「金金 money; fundsに不自由不自由 inconvenience; impairmentのない私私 I; meは、騒々しい騒々しい noisy; boisterous下宿下宿 lodgingsを出て出て leave; vacate、新しく新しく anew一戸一戸 (single) house; householdを構えて構えて set up; establishみようかという気気 inclinationになったのです。しかしそれには世帯道具世帯道具 housekeeping waresを買う買う purchase; procure面倒面倒 trouble; burdenもありますし、世話世話 caretakingをしてくれる婆さん婆さん old womanの必要必要 necessity; needも起ります起ります come about; ariseし、その婆さんがまた正直正直 honest; uprightでなければ困る困る have a hard time; be in a fixし、宅宅 house; homeを留守にして留守にして leave (a home) emtpyも大丈夫大丈夫 okay; alrightなものでなければ心配心配 worry; concernだし、といった訳訳 reasons; rationaleで、ちょくらちょいとちょくらちょいと easily; lightly実行する実行する put into practice; carry out事事 act; actionは覚束なく見えた覚束なく見えた looked uncertain; seemed doubtfulのです。ある日ある日 one day私はまあ宅だけでも探して探して look for; seek outみようかというそぞろ心そぞろ心 restlessness of the spirit; whimから、散歩がてらに散歩がてらに by way of taking a walk本郷台本郷台 Hongōdai (place name)を西西 westへ下りて下りて went down; descended小石川小石川 Koishikawa (place name)の坂坂 slope; hillを真直に真直に in a straight line; directly伝通院伝通院 Denzūin (Temple)の方方 directionへ上がりました上がりました climbed; ascended。電車電車 (electric) trainの通路通路 pathway; passageになってから、あそこいらの様子様子 appearanceがまるで違ってしまいました違ってしまいました changed completelyが、その頃頃 period (of time)は左手左手 lefthand (side)が砲兵砲兵 artillery工廠工廠 arsenalの土塀土塀 earthen wallで、右右 rightは原原 field; plainとも丘丘 hill; knollともつかない空地空地 vacant landに草草 grassesが一面に一面に all over; throughout生えていた生えていた grewものです。私はその草の中中 middle; midstに立って立って stand、何心なく何心なく without any special thought向う向う the far side; beyondの崖崖 cliff; bluffを眺めました眺めました viewed; gazed at。今今 now; the presentでも悪い悪い bad; inferior景色景色 landscape; sceneではありませんが、その頃はまたずっとあの西側西側 west sideの趣趣 appearance; aspectが違っていました。見渡す見渡す look across; look over; survey限り限り to the limits of; to the extent of緑緑 green; verdureが一面に深く深く thickly茂って茂って grow luxuriantlyいるだけでも、神経神経 nervesが休まります休まります be soothed; be eased。私はふとここいらに適当な適当な suitable; appropriate宅はないだろうかと思いました思いました thought; wondered。それで直ぐ直ぐ right away; without delay草原草原 grassland; meadowを横切って横切って cross; traverse、細い細い narrow通り通り avenue; streetを北北 northの方へ進んで行きました進んで行きました went on; went further。いまだに好い好い fine; nice町町 town; neighborhoodになり切れないでなり切れないで without managing to become ...、がたぴししているがたぴししている ramshackle; tumbledownあの辺辺 area; vicinity; regionの家並家並 (rows of; lines of) residencesは、その時分時分 timeの事ですからずいぶん汚ならしい汚ならしい shabby; squalidものでした。私は露次露次 alleywaysを抜けたり抜けたり cut through、横丁横丁 side streets; lanesを曲ったり曲ったり turn (down; into)、ぐるぐる歩き廻りましたぐるぐる歩き廻りました walked in circles。しまいに駄菓子屋駄菓子屋 corner sweets shopの上さん上さん proprietressに、ここいらに小ぢんまりした小ぢんまりした cozy; snug; modest貸家貸家 rental houseはないかと尋ねてみました尋ねてみました tried asking; tried inquiring。上さんは「そうですね」といって、少時少時 for a while首をかしげて首をかしげて incline one's head (to ponder something)いましたが、「かし家はちょいとちょいと (not) readily……」と全く全く utterly; completely思い当らない思い当らない not come to mind風風 mannerでした。私は望望 hope; prospectのないものと諦らめて諦らめて give up on帰り掛けました帰り掛けました made to depart。すると上さんがまた、「素人下宿素人下宿 boarding houseじゃいけませんか」と聞く聞く askのです。私はちょっと気が変りました気が変りました had a change of mind。静かな静かな quiet素人屋素人屋 boarding houseに一人一人 one person; single personで下宿して下宿して lodge; stayいるのは、かえって家家 house; homeを持つ持つ have; hold面倒がなくって結構結構 splendid; fineだろうと考え出した考え出した began to thinkのです。それからその駄菓子屋の店店 shopに腰を掛けて腰を掛けて take a seat、上さんに詳しい事詳しい事 details; particularsを教えて教えて teach; informもらいました。
それはある軍人軍人 military man; soldierの家族家族 family、というよりもむしろ遺族遺族 surviving family members、の住んで住んで live; resideいる家家 house; homeでした。主人主人 head (of a household); husbandは何でも何でも as it was told日清戦争日清戦争 First Sino-Japanese War (1894-1895) の時時 time; occasion (of)か何か何か somethingに死んだ死んだ died; perishedのだと上さん上さん proprietressがいいました。一年一年 one yearばかり前前 before; priorまでは、市ヶ谷市ヶ谷 Ichigaya (place name)の士官学校士官学校 officers' school; military academyの傍傍 proximityとかに住んでいたのだが、厩厩 stable; barnなどがあって、邸邸 residence; estateが広過ぎる広過ぎる too expansive; too roomyので、そこを売り払って売り払って sell off、ここへ引っ越して来た引っ越して来た moved inけれども、無人無人 empty (of people)で淋しくって淋しくって lonesome; solitary困る困る be dissatisfiedから相当の相当の suitable; befitting人人 personがあったら世話をしてくれ世話をしてくれ find; broker; introduceと頼まれて頼まれて was requestedいたのだそうです。私私 I; meは上さんから、その家には未亡人未亡人 widowと一人一人 one (person)娘娘 daughterと下女下女 maidservantより外により外に other than; apart fromいないのだという事事 situation; state of affairsを確かめました確かめました ascertained; confirmed。私は閑静閑静 quiet; stillで至極至極 exceedingly好かろう好かろう fine; nice; idealと心の中に心の中に to oneself思いました思いました thought。けれどもそんな家族のうちに、私のようなものが、突然突然 suddenly行った行った went (to); called onところで、素性素性 origin; backgroundの知れない知れない is unknown書生さん書生さん studentという名称名称 designationのもとに、すぐ拒絶され拒絶され be turned awayはしまいかという掛念掛念 worry; concern (usually 懸念)もありました。私は止そう止そう quit; give up onかとも考えました考えました thought; considered。しかし私は書生としてそんなに見苦しい見苦しい unsightly服装服装 (personal) appearanceはしていませんでした。それから大学大学 universityの制帽制帽 school capを被って被って wear (on one's head)いました。あなたは笑う笑う laugh; find amusingでしょう、大学の制帽がどうしたんだといって。けれどもその頃頃 period (time)の大学生大学生 university studentは今今 now; the presentと違って違って different from; unlike、大分大分 very much; a great deal世間世間 society; the worldに信用信用 credence; trustのあったものです。私はその場合場合 situationこの四角な四角な square帽子帽子 hat; capに一種の一種の a certain kind of自信自信 confidenceを見出した見出した found; discoveredくらいです。そうして駄菓子屋駄菓子屋 corner sweets shopの上さんに教わった教わった told; informed; instructed通り通り just as; exactly as、紹介紹介 introductionも何もなしにその軍人の遺族の家を訪ねました訪ねました visited; called on。
私は未亡人に会って会って meet (with)来意来意 reason for one's visitを告げました告げました revealed; announced。未亡人は私の身元身元 personal history; backgroundやら学校やら専門専門 area of studyやらについて色々色々 various (things); this and that質問しました質問しました questioned; asked。そうしてこれなら大丈夫大丈夫 all right; acceptableだというところをどこかに握った握った grasped; seizedのでしょう、いつでも引っ越して来て差支えない差支えない have no objection to; is fineという挨拶挨拶 responseを即坐に即坐に right away; on the spot与えてくれました与えてくれました gave (to me)。未亡人は正しい正しい correct; proper人でした、また判然した判然した candid; frank人でした。私は軍人の妻君妻君 wifeというものはみんなこんなものかと思って感服しました感服しました was impressed。感服もしたが、驚きもしました驚きもしました was also surprised。この気性気性 disposition; temperamentでどこが淋しいのだろうと疑いもしました疑いもしました also questioned; also doubted。
「私私 I; meは早速早速 immediatelyその家家 house; homeへ引き移りました引き移りました relocated; moved。私は最初最初 (at) first来た来た came; called時時 time; occasionに未亡人未亡人 widowと話をした話をした talked; conversed座敷座敷 roomを借りた借りた rentedのです。そこは宅中宅中 within the houseで一番好い一番好い finest; best室室 roomでした。本郷本郷 Hongō (place name)辺辺 vicinity; areaに高等高等 high grade; first rate; upscale下宿下宿 lodgingsといった風風 style; mannerの家がぽつぽつ建てられた建てられた were built; were constructed時分時分 period (of time)の事事 happening; occurrenceですから、私は書生書生 studentとして占領し得る占領し得る be able to occupy最も好い最も好い best間間 roomsの様子様子 form; appearanceを心得ていました心得ていました knew a thing or two about。私の新しく新しく newly主人主人 masterとなった室は、それらよりもずっと立派立派 magnificent; superbでした。移った当座当座 for a time (after)は、学生としての私には過ぎる過ぎる excessive; too muchくらいに思われた思われた thought of (as); took (as)のです。
室の広さ広さ sizeは八畳八畳 8 mats (about 13 sq meters; about 140 sq ft)でした。床床 alcove (= 床の間)の横横 next toに違い棚違い棚 staggered shelvesがあって、縁縁 verandaと反対反対 oppositeの側側 sideには一間一間 1 ken (about 3.6 meters; about 6 feet)の押入れ押入れ closetが付いていました付いていました was attached; was built in。窓窓 windowは一つ一つ one (thing)もなかったのですが、その代りその代り in return; at the same time南向きの南向きの south-facing縁に明るい明るい bright日日 sun; sunlightがよく差しました差しました shone on; fell on。
私は移った日日 dayに、その室の床に活けられた活けられた arranged (flowers)花花 flowersと、その横に立て懸けられた立て懸けられた set against; propped against琴琴 koto (musical instrument)を見ました見ました saw。どっちも私の気に入りませんでした気に入りませんでした were not to one's liking。私は詩詩 poetryや書書 calligraphyや煎茶煎茶 green tea (ceremony; ritual)を嗜なむ嗜なむ have a taste for父父 fatherの傍傍 proximity; close toで育った育った was brought up; was raisedので、唐めいた唐めいた in the Chinese fashion; of the (classical) Chinese tradition趣味趣味 tastes; preferencesを小供のうち小供のうち childhood; youth (usually 子供)からもっていました。そのためでもありましょうか、こういう艶めかしい艶めかしい coy; seductive; coquettish装飾装飾 adornments; embellishmentsをいつの間にかいつの間にか at some point軽蔑する軽蔑する feel disdain toward癖癖 propensity; practiceが付いていたのです。
私の父が存生中存生中 while living; during one's lifeにあつめた道具類道具類 curiosは、例の例の the aforementioned叔父叔父 uncleのために滅茶滅茶滅茶滅茶 disorder; ruinsにされてしまったのですが、それでも多少多少 a little; some small amountは残っていました残っていました remained。私は国国 country; one's native placeを立つ立つ leave; depart (from)時それを中学中学 middle schoolの旧友旧友 old friendに預かって預かって receive in trust; take custody ofもらいました。それからその中でその中で among them面白そうな面白そうな of interest; striking one's fancyものを四、五四、五 four or five幅幅 hanging scrolls裸にして裸にして unpackage; unbox行李行李 luggage; baggageの底底 bottomへ入れて入れて put into来ました来ました came; arrived。私は移るや否やや否や as soon as ...、それを取り出して取り出して take out床へ懸けて懸けて hang up楽しむ楽しむ enjoy; appreciateつもりでいたのです。ところが今今 now; just nowいった琴と活花活花 arranged flowersを見たので、急に急に suddenly勇気勇気 courage; nerveがなくなってしまいました。後後 laterから聞いて聞いて heard始めて始めて for the first timeこの花が私に対するに対する regarding; with respect toご馳走ご馳走 indulgence; accommodationに活けられたのだという事を知った知った learned; became aware of時、私は心のうちで心のうちで inwardly; to oneself苦笑しました苦笑しました smiled wrily; forced a smile。もっとも琴は前から前から from beforeそこにあったのですから、これは置き所置き所 place to put (something)がないため、やむをえずそのままに立て懸けてあった立て懸けてあった had been set against; had been leaned againstのでしょう。
こんな話をすると、自然自然 naturally; of courseその裏裏 background; behind the scenesに若い若い young女女 womanの影影 figure; formがあなたの頭頭 mind; thoughtsを掠めて掠めて flitting; fluttering; fleeting通る通る pass through; traverseでしょう。移った私にも、移らない初めから移らない初めから even before arrivingそういう好奇心好奇心 curiosityがすでに動いていたすでに動いていた had already been set in motionのです。こうした邪気邪気 ghost; specterが予備的に予備的に in advance私の自然自然 nature; natural mannerを損なった損なった disturbed; disruptedためか、または私がまだ人慣れなかった人慣れなかった unaccustomed to strangersためか、私は始めてそこのお嬢さんお嬢さん daughter; young ladyに会った会った met; encountered時、へどもどしたへどもどした flustered; lacking composure挨拶挨拶 greetingをしました。その代りお嬢さんの方方 sideでも赤い赤い reddened; flushed顔顔 face; complexionをしました。
私私 I; meはそれまで未亡人未亡人 widowの風采風采 appearance; mienや態度態度 manner; behaviorから推して推して infer; surmise、このお嬢さんお嬢さん daughter; young ladyのすべてを想像していた想像していた imagined; envisionedのです。しかしその想像はお嬢さんに取ってに取って with respect toあまり有利な有利な advantageous; charitable; flatteringものではありませんでした。軍人軍人 military man; soldierの妻君妻君 wifeだからああなのだろう、その妻君の娘娘 daughterだからこうだろうといった順序順序 sequenceで、私の推測推測 conjectureは段々段々 bit by bit; gradually延びて行きました延びて行きました developed further; built on itself。ところがその推測が、お嬢さんの顔顔 face; countenanceを見た見た saw瞬間瞬間 moment; instantに、悉く悉く completely; entirely打ち消されました打ち消されました was negated; was wiped out。そうして私の頭頭 head; mindの中中 insideへ今まで今まで until now想像も及ばなかった想像も及ばなかった hadn't imagined; couldn't have conceived of異性異性 opposite sexの匂い匂い aura; sense; flavorが新しく新しく newly; anew入って来ました入って来ました came into; entered。私はそれから床床 alcove (= 床の間)の正面正面 front; façadeに活けてある活けてある were arranged (of flowers)花花 flowersが厭厭 objectionable; unpleasantでなくなりました。同じ同じ the same床に立て懸けてある立て懸けてある was set against; was propped against琴琴 koto (musical instrument)も邪魔邪魔 nuisanceにならなくなりました。
その花はまた規則正しく規則正しく regularly凋れる凋れる wither; wilt; fade頃頃 timeになると活け更えられる活け更えられる be replaced with a fresh (flower) arrangementのです。琴も度々度々 often; frequently鍵の手鍵の手 right angleに折れ曲がった折れ曲がった bent off (at)筋違の筋違の diagonally opposite室室 roomに運び去られる運び去られる be carried off toのです。私は自分の自分の one's own居間居間 roomで机机 deskの上上 topに頬杖を突きながら頬杖を突きながら supporting one's chin with one's hands、その琴の音音 soundを聞いていました聞いていました listened to。私にはその琴が上手上手 skilled; masterfulなのか下手下手 clumsy; bunglingなのかよく解らない解らない couldn't tellのです。けれども余り余り (not) very; (not) much込み入った込み入った complex; intricate手手 techniqueを弾かない弾かない not playところを見ると、上手なのじゃなかろうと考えました考えました thought; concluded。まあ活花活花 arranged flowersの程度程度 degree; extentぐらいなものだろうと思いました思いました thought; concluded。花なら私にも好く分る好く分る am familiar with; have a sense forのですが、お嬢さんは決して決して by (no) means旨い旨い skilled; expert方方 alternative (of two choices)ではなかったのです。
それでも臆面なく臆面なく unashamedly; unapologetically色々の色々の various花が私の床を飾って飾って decorate; adornくれました。もっとも活方活方 method of arrangement (flowers)はいつ見ても同じ事事 state of affairsでした。それから花瓶花瓶 flower vaseもついぞついぞ (not) at all変った変った be varied; be altered例例 case; instanceがありませんでした。しかし片方片方 the other (of a pair)の音楽音楽 musicになると花よりももっと変変 peculiar; eccentricでした。ぽつんぽつん糸糸 stringを鳴らす鳴らす let ring; soundだけで、一向一向 (not) at all肉声肉声 natural voiceを聞かせないのです。唄わない唄わない not sing; refrain from singingのではありませんが、まるで内所話内所話 whispering of secretsでもするように小さな小さな small; soft; low (voice)声声 voiceしか出さないしか出さない only put forthのです。しかも叱られる叱られる be reproached; be reprovedと全く全く utterly; completely出なくなる出なくなる no longer come forthのです。
私は喜んで喜んで with pleasureこの下手な活花を眺めて眺めて view; observeは、まずそうな琴の音に耳を傾けました耳を傾けました lent an ear to; listened to。
「私私 I; meの気分気分 feeling; senseは国国 country; one's native placeを立つ立つ leave; depart (from)時時 timeすでに厭世的厭世的 gloomy; discouraged; despondentになっていました。他他 peopleは頼りにならない頼りにならない not to be relied on; undependable; untrustworthyものだという観念観念 idea; notionが、その時骨の中まで骨の中まで to the marrow; to one's core染み込んで染み込んで penetrate; permeateしまったように思われた思われた seemed (that)のです。私は私の敵視する敵視する see as hostile; view as an adversary叔父叔父 uncleだの叔母叔母 auntだの、その他他 otherの親戚親戚 relative; relationsだのを、あたかも人類人類 mankind; humanityの代表者代表者 representatives; proxiesのごとく考え出しました考え出しました began to consider; began to regard。汽車汽車 (steam) trainへ乗って乗って boardさえ隣隣 neighboring; nearbyのものの様子様子 manner; behaviorを、それとなく注意し始めました注意し始めました began to be wary of。たまに向う向う the other partyから話し掛けられ話し掛けられ be addressed; be engaged in conversationでもすると、なおの事なおの事 all the more; even more so警戒警戒 vigilance; precautionを加えたくなりました加えたくなりました wanted to increase further。私の心心 heart; soulは沈鬱沈鬱 down and out; in a state of melancholyでした。鉛鉛 lead (metal)を呑んだ呑んだ drank down; swallowedように重苦しくなる重苦しくなる become heavy; feel oppressed事が時々時々 at timesありました。それでいて私の神経神経 nervesは、今今 now; just nowいったごとくに鋭く鋭く sharply; keenly尖ってしまった尖ってしまった were sharpened; were on edgeのです。
私が東京東京 Tōkyōへ来て来て came (to)下宿下宿 lodgingsを出ようとした出ようとした thought to leaveのも、これが大きな大きな major; significant源因源因 cause; reason (usually 原因)になっているように思われます。金金 money; fundsに不自由不自由 inconvenience; impairmentがなければこそ、一戸一戸 (single) house; householdを構えて構えて set up; establishみる気気 inclinationにもなったのだといえばそれまでですが、元の通り元の通り as before; as wasの私ならば、たとい懐中懐中 pocket; purseに余裕余裕 surplus; marginができても、好んで好んで per one's preferenceそんな面倒な面倒な troublesome; burdensome真似真似 behavior; actionはしなかったでしょう。
私は小石川小石川 Koishikawa (place name)へ引き移って引き移って relocate; moveからも、当分当分 for a while; for a timeこの緊張した緊張した tense; strained; wound up気分に寛ぎ寛ぎ comfort; easeを与える与える give; impart (to)事ができませんでした。私は自分自分 oneselfで自分が恥ずかしい恥ずかしい disgraceful; shamefulほど、きょときょときょときょと restlessly; nervously周囲周囲 surroundings; environsを見廻して見廻して look around (at)いました。不思議にも不思議にも strangely enough; oddly enoughよく働く働く work; function; operateのは頭頭 mindと眼眼 eyesだけで、口口 mouthの方方 alternative (of two choices)はそれと反対反対 oppositeに、段々段々 gradually; over time動かなくなって来ました動かなくなって来ました stopped moving; grew inactive。私は家家 house; householdのものの様子を猫猫 catのようによく観察しながら観察しながら while observing、黙って黙って in silence机机 deskの前前 front ofに坐って坐って sitいました。時々は彼ら彼ら they; themに対してに対して with respect to; in relation to気の毒気の毒 unfortunate; regrettableだと思うほど、私は油断のない油断のない ever vigilant; wary注意注意 caution; heedを彼らの上上 top ofに注いで注いで pour out (upon)いたのです。おれは物物 things; articlesを偸まない偸まない not steal; not take巾着切巾着切 pickpocketみたようなものだ、私はこう考えて、自分が厭厭 objectionable; unpleasantになる事さえあったのです。
あなたは定めて定めて surely; certainly変変 odd; strangeに思うでしょう。その私がそこのお嬢さんお嬢さん daughter; young ladyをどうして好く好く be fond of; be drawn to余裕をもっているか。そのお嬢さんの下手な下手な uninspired; mediocre活花活花 arranged flowersを、どうして嬉しがって嬉しがって happily眺める眺める view; observe余裕があるか。同じく同じく in the same manner下手なその人人 personの琴琴 koto (musical instrument)をどうして喜んで喜んで with pleasure聞く聞く hear; listen to余裕があるか。そう質問された質問された be asked; be questioned時、私はただ両方とも両方とも the two; both事実事実 reality; truthであったのだから、事実としてあなたに教えて上げる教えて上げる tell; inform (someone)というより外により外に other than; apart from仕方がない仕方がない have no alternativeのです。解釈解釈 explanation; interpretationは頭のあるあなたに任せる任せる leave; entrust (to)として、私はただ一言一言 a word; one comment付け足して付け足して addおきましょう。私は金に対して人類を疑った疑った doubted; distrustedけれども、愛愛 love; affectionに対しては、まだ人類を疑わなかったのです。だから他から見ると変なものでも、また自分で考えてみて、矛盾した矛盾した contradictory; conflictingものでも、私の胸胸 breast; bosomのなかでは平気で平気で thinking nothing of it両立していた両立していた stood together; coexistedのです。
私私 I; meは未亡人未亡人 widowの事の事 regarding ...; concerning ...を常に常に always奥さん奥さん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)といっていましたから、これから未亡人と呼ばずに呼ばずに without refering to (as)奥さんといいます。奥さんは私を静かな静かな quiet; subdued人人 person; man、大人しい大人しい gentle; good-tempered男男 man; fellowと評しました評しました saw; regarded (as)。それから勉強家勉強家 diligent studentだとも褒めて褒めて praise; complimentくれました。けれども私の不安な不安な anxious; uneasy眼つき眼つき look; expression (in one's eyes)や、きょときょとしたきょときょとした restless; unsettled様子様子 manner; behaviorについては、何事も口へ出しませんでした何事も口へ出しませんでした made no mention of; said nothing about。気が付かなかった気が付かなかった took no noticeのか、遠慮して遠慮して refrainいたのか、どっちだかよく解りません解りません don't know; can't sayが、何しろそこにはまるで注意を払っていない注意を払っていない take no interest; be unconcernedらしく見えました見えました appeared to ...。それのみならず、ある場合場合 instance; situationに私を鷹揚な鷹揚な generous; largehearted方方 person; individualだといって、さも尊敬した尊敬した admired; respectedらしい口の利き方口の利き方 manner of speakingをした事事 case; instanceがあります。その時時 time; occasion正直な正直な honest; candid私は少し少し a little; a bit顔顔 faceを赤らめて赤らめて blush; redden、向う向う the other partyの言葉言葉 wordsを否定しました否定しました denied; refuted。すると奥さんは「あなたは自分自分 oneselfで気が付かないから、そうおっしゃるんです」と真面目に真面目に in all seriousness; earnestly説明して説明して elucidate; expound onくれました。奥さんは始め始め at first私のような書生書生 studentを宅宅 house; homeへ置く置く take in (a boarder)つもりではなかったらしいのです。どこかの役所役所 government officeへ勤める勤める be employed (at)人人 person; manか何かに坐敷坐敷 roomを貸す貸す rent out料簡料簡 thoughts; intentionで、近所のもの近所のもの neighbors; local folkに周旋周旋 recommendation; brokeringを頼んでいた頼んでいた requestedらしいのです。俸給俸給 wages; payが豊か豊か abundant; plentifulでなくって、やむをえず素人屋素人屋 boarding houseに下宿する下宿する lodge; boardくらいの人だからという考え考え idea; notion; thoughtが、それで前かた前かた some time agoから奥さんの頭頭 head; mindのどこかにはいっていたのでしょう。奥さんは自分の胸胸 breast; bosomに描いた描いた pictured; outlinedその想像想像 imaginationのお客お客 guestと私とを比較して比較して compare、こっちの方方 alternative (of two things)を鷹揚だといって褒めるのです。なるほどそんな切り詰めた切り詰めた economizing; scrimping生活生活 life; lifestyleをする人に比べたら比べたら compare (to)、私は金銭金銭 moneyにかけて、鷹揚だったかも知れませんかも知れません it may be that ...。しかしそれは気性気性 disposition; temperamentの問題問題 question; problemではありませんから、私の内生活内生活 one's inner lifeに取ってに取って with respect toほとんど関係関係 connection; relevanceのないのと一般一般 the same asでした。奥さんはまた女女 woman; femaleだけにだけに as might be expected ofそれを私の全体全体 entirety; totalityに推し広げて推し広げて extend; extrapolate (to)、同じ同じ the same言葉を応用しよう応用しよう use; applyと力める力める be committed to (doing something)のです。
「奥さん奥さん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)のこの態度態度 attitude; mannerが自然自然 naturally; in due course私私 I; meの気分気分 feeling; moodに影響して来ました影響して来ました began to affect; began to work on。しばらくするうちに、私の眼眼 eyesはもとほどきょろ付かなくなりましたきょろ付かなくなりました became less restless; grew less shifty。自分の自分の one's own心心 heart; mind; spiritが自分の坐っている坐っている be seated所所 location; placeに、ちゃんと落ち付いている落ち付いている settled; came to restような気気 feeling; senseにもなれました。要するに要するに in short奥さん始め始め for starters; to begin with家のもの家のもの members of the householdが、僻んだ僻んだ jaundiced; cynical私の眼や疑い深い疑い深い distrustful; suspicious私の様子様子 situation; stateに、てんから取り合わなかったてんから取り合わなかった took no notice of; paid no attention toのが、私に大きな大きな great; considerable幸福幸福 happiness; well-beingを与えた与えた give; grant (to)のでしょう。私の神経神経 nervesは相手相手 the other partyから照り返して来る照り返して来る bounce back (from)反射反射 reflectionのないために段々段々 gradually; bit by bit静まりました静まりました quieted; eased; calmed。
奥さんは心得心得 knowledge; understandingのある人人 personでしたから、わざと私をそんな風風 style; mannerに取り扱って取り扱って handle; manage; treatくれたものとも思われます思われます seems; appearsし、また自分で公言する公言する state openly; declare; professごとく、実際実際 really; in fact私を鷹揚鷹揚 generous; largeheartedだと観察していた観察していた viewed; regarded (as)のかも知れませんかも知れません it may be that ...。私のこせつき方こせつき方 form of stress; form of anxietyは頭の中頭の中 in one's mind; mentalの現象現象 phenomenonで、それほど外外 outsideへ出なかった出なかった did not appearようにも考えられます考えられます can (also) imagine thatから、あるいは奥さんの方方 sideで胡魔化されて胡魔化されて be deceived; be fooledいたのかも解りませんかも解りません it could be that ...。
私の心が静まると共にと共に along with; together with、私は段々家族のもの家族のもの members of the familyと接近して来ました接近して来ました became close to; grew familiar with。奥さんともお嬢さんお嬢さん daughter; young ladyとも笑談笑談 pleasant talk; good-humored conversationをいうようになりました。茶茶 teaを入れた入れた put on; made (tea)からといって向う向う the other sideの室室 roomへ呼ばれる呼ばれる be called (to)日日 daysもありました。また私の方で菓子菓子 confectioneries; sweetsを買って来て買って来て buy (and bring back)、二人二人 two (people)をこっちへ招いたりする招いたりする invite; have over晩晩 eveningsもありました。私は急に急に suddenly交際交際 society; association; friendshipの区域区域 sphere; realmが殖えた殖えた increased; expandedように感じました感じました felt。それがために大切な大切な all-important; precious勉強勉強 study; studiesの時間時間 timeを潰される潰される be squandered事事 case; instanceも何度となく何度となく any number of times; many timesありました。不思議にも不思議にも oddly enough、その妨害妨害 disturbance; interferenceが私には一向一向 (not) in the least邪魔邪魔 nuisanceにならなかったのです。奥さんはもとより閑人閑人 person of leisureでした。お嬢さんは学校学校 schoolへ行く行く go (to); attend上に上に on top of; in addition to、花花 flower (arrangement)だの琴琴 koto (musical instrument)だのを習って習って study; learnいるんだから、定めて定めて certainly; surely忙しかろう忙しかろう must be busyと思う思う think; imagineと、それがまた案外な案外な unexpectedもので、いくらでも時間に余裕余裕 flexibility; (spare) timeをもっているように見えました見えました appeared。それで三人三人 three (people)は顔顔 faceさえ見るといっしょに集まって集まって gather; come together、世間話世間話 small talk; general conversationをしながら遊んだ遊んだ enjoyed oneself; had a good timeのです。
私私 I; meを呼びに来る呼びに来る come to getのは、大抵大抵 usually; for the most partお嬢さんお嬢さん daughter; young ladyでした。お嬢さんは縁側縁側 varandaを直角に直角に at a right angle曲って曲って make a turn、私の室室 roomの前前 front ofに立つ立つ stand; come to a stop事事 cases; instancesもありますし、茶の間茶の間 tea room; hearth roomを抜けて抜けて cut through; traverse、次の次の adjoining室の襖襖 fusuma (sliding door)の影影 behind; back sideから姿を見せる姿を見せる appear事もありました。お嬢さんは、そこへ来て来て come (to)ちょっと留まります留まります come to a stop; pause。それからきっと私の名名 nameを呼んで、「ご勉強?ご勉強? studying?」と聞きます聞きます ask。私は大抵むずかしい書物書物 book; textを机机 deskの前に開けて開けて open、それを見詰めて見詰めて fix one's eyes onいましたから、傍で見たら傍で見たら to an observerさぞ勉強家勉強家 diligent studentのように見えたのでしょう。しかし実際実際 reality; truthをいうと、それほど熱心に熱心に earnestly; ardently書物を研究して研究して studyはいなかったのです。頁頁 pageの上上 top of; surface ofに眼は着けて眼は着けて direct one's gaze (to)いながら、お嬢さんの呼びに来るのを待って待って wait for; awaitいるくらいなものでした。待っていて来ない来ない not come; not appearと、仕方がない仕方がない have no other recourseから私の方方 sideで立ち上がる立ち上がる get up; take actionのです。そうして向う向う the other sideの室の前へ行って行って go (to)、こっちから「ご勉強ですか」と聞くのです。
お嬢さんの部屋部屋 roomは茶の間と続いた続いた contiguous (to); connected (with)六畳六畳 6 mats (about 10 sq meters; about 104 sq ft)でした。奥さん奥さん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)はその茶の間にいる事もあるし、またお嬢さんの部屋にいる事もありました。つまりこの二つ二つ two (things)の部屋は仕切仕切 partition; divisionがあっても、ないと同じ同じ the same (as)事で、親子親子 parent and child二人二人 two (people)が往ったり来たりして往ったり来たりして come and go、どっち付かずにどっち付かずに not settled on one or the other占領していた占領していた occupiedのです。私が外外 outsideから声を掛ける声を掛ける call to (someone)と、「おはいんなさい」と答える答える answer; replyのはきっと奥さんでした。お嬢さんはそこにいても滅多に滅多に rarely; seldomly (when paired with negative verb)返事をした返事をした replied; answered事がありませんでした。
時たま時たま occasionally; once in a whileお嬢さん一人一人 alone; by oneselfで、用用 errand; taskがあって私の室へはいったついでに、そこに坐って坐って sit down; seat oneself話し込む話し込む fall into conversation; talk at lengthような場合場合 case; instanceもその内にその内に by and by; in due course出て来ました出て来ました began to come about。そういう時時 times; occasionsには、私の心心 heart; spiritが妙に妙に oddly; curiously不安不安 uneaseに冒されて来る冒されて来る was afflicted (with)のです。そうして若い若い young女女 woman; ladyとただ差向い差向い face to faceで坐っているのが不安なのだとばかりは思えませんでした思えませんでした could not imagine ...。私は何だか何だか somehow; for some reasonそわそわし出すそわそわし出す become fidgety; grow restlessのです。自分自分 oneselfで自分を裏切る裏切る betray; double-crossような不自然な不自然な unnatural; affected; contrived態度態度 manner; behaviorが私を苦しめる苦しめる torment; distressのです。しかし相手相手 companion; the other partyの方はかえって平気平気 at ease; unconcernedでした。これが琴琴 koto (musical instrument)を浚う浚う practice (usually 復習う)のに声さえ碌に碌に adequately; sufficiently出せなかったあの女かしらと疑われる疑われる be doubted; be questionedくらい、恥ずかしがらない恥ずかしがらない be unreserved; be uninhibitedのです。あまり長くなる長くなる be a long timeので、茶の間から母母 motherに呼ばれても、「はい」と返事をするだけで、容易に容易に easily; readily腰を上げない腰を上げない not rise (to go)事さえありました。それでいてお嬢さんは決して決して by (no) means子供子供 childではなかったのです。私の眼にはよくそれが解っていました解っていました was evident; was clear。よく解るように振舞って振舞って behave; conduct oneself見せる痕迹痕迹 signs; indicationsさえ明らか明らか clear; apparentでした。
「私私 I; meはお嬢さんお嬢さん daughter; young ladyの立った立った left; departedあとで、ほっと一息する一息する catch one's breath; relaxのです。それと同時にそれと同時に at the same time、物足りない物足りない inadequate; unfulfilledようなまた済まない済まない incomplete; insufficientような気持気持 feeling; senseになるのです。私は女らしかった女らしかった feminine; effeminateのかも知れませんかも知れません it may be that。今今 now; the presentの青年青年 young menのあなたがたから見たら見たら look at; viewなおそう見えるでしょう。しかしその頃その頃 those times; those daysの私たちは大抵大抵 in general; for the most partそんなものだったのです。
奥さん奥さん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)は滅多に滅多に rarely; seldomly (when paired with negative verb)外出した外出した go out; leave the house事事 case; instanceがありませんでした。たまに宅宅 house; homeを留守にする留守にする be away (from home)時時 timeでも、お嬢さんと私を二人ぎり二人ぎり two (people) alone残して残して leave (behind)行く行く goような事はなかったのです。それがまた偶然偶然 by chanceなのか、故意故意 by designなのか、私には解らない解らない don't know; can't sayのです。私の口口 mouthからいうのは変変 funny; strangeですが、奥さんの様子様子 manner; behaviorを能く能く thoroughly; fully観察して観察して observe; studyいると、何だか何だか somehow自分の自分の one's own娘娘 daughterと私とを接近させたがって接近させたがって want to bring togetherいるらしくも見えるのです。それでいて、或る場合には或る場合には in certain situations; on certain occasions、私に対してに対して with respect to; in relation to暗に暗に tacitly; implicitly警戒する警戒する be on one's guardところもあるようなのですから、始めて始めて the first timeこんな場合に出会った出会った met; encountered私は、時々時々 at times心持をわるくしました心持をわるくしました was put off。
私は奥さんの態度態度 attitude; mannerをどっちかに片付けて片付けて settle; decideもらいたかったのです。頭頭 head; mindの働き働き workings; operationからいえば、それが明らかな明らかな evident; obvious矛盾矛盾 contradiction; inconsistencyに違いなかったに違いなかった no doubt ...のです。しかし叔父叔父 uncleに欺かれた欺かれた was deceived; was cheated記憶記憶 memoryのまだ新しい新しい new; fresh私は、もう一歩もう一歩 one step further踏み込んだ踏み込んだ entered into; moved deeper with疑い疑い doubt; distrustを挟まずには挟まずには without harboring; without entertaining (doubts)いられませんでした。私は奥さんのこの態度のどっちかが本当本当 true; genuineで、どっちかが偽り偽り fiction; falsehoodだろうと推定しました推定しました deduced; reasoned。そうして判断に迷いました判断に迷いました failed to reach a conclusion。ただ判断に迷うばかりでなく、何でそんな妙な妙な strange; unusual事をするかその意味意味 meaning; significanceが私には呑み込めなかった呑み込めなかった could not graspのです。理由理由 pretext; motiveを考え出そう考え出そう think up; deviseとしても、考え出せない私は、罪罪 fault; culpabilityを女という一字一字 one character; single characterに塗り付けて塗り付けて lay the blame on (lit: rub off onto)我慢した我慢した made do; put up (with something)事もありました。必竟必竟 after all; in the end女だからああなのだ、女というものはどうせ愚な愚な silly; foolishものだ。私の考えは行き詰まれば行き詰まれば reach a limit; hit a wallいつでもここへ落ちて来ました落ちて来ました settled; landed (on)。
それほど女女 women; femalesを見縊って見縊って denigrate; disparageいた私私 I; meが、またどうしてもお嬢さんお嬢さん daughter; young ladyを見縊る事ができなかった事ができなかった was unable to ...のです。私の理屈理屈 theorizing; reasoningはその人人 person; individualの前前 front ofに全く全く completely; utterly用を為さない用を為さない serve no purpose; fail to functionほど動きませんでした動きませんでした didn't operate; didn't work。私はその人に対してに対して with respect to; in relation to、ほとんど信仰信仰 faith; creedに近いに近い close to; bordering on愛愛 love; affectionをもっていたのです。私が宗教宗教 religionだけに用いる用いる use; utilizeこの言葉言葉 word; termを、若い若い young女に応用する応用する apply (to)のを見て見て see; observe、あなたは変変 odd; strangeに思う思う think of; consider; regard (as)かも知れませんかも知れません it may be that ...が、私は今今 now; the presentでも固く固く firmly信じて信じて believe in; trust inいるのです。本当の本当の true; genuine; sincere愛は宗教心宗教心 religious devotion; pietyとそう違った違った differentものでないという事を固く信じているのです。私はお嬢さんの顔顔 faceを見るたびに、自分自分 oneselfが美しくなる美しくなる be made fair; be purifiedような心持心持 feeling; sensationがしました。お嬢さんの事を考える考える think about; considerと、気高い気高い high-minded; noble気分気分 feelingがすぐ自分に乗り移って来る乗り移って来る take hold (of one)ように思いました。もし愛という不可思議な不可思議な wondrous; miraculousものに両端両端 two edges; two sidesがあって、その高い高い high; lofty端には神聖な神聖な sacred; spiritual感じ感じ feeling; senseが働いて働いて work; operate、低い低い low; base端には性欲性欲 sexual desire; lustが動いているとすれば、私の愛はたしかにその高い極点極点 tip; extremityを捕まえた捕まえた captured; seizedものです。私はもとより人間人間 human being; manとして肉肉 fleshを離れる離れる separate from事のできない身体身体 bodyでした。けれどもお嬢さんを見る私の眼眼 eyesや、お嬢さんを考える私の心心 heart; soulは、全く肉の臭い臭い scent; flavorを帯びていませんでした帯びていませんでした bore no trace of。
私は母母 motherに対して反感反感 antipathy; animosityを抱く抱く embrace; harborと共にと共に together with; in concurrence with、子子 childに対して恋愛恋愛 love; affectionの度度 degree (of)を増して行った増して行った increasedのですから、三人三人 three (people)の関係関係 relationshipは、下宿した下宿した took up lodgings始め始め beginningよりは段々段々 gradually; bit by bit複雑複雑 complicatedになって来ましたなって来ました became; grew (over time)。もっともその変化変化 change; transitionはほとんど内面的内面的 internal; inward-facingで外外 outside; exteriorへは現れて来なかった現れて来なかった was not apparent; did not showのです。そのうち私はあるひょっとした機会機会 opportunity; occasionから、今まで奥さん奥さん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)を誤解して誤解して misunderstand; misjudgeいたのではなかろうかという気気 feelingになりました。奥さんの私に対する矛盾した矛盾した contradictory; inconsistent態度態度 manner; behaviorが、どっちも偽り偽り fiction; falsehoodではないのだろうと考え直して来た考え直して来た reconsideredのです。その上その上 on top of that; furthermore、それが互い違いに互い違いに alternately; in turns奥さんの心を支配する支配する dominate; take overのでなくって、いつでも両方両方 bothが同時に同時に at the same time奥さんの胸胸 bosom; breastに存在して存在して exist; be presentいるのだと思うようになったのです。つまり奥さんができるだけお嬢さんを私に接近させよう接近させよう bring near (to)としていながら、同時に私に警戒を加えて警戒を加えて keep one's guard up (against)いるのは矛盾のようだけれども、その警戒を加える時時 times; occasionsに、片方片方 one side; one (of a pair)の態度を忘れる忘れる forget; neglectのでも翻す翻す reconsider; change course (on)のでも何でも何でも (no)thingなく、やはり依然として依然として still; as always二人二人 two (people)を接近させたがっていたのだと観察した観察した regarded; viewed (as)のです。ただ自分が正当正当 right; properと認める認める deem; judge (as)程度程度 degree; extent以上以上 above; beyondに、二人が密着する密着する draw close; come togetherのを忌む忌む be averse to; be afraid ofのだと解釈した解釈した understood; took (as)のです。お嬢さんに対して、肉の方面方面 direction; frontから近づく近づく approach; draw near to念念 wish; desireの萌さなかった萌さなかった showed no signs of; gave no indication of私は、その時入らぬ入らぬ needless; unwaranted心配心配 worry; concernだと思いました。しかし奥さんを悪く思う悪く思う think ill of気はそれからなくなりました。
「私私 I; meは奥さん奥さん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)の態度態度 manner; behaviorを色々色々 (in) various (ways)綜合して見て綜合して見て look at as a whole; view in entirety、私がここの家家 house; homeで充分充分 sufficiently信用されている信用されている be trusted事事 fact; state of affairsを確かめました確かめました ascertained; confirmed。しかもその信用は初対面初対面 first meetingの時時 timeからあったのだという証拠証拠 evidence; proofさえ発見しました発見しました discovered。他他 (other) people; othersを疑り始めた疑り始めた began to doubt; began to distrust私の胸胸 breast; bosomには、この発見が少し少し a little; a bit奇異奇異 singular; oddなくらいに響いた響いた was surprisedのです。私は男男 menに比べるとに比べると in comparison to女女 womenの方方 alternative (of two choices)がそれだけ直覚直覚 intuition; insightに富んでいるに富んでいる be rich inのだろうと思いました思いました thought; considered。同時に同時に at the same time、女が男のために、欺される欺される be deceivedのもここにあるのではなかろうかと思いました。奥さんをそう観察する観察する view; regard私が、お嬢さんお嬢さん daughter; young ladyに対してに対して with respect to; in relation to同じ同じ the sameような直覚を強く強く strongly; intensely; keenly働かせていた働かせていた put to work; appliedのだから、今今 now考える考える consider; think aboutとおかしいのです。私は他を信じない信じない distrustと心心 heart; soulに誓いながら誓いながら pledge; swear、絶対に絶対に absolutelyお嬢さんを信じていたのですから。それでいて、私を信じている奥さんを奇異に思ったのですから。
私は郷里郷里 native place; home townの事について余り余り (not) much多く多く a lotを語らなかった語らなかった didn't mention; didn't speak (of)のです。ことに今度の今度の recent; of late事件事件 incident; affairについては何も何も (no)thingいわなかったのです。私はそれを念頭に浮べて念頭に浮べて bring to mindさえすでに一種の一種の a certain type of不愉快不愉快 displeasure; discomfortを感じました感じました felt。私はなるべく奥さんの方の話話 talk; conversationだけを聞こう聞こう listen toと力めました力めました endeavored (to)。ところがそれでは向う向う the other partyが承知しません承知しません not agree to; not accept。何かに付けて何かに付けて somehow; one way or another、私の国元国元 hometown; native placeの事情事情 situation; circumstancesを知りたがる知りたがる want to knowのです。私はとうとう何もかも話してしまいました。私は二度と二度と (never) again国国 country; one's native placeへは帰らない帰らない not return (to)。帰っても何にもない何にもない there's nothing there、あるのはただ父父 fatherと母母 motherの墓墓 gravesばかりだと告げた告げた told; revealed時、奥さんは大変大変 very much; greatly感動した感動した was movedらしい様子様子 look; appearanceを見せました。お嬢さんお嬢さん daughter; young ladyは泣きました泣きました cried; wept。私は話して好い好い good; fine事をしたと思いました。私は嬉しかった嬉しかった was gladのです。
私のすべてを聞いた奥さんは、はたして自分の自分の one's own直覚が的中した的中した hit the mark; was spot onといわないばかりといわないばかり all but saying; all but expressingの顔顔 face; (facial) expressionをし出しましたし出しました began to make。それからは私を自分の親戚親戚 relation; kinに当るに当る correspond to; be若いもの若いもの young person; youthか何かを取り扱う取り扱う handle; treat; deal withように待遇する待遇する receive (as)のです。私は腹も立ちませんでした腹も立ちませんでした was not offended; did not resent it。むしろ愉快に感じたくらいです。ところがそのうちに私の猜疑心猜疑心 suspicion; mistrustがまた起って来ました起って来ました was stirred; was aroused。
私私 I; meが奥さん奥さん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)を疑り始めた疑り始めた began to distrustのは、ごく些細な些細な small; trifling事事 affairs; mattersからでした。しかしその些細な事を重ねて行く重ねて行く pile up; accumulateうちに、疑惑疑惑 doubt; distrustは段々と段々と gradually; bit by bit根を張って来ます根を張って来ます start to take root。私はどういう拍子拍子 moment; instant; chanceかふと奥さんが、叔父叔父 uncleと同じ同じ the sameような意味意味 meaning; intentionで、お嬢さんお嬢さん daughterを私に接近させよう接近させよう bring near (to)と力める力める work; endeavorのではないかと考え出した考え出した began to considerのです。すると今今 now; the presentまで親切親切 kindnessに見えた見えた appeared (as)人人 personが、急に急に suddenly狡猾な狡猾な cunning; crafty策略家策略家 schemerとして私の眼眼 eyesに映じて来た映じて来た came to be seen (as)のです。私は苦々しい唇を噛みました苦々しい唇を噛みました was filled with contempt (lit: bit down on embittered lips)。
奥さんは最初から最初から from the start、無人無人 empty (of people)で淋しい淋しい lonesome; solitaryから、客客 guestを置いて置いて take in (a boarder)世話をする世話をする take care of; look afterのだと公言していました公言していました stated; declared。私もそれを嘘嘘 falsehood; deceptionとは思いませんでしたとは思いませんでした did not believe to be ...; did not take as ...。懇意になって懇意になって get to know; become familiar with色々色々 various打ち明け話打ち明け話 confidential talk; intimate detailsを聞いた聞いた heard後後 afterでも、そこに間違い間違い mistake; errorはなかったように思われます。しかし一般の一般の overall; general経済状態経済状態 economic situationは大して大して (not) very豊か豊か plentiful; affluentだというほどではありませんでした。利害利害 gain and loss; interest; stake問題問題 problem; questionから考えてみて、私と特殊の特殊の special; unique関係関係 relationshipをつけるのは、先方先方 the other partyに取ってに取って to; for決して決して by (no) means損損 loss; disadvantageではなかったのです。
私はまた警戒を加えました警戒を加えました became wary; put up one's guard。けれども娘娘 daughterに対してに対して with respect to; in relation to前前 previously; beforeいったくらいの強い強い strong; intense愛愛 love; affectionをもっている私が、その母母 motherに対していくら警戒を加えたって何になるでしょう何になるでしょう what of it; to what effect。私は一人で一人で alone; by oneself自分自分 oneselfを嘲笑しました嘲笑しました scorned; derided; mocked。馬鹿馬鹿 idiot; foolだなといって、自分を罵った罵った cursed事もあります。しかしそれだけの矛盾矛盾 contradiction; inconsistencyならいくら馬鹿でも私は大した苦痛苦痛 pain; anguishも感ぜずに感ぜずに without feeling; without experiencing済んだ済んだ finished; endedのです。私の煩悶煩悶 agony; tormentは、奥さんと同じようにお嬢さんも策略家ではなかろうかという疑問疑問 doubtに会って会って meet with; encounter始めて始めて for the first time起る起る would arise; would come aboutのです。二人二人 two (people); the two of themが私の背後背後 back side; behindで打ち合せをした打ち合せをした arranged; prepared (in advance)上上 on top of、万事万事 all thingsをやっているのだろうと思うと、私は急に苦しくって堪らなくなる苦しくって堪らなくなる found (it) unbearableのです。不愉快不愉快 displeasure; discomfortなのではありません。絶体絶命絶体絶命 desperate end; utter despairのような行き詰まった行き詰まった reached an impasse; hit a wall心持心持 sense; feelingになるのです。それでいて私は、一方に一方に on the one hand; in one regardお嬢さんを固く固く firmly信じて信じて trust; believe in疑わなかった疑わなかった did not doubtのです。だから私は信念信念 faithと迷い迷い doubt; uncertaintyの途中途中 midwayに立って立って stand; be stopped、少しも少しも (not) in the least動く動く move; budge事ができなくなってしまいました。私にはどっちも想像想像 imagination; conjectureであり、またどっちも真実真実 truth; realityであったのです。
「私私 I; meは相変らず相変らず as usual; as always学校学校 schoolへ出席して出席して attend (school)いました。しかし教壇教壇 (lecture) platform; podium; daisに立つ立つ stand人人 personの講義講義 lectureが、遠くの遠くの far off; distant方方 direction; sideで聞こえる聞こえる be audible; be heardような心持心持 feeling; senseがしました。勉強勉強 studiesもその通りその通り exactly the same; the same thingでした。眼の中眼の中 eyes; field of visionへはいる活字活字 printed textは心心 heart; mindの底底 bottom; depthsまで浸み渡らない浸み渡らない not penetrate (as far as)うちに烟烟 smokeのごとく消えて行く消えて行く disappear; dissipateのです。私はその上その上 on top of that無口無口 less talkative; reticentになりました。それを二、三二、三 two or three; severalの友達友達 friendsが誤解して誤解して misunderstand、冥想冥想 contemplation; ruminationに耽って耽って indulge in; be engrossed inでもいるかのように、他の他の other友達に伝えました伝えました told; conveyed; reported。私はこの誤解を解こう解こう dispel; clear up (a misunderstanding)とはしませんでした。都合の好い都合の好い convenient; expedient仮面仮面 mask; façadeを人が貸して貸して lendくれたのを、かえって仕合せ仕合せ good fortuneとして喜びました喜びました was pleased。それでも時々時々 sometimes; from time to timeは気が済まなかった気が済まなかった was not satisfiedのでしょう、発作的に発作的に fitfully; sporadically焦燥ぎ廻って焦燥ぎ廻って romp about; live it up彼ら彼ら they; themを驚かした驚かした surprised事事 instance; occasionもあります。
私の宿宿 lodgingsは人出入り人出入り comings and goings; visitor trafficの少ない少ない few; sparse家家 house; homeでした。親類親類 relatives; kinfolkも多く多く manyはないようでした。お嬢さんお嬢さん daughter; young ladyの学校友達がときたま遊びに来る遊びに来る come to visit事はありましたが、極めて極めて exceedingly; extremely小さな小さな small; soft (voice)声声 voicesで、いるのだかいないのだか分らない分らない don't know; can't tellような話話 conversation; talkをして帰って帰って returnしまうのが常常 usual; the normでした。それが私に対するに対する with respect to; in consideration of遠慮遠慮 restraint; discretionからだとは、いかな私にも気が付きませんでした気が付きませんでした didn't notice; was unaware。私の所所 place; residenceへ訪ねて来る訪ねて来る come to visit; come to callものは、大した大した great; considerable乱暴者乱暴者 roughneck; unruly typeでもありませんでしたけれども、宅宅 house; householdの人に気兼をする気兼をする feel constraint; have scruplesほどな男男 man; fellowは一人一人 one (single) personもなかったのですから。そんなところになると、下宿人下宿人 lodger; boarderの私は主人主人 master; head of the houseのようなもので、肝心の肝心の pivotal; critical; all-importantお嬢さんがかえって食客食客 house guestの位地位地 situation; positionにいたと同じ同じ the same (as)事です。
しかしこれはただ思い出した思い出した recollected; recalledついでに書いた書いた wrote; penned; notedだけで、実は実は in truth; in factどうでも構わないどうでも構わない irrelevant; inconsequential点点 pointです。ただそこにどうでもよくないどうでもよくない not inconsequential (i.e. not どうでもいい)事が一つ一つ one (thing)あったのです。茶の間茶の間 tea room; hearth roomか、さもなければお嬢さんの室室 roomで、突然突然 suddenly; unexpectedly男の声が聞こえるのです。その声がまた私の客と違ってと違って different from; unlike、すこぶる低い低い low; quietのです。だから何何 whatを話して話して say; talk ofいるのかまるで分らないのです。そうして分らなければ分らないほど、私の神経神経 nervesに一種の一種の a certain kind of昂奮昂奮 agitationを与える与える impart toのです。私は坐っていて坐っていて sit; remain seated変に変に oddly; strangelyいらいらし出しますいらいらし出します begin to fret。私はあれは親類なのだろうか、それともただの知り合い知り合い acquaintanceなのだろうかとまず考えて見る考えて見る consider; think aboutのです。 {paragraph continues below}
それから若い若い young男男 man; fellowだろうか年輩の年輩の older; elderly人人 person; gentlemanだろうかと思案して思案して consider; ponderみるのです。坐っていて坐っていて sit; remain seatedそんな事事 matters; thingsの知れよう知れよう know; find out; learnはずがありません。そうかといって、起って行って起って行って get up and go障子障子 shōjiを開けて開けて open見る見る look; see訳にはなおいきません訳にはなおいきません one can't well ...。私私 I; meの神経神経 nervesは震える震える shake; tremble; quiverというよりも、大きな大きな big; large波動波動 wave form; undulationを打って打って beat; throw; cast (waves)私を苦しめます苦しめます torment; afflict。私は客客 visitor; guestの帰った帰った returned後後 afterで、きっと忘れずに忘れずに without forgettingその人の名名 nameを聞きました聞きました asked。お嬢さんお嬢さん daughter; young ladyや奥さん奥さん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)の返事返事 answer; responseは、また極めて極めて extremely; exceedingly簡単簡単 simple; briefでした。私は物足りない物足りない unsatisfied顔顔 face; (facial) expressionを二人二人 two (people); the two of themに見せながら、物足りるまで追窮する追窮する inquire into; pursue an inquiry further勇気勇気 boldness; audacityをもっていなかったのです。権利権利 right; privilegeは無論無論 of courseもっていなかったのでしょう。私は自分の自分の one's own品格品格 dignityを重んじなければならない重んじなければならない feel compelled to esteemという教育教育 education; upbringingから来た来た came; originated (from)自尊心自尊心 pride; self-respectと、現に現に in fact; actuallyその自尊心を裏切して裏切して betrayいる物欲しそうな物欲しそうな wistful; desirous顔付顔付 expression; look (on one's face)とを同時に同時に at the same time; simultaneously彼ら彼ら they; themの前前 front ofに示す示す express; showのです。彼らは笑いました笑いました smiled; laughed。それが嘲笑嘲笑 scorn; derisionの意味意味 meaning; senseでなくって、好意好意 good will; kind intentionから来たものか、また好意らしく見せるつもりなのか、私は即坐に即坐に at once; on the spot (usually 即座に)解釈解釈 interpretationの余地余地 leeway; latitudeを見出し得ない見出し得ない can't manage to findほど落付を失って落付を失って lose one's composureしまうのです。そうして事が済んだ済んだ finished; concluded後で、いつまでも、馬鹿にされた馬鹿にされた was ridiculed; was teasedのだ、馬鹿にされたんじゃなかろうかと、何遍も何遍も any number of times; over and over心のうちで心のうちで inwardly; to oneself繰り返す繰り返す repeat; replayのです。
私は自由な自由な independent; not tied down身体身体 personでした。たとい学校学校 schoolを中途で中途で in the middle; part way through已めよう已めよう quitが、またどこへ行って行って go (to)どう暮らそう暮らそう live; bide one's timeが、あるいはどこの何者何者 whatever person; whomeverと結婚しよう結婚しよう marry; wedが、誰とも誰とも (no) one相談する相談する consult (with)必要必要 necessity; needのない位地位地 position; situationに立っていました立っていました stood in; was situated in。私は思い切って思い切って resolutely; determindly奥さんにお嬢さんを貰い受ける貰い受ける receive; take in話話 discussionをして見ようかという決心決心 determination; resolveをした事がそれまでに何度となく何度となく many times; numerous timesありました。けれどもそのたびごとに私は躊躇して躊躇して hesitate; refrain、口口 mouthへはとうとう出さずに出さずに without putting forth; without uttering (words)しまったのです。断られる断られる be refused; be turned downのが恐ろしい恐ろしい frighteningからではありません。もし断られたら、私の運命運命 destiny; fateがどう変化する変化する change; be alteredか分りません分りません don't know; can't sayけれども、その代りその代り on the other hand今今 now; the presentまでとは方角方角 course; directionの違った違った different場所場所 place; positionに立って、新しい新しい new; novel世の中世の中 worldを見渡す見渡す look out on便宜便宜 advantage; expedienceも生じて来る生じて来る arise; come aboutのですから、そのくらいの勇気は出せば出せたのです。しかし私は誘き寄せられる誘き寄せられる be lured; be coaxed; be ensnaredのが厭厭 disagreeable; unpalatableでした。他他 others; other (people)の手手 trick; techniqueに乗る乗る be deceived; be taken in (by)のは何よりも何よりも more than anything業腹業腹 mortifyingでした。叔父叔父 uncleに欺された欺された was deceived; was cheated私は、これから先これから先 from here onどんな事があっても、人には欺されまいと決心したのです。
「私私 I; meが書物書物 booksばかり買う買う purchase; buyのを見て見て see; take note of、奥さん奥さん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)は少し少し a little; a bit着物着物 clothingを拵えろ拵えろ procureといいました。私は実際実際 actually; in fact田舎田舎 countryside; the countryで織った織った wove木綿もの木綿もの cotton clothesしかもっていなかったのです。その頃その頃 those days; those timesの学生学生 studentsは絹絹 silk (threads)の入った入った included; made of着物を肌に着けませんでした肌に着けませんでした didn't wear。私の友達友達 friendに横浜横浜 Yokohamaの商人商人 shopkeeper; merchantか何か何か somethingで、宅宅 house; householdはなかなか派出に派出に extravagantly; lavishly (usually 派手に)暮して暮して liveいるものがありましたが、そこへある時ある時 one time; on one occasion羽二重羽二重 fine Japanese silkの胴着胴着 vestが配達配達 deliveryで届いた届いた was delivered; arrived事事 instance; occasionがあります。すると皆な皆な everyoneがそれを見て笑いました笑いました laughed。その男男 man; fellowは恥ずかしがって恥ずかしがって be bashful; feel self-conscious色々色々 in varous ways弁解しました弁解しました excused; defendedが、折角の折角の having gone to great lengths for胴着を行李行李 baggage; trunkの底底 bottomへ放り込んで放り込んで toss into利用しない利用しない not make use ofのです。それをまた大勢大勢 a sizeable group; a large number of folkが寄ってたかって寄ってたかって crowd round、わざと着せました着せました forced (someone) to wear。すると運悪く運悪く unfortunatelyその胴着に蝨蝨 liceがたかりました。友達はちょうど幸い幸い luck; fortuneとでも思った思った considered; took (as)のでしょう、評判の評判の of repute胴着をぐるぐると丸めてぐるぐると丸めて wad up; bundle together、散歩散歩 walk; strollに出た出た went out (for)ついでに、根津根津 Nezu (place name)の大きな大きな big; large泥溝泥溝 gutter; ditchの中中 middleへ棄てて棄てて discardしまいました。その時いっしょに歩いて歩いて walk; strollいた私は、橋橋 bridgeの上上 top ofに立って立って stand笑いながら友達の所作所作 act; performanceを眺めて眺めて watch; observeいましたが、私の胸胸 breast; bosomのどこにも勿体ない勿体ない wastefulという気気 feelingは少しも少しも (not) in the least起りませんでした起りませんでした did not arise; did not occur。
その頃から見ると私も大分大分 a good deal大人大人 adult; matureになっていました。けれどもまだ自分自分 oneselfで余所行余所行 going outの着物を拵えるというほどの分別分別 discernment; tasteは出なかったのです。私は卒業して卒業して graduate髯髯 whiskers; mustacheを生やす生やす grow; sport (mustache)時代時代 time; age; daysが来なければ来なければ not come; not arrive、服装服装 clothing; attireの心配心配 worry; concernなどはするに及ばないするに及ばない not worth doingものだという変な変な eccentric考え考え view; notionをもっていたのです。それで奥さんに書物は要る要る need; requireが着物は要らないといいました。奥さんは私の買う書物の分量分量 quantity; amountを知っていました知っていました knew; was aware (of)。買った本本 booksをみんな読む読む readのかと聞く聞く askのです。私の買うものの中中 midstには字引き字引き dictionariesもありますが、当然当然 naturally; of course眼を通す眼を通す look throughべきはずでありながら、頁さえ切ってない頁さえ切ってない had not cracked the pages; had not openedのも多少多少 some; a fewあったのですから、私は返事返事 answer; responseに窮しました窮しました was hard pressed (for); was at a loss (as to)。私はどうせ要らないものを買うなら、書物でも衣服衣服 clothesでも同じ同じ the sameだという事に気が付きました気が付きました realized。その上その上 furthermore私は色々世話になる世話になる be obliged; owe a debt of gratitude (to)という口実の下にという口実の下に under the pretext of ...、お嬢さんお嬢さん daughter; young ladyの気に入る気に入る be to one's liking; suit one's tasteような帯帯 obi; (kimono) sashか反物反物 fabric; cloth; (clothing) materialを買ってやりたかったのです。それで万事万事 all; everythingを奥さんに依頼しました依頼しました requested。
奥さん奥さん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)は自分一人で自分一人で on one's own; by oneself行く行く goとはいいません。私私 I; meにもいっしょに来いいっしょに来い come withと命令する命令する order; instructのです。お嬢さんお嬢さん daughter; young ladyも行かなくてはいけないというのです。今今 now; the presentと違った違った different; unlike空気空気 air; atmosphereの中中 middle; midstに育てられた育てられた was brought up; was raised私どもは、学生学生 studentの身分身分 social position; social statusとして、あまり若い若い young女女 woman; ladyなどといっしょに歩き廻る歩き廻る walk about; go out in public習慣習慣 custom; practiceをもっていなかったものです。その頃その頃 those days; those timesの私は今よりもまだ習慣の奴隷奴隷 slave; servantでしたから、多少多少 a little; somewhat躊躇しました躊躇しました hesitated; waveredが、思い切って思い切って with resolve出掛けました出掛けました set out。
お嬢さんは大層大層 very much着飾っていました着飾っていました was dressed up。地体地体 by nature; from the startが色色 color; hueの白い白い white; light; fairくせに、白粉白粉 (face) powderを豊富に豊富に generally; liberally塗った塗った painted; spread; appliedものだからなお目立ちます目立ちます stand out; be conspicuous。往来往来 the road; the streetの人人 peopleがじろじろ見て見て observe; look atゆくのです。そうしてお嬢さんを見たものはきっとその視線視線 line of sight; gaze; lookをひるがえして、私の顔顔 faceを見るのだから、変な変な strange; oddものでした。
三人三人 three (people); the three of usは日本橋日本橋 Nihonbashi (place name)へ行って買いたい買いたい want to buyものを買いました。買う間間 interval (of time)にも色々色々 in various ways気が変る気が変る change one's mindので、思ったより思ったより more than expected; more than anticipated暇がかかりました暇がかかりました took time。奥さんはわざわざ私の名名 nameを呼んで呼んで callどうだろうと相談相談 discussion; consultationをするのです。時々時々 at times反物反物 fabric; cloth; (clothing) materialをお嬢さんの肩肩 shouldersから胸胸 chestへ竪竪 top to bottomに宛てて宛てて hold up (against)おいて、私に二、三歩二、三歩 two or three steps; several steps遠退いて遠退いて back up; back away見てくれろというのです。私はそのたびごとに、それは駄目駄目 no goodだとか、それはよく似合う似合う match; fit; suitとか、とにかく一人前の口を聞きました一人前の口を聞きました voiced a respectable opinion; managed a decent reply。
こんな事事 matter; affairで時間が掛って時間が掛って take time帰り帰り returnは夕飯夕飯 evening meal; dinnerの時刻時刻 timeになりました。奥さんは私に対するに対する with respect to; in consideration ofお礼お礼 thanks; gratitudeに何か何か somethingご馳走するご馳走する treat someone toといって、木原店木原店 Kiharadana (name of a theater)という寄席寄席 entertainment hall; theaterのある狭い狭い narrow横丁横丁 side street; alleyへ私を連れ込みました連れ込みました brought to。横丁も狭いが、飯飯 a meal; foodを食わせる食わせる serve up (food)家家 house; establishmentも狭いものでした。この辺辺 area; localeの地理地理 geographyを一向一向 (not) at all心得ない心得ない not know; not be familiar with私は、奥さんの知識知識 knowledgeに驚いた驚いた was surprised (at); was impressed (by)くらいです。
我々我々 we; usは夜夜 eveningに入って入って enter (into)家へ帰りました。その翌日翌日 next day; following dayは日曜日曜 Sundayでしたから、私は終日終日 all day; the whole day through室室 roomの中中 insideに閉じ籠っていました閉じ籠っていました was holed up; was secluded。月曜月曜 Mondayになって、学校学校 schoolへ出る出る go out (to); appear (at)と、私は朝っぱら朝っぱら early morningそうそう級友級友 classmateの一人から調戯われました調戯われました was teased; was chided。いつ妻妻 wifeを迎えた迎えた received; welcomedのかといってわざとらしく聞かれるのです。それから私の細君細君 wifeは非常に非常に extremely; exceedingly美人美人 beauty; belleだといって賞める賞める compliment; praiseのです。私は三人連三人連 group of three (people)で日本橋へ出掛けたところを、その男男 man; fellowにどこかで見られたものとみえます。
「私私 I; meは宅宅 house; homeへ帰って帰って return (to)奥さん奥さん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)とお嬢さんお嬢さん daughter; young ladyにその話話 story; talkをしました。奥さんは笑いました笑いました laughed。しかし定めて定めて surely; no doubt迷惑迷惑 trouble; botherだろうといって私の顔顔 faceを見ました見ました looked at; observed。私はその時時 time; occasion腹のなかで腹のなかで deep down; to oneself、男男 menはこんな風風 mannerにして、女女 womenから気を引いて見られる気を引いて見られる be probed; be sounded outのかと思いました思いました thought; considered。奥さんの眼眼 eyesは充分充分 sufficiently私にそう思わせるだけの意味意味 meaning; senseをもっていたのです。私はその時自分自分 oneselfの考えている考えている be thinking通り通り exactly as ...を直截に直截に frankly; directly打ち明けてしまえば打ち明けてしまえば open up about; come clean with好かった好かった should have ...かも知れませんかも知れません it may be that ...。しかし私にはもう狐疑狐疑 doubt; hesitation; indecisionという薩張りしない薩張りしない not feel right塊り塊り lump; blockageがこびり付いてこびり付いて cling; stick (to)いました。私は打ち明けようとして、ひょいと留まりました留まりました stopped oneself; halted。そうして話の角度角度 angleを故意に故意に intentionally; purposely少し少し a little; a bit外らしました外らしました bent; deflected (away)。
私は肝心の肝心の critical; all-important自分というものを問題問題 question; topicの中中 middle; midstから引き抜いて引き抜いて extract; removeしまいました。そうしてお嬢さんの結婚結婚 marriageについて、奥さんの意中意中 mind; heart; intentionsを探った探った probedのです。奥さんは二、三二、三 two or three; severalそういう話のないでもないような事事 fact; matterを、明らかに明らかに clearly私に告げました告げました disclosed; revealed。しかしまだ学校学校 schoolへ出ている出ている go to; attendくらいで年年 ageが若い若い youngから、こちらではさほど急がない急がない not hurry; not rushのだと説明しました説明しました explained。奥さんは口へは出さない口へは出さない not say (it)けれども、お嬢さんの容色容色 looks; beautyに大分大分 a great deal重きを置いて重きを置いて attach importance to; recognize value inいるらしく見えました。極めよう極めよう decide; chooseと思えばいつでも極められるんだからというような事さえ口外しました口外しました betrayed; divulged。それからお嬢さんより外により外に other than; besides子供子供 childrenがないのも、容易に容易に easily; lightly手離したがらない手離したがらない not want to let go of源因源因 cause; reason (usually 原因)になっていました。嫁嫁 brideにやるか、聟を取る聟を取る take a son-in-lawか、それにさえ迷っている迷っている be undecided (on)のではなかろうかと思われるところもありました。
話して話して talk; converseいるうちに、私は色々の色々の various知識知識 informationを奥さんから得た得た got; attained; gainedような気気 feelingがしました。しかしそれがために、私は機会機会 chance; opportunityを逸した逸した lost; missed (a chance)と同様同様 equivalent (to); the same (as)の結果結果 result; outcomeに陥って陥って fall into; end up inしまいました。私は自分について、ついに一言も一言も (not) one word口を開く口を開く open one's mouth (to talk)事ができませんでした事ができませんでした was not able to ...。私は好い加減な好い加減な appropriate; suitableところで話を切り上げて切り上げて finish; wrap up、自分の室室 roomへ帰ろうとしました。
さっきまで傍傍 close; nearbyにいて、あんまりだわあんまりだわ that's too much; that's going a little farとか何とかいって笑った笑った laughedお嬢さんお嬢さん daughter; young ladyは、いつの間にかいつの間にか at some point向うの向うの other side; opposite隅隅 cornerに行って行って go (to)、背中背中 back; backsideをこっちへ向けて向けて turn towardいました。私私 I; meは立とう立とう stand; get upとして振り返った振り返った turned around; looked back時時 time; moment、その後姿後姿 appearance from behindを見た見た saw; noticedのです。後姿だけで人間人間 a personの心心 heart; mindが読める読める can readはずはありません。お嬢さんがこの問題問題 subject; topicについてどう考えて考えて thinkいるか、私には見当が付きませんでした見当が付きませんでした had no idea。お嬢さんは戸棚戸棚 closetを前にして前にして have before (one); have in front坐っていました坐っていました was seated。その戸棚の一尺一尺 1 shaku (about 30 cm; about 1 foot)ばかり開いている開いている be open隙間隙間 spacing; gapから、お嬢さんは何か何か something引き出して引き出して take out; withdraw膝膝 knees; lapの上上 top ofへ置いて置いて set; place眺めて眺めて look at; viewいるらしかったのです。私の眼眼 eyeはその隙間の端端 edge; marginに、一昨日一昨日 day before yesterday買った買った bought反物反物 fabric; cloth; (clothing) materialを見付け出しました見付け出しました spied; recognized。私の着物着物 clothingもお嬢さんのも同じ同じ the same戸棚の隅に重ねてあった重ねてあった had been piled one on another; had been stacked togetherのです。
私が何ともいわずに何ともいわずに without saying anything席を立ち掛ける席を立ち掛ける begin to get up (from one's seat)と、奥さん奥さん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)は急に急に suddenly改まった改まった changed; altered調子調子 mood; manner; toneになって、私にどう思う思う thinkかと聞く聞く askのです。その聞き方聞き方 way of askingは何をどう思うのかと反問反問 ask in returnしなければ解らない解らない not know; not be sureほど不意不意 out of the blue; unexpectedでした。それがお嬢さんを早く早く soon片付けた片付けた marry off方方 alternative (of two choices)が得策得策 prudent; advisableだろうかという意味意味 meaningだと判然した判然した made clear時、私はなるべく緩くらな緩くらな slow; deliberate方がいいだろうと答えました答えました answered; replied。奥さんは自分自分 oneselfもそう思うといいました。
奥さんとお嬢さんと私の関係関係 relationshipがこうなっている所所 place; pointへ、もう一人一人 one (person)男男 man; young manが入り込まなければならない入り込まなければならない had to come into; had to enter事事 circumstance; situationになりました。その男がこの家庭家庭 householdの一員一員 (one) memberとなった結果結果 result; consequenceは、私の運命運命 destiny; fateに非常な非常な extraordinary; extreme変化変化 change; transformationを来して来して bring about; produceいます。もしその男が私の生活生活 lifeの行路行路 one's course; one's pathを横切らなかった横切らなかった hadn't crossedならば、おそらくこういう長い長い long; lengthyものをあなたに書き残す書き残す leave in writing必要必要 necessity; needも起らなかった起らなかった would not have arisenでしょう。私は手もなく手もなく just like; as it were、魔魔 devil; demon; evil spiritの通る通る pass by前前 front ofに立って立って stand、その瞬間瞬間 moment; instantの影影 shadowに一生一生 whole life; existenceを薄暗くされて薄暗くされて be dimmed; be darkened気が付かずに気が付かずに taking no notice; without realizingいたのと同じ事です。自白する自白する confess; be candidと、私は自分でその男を宅宅 houseへ引張って来た引張って来た brought (to)のです。無論無論 of course奥さんの許諾許諾 permission; consentも必要ですから、私は最初最初 first of all何もかも隠さず隠さず not withholding打ち明けて打ち明けて disclose; reveal、奥さんに頼んだ頼んだ requested; petitionedのです。ところが奥さんは止せ止せ stop; don't (do it)といいました。私には連れて来なければ済まない連れて来なければ済まない have to bring in; feel compelled to bring in事情事情 reasons; circumstancesが充分充分 sufficiently; fullyあるのに、止せという奥さんの方には、筋の立った筋の立った logical; rational理屈理屈 argumentはまるでなかったのです。だから私は私の善い善い good; fine; rightと思うところを強いて強いて by force; insistently断行して断行して carry out with resolveしまいました。