二人二人 two (people); the two of usは各自の各自の each one's; respective室室 roomsに引き取った引き取った withdrew to; retired toぎり顔を合わせませんでした顔を合わせませんでした didn't see each other; didn't approach one another。Kの静かな静かな quiet; still事事 situation; state of affairsは朝朝 morningと同じ同じ the sameでした。私私 I; meも凝と凝と fixedly; intently考え込んでいました考え込んでいました was thinking; was lost in thought。
私は当然当然 naturally; of course自分の自分の one's own心心 heart; soulをKに打ち明ける打ち明ける reveal; divulgeべきはずだと思いました思いました thought; felt。しかしそれにはもう時機時機 chance; time; occasionが後れてしまった後れてしまった was too late; had passedという気気 feeling; senseも起りました起りました arose; came about。なぜ先刻先刻 earlier; beforeKの言葉言葉 words; speechを遮って遮って interrupt、こっちから逆襲しなかった逆襲しなかった didn't counter; didn't push back onのか、そこが非常な非常な very great; extreme手落り手落り oversight; omission (usually 手抜かり)のように見えて来ました見えて来ました began to appear (as); began to seem。せめてKの後後 afterに続いて続いて following (on)、自分は自分の思う通り通り just as; exactly asをその場場 place; spot; sceneで話して話して relate; tellしまったら、まだ好かったろう好かったろう would have been betterにとも考えました。Kの自白自白 confessionに一段落一段落 breakpoint; pauseが付いた付いた arrived at今今 now; the presentとなって、こっちからまた同じ事を切り出す切り出す bring up; broachのは、どう思案して思案して reflect on; ponder; considerも変変 odd; strange; unnaturalでした。私はこの不自然不自然 unnaturalness; awkwardnessに打ち勝つ打ち勝つ overcome方法方法 means; methodを知らなかった知らなかった didn't knowのです。私の頭頭 head; mindは悔恨悔恨 regretに揺られて揺られて be swayed; be shakenぐらぐらしました。
私はKが再び再び once again仕切仕切 partition; divisionの襖襖 fusuma (sliding door)を開けて開けて open向う向う the other side; the other partyから突進して突進して rush forward; advanceきてくれれば好い好い good; fine; favorableと思いました。私にいわせれば、先刻はまるで不意撃不意撃 surprise attackに会った会った was met (by; with)も同じでした。私にはKに応ずる応ずる respond; meet準備準備 preparationも何も何も (no)thingなかったのです。私は午前午前 morning; before noonに失った失った lostものを、今度今度 this time; now; shortlyは取り戻そう取り戻そう take back; regainという下心下心 ulterior motiveを持って持って have; holdいました。それで時々時々 occasionally; from time to time眼眼 eyesを上げて上げて lift; raise、襖を眺めました眺めました looked at; viewed。しかしその襖はいつまで経って経って pass; elapseも開きません開きません not open。そうしてKは永久に永久に thereafter; indefinitely静かなのです。
その内その内 before long; in time私の頭は段々段々 gradually; bit by bitこの静かさに掻き乱される掻き乱される be agitated; be stirred upようになって来ました。Kは今襖の向うで何何 whatを考えているだろうと思うと、それが気になって堪らない堪らない unbearable; can't stand (it)のです。不断不断 usually; ordinarilyもこんな風風 mannerにお互いお互い each otherが仕切一枚一枚 one layerを間間 interval; spanに置いて置いて set; place黙り合って黙り合って maintain respective silenceいる場合場合 case; situationは始終始終 all the timeあったのですが、私はKが静かであればあるほど、彼の存在存在 existence; presenceを忘れる忘れる forgetのが普通の普通の usual; typical状態状態 situation; state of affairsだったのですから、その時時 time; occasionの私はよほど調子調子 mood; conditionが狂っていた狂っていた was off-kilter; was out of sortsものと見なければなりません。それでいて私はこっちから進んで進んで advance; take the initiative襖を開ける事ができなかったのです。一旦一旦 onceいいそびれたいいそびれた missed the chance to say私は、また向うから働き掛けられる働き掛けられる be approached (for something)時機を待つ待つ wait for; awaitより外により外に other than仕方がなかった仕方がなかった had no choice but to ...のです。
しまいに私私 I; meは凝として凝として stay still; remain motionlessおられなくなりました。無理に無理に under compulsion; counter to one's will凝としていれば、Kの部屋部屋 roomへ飛び込みたくなる飛び込みたくなる want to rush in (to)のです。私は仕方なしに仕方なしに having no other recourse立って立って stand; rise; get up縁側縁側 verandaへ出ました出ました went out (to)。そこから茶の間茶の間 tea room; hearth roomへ来て来て came (to)、何という何という specific; defined目的目的 goal; objective; aimもなく、鉄瓶鉄瓶 iron kettleの湯湯 hot waterを湯呑湯呑 teacupに注で注で pour一杯一杯 one cupful呑みました呑みました drank。それから玄関玄関 entry hallへ出ました。私はわざとKの室室 roomを回避する回避する avoidようにして、こんな風風 mannerに自分自分 oneselfを往来往来 street; roadの真中真中 middleに見出した見出した found (oneself)のです。私には無論無論 of courseどこへ行く行く go (to)という的的 aim; objectiveもありません。ただ凝としていられないだけでした。それで方角方角 direction; bearingも何も何も (no)thing構わずに構わずに not caring; without heed (for)、正月正月 New Year'sの町町 townを、むやみに歩き廻った歩き廻った wandered; roamedのです。私の頭頭 head; mindはいくら歩いてもKの事事 matters; concernsでいっぱいになっていました。私もKを振い落す振い落す shake off気気 intentionで歩き廻る訳訳 circumstance; situationではなかったのです。むしろ自分から進んで進んで advance; take the initiative彼彼 he; himの姿姿 guise; semblanceを咀嚼しながら咀嚼しながら digest; take inうろついていたのです。
私には第一に第一に first of all彼が解しがたい解しがたい hard to fathom男男 man; fellowのように見えました見えました appeared; seemed。どうしてあんな事を突然突然 all of the sudden; out of the blue私に打ち明けた打ち明けた disclosed; divulgedのか、またどうして打ち明けなければいられないほどに、彼の恋恋 (romantic) loveが募って来た募って来た gained strength; gathered forceのか、そうして平生の平生の usual; ordinary彼はどこに吹き飛ばされて吹き飛ばされて be blown away (to)しまったのか、すべて私には解しにくい問題問題 question; problemでした。私は彼の強い強い strong; resilient事を知っていました知っていました knew; was aware of。また彼の真面目な真面目な serious; earnest事を知っていました。私はこれから私の取る取る take (on); assumeべき態度態度 attitude; approach; mannerを決する決する decide; determine前前 beforeに、彼について聞かなければならない聞かなければならない need to learn; need to find out多く多く much; many thingsをもっていると信じました信じました believed; concluded。同時に同時に at the same timeこれからさき彼を相手相手 opposing party; rivalにするのが変に変に oddly; strangely気味が悪かった気味が悪かった was unsettling; was discomfortingのです。私は夢中に夢中に in a dream; in a daze町の中中 middle; withinを歩きながら、自分の室に凝と坐っている坐っている be seated彼の容貌容貌 appearance; featuresを始終始終 continuously; the whole time眼の前眼の前 before one's eyesに描き出しました描き出しました drew; expressed; imagined。しかもいくら私が歩いても彼を動かす動かす move; budge; dislodge事は到底到底 (cannot) possiblyできないのだという声声 voiceがどこかで聞こえるのです。つまり私には彼が一種の一種の a certain kind of魔物魔物 apparition; demonのように思えた思えた thought of; imagined (as)からでしょう。私は永久永久 forever; for always彼に祟られた祟られた be haunted; be tormentedのではなかろうかという気さえしました。
私が疲れて疲れて exhausted; worn out宅宅 house; homeへ帰った帰った returned (to)時時 time、彼の室は依然として依然として still; as before人気人気 sign of life; human presenceのないように静か静か quietでした。
「私私 I; meが家家 house; homeへはいると間もなくと間もなく soon after ...俥俥 rickshawの音音 soundが聞こえました聞こえました became audible; could be heard。今今 now; the presentのように護謨輪護謨輪 rubberized wheels; rubber tiresのない時分時分 time; periodでしたから、がらがらいう厭な厭な unpleasant; disagreeable響き響き echo; reverberaton; noiseがかなりの距離距離 distanceでも耳に立つ耳に立つ carry to one's earsのです。車車 car; cart; rickshawはやがて門前門前 before the gateで留まりました留まりました came to a stop。
私が夕飯夕飯 evening meal; dinnerに呼び出された呼び出された was called toのは、それから三十分三十分 thirty minutesばかり経った経った passed; elapsed後後 afterの事事 situation; caseでしたが、まだ奥さん奥さん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)とお嬢さんお嬢さん daughter; young ladyの晴着晴着 one's best (clothes)が脱ぎ棄てられた脱ぎ棄てられた taken off and set aside (clothing)まま、次の次の next; adjoining室室 roomを乱雑乱雑 disorder; clutter に彩って彩って decorate; adornいました。二人二人 two (people); the two of themは遅くなる遅くなる grow lateと私たちに済まない済まない be unacceptable (to)というので、飯飯 mealの支度支度 preparationに間に合う間に合う be in time (for)ように、急いで急いで in a rush帰って来た帰って来た came homeのだそうです。しかし奥さんの親切親切 kindness; considerationはKと私とに取ってに取って to ...; for ...ほとんど無効無効 to no effectも同じ同じ the same事でした。私は食卓食卓 dinner tableに坐りながら坐りながら sitting (at)、言葉言葉 words; speechを惜しがる惜しがる use sparingly; be frugal with人人 personのように、素気ない素気ない curt; blunt挨拶挨拶 responseばかりしていました。Kは私よりもなお寡言寡言 reticent; taciturnでした。たまに親子連親子連 parent and child togetherで外出した外出した went out; went calling女女 women; ladies二人の気分気分 feeling; moodが、また平生平生 usual; ordinaryよりは勝れて勝れて by far晴れやか晴れやか clear; bright; livelyだったので、我々我々 we; usの態度態度 manner; moodはなおの事眼に付きます眼に付きます attact notice; stand out。奥さんは私にどうかしたのかと聞きました。私は少し少し a little; a bit心持が悪い心持が悪い not feeling well; out of sortsと答えました答えました answered; replied。実際実際 indeed; in fact私は心持が悪かったのです。すると今度今度 this time; nextはお嬢さんがKに同じ問い問い questionを掛けました掛けました posed (a question)。Kは私のように心持が悪いとは答えません。ただ口が利きたくない口が利きたくない don't feel like talkingからだといいました。お嬢さんはなぜ口が利きたくないのかと追窮しました追窮しました pursued (a matter); followed up。私はその時時 time; momentふと重たい重たい heavy瞼瞼 eyelidsを上げて上げて lifted; raisedKの顔顔 faceを見ました見ました looked at; observed。私にはKが何何 whatと答えるだろうかという好奇心好奇心 curiosityがあったのです。Kの唇唇 lipsは例のように例のように as always少し顫えて顫えて quiver; trembleいました。それが知らない知らない not know; not be familiar with人から見ると、まるで返事返事 answer; responseに迷っている迷っている be at a loss (for)としか思われないしか思われない could only think (that)のです。お嬢さんは笑いながら笑いながら with a smile; with a laughまた何かむずかしい事を考えて考えて consider; ponderいるのだろうといいました。Kの顔は心持心持 somewhat; a little薄赤くなりました薄赤くなりました reddened a bit。
その晩晩 evening私私 I; meはいつもより早く早く early; soon床床 bed; beddingへ入りました入りました got into。私が食事食事 meal; dinnerの時時 time気分が悪い気分が悪い not feeling well; out of sortsといったのを気にして気にして be concerned over; worry about、奥さん奥さん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)は十時頃十時頃 around ten (o'clock)蕎麦湯蕎麦湯 soba brothを持って来て持って来て bring (in)くれました。しかし私の室室 roomはもう真暗真暗 pitch dark; in total darknessでした。奥さんはおやおやといって、仕切り仕切り partitionの襖襖 fusuma (sliding door)を細目に開けました細目に開けました cracked (open)。洋燈洋燈 lamp; lightの光光 lightがKの机机 deskから斜めに斜めに at an angle; at a slantぼんやりと私の室に差し込みました差し込みました flowed into; shone into。Kはまだ起きていた起きていた was awakeものとみえます。奥さんは枕元枕元 by one's pillow; bedsideに坐って坐って sit; seat oneself、大方大方 probably; most likely風邪風邪 a coldを引いた引いた caught (a cold)のだろうから身体身体 bodyを暖ためる暖ためる warm up; warmがいいといって、湯呑湯呑 teacupを顔顔 faceの傍傍 vicinity; proximityへ突き付ける突き付ける thrust beforeのです。私はやむをえず、どろどろした蕎麦湯を奥さんの見ている見ている watch; observe前前 front ofで飲みました飲みました drank。
私は遅くなる遅くなる grow lateまで暗いなかで暗いなかで in the dark考えて考えて think; considerいました。無論無論 of course一つ一つ one (thing)問題問題 question; problemをぐるぐる廻転させる廻転させる take (around) in circlesだけで、外に外に apart; otherwise何の何の (no) sort of効力効力 efficacy; effectもなかったのです。私は突然突然 suddenly; at onceKが今今 now隣りの隣りの adjacent; adjoining室で何何 whatをしているだろうと思い出しました思い出しました called to mind; began to consider。私は半ば半ば halfway無意識に無意識に unconsciously; reflexivelyおいと声を掛けました声を掛けました called out。すると向う向う the other side; the other partyでもおいと返事返事 answer; replyをしました。Kもまだ起きていたのです。私はまだ寝ない寝ない turn in; sleepのかと襖ごしに聞きました聞きました asked。もう寝るという簡単な簡単な simple; succinct挨拶挨拶 responseがありました。何をしているのだと私は重ねて重ねて once more問いました問いました asked; inquired。今度今度 this timeはKの答え答え answer; replyがありません。その代りその代り rather; instead五、六分五、六分 five or six minutes経った経った passed; elapsedと思う頃頃 timeに、押入押入 closetをがらりと開けて、床を延べる延べる spread out音音 soundが手に取るように手に取るように (close enough to) grasp in one's hand聞こえました。私はもう何時何時 what timeかとまた尋ねました尋ねました asked; inquired。Kは一時二十分一時二十分 twenty past oneだと答えました。やがて洋燈をふっと吹き消す吹き消す blow out音がして、家中家中 all through the houseが真暗なうちに、しんと静まりました静まりました fell silent。
しかし私の眼眼 eyesはその暗いなかでいよいよ冴えて来る冴えて来る come to life; awakenばかりです。私はまた半ば無意識な状態状態 condition; stateで、おいとKに声を掛けました。Kも以前以前 before; priorと同じ同じ the sameような調子調子 tone; veinで、おいと答えました。私は今朝今朝 that morning彼彼 he; himから聞いた事事 matter; affairについて、もっと詳しい詳しい detailed; full; complete話話 talk; discussionをしたいが、彼の都合都合 circumstances; convenienceはどうだと、とうとうこっちから切り出しました切り出しました broached (a subject)。私は無論襖越に襖越に through the fusumaそんな談話談話 talk; conversationを交換する交換する exchange気気 intentionはなかったのですが、Kの返答返答 reply; answerだけは即坐に即坐に on the spot; without delay (usually 即座)得られる得られる can get; can obtain事と考えたのです。ところがKは先刻先刻 prior; beforeから二度二度 two timesおいと呼ばれて呼ばれて be called; be addressed、二度おいと答えたような素直な素直な forthcoming; responsive調子で、今度は応じません応じません not respond; not comply; not engage。そうだなあと低い低い low; quiet (voice)声で渋って渋って hesitate; show reluctanceいます。私はまたはっと思わせられましたはっと思わせられました felt a wave of anxiety; was stricken with a sense of dread。
「Kの生返事生返事 half-hearted answer; nocommittal replyは翌日翌日 next day; following dayになっても、その翌日になっても、彼彼 he; himの態度態度 manner; demeanor; airによく現われていました現われていました was apparent。彼は自分自分 oneselfから進んで進んで advance; take the initiative例の例の at hand; in question問題問題 problem; topicに触れよう触れよう touch (on)とする気色気色 sign; indicationを決して決して by (no) means見せませんでした見せませんでした didn't show。もっとも機会機会 chance; opportunityもなかったのです。奥さん奥さん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)とお嬢さんお嬢さん daughter; young ladyが揃って揃って together一日一日 a day; the full day宅宅 houseを空けでもしなければ空けでもしなければ not leave; not vacate、二人二人 two (people); the two of usはゆっくり落ち付いて落ち付いて settle in; take one's time、そういう事事 matter; affairを話し合う話し合う talk over; discuss訳にも行かない訳にも行かない one couldn't ...; it wouldn't do to ...のですから。私私 I; meはそれをよく心得ていました心得ていました understood; was aware of。心得ていながら、変に変に curiously; inexplicablyいらいらし出すいらいらし出す be agitated; grow testyのです。その結果その結果 as a result始めは始めは at first向う向う the other side; the other partyから来る来る come; approach; engageのを待つ待つ wait forつもりで、暗に暗に obscurely; in the shadows用意用意 preparationをしていた私が、折折 chanceがあったらこっちで口を切ろう口を切ろう broach (a subject)と決心する決心する decide; resolve (to do)ようになったのです。
同時に同時に at the same time私は黙って黙って in silence家のものの様子様子 behavior; appearanceを観察して観察して watch; observe見ました。しかし奥さんの態度にもお嬢さんの素振素振 manner; bearingにも、別に別に especially; particularly平生平生 usual; ordinaryと変った変った changed; different点点 point; aspectはありませんでした。Kの自白自白 confession以前以前 beforeと自白以後以後 afterとで、彼らの挙動挙動 conduct; behaviorにこれという差違差違 difference; disparityが生じない生じない not arise; not be evidentならば、彼の自白は単に単に only; merely; solely私だけに限られた限られた was limited (to)自白で、肝心の肝心の crucial; all-important本人本人 person in questionにも、またその監督者たる監督者たる (is her) guardian; keeper奥さんにも、まだ通じていない通じていない not conveyed; not communicated (to)のは慥か慥か sure; certainでした。そう考えた考えた considered; thought時時 times私は少し少し a little; a bit安心しました安心しました felt reassured; was relieved。それで無理に無理に with effort; against the tide; at great lengths機会を拵えて拵えて conjure; bring about、わざとらしく話話 talk; dialogを持ち出す持ち出す bring upよりは、自然自然 natural course (of events)の与えてくれる与えてくれる give; impart (to one)ものを取り逃さない取り逃さない not let slip; not let get awayようにする方方 alternative (of two choices)が好かろう好かろう better; best; advantageousと思って思って believe; decide; conclude、例の問題にはしばらく手を着けずに手を着けずに without addressing; without taking actionそっとしておく事にしました。
こういってしまえば大変大変 very much; a great deal簡単簡単 simple; easyに聞こえますに聞こえます sound as though; come across asが、そうした心心 heart; mindの経過経過 passage; transitionには、潮潮 tideの満干満干 ebb and flowと同じ同じ the sameように、色々の色々の various; myriad高低高低 highs and lows; ups and downsがあったのです。私はKの動かない動かない not move; not take action様子を見て、それにさまざまの意味意味 meaning; significanceを付け加えました付け加えました attached; attributed (to)。奥さんとお嬢さんの言語言語 words; language動作動作 movements; actionsを観察して観察して watch; observe、二人の心がはたしてそこに現われている通り通り just as; exactly asなのだろうかと疑って疑って doubt; questionもみました。そうして人間人間 human beings; peopleの胸胸 breast; bosomの中中 inside; withinに装置された装置された be equipped; be installed複雑な複雑な complicated; complex; intricate器械器械 instrument; mechanismが、時計時計 clockの針針 hand (of a clock)のように、明瞭に明瞭に clearly偽りなく偽りなく without deceit; true to one's word、盤上盤上 across a clock faceの数字数字 numeralsを指し得る指し得る be capable of indicatingものだろうかと考えました。要するに要するに in short私は同じ事をこうも取り取り take (as)、ああも取りした揚句揚句 after all; in the end、漸く漸く finally; at lastここに落ち付いたものと思って下さい思って下さい please consider that ...。更に更に moreover; still moreむずかしくいえば、落ち付くなどという言葉言葉 word; expressionは、この際際 occasion決して使われた使われた be used; be applied義理義理 obligation; imperativeでなかったのかも知れませんかも知れません it may be that ...。
その内その内 in time; before long学校学校 school; classesがまた始まりました始まりました started。私たち私たち we; usは時間時間 time; scheduleの同じ同じ the same日日 daysには連れ立って連れ立って going together宅宅 house; homeを出ます出ます leave。都合都合 circumstances; conditionsがよければ帰る帰る return (home)時時 timeにもやはりいっしょに帰りました。外部外部 the outsideから見た見た seen; viewedKと私は、何にも何にも (nothing) at all前前 before; priorと違った違った different; changedところがないように親しくなった親しくなった were close; were on good termsのです。けれども腹の中では腹の中では deep down; inside、各自各自 each one (of us)に各自の事事 matters; affairsを勝手に勝手に as one likes; suiting one's own purpose考えて考えて consider; think about; reflect onいたに違いありません。ある日私は突然突然 suddenly往来往来 road; streetでKに肉薄しました肉薄しました pressed; challenged; confronted。私が第一に第一に first of all; first off聞いた聞いた askedのは、この間この間 the other dayの自白自白 confessionが私だけに限られている限られている limited to; confined toか、または奥さん奥さん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)やお嬢さんお嬢さん daughter; young ladyにも通じている通じている be communicated; be conveyed (to)かの点点 pointにあったのです。私のこれから取る取る take; assumeべき態度態度 attitude; mannerは、この問い問い question; inquiryに対するに対する with respect to彼彼 he; himの答え答え answer; reply次第次第 dependent uponで極めなければならない極めなければならない intended to decide; needed to determineと、私は思った思った thought; imagined; believedのです。すると彼は外の外の other人人 persons; individualsにはまだ誰にも誰にも to (no) one打ち明けて打ち明けて disclose; divulge; confideいないと明言しました明言しました stated unequivocally; declared。私は事情事情 situation; state of affairsが自分自分 oneselfの推察通り推察通り as surmised; as expectedだったので、内心内心 inside; to oneself嬉しがりました嬉しがりました was glad; felt elation。私はKの私より横着横着 cunning; impudent; brazenなのをよく知っていました知っていました knew; was aware of。彼の度胸度胸 nerve; grit; audacityにも敵わない敵わない be no match (for)という自覚自覚 self-awarenessがあったのです。けれども一方では一方では on the other hand; at the same timeまた妙に妙に strangely; curiously彼を信じていました信じていました believed; trusted。学資学資 educational fundingの事で養家養家 adoptive familyを三年三年 three yearsも欺いて欺いて deceive; misleadいた彼ですけれども、彼の信用信用 credibilityは私に対して少しも少しも (not) in the least損われて損われて be damaged; be harmedいなかったのです。私はそれがためにかえって彼を信じ出した信じ出した learned to trustくらいです。だからいくら疑い深い疑い深い doubting; suspicious私でも、明白な明白な clear; plain; explicit彼の答えを腹の中で否定する否定する gainsay; dispute; contest気気 inclinationは起りよう起りよう occur; come aboutがなかったのです。
私はまた彼に向って向って turn toward、彼の恋恋 (romantic) loveをどう取り扱う取り扱う handle; manage; deal withつもりかと尋ねました尋ねました asked; inquired。それが単なる単なる mere; simple自白に過ぎないに過ぎない be no more thanのか、またはその自白についで、実際的の実際的の practical; actual効果効果 resultをも収める収める accomplish; bring to fruition気なのかと問うたのです。しかるにしかるに however彼はそこになると、何にも何にも (no)thing答えません。黙って黙って in silence下下 down; belowを向いて向いて turn toward; face歩き出します歩き出します start walking。私は彼に隠し立て隠し立て keeping a secretをしてくれるな、すべて思った通りを話して話して tell; relateくれと頼みました頼みました asked; requested。彼は何も何も (no)thing私に隠す必要必要 necessity; needはないと判然判然 clearly; plainly断言しました断言しました asserted; declared。しかし私の知ろうとする点には、一言一言 a single wordの返事返事 answer; replyも与えない与えない not give; not impart; not bestowのです。私も往来だからわざわざ立ち留まって立ち留まって stand still; halt; remain in place底底 bottom; depthsまで突き留める突き留める pin down; ascertain訳にいきません訳にいきません couldn't very well ...。ついそれなりにしてしまいました。
「ある日ある日 one day私私 I; meは久しぶりに久しぶりに for the first time in a while学校学校 schoolの図書館図書館 libraryに入りました入りました entered; went into。私は広い広い wide; broad机机 desk; tableの片隅片隅 one cornerで窓窓 windowから射す射す shine; stream in光線光線 rays of lightを半身半身 half of one's body; one side of the bodyに受けながら受けながら receive、新着の新着の newly arrived外国外国 foreign country雑誌雑誌 magazine; periodicalを、あちらこちらと引っ繰り返して引っ繰り返して turn over; flip through見て見て look at; examineいました。私は担任教師担任教師 teacher in charge; academic supervisorから専攻の専攻の specialized学科学科 area of studyに関してに関して with respect to; related to; concerning、次の次の next; following週週 weekまでにある事項事項 matter; itemを調べて来い調べて来い go and study; go researchと命ぜられた命ぜられた was required; was told (to do something)のです。しかし私に必要な必要な necessary; needed事柄事柄 materialがなかなか見付からない見付からない not be foundので、私は二度二度 two timesも三度三度 three timesも雑誌を借り替えなければなりませんでした借り替えなければなりませんでした had to borrow anew。最後に最後に finally; in the end私はやっと自分自分 oneselfに必要な論文論文 essay; articleを探し出して探し出して search out; find、一心に一心に fervently; intentlyそれを読み出しました読み出しました began to read。すると突然突然 suddenly幅の広い幅の広い wide; broad机の向う側向う側 far side; opposite sideから小さな小さな small; quiet (voice)声声 voiceで私の名名 nameを呼ぶ呼ぶ call outものがあります。私はふと眼眼 eyesを上げて上げて lift; raiseそこに立って立って standいるKを見ました。Kはその上半身上半身 upper bodyを机の上上 over; aboveに折り曲げる折り曲げる bend; inclineようにして、彼彼 he; himの顔顔 faceを私に近付けました近付けました brought near to。ご承知の通りご承知の通り as you know図書館では他の他の other人人 people; personsの邪魔邪魔 nuisance; bother; disturbanceになるような大きな大きな big; loud (voice)声で話話 talkをする訳にゆかない訳にゆかない one can't ...; one mustn't ...のですから、Kのこの所作所作 conduct; gestureは誰でも誰でも anyoneやる普通の普通の usual; ordinary事事 act; actionなのですが、私はその時時 time; occasionに限ってに限って only; limited to、一種一種 a kind of; a type of変な変な odd; strange心持心持 feeling; sensationがしました。
Kは低い低い low声で勉強勉強 studiesかと聞きました聞きました asked。私はちょっと調べもの調べもの research itemがあるのだと答えました答えました replied; answered。それでもKはまだその顔を私から放しません放しません not remove; not withdraw。同じ同じ the same低い調子調子 tone (of voice)でいっしょに散歩散歩 walk; strollをしないかというのです。私は少し少し a little; a bit待って待って waitいればしてもいいと答えました。彼は待っているといったまま、すぐ私の前前 front ofの空席空席 empty chair; unoccupied seatに腰をおろしました腰をおろしました sat down。すると私は気が散って気が散って be distracted; lose one's train of thought急に急に suddenly雑誌が読めなくなりました読めなくなりました was no longer able to read。何だか何だか somehowKの胸胸 breast; bosomに一物一物 ulterior motive; secret intentionがあって、談判談判 conversation; consultationでもしに来られたしに来られた had come to ...ように思われて思われて seem; strike one (as though)仕方がない仕方がない can't help but ...のです。私はやむをえず読みかけた雑誌を伏せて伏せて turn over; close、立ち上がろうとしました立ち上がろうとしました made to get up。Kは落ち付き払って落ち付き払って fully composed; calmlyもう済んだ済んだ finishedのかと聞きます。私はどうでもいいのだと答えて、雑誌を返す返す returnと共にと共に together with; at the same time、Kと図書館を出ました出ました left; exited。
二人二人 two people; the two of usは別に別に particularly行く行く go所所 placeもなかったので、竜岡町竜岡町 Tatsuoka-chō (place name)から池の端池の端 Ikenohata (place name)へ出て出て emerge; appear (onto)、上野上野 Ueno (place name)の公園公園 parkの中中 inside; withinへ入りました入りました entered。その時時 time彼彼 he; himは例の例の aforementioned; in question事件事件 affair; matterについて、突然突然 suddenly向う向う the other side; the other partyから口を切りました口を切りました brought up; broached。前後前後 before and afterの様子様子 situation; circumstances; indicationsを綜合して綜合して as a whole考える考える consider; think aboutと、Kはそのために私私 I; meをわざわざ散歩散歩 walk; strollに引っ張り出した引っ張り出した enticed out; came to getらしいのです。けれども彼の態度態度 bearing; behaviorはまだ実際的の実際的の practical; actual方面方面 directionへ向って向って turn toward; faceちっとも進んでいませんでした進んでいませんでした had not advanced; had not progressed。彼は私に向って、ただ漠然と漠然と vaguely; ambiguously、どう思う思う think; feelというのです。どう思うというのは、そうした恋愛恋愛 love; passion; affectionの淵淵 abyss; depthsに陥った陥った fell; tumbled (into)彼を、どんな眼眼 eyes; viewpointで私が眺める眺める regard; look atかという質問質問 questionなのです。一言でいうと一言でいうと in short、彼は現在現在 now; the presentの自分自分 oneselfについて、私の批判批判 judgment; critiqueを求めたい求めたい want to requestようなのです。そこに私は彼の平生平生 usual; ordinaryと異なる異なる different; dissimilar点点 point; aspectを確かに確かに clearly; unmistakably認める認める recognize; observe; notice事ができた事ができた was able to ...と思いました。たびたび繰り返す繰り返す repeat; reiterateようですが、彼の天性天性 natural constitution; innate dispositionは他他 other (people); othersの思わく思わく expectations; others' opinions of oneselfを憚かる憚かる fear; shrink fromほど弱く弱く weakly; delicatelyでき上ってでき上って built; made; finishedはいなかったのです。こうと信じたら信じたら believe; be convinced一人で一人で alone; on one's ownどんどん進んで行くだけの度胸度胸 nerve; grit; audacityもあり勇気勇気 courage; boldnessもある男男 man; fellowなのです。養家養家 adoptive family事件でその特色特色 characteristicを強く強く keenly; intensely胸胸 breast; bosomの裏裏 undersurface; insideに彫り付けられた彫り付けられた was impressed; was ingrained私が、これは様子が違う違う different; counter toと明らかに明らかに clearly意識した意識した was cognizant of; sensedのは当然の当然の natural; matter of course結果結果 result; consequenceなのです。
私がKに向って、この際際 occasion; juncture何んで何んで for what reason; why私の批評批評 opinion; commentaryが必要必要 necessary; neededなのかと尋ねた尋ねた asked; inquired時、彼はいつもにも似ないいつもにも似ない out of character; unbecoming悄然とした悄然とした dispirited; disconsolate口調口調 tone (of voice)で、自分の弱い人間人間 human being; personであるのが実際実際 in truth; really; actually恥ずかしい恥ずかしい disgraceful; shamefulといいました。そうして迷っている迷っている wavering; vacillating; in a quandaryから自分で自分が分らなくなってしまった分らなくなってしまった lost sight of; lost touch withので、私に公平な公平な fair; impartial; objective批評を求めるより外により外に other than仕方がない仕方がない have no choice but to ...といいました。私は隙かさず隙かさず promptly; at once迷うという意味意味 meaningを聞き糺しました聞き糺しました ascertained; clarified。彼は進んでいいか退いて退いて retreat; withdrawいいか、それに迷うのだと説明しました説明しました explained。私はすぐ一歩一歩 one step先先 aheadへ出ました。そうして退こうと思えば退けるのかと彼に聞きました。すると彼の言葉言葉 wordsがそこで不意に不意に suddenly; abruptly行き詰りました行き詰りました were at a loss; came to an end; became mired。彼はただ苦しい苦しい unbearable; agonizingといっただけでした。実際彼の表情表情 (facial) expressionには苦しそうなところがありありと見えていました見えていました appeared; was apparent。もし相手相手 the other partyがお嬢さんお嬢さん (the) daughter; young ladyでなかったならば、私はどんなに彼に都合のいい都合のいい helpful; supportive返事返事 reply; responseを、その渇き切った渇き切った parched; thirsting顔顔 face; (facial) expressionの上上 top ofに慈雨慈雨 merciful rain; much needed rainの如くの如く like ...; as ...注いで注いで pour (onto)やったか分りません。私はそのくらいの美しい美しい beautiful; fair同情同情 sympathy; compassionをもって生れて来たもって生れて来た was born with人間と自分ながら信じています。しかしその時の私は違っていました。
「私私 I; meはちょうど他流試合他流試合 contest among rival schools (of fencing)でもする人人 personのようにKを注意して注意して mind; mark; observe見て見て look at; watchいたのです。私は、私の眼眼 eyes、私の心心 heart; soul、私の身体身体 body; flesh、すべて私という名名 nameの付く付く be attached; be affixedものを五分の隙間もない五分の隙間もない leaving nothing to chance; never dropping one's guardように用意して用意して prepare; ready oneself、Kに向った向った turned toward; directed oneself towardのです。罪罪 sin; faultのないKは穴だらけ穴だらけ flawedというよりむしろ明け放し明け放し left open; exposedと評する評する judge; assess; regard (as)のが適当適当 suitable; proper; appropriateなくらいに無用心無用心 heedless; unwaryでした。私は彼自身彼自身 he himselfの手手 handから、彼の保管して保管して keep; guardいる要塞要塞 fortress; strongholdの地図地図 map; planを受け取って受け取って take possession of; receive、彼の眼の前眼の前 before one's eyesでゆっくりそれを眺める眺める look over; examine; peruse事ができた事ができた was able to ...も同じ同じ the sameでした。
Kが理想理想 idealsと現実現実 reality; actualityの間にの間に between彷徨して彷徨して wander; roamふらふらしているのを発見した発見した discovered; learned私は、ただ一打一打 one stroke; a single blowで彼を倒す倒す knock down; take out事ができるだろうという点点 pointにばかり眼を着けました眼を着けました fastened one's eyes to; fixated on。そうしてすぐ彼の虚虚 unguarded moment; unpreparednessに付け込んだ付け込んだ took advantage (of)のです。私は彼に向って急に急に suddenly厳粛な厳粛な serious; solemn; severe改まった改まった formal; steely; austere態度態度 attitude; mannerを示し出しました示し出しました took on; revealed; showed。無論無論 of course策略策略 tactics; schemeからですが、その態度に相応する相応する match; suit; fitくらいな緊張した緊張した tense; strained気分気分 feeling; moodもあったのですから、自分自分 oneselfに滑稽滑稽 absurd; outlandishだの羞恥羞恥 shameful; reprehensibleだのを感ずる感ずる feel; perceive余裕余裕 margin; leewayはありませんでした。私はまず「精神的に精神的に mentally; spiritually向上心向上心 desire for improvement; aspirationのないものは馬鹿馬鹿 fool; simpletonだ」といい放ちましたいい放ちました declared; asserted。これは二人二人 two people; the two of usで房州房州 Bōshū (place name; southern tip of Bōsō peninsula in Chiba Prefecture)を旅行して旅行して travel; traverseいる際際 time; occasion、Kが私に向って使った使った used; applied言葉言葉 wordsです。私は彼の使った通り通り just asを、彼と同じような口調口調 tone (of voice)で、再び再び once again彼に投げ返した投げ返した threw back atのです。しかし決して決して by (no) means復讐復讐 revenge; retaliationではありません。私は復讐以上以上 above; beyond; more thanに残酷な残酷な cruel; harsh; vicious意味意味 purport; effect; purposeをもっていたという事を自白します自白します confess。私はその一言一言 few wordsでKの前に横たわる横たわる stretch out (before); lie ahead恋恋 (romantic) loveの行手行手 way; pathを塞ごうとした塞ごうとした endeavored to block; worked to hinderのです。
Kは真宗寺真宗寺 Shin Buddhism templeに生れた生れた was born (into)男男 man; fellowでした。しかし彼の傾向傾向 leanings; tendenciesは中学中学 middle school時代時代 time; period; daysから決して生家生家 house of one's birthの宗旨宗旨 (religious) tenets; doctrinesに近い近い close; near; similar (to)ものではなかったのです。教義教義 doctrine; teachings上上 concerning ...の区別区別 differentiation; distinctionをよく知らない知らない don't know; am not familiar with私が、こんな事をいう資格資格 qualificationに乏しい乏しい lacking; wanting; deficientのは承知しています承知しています am well aware of; acknowledgeが、私はただ男女男女 men and women; the two gendersに関係した関係した related to; concerning点についてのみ、そう認めていた認めていた recognized; appreciatedのです。Kは昔昔 former daysから精進精進 diligence; devotionという言葉が好き好き to one's likingでした。私はその言葉の中中 inside; withinに、禁欲禁欲 abstinence; celibacyという意味も籠っている籠っている be included; be encased (in)のだろうと解釈して解釈して interpret; construeいました。しかし後で後で later; afterwards実際実際 actual stateを聞いて見る聞いて見る ask; inquireと、それよりもまだ厳重な厳重な severe; strict意味が含まれて含まれて be includedいるので、私は驚きました驚きました was surprised。道道 way; pathのためにはすべてを犠牲犠牲 sacrificeにすべきものだというのが彼の第一第一 number one; first and foremost信条信条 belief; article of faithなのですから、摂欲摂欲 control of one's desires (usually 節欲)や禁欲は無論、たとい欲欲 craving; wantを離れた離れた be apart from; be remote from恋そのものでも道の妨害妨害 obstruction; hindranceになるのです。Kが自活自活 supporting oneself生活生活 living; lifestyleをしている時分時分 time; periodに、私はよく彼から彼の主張主張 contention; assertionを聞かされたのでした。その頃頃 timeからお嬢さんお嬢さん daughter; young ladyを思っていた思っていた dwelled on; held in one's mind私は、勢い勢い with force; with vigorどうしても彼に反対しなければならなかった反対しなければならなかった had to object; had to take exceptionのです。私が反対すると、彼はいつでも気の毒そうな気の毒そうな pitying; feeling sorrow for顔顔 face; (facial) expressionをしました。そこには同情同情 sympathyよりも侮蔑侮蔑 disdain; contemptの方方 alternative (of two choices)が余計に余計に in surplus; in excess現われて現われて appear; be apparentいました。
こういう過去過去 past; historyを二人二人 two (people); the two of usの間にの間に between ...通り抜けて来て通り抜けて来て come through; carry acrossいるのですから、精神的に精神的に mentally; spiritually向上心向上心 desire for improvement; aspirationのないものは馬鹿馬鹿 fool; simpletonだという言葉言葉 wordsは、Kに取ってに取って to ...; for ...痛い痛い painful; stingingに違いなかったに違いなかった there was no doubt that ...のです。しかし前前 before; priorにもいった通り通り just as、私私 I; meはこの一言一言 few wordsで、彼彼 he; himが折角折角 with trouble; at great pains積み上げた積み上げた built up; constructed過去を蹴散らした蹴散らした kicked about; scatteredつもりではありません。かえってそれを今今 now; the presentまで通り積み重ねて行かせよう積み重ねて行かせよう push to continue developingとしたのです。それが道道 way; pathに達しよう達しよう reach; arrive atが、天天 heaven; state of bliss; nirvanaに届こう届こう reach; arrive atが、私は構いません構いません be unconcerned; not care。私はただKが急に急に suddenly; abruptly生活生活 life; livingの方向方向 direction; orientationを転換して転換して divert; redirect、私の利害利害 interest; concernsと衝突する衝突する conflict with; run counter toのを恐れた恐れた feared; was afraid ofのです。要するに要するに in short私の言葉は単なる単なる simply; merely利己心利己心 egoism; selfishnessの発現発現 expression; manifestationでした。
「精神的に向上心のないものは、馬鹿だ」
私は二度二度 two times; twice同じ同じ the same言葉を繰り返しました繰り返しました repeated。そうして、その言葉がKの上にの上に relative to; with respect toどう影響する影響する affect; influenceかを見詰めていました見詰めていました observed; was watching。
Kはぴたりとそこへ立ち留まった立ち留まった stopped; haltedまま動きません動きません not move; become immobile。彼は地面地面 groundの上を見詰めています。私は思わず思わず reflexively; instinctivelyぎょっとしましたぎょっとしました was seized with fear; felt a chill。私にはKがその刹那刹那 moment; instantに居直り強盗居直り強盗 thief who threatens violence when discoveredのごとく感ぜられた感ぜられた came across; struck one (as)のです。しかしそれにしては彼の声声 voiceがいかにも力力 force; vigorに乏しい乏しい lacking; wanting; deficientという事事 fact; state of affairsに気が付きました気が付きました took notice of; noted。私は彼の眼遣い眼遣い look (in one's eyes)を参考参考 point of referenceにしたかったのですが、彼は最後最後 the end; the lastまで私の顔顔 faceを見ないのです。そうして、徐々と徐々と slowly; quietlyまた歩き出しましたまた歩き出しました resumed walking。
「私私 I; meはKと並んで並んで side by side; together (with)足を運ばせながら足を運ばせながら walking along; making one's way、彼彼 he; himの口口 mouthを出る出る emerge from次の次の next言葉言葉 wordsを腹の中で腹の中で deep down; within oneself暗に暗に in the shadows; stealthily待ち受けました待ち受けました awaited。あるいは待ち伏せ待ち伏せ lying in wait forといった方方 alternative (of two choices)がまだ適当適当 proper; appropriateかも知れませんかも知れません it may be that ...。その時時 timeの私はたといKを騙し打ちにして騙し打ちにして attack from behindも構わない構わない not care; have no problem withくらいに思っていた思っていた was thinkingのです。しかし私にも教育教育 education; upbringing相当相当 befitting; in keeping withの良心良心 conscienceはありますから、もし誰か誰か someone私の傍傍 side; vicinity; proximityへ来て来て come (to); approach、お前お前 youは卑怯卑怯 cowardly; dastardly; base; meanだと一言一言 few words私語いて私語いて whisperくれるものがあったなら、私はその瞬間瞬間 instantに、はっと我我 oneselfに立ち帰った立ち帰った reverted toかも知れません。もしKがその人人 person; individualであったなら、私はおそらく彼の前前 front ofに赤面した赤面した turned red in the face with shameでしょう。ただKは私を窘める窘める rebuke; reprove; take to taskには余りに余りに too much正直正直 honest; upright; trueでした。余りに単純単純 simple; pureでした。余りに人格人格 personal characterが善良善良 good; virtuousだったのです。目のくらんだ目のくらんだ blinded; dazzled; with one's mind reeling私は、そこに敬意を払う敬意を払う duly respect事事 act; actionを忘れて忘れて forget; lose sight of、かえってそこに付け込んだ付け込んだ took advantage (of)のです。そこを利用して利用して use; exploit彼を打ち倒そう打ち倒そう take down; vanquishとしたのです。
Kはしばらくして、私の名名 nameを呼んで呼んで called私の方方 directionを見ました見ました looked。今度今度 this timeは私の方で自然と自然と spontaneously; reflexively足を留めました足を留めました stopped; halted。するとKも留まりました。私はその時やっとKの眼眼 eyesを真向に真向に face on; directly見る事ができた事ができた was able to ...のです。Kは私より背の高い背の高い tall男男 man; fellowでしたから、私は勢い勢い necessarily; consequently彼の顔顔 faceを見上げる見上げる look up atようにしなければなりません。私はそうした態度態度 manner; postureで、狼狼 wolfのごとき心ごとき心 a heart like ...; a soul like ...を罪のない罪のない innocent; guileless羊羊 lambに向けた向けた turned towardのです。
「止めてくれって、僕僕 I; meがいい出したいい出した broached事じゃない、もともと君君 youの方から持ち出した持ち出した brought up話じゃないか。しかし君が止めたければ、止めてもいいが、ただ口の先で口の先で with lip service止めたって仕方があるまい仕方があるまい there's no point in ...。君の心でそれを止めるだけの覚悟覚悟 resolution; readiness; resolveがなければ。一体一体 after all; in the end君は君の平生平生 usual; everydayの主張主張 opinions; views; tenetsをどうするつもりなのか」
私私 I; meがこういった時時 time; moment、背の高い背の高い tall彼彼 he; himは自然と自然と spontaneously; reflexively私の前前 front ofに萎縮して萎縮して shrink; contract; wither小さくなる小さくなる become smaller; diminish in sizeような感じ感じ feeling; senseがしました。彼はいつも話す話す tell; relate通り通り just as ...頗る頗る exceedingly強情な強情な obstinate; headstrong男男 man; fellowでしたけれども、一方では一方では on the other hand; at the same timeまた人一倍人一倍 much more than the average person; more than othersの正直者正直者 man of integrityでしたから、自分の自分の one's own矛盾矛盾 contradiction; inconsistencyなどをひどく非難される非難される be reproached; be castigated; be attacked場合場合 situation; instanceには、決して決して by (no) means平気平気 indifferent; composedでいられない質質 quality; natureだったのです。私は彼の様子様子 appearance; lookを見て見て see; regardようやく安心しました安心しました felt relieved; was set at ease。すると彼は卒然卒然 suddenly; abruptly「覚悟覚悟 resolution; readiness; resolve?」と聞きました聞きました asked; questioned。そうして私がまだ何とも何とも (no)thing答えない先に答えない先に before one answers; before one can answer「覚悟、――覚悟ならない事事 case; situation; matterもない」と付け加えました付け加えました added。彼の調子は独言独言 words spoken to oneselfのようでした。また夢夢 dreamの中中 inside; withinの言葉言葉 wordsのようでした。
二人二人 two (people); the two of usはそれぎり話を切り上げて切り上げて break off; discontinue、小石川小石川 Koishikawa (place name)の宿宿 house; dwelling; residenceの方方 directionに足を向けました足を向けました headed toward。割合に割合に comparatively風風 windのない暖かな暖かな warm; mild日日 dayでしたけれども、何しろ何しろ still; at any rate冬冬 winterの事ですから、公園公園 parkのなかは淋しい淋しい lonely; quiet; desertedものでした。ことに霜霜 frostに打たれて打たれて hit by蒼味蒼味 (tinge of) greenを失った失った lost杉杉 cedarの木立木立 stand of trees; groveの茶褐色茶褐色 dark reddish-brownが、薄黒い薄黒い dark; dusky空空 skyの中に、梢梢 treetops; branch tipsを並べて並べて set in a line聳えて聳えて rise; tower; soarいるのを振り返って見た振り返って見た looked back at時は、寒さ寒さ cold; chillが背中背中 back (part of the body)へ噛り付いた噛り付いた bite atような心持心持 feeling; sensationがしました。我々我々 we; usは夕暮夕暮 evening; twilightの本郷台本郷台 Hongō Hillを急ぎ足で急ぎ足で at a quick paceどしどしどしどし rapidly通り抜けて通り抜けて pass through、また向う向う beyond; the other sideの岡岡 hillへ上る上る climb; ascendべくべく in order to ...; for the purpose of ...小石川の谷谷 valleyへ下りた下りた went down; descended (into)のです。私はその頃頃 timeになって、ようやく外套外套 overcoatの下下 below; beneathに体体 bodyの温味温味 warmthを感じ出した感じ出した began to feelぐらいです。
急いだためでもありましょうが、我々は帰り路帰り路 the road home; the way homeにはほとんど口を聞きませんでした口を聞きませんでした didn't talk; didn't speak。宅宅 house; homeへ帰って食卓食卓 dining tableに向った時、奥さん奥さん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)はどうして遅くなった遅くなった were lateのかと尋ねました尋ねました asked; inquired。私はKに誘われて誘われて be invited; be requested上野上野 Ueno (place name)へ行った行った went (to)と答えました。奥さんはこの寒いのにといって驚いた驚いた was surprised様子を見せました。お嬢さんお嬢さん daughter; young ladyは上野に何があったのかと聞きたがります。私は何もないが、ただ散歩した散歩した walked; strolledのだという返事返事 answerだけしておきました。平生平生 usual; ordinaryから無口な無口な quiet; reticentKは、いつもよりなお黙っていました黙っていました was silent。奥さんが話しかけても、お嬢さんが笑って笑って smile; laughも、碌な碌な decent; satisfactory挨拶挨拶 reply; responseはしませんでした。それから飯飯 meal; foodを呑み込む呑み込む gulp downように掻き込んで掻き込んで eat quickly; eat and run、私がまだ席を立たないうちに席を立たないうちに before leaving the table; while still seated、自分の室室 roomへ引き取りました引き取りました withdrew; retired (to)。
「その頃頃 time; age; daysは覚醒覚醒 awakening; revivalとか新しい新しい new; novel; fresh生活生活 lifeとかいう文字文字 words; phrasesのまだない時分時分 time; periodでした。しかしKが古い古い old自分自分 onself; selfをさらりと投げ出して投げ出して cast away; toss aside、一意に一意に in earnest; with intensity of purpose新しい方角方角 direction; course; bearingへ走り出さなかった走り出さなかった didn't run off (toward)のは、現代人現代人 modern manの考え考え ideas; thoughtsが彼彼 he; himに欠けていた欠けていた were lacking; were deficientからではないのです。彼には投げ出す事のできない事のできない cannot ...; is unable to ...ほど尊い尊い noble; exalted; sacred過去過去 past (experience); personal historyがあったからです。彼はそのために今日今日 this day; the presentまで生きて来た生きて来た lived; subsisted; functionedといってもいいくらいなのです。だからKが一直線に一直線に directly; straightaway愛愛 love; affectionの目的物目的物 objective; aimに向って向って turn toward猛進しない猛進しない not rush in; hold backといって、決して決して by (no) meansその愛の生温い生温い lukewarm; halfhearted事を証拠立てる証拠立てる take as evidence of訳にはゆきません訳にはゆきません one cannot ...; one mustn't ...。いくら熾烈な熾烈な fierce; hot; impassioned感情感情 feeling; emotionが燃えて燃えて burnいても、彼はむやみに動けない動けない can't move; can't be movedのです。前後前後 before and after; contextを忘れる忘れる forget; put asideほどの衝動衝動 impulse; impetus; stimulusが起る起る arise; come about機会機会 chance; occasionを彼に与えない与えない not impart (to)以上以上 as long as ...、Kはどうしてもちょっと踏み留まって踏み留まって hold one's ground自分の過去を振り返らなければならなかった振り返らなければならなかった had to reflect on; couldn't help but refer toのです。そうすると過去が指し示す指し示す indicate; show; point to路路 way; pathを今今 now; the presentまで通り通り just as; exactly as歩かなければならなくなる歩かなければならなくなる be compelled to walk; feel compelled to followのです。その上その上 on top of that; furthermore彼には現代人のもたない強情強情 obstinacy; stubbornnessと我慢我慢 perseveranceがありました。私私 I; meはこの双方双方 bothの点点 points; aspectsにおいてよく彼の心心 heart; mind; soulを見抜いて見抜いて see through to; see clearlyいたつもりなのです。
上野上野 Ueno (place name)から帰った帰った returned晩晩 eveningは、私に取ってに取って to ...; for ...比較的比較的 relatively; comparatively安静な安静な quiet; restful夜夜 evening; nightでした。私はKが室室 roomへ引き上げた引き上げた withdrew; retired (to)あとを追い懸けて追い懸けて follow after、彼の机机 deskの傍傍 side; proximityに坐り込みました坐り込みました sat down。そうして取り留めもない取り留めもない wandering; meandering世間話世間話 idle chatter; small talkをわざと彼に仕向けました仕向けました directed toward。彼は迷惑そう迷惑そう seemingly annoyedでした。私の眼眼 eyesには勝利勝利 victory; successの色色 color; appearance; lookが多少多少 to some extent; somewhat輝いて輝いて sparkle; shineいたでしょう、私の声声 voiceにはたしかに得意得意 triumph; elationの響き響き echo; soundがあったのです。私はしばらくKと一つ一つ one (thing)火鉢火鉢 hibachi; brazierに手手 handsを翳した翳した held out to; warmed over (a fire)後後 after、自分の室に帰りました。外外 otherの事にかけては何をしても何をしても whatever one does; no matter what one does彼に及ばなかった及ばなかった couldn't equal; couldn't match私も、その時時 time; occasionだけは恐るるに足りない恐るるに足りない not worthy of fearという自覚自覚 self-awareness; self realizationを彼に対してに対して with respect to; regardingもっていたのです。
私はほどなくほどなく soon; before long穏やかな穏やかな calm; quiet; peaceful眠り眠り sleep; slumberに落ちました落ちました fell (into)。しかし突然突然 suddenly; unexpectedly私の名名 nameを呼ぶ呼ぶ call声で眼を覚ましました眼を覚ましました woke up; awoke。見る見る lookと、間間 space (between)の襖襖 fusuma (sliding door)が二尺二尺 2 shaku (about 60 cm; about 2 feet)ばかり開いて開いて be open、そこにKの黒い黒い dark影影 figure; shape; silhouetteが立って立って standいます。そうして彼の室には宵宵 evening; early nighttime hoursの通りまだ燈火燈火 light; lampが点いて点いて be litいるのです。急に急に suddenly; abruptly世界世界 world; realmの変った変った changed私は、少し少し a little; a bitの間間 interval (of time)口を利く口を利く speak事もできずに、ぼうっとして、その光景光景 scene; sight; viewを眺めて眺めて gaze on; look atいました。
その時時 time; momentKはもう寝たもう寝た already in bed; already asleepのかと聞きました聞きました asked。Kはいつでも遅くまで遅くまで until late起きて起きて be awake; be upいる男男 man; fellowでした。私私 I; meは黒い黒い dark影法師影法師 shadow figure; silhouetteのようなKに向って向って turn toward、何か何か something用用 need; wantかと聞き返しました聞き返しました asked in return。Kは大した大した important; significant用でもない、ただもう寝たか、まだ起きているかと思って思って wonder、便所便所 toiletへ行った行った went (to)ついでに聞いてみただけだと答えました答えました answered。Kは洋燈洋燈 lampの灯灯 lightを背中背中 backside; backに受けて受けて receiveいるので、彼彼 he; himの顔色顔色 countenance; expressionや眼つき眼つき look in one's eyesは、全く全く utterly; completely私には分りませんでした分りませんでした couldn't read; couldn't discern。けれども彼の声声 voiceは不断不断 usualよりもかえって落ち付いていた落ち付いていた was relaxed; was calmくらいでした。
Kはやがて開けた開けた opened; open襖襖 fusuma (sliding door)をぴたりと立て切りました立て切りました closed up; shut。私の室室 roomはすぐ元の元の prior; former暗闇暗闇 darknessに帰りました帰りました returned; reverted (to)。私はその暗闇より静かな静かな quiet; peaceful夢夢 dreamを見る見る see; viewべくべく in order to ...; for the purpose of ...また眼を閉じました閉じました closed。私はそれぎり何も知りません知りません not know; not perceive。しかし翌朝翌朝 next morningになって、昨夕昨夕 night beforeの事事 matter; affairを考えてみる考えてみる consider; think aboutと、何だか何だか somehow不思議不思議 strange; curiousでした。私はことによると、すべてが夢ではないかと思いました。それで飯飯 mealを食う食う eat時、Kに聞きました。Kはたしかに襖を開けて私の名名 nameを呼んだ呼んだ calledといいます。なぜそんな事をしたのかと尋ねる尋ねる ask; inquireと、別に別に in particular判然した判然した clear; definite返事返事 answer; replyもしません。調子の抜けた調子の抜けた out of sorts; unwell頃頃 time; phaseになって、近頃近頃 recently; latelyは熟睡熟睡 sound sleepができるのかとかえって向うから私に問う問う askのです。私は何だか変変 odd; strangeに感じました感じました felt; sensed; perceived。
その日日 dayちょうど同じ同じ the same時間時間 time; hourに講義講義 lectureの始まる始まる start; begin時間割時間割 (class) scheduleになっていたので、二人二人 two (people); the two of usはやがていっしょに宅宅 houseを出ました出ました left; departed (from)。今朝今朝 that morningから昨夕昨夕 the prior eveningの事が気に掛っている気に掛っている weigh on one's mind私は、途中で途中で on the way; along the wayまたKを追窮しました追窮しました followed up with; pursued。けれどもKはやはり私を満足させる満足させる satisfyような答えをしません。私はあの事件事件 matter; affairについて何か話す話す talk about; discussつもりではなかったのかと念を押して念を押して double check; make sure ofみました。Kはそうではないと強い強い strong; emphatic調子でいい切りましたいい切りました asserted; insisted。昨日昨日 the day before上野上野 Ueno (place name)で「その話話 talkはもう止めよう止めよう cease; stop」といったではないかと注意する注意する advise; cautionごとくにも聞こえました。Kはそういう点点 pointに掛けてに掛けて concerning ...; when it comes to ...鋭い鋭い sharp; keen自尊心自尊心 pride; self-esteemをもった男なのです。ふとそこに気のついた気のついた recognized; realized私は突然突然 suddenly彼の用いた用いた used; applied「覚悟覚悟 resolution; readiness; resolve」という言葉言葉 word; expressionを連想し出しました連想し出しました began to reflect on。すると今今 now; the presentまでまるで気にならなかったその二字二字 two charactersが妙な妙な odd; curious力力 power; forceで私の頭頭 head; mindを抑え始めた抑え始めた began to take over; began to oppressのです。
「Kの果断果断 decisiveness; resolutionに富んだ富んだ rich (with); abundant (in)性格性格 character; nature; dispositionは私私 I; meによく知れていました知れていました was known。彼彼 he; himのこの事件事件 matter; affairについてのみ優柔優柔 indecisivenessな訳訳 circumstances; situationも私にはちゃんと呑み込めていた呑み込めていた was understoodのです。つまり私は一般一般 ordinary; usual; commonを心得た心得た knew; understood; was aware of上で上で on top of; given that、例外例外 exception; anomalyの場合場合 case; situationをしっかり攫まえた攫まえた graspedつもりで得意得意 confident; self-assuredだったのです。ところが「覚悟覚悟 resolution; readiness; resolve」という彼の言葉言葉 word; expressionを、頭頭 head; mindのなかで何遍も何遍も any number of times; repeatedly咀嚼して咀嚼して ruminate on; contemplateいるうちに、私の得意はだんだん色色 color; sheenを失って失って lose、しまいにはぐらぐら揺き始めるぐらぐら揺き始める begin to wobble; begin to totterようになりました。私はこの場合もあるいは彼にとって例外でないのかも知れないと思い出した思い出した began to think; began to imagineのです。すべての疑惑疑惑 doubt; misgivings、煩悶煩悶 anguish; agony、懊悩懊悩 qualms; worries; agitation、を一度に一度に at once; with one stroke解決する解決する solve; settle; resolve最後の最後の final; ultimate手段手段 means; measureを、彼は胸胸 breast; bosomのなかに畳み込んで畳み込んで fold into; embraceいるのではなかろうかと疑り始めた疑り始めた began to suspectのです。そうした新しい新しい new; fresh光光 lightで覚悟の二字二字 two charactersを眺め返して眺め返して reflect on; reviewみた私は、はっと驚きました驚きました was taken aback; was shocked。その時時 time; occasionの私がもしこの驚きをもって、もう一返もう一返 one more time彼の口にした口にした spoke; uttered覚悟の内容内容 content; substanceを公平に公平に impartially; objectively見廻したらば見廻したらば (if one had) surveyed; regarded、まだよかったかも知れません。悲しい悲しい regrettable; lamentable; unfortunate事事 matter; factに私は片眼片眼 blind in one eye; half blindでした。私はただKがお嬢さんお嬢さん daughter; young ladyに対してに対して with respect to; regarding進んで行く進んで行く advance; more forwardという意味意味 meaningにその言葉を解釈しました解釈しました interpreted; understood。果断に富んだ彼の性格が、恋恋 (romantic) loveの方面方面 area; sphereに発揮される発揮される be demonstrated; be made manifestのがすなわち彼の覚悟だろうと一図に一図に wholeheartedly; earnestly思い込んで思い込んで be under the impression; be convincedしまったのです。
私は私にも最後の決断決断 decision; determinationが必要必要 necessary; neededだという声声 voiceを心心 heart; mind; soulの耳耳 earで聞きました聞きました heard。私はすぐその声に応じて応じて respond; answer (to)勇気勇気 courage; nerveを振り起しました振り起しました stirred up; awakened; aroused。私はKより先に先に before; in advance、しかもKの知らない間間 interval (of time)に、事を運ばなくてはならない運ばなくてはならない had to bring about; had to make happenと覚悟を極めました極めました fixed; settled。私は黙って黙って in silence機会機会 opportunity; chanceを覘って覘って aim forいました。しかし二日二日 two days経って経って elapse; go byも三日三日 three days経っても、私はそれを捕まえる捕まえる grasp; seize事ができません。私はKのいない時、またお嬢さんの留守留守 out of the house; awayな折折 opportunity; chance; occasionを待って待って wait for、奥さん奥さん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)に談判談判 talk; discussion; negotiationを開こう開こう open; beginと考えた考えた thought (to do)のです。しかし片方片方 one (of the two)がいなければ、片方が邪魔をする邪魔をする interfere; hinder; impedeといった風風 mannerの日ばかり続いて続いて continue、どうしても「今今 nowだ」と思う好都合好都合 favorable; opportune (circumstance)が出て来て出て来て come about; ariseくれないのです。私はいらいらしました。
一週間一週間 one weekの後後 after私私 I; meはとうとう堪え切れなくなって堪え切れなくなって become unbearable; be no longer able to take (it)仮病仮病 feigned illnessを遣いました遣いました used; employed。奥さん奥さん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)からもお嬢さんお嬢さん daughter; young ladyからも、K自身自身 himselfからも、起きろ起きろ wake up; get upという催促催促 pressing; urgingを受けた受けた received私は、生返事生返事 half-hearted reply; cursory responseをしただけで、十時十時 ten (o'clock)頃頃 around; aboutまで蒲団蒲団 futonを被って被って cover oneself with寝て寝て sleep; stay in bedいました。私はKもお嬢さんもいなくなって、家家 houseの内内 inside; withinがひっそり静まった静まった became quiet; grew still頃頃 timeを見計らって見計らって aim for; target寝床寝床 bed; beddingを出ました出ました left; came out of。私の顔顔 faceを見た見た saw奥さんは、すぐどこが悪い悪い not good; unwellかと尋ねました尋ねました asked; inquired。食物食物 something to eat; foodは枕元枕元 by one's pillow; bedsideへ運んで運んで carry; bringやるから、もっと寝ていたらよかろうと忠告して忠告して advise; cautionもくれました。身体身体 body; physical healthに異状異状 problem; abnormalityのない私は、とても寝る気気 inclinationにはなれません。顔を洗って洗って washいつもの通りいつもの通り as always茶の間茶の間 tea room; hearth roomで飯飯 mealを食いました食いました ate。その時時 time奥さんは長火鉢長火鉢 rectangular hibachi; oblong brazierの向側向側 other sideから給仕給仕 serving; attendingをしてくれたのです。私は朝飯朝飯 morning meal; breakfastとも午飯午飯 noon meal; lunchとも片付かない片付かない not fit into; not be settled as茶椀茶椀 rice bowlを手手 handに持った持った heldまま、どんな風風 manner; wayに問題問題 subject; topicを切り出したもの切り出したもの should broach; can beginだろうかと、そればかりに屈托して屈托して be occupied; be concerned (with)いたから、外観外観 outside appearanceからは実際実際 in fact; indeed気分気分 feelingの好くない好くない not well; out of sorts病人病人 sick person; someone under the weatherらしく見えただろうと思います思います think; reckon。
私は飯を終って終って finish烟草烟草 tobacco; cigaretteを吹かし出しました吹かし出しました started to smoke。私が立たない立たない not get up; not leave (one's seat)ので奥さんも火鉢の傍傍 proximityを離れる離れる move away from訳にゆきません訳にゆきません couldn't ...。下女下女 maidservantを呼んで呼んで call; summon膳膳 (dining) trayを下げさせた下げさせた had (someone) take out上上 on top of; in addition to、鉄瓶鉄瓶 iron kettleに水水 waterを注したり注したり pour (into)、火鉢の縁縁 edge; rim; lipを拭いたりして拭いたりして wipe、私に調子を合わせて調子を合わせて keep with (someone)います。私は奥さんに特別な特別な special; particular用事用事 tasks; work to be doneでもあるのかと問いました問いました asked。奥さんはいいえと答えました答えました answeredが、今度今度 this timeは向う向う the other partyでなぜですと聞き返して来ました聞き返して来ました came back with a question in return。私は実は実は actually少し少し a little; a bit話したい話したい want to talk about; want to discuss事事 matterがあるのだといいました。奥さんは何何 whatですかといって、私の顔を見ました。奥さんの調子はまるで私の気分にはいり込めないはいり込めない not fitting with; not aligned withような軽い軽い light; easy; casualものでしたから、私は次次 nextに出す出す put forthべき文句文句 wordsも少し渋りました渋りました hesitated; faltered。
私は仕方なしに仕方なしに having no other recourse言葉言葉 wordsの上で、好い加減に好い加減に vaguely; nebulouslyうろつき廻ったうろつき廻った wandered; perambulated末末 after ...、Kが近頃近頃 recently; of late何か何か somethingいいはしなかったかと奥さんに聞いてみました。奥さんは思いも寄らない思いも寄らない unexpected; out of the blueという風をして、「何を?」とまた反問して反問して ask in return来ました。そうして私の答える前前 beforeに、「あなたには何かおっしゃったんですか」とかえって向うで聞くのです。
「Kから聞かされた聞かされた was told; was party to打ち明け話打ち明け話 confidential talk; confessionを、奥さん奥さん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)に伝える伝える convey; report気気 intentionのなかった私私 I; meは、「いいえ」といってしまった後で後で after、すぐ自分の自分の one's own嘘嘘 lie; falsehoodを快からず快からず unpleasant; disagreeable感じました感じました felt; experienced。仕方がない仕方がない having no other recourseから、別段別段 in particular; especially何も何も (no)thing頼まれた頼まれた was requested; was asked覚え覚え recollection; remembranceはないのだから、Kに関するに関する relating to; concerning用件用件 matter; affairではないのだといい直しましたいい直しました restated。奥さんは「そうですか」といって、後を待って待って wait for; awaitいます。私はどうしても切り出さなければならなくなりました切り出さなければならなくなりました was compelled to come out with it。私は突然突然 suddenly; abruptly「奥さん、お嬢さんお嬢さん daughter; young ladyを私に下さい下さい please give; please bestow」といいました。奥さんは私の予期して予期して anticipate; expectかかったほど驚いた驚いた was surprised様子様子 appearance; indicationも見せませんでした見せませんでした did not showが、それでも少時少時 for some time返事返事 reply; responseができなかったものと見えて、黙って黙って in silence; without speaking私の顔顔 faceを眺めて眺めて look at; regard; studyいました。一度一度 onceいい出したいい出した brought out; broached私は、いくら顔を見られても、それに頓着頓着 care; concern; heedなどはしていられません。「下さい、ぜひ下さい」といいました。「私の妻妻 wifeとしてぜひ下さい」といいました。奥さんは年を取って年を取って aged; olderいるだけに、私よりもずっと落ち付いて落ち付いて relaxed; composedいました。「上げて上げて give to; offer toもいいが、あんまり急急 quick; suddenじゃありませんか」と聞くのです。私が「急に貰いたい貰いたい receive; take; acceptのだ」とすぐ答えたら答えたら answered; replied笑い出しました笑い出しました began to laugh。そうして「よく考えた考えた considered; thought overのですか」と念を押す念を押す make sure of; reconfirmのです。私はいい出したのは突然でも、考えたのは突然でないという訳訳 circumstance; situationを強い強い strong; emphatic言葉言葉 wordsで説明しました説明しました explained。
それからまだ二つ二つ two (things)三つ三つ three (things)の問答問答 questions and answersがありましたが、私はそれを忘れて忘れて forgetしまいました。男男 man; maleのように判然した判然した clear; crispところのある奥さんは、普通の普通の usual; typical女女 woman; femaleと違って違って different (from)こんな場合場合 situationには大変大変 very much; a great deal心持よく心持よく pleasantly; agreeably話話 talk; conversationのできる人人 personでした。「宜ござんす宜ござんす very well、差し上げましょう差し上げましょう give; offer up」といいました。「差し上げるなんて威張った威張った proud; conceited; superior口口 mouth; manner of speakingの利ける利ける can apply境遇境遇 circumstancesではありません。どうぞ貰って下さい。ご存じの通りご存じの通り as you know; as you're aware父親父親 fatherのない憐れな憐れな pitiable; miserable子子 childです」と後では向う向う the other side; the other partyから頼みました頼みました requested; entreated。
話話 talk; conversationは簡単簡単 simple; easyでかつ明瞭明瞭 clear; conciseに片付いて片付いて be wrapped up; be settledしまいました。最初最初 beginning; onsetからしまいまでにおそらく十五分十五分 fifteen minutesとは掛らなかった掛らなかった didn't take; didn't consumeでしょう。奥さん奥さん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)は何の何の (no) sort of条件条件 conditionsも持ち出さなかった持ち出さなかった didn't bring up; didn't raiseのです。親類親類 relatives; relationsに相談する相談する discuss; consult (with)必要必要 necessity; needもない、後後 after; laterから断れば断れば inform; give noticeそれで沢山沢山 adequate; sufficientだといいました。本人本人 the person in questionの意嚮意嚮 inclination; thoughtsさえたしかめるに及ばないに及ばない no need to ...と明言しました明言しました declared; stated。そんな点点 pointになると、学問をした学問をした received an education私私 I; meの方方 alternative (of two choices)が、かえって形式形式 form; methodに拘泥する拘泥する adhere to; be particular aboutくらいに思われた思われた seemedのです。親類はとにかく、当人当人 the one concerned; the said personにはあらかじめ話して話して talk; discuss (with)承諾承諾 consent; agreementを得る得る obtain; gain; winのが順序順序 (proper) sequenceらしいと私が注意した注意した advised; cautioned時時 time; moment、奥さんは「大丈夫大丈夫 okay; alrightです。本人が不承知不承知 objection; refusalの所所 placeへ、私があの子子 childをやるはずがありませんから」といいました。
自分の自分の one's own室室 roomへ帰った帰った returned (to)私は、事事 mattersのあまりに訳もなく訳もなく simply; easily進行した進行した advanced; progressedのを考えて考えて consider; think about、かえって変な変な odd; strange気持気持 feeling; sensationになりました。はたして大丈夫なのだろうかという疑念疑念 doubt; misgivingさえ、どこからか頭頭 head; mindの底底 bottom; depthsに這い込んで来た這い込んで来た crept; entered (into)くらいです。けれども大体大体 overall; for the most partの上においての上において with regard to; concerning、私の未来未来 futureの運命運命 fate; fortunesは、これで定められた定められた was decided; was determinedのだという観念観念 idea; notion; conceptが私のすべてを新たにしました新たにしました renewed; refreshed。
私は午頃午頃 around noonまた茶の間茶の間 tea room; hearth roomへ出掛けて行って出掛けて行って went out (to)、奥さんに、今朝今朝 this morningの話をお嬢さんお嬢さん daughter; young ladyに何時何時 when通じて通じて communicate; conveyくれるつもりかと尋ねました尋ねました asked; inquired。奥さんは、自分さえ承知していれば、いつ話しても構わなかろう構わなかろう shouldn't matterというような事をいうのです。こうなると何だか私よりも相手相手 the other partyの方が男みた男みた manly; masculineようなので、私はそれぎり引き込もう引き込もう withdraw; retreatとしました。すると奥さんが私を引き留めて引き留めて stop; hold back; detain、もし早い早い quick; soon方が希望希望 desire; wishならば、今日今日 todayでもいい、稽古稽古 lessonsから帰って来たら、すぐ話そうというのです。私はそうしてもらう方が都合が好い都合が好い convenient; advantageous; preferredと答えて答えて answer; respondまた自分の室に帰りました。しかし黙って黙って in silence自分の机机 deskの前前 front ofに坐って坐って sit; be seated、二人二人 two (people); the two of themのこそこそ話こそこそ話 private whisperingsを遠くから遠くから from a distance聞いている私を想像して想像して imagine; think aboutみると、何だか落ち付いて落ち付いて relax; be at easeいられないような気気 feelingもするのです。私はとうとう帽子帽子 hatを被って被って put on; wear (on one's head)表表 out frontへ出ました。そうしてまた坂坂 slope; hillの下下 bottomでお嬢さんに行き合いました行き合いました happened upon; met in passing。何にも知らない知らない not know; not be aware ofお嬢さんは私を見て見て see驚いた驚いた was surprisedらしかったのです。私が帽子を脱って脱って take off「今今 now; just nowお帰り」と尋ねると、向う向う the other partyではもう病気病気 illness; maladyは癒った癒った recovered; become betterのかと不思議そうに不思議そうに seeming to find curious; in surprise聞くのです。私は「ええ癒りました、癒りました」と答えて、ずんずん水道橋水道橋 Suidōbashi (place name)の方へ曲って曲って turn (toward)しまいました。
「私私 I; meは猿楽町猿楽町 Sarugakuchō (place name)から神保町神保町 Jinbōchō (place name)の通り通り broad street; boulevardへ出て出て come out; emerge (onto)、小川町小川町 Ogawamachi (place name)の方方 directionへ曲りました曲りました turned; headed (toward)。私がこの界隈界隈 neighborhood; vicinityを歩く歩く walk (through)のは、いつも古本屋古本屋 used book shopをひやかすひやかす browse; window shopのが目的目的 aim; intentでしたが、その日日 dayは手摺れのした手摺れのした worn from handling書物書物 booksなどを眺める眺める look over; view気気 inclinationが、どうしても起らない起らない not arise; not come aboutのです。私は歩きながら絶えず絶えず constantly; always宅宅 house; homeの事事 matters; happeningsを考えて考えて consider; think aboutいました。私には先刻先刻 before; priorの奥さん奥さん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)の記憶記憶 memory; recollectionがありました。それからお嬢さんお嬢さん daughter; young ladyが宅へ帰って帰って return (to)からの想像想像 picture in one's mind; suppositionがありました。私はつまりこの二つのもの二つのもの two thingsで歩かせられていたようなものです。その上その上 on top of that; furthermore私は時々時々 sometimes; from time to time往来往来 road; streetの真中真中 middleで我知らず我知らず involuntarily; instinctively; unwittinglyふと立ち留まりました立ち留まりました came to a stop; halted。そうして今頃今頃 about nowは奥さんがお嬢さんにもうあの話話 talk; conversationをしている時分時分 time; periodだろうなどと考えました。また或る時は或る時は (at a) certain time、もうあの話が済んだ済んだ finished; concluded頃頃 timeだとも思いました思いました thought; supposed。
私はとうとう万世橋万世橋 Mansei Bridgeを渡って渡って cross (over)、明神明神 Myōjin (place name)の坂坂 hillを上がって上がって ascend; climb、本郷台本郷台 Hongō Heightsへ来て来て come (to); arrive (at)、それからまた菊坂菊坂 Kiku Hillを下りて下りて descend; go down、しまいに小石川小石川 Koishikawa (place name)の谷谷 valleyへ下りたのです。私の歩いた距離距離 distance; range; extentはこの三区三区 three sections; three districtsに跨がって跨がって straddle; extend across、いびつないびつな irregular; distorted円円 circleを描いた描いた drew; depicted; describedともいわれるでしょうが、私はこの長い長い long; lengthy; extended散歩散歩 walk; strollの間間 interval (of time)ほとんどKの事の事 regarding ...; concerning ...を考えなかったのです。今今 now; the presentその時の私を回顧して回顧して look back on; consider in retrospect、なぜだと自分自分 oneselfに聞いて聞いて ask; questionみても一向一向 utterly; completely分りません分りません can't understand; fail to grasp。ただ不思議不思議 odd; strangeに思うだけです。私の心心 heart; mindがKを忘れ得る忘れ得る be able to forgetくらい、一方一方 one direction; single purposeに緊張して緊張して be strained; be stressedいたとみればそれまでですが、私の良心良心 conscienceがまたそれを許す許す allow; permitべきはずはなかったのですから。
Kに対するに対する regarding; with respect to私の良心が復活した復活した recovered; revived; returnedのは、私が宅の格子格子 latticework (door)を開けて開けて open、玄関玄関 entry hallから坐敷坐敷 roomへ通る通る pass (through to)時、すなわち例のごとく例のごとく as usual彼彼 he; himの室室 roomを抜けよう抜けよう cut throughとした瞬間瞬間 moment; instantでした。彼はいつもの通りいつもの通り as always机机 deskに向って向って turn toward書見書見 readingをしていました。彼はいつもの通り書物から眼眼 eyesを放して放して remove、私を見ました見ました looked at; regarded。しかし彼はいつもの通り今帰ったのか今帰ったのか did you just get home; are you just now backとはいいませんでした。彼は「病気病気 illness; maladyはもう癒い癒い betterのか、医者医者 doctorへでも行った行った went (to)のか」と聞きました。私はその刹那刹那 moment; instantに、彼の前前 before; front ofに手を突いて手を突いて place both hands on the ground (in an act of apology)、詫まりたくなった詫まりたくなった wanted to apologizeのです。しかも私の受けた受けた receivedその時の衝動衝動 impetus; urgeは決して決して by (no) means弱い弱い weak; delicate; faintものではなかったのです。もしKと私がたった二人二人 two (people)曠野曠野 wilderness; wildsの真中にでも立っていた立っていた were standingならば、私はきっと良心の命令命令 order; commandに従って従って follow; abide by、その場場 place; locationで彼に謝罪したろう謝罪したろう would have apologizedと思います。しかし奥奥 interior; withinには人人 (other) peopleがいます。私の自然自然 nature; (natural) impulseはすぐそこで食い留められてしまった食い留められてしまった was checked; was held backのです。そうして悲しい悲しい regrettable; lamentable; unfortunate事に永久に永久に forever; for all time復活しなかったのです。
夕飯夕飯 evening meal; dinnerの時時 time; occasionKと私私 I; meはまた顔を合せました顔を合せました came face to face; came together。何にも何にも (no)thing知らない知らない not know; not be aware ofKはただ沈んでいた沈んでいた was sunken; was distant; was withdrawnだけで、少しも少しも (not) in the least疑い深い疑い深い distrustful; suspicious眼眼 eyes; lookを私に向けません向けません not direct (toward)。何にも知らない奥さん奥さん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)はいつもより嬉しそう嬉しそう looking happy; seemingly pleasedでした。私だけがすべてを知っていたのです。私は鉛鉛 lead (metal)のような飯を食いました食いました ate。その時お嬢さんお嬢さん daughter; young ladyはいつものようにみんなと同じ同じ the same食卓食卓 dining tableに並びませんでした並びませんでした didn't take one's place; didn't join。奥さんが催促する催促する press; urgeと、次の次の adjacent; adjoining室室 roomで只今只今 in a minute; just a momentと答える答える answer; replyだけでした。それをKは不思議そうに不思議そうに seeming to find curious; in surprise聞いて聞いて listen toいました。しまいにどうしたのかと奥さんに尋ねました尋ねました asked; inquired。奥さんは大方大方 probably; most likely極りが悪い極りが悪い feel awkward; feel abashedのだろうといって、ちょっと私の顔を見ました見ました looked at。Kはなお不思議そうに、なんで極りが悪いのかと追窮しに掛かりました追窮しに掛かりました proceeded to pursue。奥さんは微笑しながら微笑しながら smiling; with a grinまた私の顔を見るのです。
私は食卓に着いた着いた arrived (at)初め初め beginning; outsetから、奥さんの顔付顔付 countenance; expressionで、事事 matter; affairの成行成行 outcome; resultをほぼ推察して推察して guess; surmiseいました。しかしKに説明説明 explanationを与える与える impart (to); bestow (on)ために、私のいる前前 front ofで、それを悉く悉く altogether; in entirety話されて話されて have told; have saidは堪らない堪らない be unbearableと考えました考えました considered; thought。奥さんはまたそのくらいの事を平気でする平気でする think nothing of doing; not hesitate to do女女 womanなのですから、私はひやひやしたひやひやした was on pins and needlesのです。幸いに幸いに fortunately; luckilyKはまた元の元の former; previous沈黙沈黙 silence; reticenceに帰りました帰りました returned; reverted (to)。平生平生 usualより多少多少 somewhat機嫌のよかった機嫌のよかった was in a good mood; was in high spirits奥さんも、とうとう私の恐れ恐れ fear; concernを抱いて抱いて hold; harborいる点点 pointまでは話話 talk; conversationを進めずに進めずに without advancing; without offering upしまいました。私はほっと一息して一息して catch one's breath; relax a bit室へ帰りました。しかし私がこれから先これから先 going forward; from here onKに対してに対して with respect to; regarding取る取る take; assumeべき態度態度 attitude; mannerは、どうしたものだろうか、私はそれを考えずにはいられませんでした。私は色々の色々の various; myriad弁護弁護 defense; explanation; justificationを自分の自分の one's own胸胸 breast; bosomで拵えて拵えて make; craft; form; conjure upみました。けれどもどの弁護もKに対して面と向う面と向う meet face-to-faceには足りませんでした足りませんでした was insufficient; was inadequate、卑怯な卑怯な cowardly; spineless私はついに自分で自分をKに説明するのが厭厭 loathsome; forbiddingになったのです。