赤シャツあかシャツ Red Shirt (nickname for the head teacher)勧められてすすめられて invited; talked into (doing something)つり fishing行ったった went帰りかえり returnから、山嵐山嵐やまあらし Yama Arashi (nickname for Hotta, the head mathematics teacher)疑ぐり出したうたぐりした began to doubt; began to distrust無いい non-existantこと matterたね subject; theme下宿下宿げしゅく lodgings出ろろ leave云われたわれた be toldとき time; occasionは、いよいよ不埒な不埒ふらちな wicked; reprehensibleやつ fellowだと思ったおもった thought。ところが会議会議かいぎ meetingせき place; occasionでは案に相違してあん相違そういして contrary to expectation滔々と滔々とうとうと eloquently生徒生徒せいと students厳罰厳罰げんばつ strict discipline; severe punishmentろん argument述べたべた stated; laid out (an argument)から、おやへん strangeだなと首を捩ったくびひねった puzzled over (lit: inclined one's head)萩野萩野はぎの Hagino (name of Botchan's landlord)婆さんばあさん old womanから、山嵐が、うらなりうらなり Uranari (nickname for Koga, the English teacher)くん (suffix of familiarity for males)のために赤シャツと談判談判だんぱん negotiation; talkをしたと聞いたいた heard; learned時は、それは感心感心かんしん admirableだと手を拍ったった applaudedこの様子ではこの様子ようすでは at this rateわる者わるもの villain; scoundrelは山嵐じゃあるまい、赤シャツのほう direction; alternative曲ってるまがってる twisted; deviousんで、好加減な好加減いいかげんな unfounded; fabricated邪推邪推じゃすい sinister inferences実しやかにまことしやかに plausibly; with seeming truth、しかも遠廻しに遠廻とおまわしに in a round-about manner、おれのあたま head; mindなか inside浸み込ましたました caused to infiltrateのではあるまいかと迷ってるまよってる be in doubt about; ponder矢先矢先やさき at the point ofへ、野芹川野芹川のぜりがわ Nozeri River土手土手どて embankmentで、マドンナを連れてれて lead; take (someone)散歩散歩さんぽ walk; strollなんかしている姿姿すがた sight; appearance見たた sawから、それ以来それ以来いらい since then赤シャツは曲者曲者くせもの scoundrel; rogueだと極めてめて decided; concludedしまった。曲者だかなん whatだかよくは分らないわからない don't knowが、ともかくも善いい good; virtuousおとこ manじゃない。おもて front (side)うら back (side)とは違ったちがった are different男だ。人間人間にんげん people; human beingsたけ bambooのように真直真直まっすぐ straightでなくっちゃ頼もしくないたのもしくない undependable; not to be trusted。真直なものは喧嘩喧嘩けんか quarrelをしても心持ちがいい心持こころもちがいい have a good feeling; feel satisfied。赤シャツのようなやさしいのと、親切な親切しんせつな kind; gentleのと、高尚な高尚こうしょうな noble; refinedのと、琥珀琥珀こはく amberのパイプとを自慢そうに自慢じまんそうに proudly見せびらかすせびらかす show offのは油断が出来ない油断ゆだん出来できない one can't be too careful、めったに喧嘩も出来ないと思った。喧嘩をしても、回向院回向院えこういん Ekōin (temple in Tōkyō - birthplace of modern sumō wrestling)相撲相撲すもう sumō wrestlingのような心持ちのいい喧嘩は出来ないと思った。そうなると一銭五厘一銭五厘いっせんごりん 1 sen and 5 rin (0.015 yen)出入出入でいり amount; payment控所控所ひかえじょ staff room全体全体ぜんたい entirety of驚ろかしたおどろかした surprised; created a stir議論議論ぎろん argument; dispute相手相手あいて other party; adversaryの山嵐の方がはるかに人間らしい。会議の時に金壺眼金壺眼かなつぼまなこ deep staring eyes (lit: eyes like metal jars)をぐりつかせて、おれを睨めたにらめた glare at; scowl at時は憎いにくい detestable; cursed奴だと思ったが、あとで考えるかんがえる consider; think aboutと、それも赤シャツのねちねちしたねちねちした sticky; syrupy猫撫声猫撫声ねこなでごえ soft coaxing voiceよりはましだ。実はじつは in factあの会議が済んだんだ finished; concludedあとで、よっぽど仲直り仲直なかなおり reconciliationをしようかと思って、一こと二ことひとことふたこと a word or two話しかけてはなしかけて addressed; called out toみたが、野郎野郎やろう the guy返事返事へんじ responseもしないで、まだ眼を剥ってむくって hostile lookみせたから、こっちも腹が立ってはらって became angryそのままにしておいた。

それ以来それ以来いらい since then山嵐山嵐やまあらし Yama Arashi (nickname for Hotta, the head mathematics teacher)はおれと口を利かないくちかない not speak (to someone)つくえ deskうえ top返したかえした returned一銭五厘一銭五厘いっせんごりん 1 sen and 5 rin (0.015 yen)はいまだに机の上に乗っているっている be resting on。ほこりだらけになって乗っている。おれは無論無論むろん of course手が出せないせない can't touch (something)、山嵐は決してけっして absolutely (not)持って帰らないってかえらない won't take home。この一銭五厘が二人二人ふたり two (people)あいだ (space) between墻壁墻壁しょうへき barrier; wallになって、おれは話そうはなそう speak (to)思っておもって think; intend (to do)も話せない、山嵐は頑としてがんとして stubbornly黙ってるだまってる remain silent。おれと山嵐には一銭五厘が祟ったたたった cursed; brought evil upon。しまいには学校学校がっこう school出てて show up; make one's appearance一銭五厘を見るる seeのが苦になったになった was a burden; weighed on one's mind

山嵐とおれが絶交絶交ぜっこう breach (of friendship)姿姿すがた situation; conditionとなったに引き易えてえて in contrast to赤シャツあかシャツ Red Shirt (nickname for the head teacher)とおれは依然として依然いぜんとして as before在来の在来ざいらいの ordinary; usual関係関係かんけい relationship保ってたもって maintain; keep交際交際こうさい association; social interactionをつづけている。野芹川野芹川のぜりがわ Nozeri River逢ったった saw; encountered翌日翌日よくじつ next dayなどは、学校へ出ると第一番第一番だいいちばん first of all; straightawayにおれのそば side; next to来てて came (to); approachedきみ you (form a address)今度の今度こんどの this time; current下宿下宿げしゅく lodgingsはいいですかのまたいっしょに露西亜露西亜ロシア Russia文学文学ぶんがく literature釣りり fishing行こうこう shall we goじゃないかのといろいろなこと mattersを話しかけた。おれは少々少々しょうしょう a bit; somewhat憎らしかったにくらしかった aggravated; feeling spitefulから、昨夜昨夜ゆうべ last night二返二返にへん twice逢いましたねと云ったらったら said、ええ停車場停車場ていしゃば stop; stationで――君はいつでもあの時分時分じぶん time出掛ける出掛でかける set out; leave (for)のですか、遅いおそい lateじゃないかと云う。野芹川の土手土手どて embankmentでもお目に懸りましたかかりました saw; encounteredねと喰らわしてやったららわしてやったら let (someone) have it、いいえぼく Iはあっちへは行かない、 bathにはいって、すぐ帰ったかえった returned home答えたこたえた responded; answered何もなにも nothingそんなに隠さないかくさない hideでもよかろう、現にげんに as a matter of fact逢ってるんだ。よくうそ lie; fibをつくおとこ manだ。これで中学中学ちゅうがく middle school教頭教頭きょうとう head teacher勤まるつとまる be employed as; serve asなら、おれなんか大学大学だいがく university総長総長そうちょう chancellorがつとまる。おれはこのとき time; occasionからいよいよ赤シャツを信用信用しんよう trustしなくなった。信用しない赤シャツとは口をきいて、感心して感心かんしんして respect; admireいる山嵐とは話をしない。世の中なか the world随分随分ずいぶん very muchみょう strangeなものだ。

ある dayこと happening赤シャツあかシャツ Red Shirt (nickname for the head teacher)がちょっときみ you (form of address)はなし matter for discussionがあるから、僕のぼくの myうちまで来てくれてくれ please come (to)云うう saidから、惜しいしい unfortunate; a pity思ったおもった thought; regarded as温泉温泉おんせん onsen行きき going to欠勤して欠勤けっきんして be absent from; miss四時四時よじ four o'clockごろ about (time)出掛けて行った出掛でかけてった set out (for)。赤シャツは一人もの一人ひとりもの bachelorだが、教頭教頭きょうとう head teacherだけに下宿下宿げしゅく lodgingsとくの昔とくのむかし long ago (usually っくのむかし)引き払ってはらって clear out of; vacate立派な立派りっぱな fine; splendid玄関玄関げんかん house (lit: entryway)構えてかまえて keep (house); take up (one's residence)いる。家賃家賃やちん rent九円五拾銭九円五拾銭きゅうえんごじっせん 9 yen and 50 sen (9.50 yen)だそうだ。田舎田舎いなか the countryへ来て九円五拾銭払えばこんなうち houseへはいれるなら、おれも一つひとつ once; one time奮発して奮発ふんぱつして splurge; indulge oneself東京東京とうきょう Tōkyōからきよ Kiyo (name of Botchan's former maidservant)呼び寄せてせて call for; send for喜ばしてやろうよろこばしてやろう make (someone) gladと思ったくらいな玄関だ。頼むたのむ excuse me; hello (dated usage)と云ったら、赤シャツのおとうと younger brother取次に出て来た取次とりつぎた came to answer the door。この弟は学校学校がっこう the schoolで、おれに代数代数だいすう algebra算術算術さんじゅつ arithmetic; mathematics教わるおそわる be taught (by); study under至っていたって extremely出来のわるい子出来できのわるい dull child; poor studentだ。その癖そのくせ and yet; and still渡りものわたりもの vagabond; bird of passageだから、生れ付いてうまいて born and bred; native born田舎者田舎者いなかもの country folkよりも人が悪るいひとるい be a bad apple

赤シャツに逢ってって see; meet用事用事ようじ business聞いていて ask (about)みると、大将大将たいしょう old fellow例のれいの the aforementioned琥珀琥珀こはく amberのパイプで、きな臭いきなくさい burnt-smelling; smelling of char烟草烟草たばこ tobacco (usually 煙草たばこ)をふかしながら、こんな事を云った。「君が来てくれてから、前任者前任者ぜんにんしゃ predecessor時代時代じだい time; tenureよりも成績成績せいせき results; performanceがよくあがって、校長校長こうちょう (school) principal大いにおおいに very muchいいひと person; personnel得たた received; acquiredと喜んでいるので――どうか学校でも信頼して信頼しんらいして place confidence inいるのだから、そのつもりで勉強して勉強べんきょうして work hard; apply oneselfいただきたい」

「へえ、そうですか、勉強っていま now; the presentより勉強は出来ません出来できません can't do; is not possibleが――」

「今のくらいで充分充分じゅうぶん enough; sufficientです。ただ先だってせんだって the other dayお話しした事ですね、あれを忘れずにわすれずに without forgetting; keeping in mindいて下さればくだされば do (something) for someoneいいのです」

「下宿の世話世話せわ care; assistanceなんかするものあ剣呑剣呑けんのん dangerousだという事ですか」

「そう露骨に露骨ろこつに frankly; bluntly云うと、意味意味いみ meaningもない事になるが――まあ善いい okay; alrightさ――精神精神せいしん spirit (of something); intentionは君にもよく通じてつうじて be communicated; be deliveredいる事と思うから。そこで君が今のように出精出精しゅっせい industry; diligenceして下されば、学校のほう side; directionでも、ちゃんと見てて look at; take into considerationいるんだから、もう少しすこし a littleして都合都合つごう conditions; circumstancesさえつけば、待遇待遇たいぐう pay; remunerationの事も多少多少たしょう a bit; somewhatはどうにかなるだろうと思うんですがね」

「へえ、俸給俸給ほうきゅう salary; payですか。俸給なんかどうでもいいんですが、上がればがれば increase (provisional form)上がった方がいいですね」

「それで幸いさいわい fortunately今度今度こんど at this time転任者転任者てんにんしゃ transferee; person reassigned (to a new post)一人一人ひとり one person出来る出来できる come about; come into beingから――もっとも校長校長こうちょう (school) principal相談相談そうだん discussionしてみないと無論無論むろん of course受け合えないえない cannot promiseこと matterだが――その俸給俸給ほうきゅう pay; remunerationから少しすこし a bit融通融通ゆうずう flexibility; leewayが出来るかも知れないかもれない might be (that)から、それで都合都合つごう conditions; circumstancesをつけるように校長に話してはなして talk (to)みようと思うおもう think (of doing)んですがね」

「どうも難有う難有ありがとう thank you。だれが転任するんですか」

「もう発表発表はっぴょう announcementになるから話しても差し支えないつかえない there's no problem; it's okay to ...でしょう。実はじつは actually; in fact古賀古賀こが Koga (a.k.a. Uranari)くん (suffix of familiarity for males)です」

「古賀さんは、だってここのひと personじゃありませんか」

「ここの ground; landの人ですが、少し都合があって――半分半分はんぶん half当人当人とうにん the person in question希望希望きぼう desire; wishです」

「どこへ行くく go (to)んです」

日向日向ひゅうが Hyūga (place name - present-day Miyazaki Prefecture)延岡延岡のべおか Nobeoka (place name)で――土地土地とち place; regionが土地だから一級俸一級俸いっきゅうほう one pay grade上ってあがって increase; be raised行く事になりました」

誰かだれか somebody代りかわり replacement来るる comeんですか」

「代りも大抵大抵たいてい for the most part極まってるまってる be decided; be chosenんです。その代りの具合具合ぐあい conditionきみ you (form of address)待遇待遇たいぐう salary; compensationじょう concerningの都合もつくんです」

「はあ、結構です結構けっこうです that's fine。しかし無理に無理むりに unjustifiably; with excessive effort 上がらないでも構いませんかまいません doesn't matter; is okay with me

とも角もともかくも at any rate; in any caseぼく Iは校長に話すつもりです。それで校長も同意見同意見どういけん of the same opinionらしいが、追ってって later; in due timeは君にもっと働いてはたらいて work頂だかなくってはならんいただかなくってはならん have to have someone do something (humble form)ようになるかも知れないから、どうか今からいまから beginning nowそのつもりで覚悟覚悟かくご preparedness; resolutionをしてやってもらいたいですね」

「今より時間時間じかん hours; timeでも増すす increaseんですか」

「いいえ、時間は今より減るる be reducedかも知れませんが――」

「時間が減って、もっと働くんですか、みょう odd; strangeだな」

「ちょっと聞くと妙だが、――判然判然はんぜん clear; explicitとは今言いにくいいにくい can't sayが――まあつまり、君にもっと重大な重大じゅうだいな important責任責任せきにん responsibility持ってって have; take onもらうかも知れないという意味意味いみ meaningなんです」

おれには一向一向いっこう (not) in the least分らないわからない don't understand; can't understand。今より重大な責任と云えばえば say; mention数学数学すうがく mathematics主任主任しゅにん head (teacher)だろうが、主任は山嵐山嵐やまあらし Yama Arashi (nickname for Hotta, the head mathematics teacher)だから、やっこさんやっこさん that fellow; that guyなかなか辞職する辞職じしょくする resign (one's post)気遣いはない気遣きづかいはない there's little chance of。それに、生徒生徒せいと students人望人望じんぼう affection; high regardがあるから転任や免職免職めんしょく dismissalは学校の得策得策とくさく good policy; wise planであるまい。赤シャツあかシャツ Red Shirt (nickname for the head teacher)談話談話だんわ talk; conversationはいつでも要領を得ない要領ようりょうない one can't make sense of。要領を得なくっても用事用事ようじ businessはこれで済んだんだ be finished; be concluded。それから少し雑談雑談ざつだん various conversationをしているうちに、うらなりうらなり Uranari (nickname for Koga, the English teacher)君の送別会送別会そうべつかい farewell partyをやる事や、ついてはおれがさけ alcohol; spirits飲むむ drinkかと云うとい questionや、うらなり先生先生せんせい teacher君子君子くんし gentleman; man of virtue愛すべきあいすべき amiableひと personだと云う事や――赤シャツはいろいろ弁じたべんじた spoke。しまいに話をかえて君俳句俳句はいく haikuをやりますかと来たた came toから、こいつは大変大変たいへん terrible; dreadfulだと思って、俳句はやりません、さようならと、そこそこにそこそこに hurriedly帰って来たかえってた returned home発句発句ほっく first 17 syllables of longer poem (predecessor of haiku)芭蕉芭蕉ばしょう name of famous early haiku poet髪結床髪結床かみいどこ barber shop (outdated)親方親方おやかた boss; masterのやるもんだ。数学の先生が朝顔朝顔あさがお morning glory (flower)やに釣瓶釣瓶つるべ well bucket (ref to famous haiku with morning glories entwined around a well bucket: 朝顔に釣瓶とられてもらい水)をとられてたまるものか。

帰ってかえって return homeうんと考え込んだかんがんだ consider; think over世間世間せけん the world; peopleには随分随分ずいぶん extremely; very much気の知れないれない unknowable; unfathomableおとこ men居るる be; exist家屋敷家屋敷いえやしき estate; house and groundsはもちろん、勤めるつとめる be employed学校学校がっこう school不足不足ふそく insufficiency; shortcomingのない故郷故郷こきょう home town; home countryがいやになったからと云ってって saying; stating知らぬらぬ unknown他国他国たこく foreign land苦労苦労くろう hardship; difficulty求めにもとめに to seek out出るる depart (for)。それも花の都はなみやこ lively metropolis; prosperous main street電車電車でんしゃ (electric) train通ってかよって navigate; runところ placeなら、まだしもまだしも better; acceptableだが、日向日向ひゅうが Hyūga (place name - present-day Miyazaki Prefecture)延岡延岡のべおか Nobeoka (place name)とはなん whatこと matter; caseだ。おれは船つきふなつき harbor; landing placeのいいここへ来てて come (to)さえ、一ヶ月一ヶ月いっかげつ one month立たないたない not passed (time)うちにもう帰りたくなった。延岡と云えばやま mountainsなか middle (of)も山の中も大変な大変たいへんな terrible; awful山の中だ。赤シャツあかシャツ Red Shirt (nickname for the head teacher)の云うところによるとふね boatから上がってがって disembark一日一日いちんち one day (usually 一日いちにち)馬車馬車ばしゃ carriage; horse cart乗ってって ride (in)宮崎宮崎みやざき Miyazaki (place name)行ってって go (to)、宮崎からまた一日くるま car; rickshaw乗らなくっては着けないらなくってはけない have to ride in to reach (a place)そうだ。名前名前なまえ name聞いていて hearさえ、開けたひらけた modern; civilized所とは思えないおもえない doesn't seem like; can't regard asさる monkeysひと peopleとが半々半々はんはん fifty-fifty住んでるんでる live (in); inhabitような気がする。いかに聖人聖人せいじん saint; holy manうらなりうらなり Uranari (nickname for Koga, the English teacher)くん (suffix of familiarity for males)だって、好んでこのんで of one's own volition猿の相手相手あいて companionになりたくもないだろうに、何という物数奇物数奇ものずき curiosity; eccentricityだ。

ところへあいかわらず婆さんばあさん the old woman夕食夕食ゆうめし dinner運んではこんで carry; bring出るる appear; show up今日今日きょう todayもまたいも potatoですかいと聞いてみたら、いえ今日はお豆腐豆腐とうふ tōfuぞなもしと云った。どっちにしたって似たた similarものだ。

「お婆さん古賀古賀こが Koga (a.k.a. Uranari)さんは日向へ行くそうですね」

ほん当にほんとうに truly; reallyお気の毒どく unfortunate; pitiableじゃな、もし」

「お気の毒だって、好んで行くんなら仕方がない仕方しかたがない can't be helpedですね」

「好んで行くて、だれ whoがぞなもし」

「誰がぞなもしって、当人当人とうにん the person in questionがさ。古賀先生先生せんせい teacherが物数奇に行くんじゃありませんか」

「そりゃあなた、大違い大違おおちがい way off base; completely wrong勘五郎勘五郎かんごろう Kangorō (name based on the word 勘違かんちがい, or mistaken idea)ぞなもし」

「勘五郎かね。だっていま just now赤シャツがそう云いましたぜ。それが勘五郎なら赤シャツは嘘つきうそつき liar法螺右衛門法螺右衛門ほらえもん Horaemon (name based on the word ほら, or hot air)だ」

教頭教頭きょうとう head teacherさんが、そうお云いるのはもっともじゃが、古賀さんのお往きともないきともない not want to go (dialect for きたくない)のももっともぞなもし」

「そんなら両方両方りょうほう bothもっともなんですね。お婆さんは公平公平こうへい impartial; even-handedでいい。一体一体いったい indeed; in the endどういうわけ circumstances; situationなんですい」

今朝今朝けさ this morning古賀のお母さんかあさん mother見えてえて appeared; stopped by、だんだん訳をお話したはなした told; explainedがなもし」

「どんな訳をお話したんです」

「あそこもお父さんとうさん fatherお亡くなりてくなりて passed awayから、あたし達あたしたち we; us思うほどおもうほど as (one) thought暮し向くらむき household circumstances; finances豊かになうてゆたかかになうて not well offお困りこまり troubled; distressedじゃけれ、お母さんが校長校長こうちょう (school) principalさんにお頼みてたのみて beseeched; appealed (to)、もう四年四年よねん four yearsも勤めているものじゃけれ、どうぞ毎月毎月まいつき each month頂くいただく receiveものを、今少しすこし a little; a bitふやしておくれんかてて、あなた」

「なるほど」

校長校長こうちょう (school) principalさんが、ようまあ考えてかんがえて consider; think overみとこうとお云いたいた said; answeredげな。それでお母さんかあさん mother安心して安心あんしんして be reassured今にいまに soon増給増給ぞうきゅう salary increaseご沙汰沙汰さた notice; news (of)があろぞ、今月今月こんげつ this month来月来月らいげつ next monthかと首を長くしてくびながくして with great anticipation待ってって waitおいでたところへ、校長さんがちょっと来てて come; stop inくれと古賀古賀こが Koga (a.k.a. Uranari)さんにお云いるけれ、行ってって go (to); visitみると、気の毒どく too bad; unfortunateだが学校学校がっこう schoolかね money足りんりん be insufficientけれ、月給月給げっきゅう (monthly) salary上げるげる increase訳にゆかんわけにゆかん cannot ...。しかし延岡延岡のべおか Nobeoka (city in present-day Miyazaki Prefecture)になら空いたいた vacantくち position (for employment)があって、そっちなら毎月毎月まいつき each month五円五円ごえん five yen余分余分よぶん extraにとれるから、お望み通りのぞどおり just as desiredでよかろうと思うておもうて regarding (as)、その手続き手続てつづき arrangementsにしたから行くがええと云われたげな。――」

「じゃ相談相談そうだん talk; consultationじゃない、命令命令めいれい order; commandじゃありませんか」

「さよよ。古賀さんはよそへ行って月給が増すす increaseより、元のままもとのまま as beforeでもええから、ここに居りたいりたい want to be; want to remain屋敷屋敷やしき estate; residenceもあるし、はは motherもあるからとお頼みたたのみた asked; requestedけれども、もうそう極めためた decidedあとで、古賀さんの代りかわり replacement出来ている出来できている be ready; be chosenけれ仕方がない仕方しかたがない cannot be helped; nothing can be doneと校長がお云いたげな」

「へんひと a person馬鹿馬鹿ばか foolにしてら、面白くもない面白おもしろくもない unpleasant; disagreeable。じゃ古賀さんは行く desire; volitionはないんですね。どうれでどうれで no wonder ... (= どうりで)へん strange; oddだと思ったおもった thought。五円ぐらい上がったって、あんなやま mountainsなか middle (of)さる monkeyお相手相手あいて companionをしに行く唐変木唐変木とうへんぼく blockhead; oafはまずないからね」

「唐変木て、先生先生せんせい teacher (used here as form of address)なんぞなもし」

何でもいいでなんでもいいで never mindさあ、――全くまったく completely; utterly赤シャツあかシャツ Red Shirt (nickname for the head teacher)作略作略さりゃく scheme (= 策略さくりゃく)だね。よくない仕打仕打しうち behavior; conductだ。まるで欺撃欺撃だましうち foul playですね。それでおれの月給を上げるなんて、不都合な不都合ふつごうな improper; nefariousこと action; doingがあるものか。上げてやるったって、だれ whoが上がってやるものか」

「先生は月給がお上りるのかなもし」

「上げてやるって云うから、断わろうことわろう decline; turn down (an offer)と思うんです」

「何で、お断わりるのぞなもし」

「何でもお断わりだ。お婆さんばあさん old woman (used here as form of address)、あの赤シャツは馬鹿ですぜ。卑怯卑怯ひきょう cowardly; dastardlyでさあ」

「卑怯でもあんた、月給を上げておくれたら、大人しく大人おとなしく quietly; submissively頂いていただいて receive; acceptおくほう choice; alternativeとく advantageousぞなもし。若いわかい youngうちはよく腹の立つはらつ evoke anger; touch on one's nervesものじゃが、年をとってとしをとって grow olderから考えるかんがえる considerと、も少しすこし a bit我慢我慢がまん patience; perseveranceじゃあったのに惜しいしい regrettable事をした。腹立てたためにこないなそん lossをしたと悔むくやむ regret; rueのが当り前あたまえ typical; normalじゃけれ、お婆の言うう say; tell事をきいて、赤シャツさんが月給をあげてやろとお言いたら、難有う難有ありがとう thank you受けてけて receiveおおきなさいや」

年寄年寄としより older personの癖にくせに like a ...余計な世話を焼かなくってもいい余計よけい世話せわかなくってもいい you don't need to meddle in my business。おれの月給は上がろうと下がろうがろう decreaseとおれの月給だ」

婆さんばあさん the old womanはだまって引き込んだんだ withdrew; retreated爺さんじいさん the old man呑気な呑気のんきな carefree; leisurelyこえ voice出してして put forth (voice)うたい chanting of a Noh (drama) textをうたってる。謡というものは読んでんで readingわかるところ placeを、やにむずかしいせつ phrasingをつけて、わざと分らなくするわからなくする make incomprehensibleじゅつ skill; artだろう。あんなもの thing毎晩毎晩まいばん every night飽きずにきずに without tiring of唸るうなる groan; bellow爺さんの気が知れないれない can't comprehend。おれは謡どころの騒ぎさわぎ ado; fussじゃない。月給月給げっきゅう (monthly) salary上げてげて increase; raiseやろうと云うう saidから、別段別段べつだん particularly欲しくしく wantedもなかったが、入らないらない unneeded; unallocatedかね money余してあまして hold in excessおくのももったいないと思っておもって thought、よろしいと承知した承知しょうちした agreedのだが、転任転任てんにん transfer; reassignmentしたくないものを無理に無理むりに by force; unreasonably転任させてそのおとこ manの月給の上前を跳ねる上前うわまえねる receive a cut (from)なんて不人情な不人情ふにんじょうな heartless; ruthlessこと act; action出来る出来できる be capable ofものか。当人当人とうにん the person in questionもとの通りもとのとおり as beforeでいいと云うのに延岡延岡のべおか Nobeoka (city in present-day Miyazaki Prefecture)下りくんだり down toまで落ちさせるちさせる send down (to)とは一体一体いったい (what) on earthどう云う了見了見りょうけん intention; ideaだろう。太宰権帥太宰だざい権帥ごんのそつ Dazai Gonnosotsu (refers to Sugawara no Michizane, a famous Heian period scholar who was exiled to Dazaifu)でさえ博多博多はかた Hakata (ancient city, now a ward in Fukuoka; Dazaifu is close to Hakata) 近辺近辺きんぺん vicinityで落ちついたものだ。河合又五郎河合又五郎かあいまたごろう Kawai Matagorō (a retainer of the Okayama han in the Edo period who was exiled and fled to Sagara in Kumamoto Prefecture)だって相良相良さがら Sagara (city in Kumamoto Prefecture)でとまってるじゃないか。とにかく赤シャツあかシャツ Red Shirt (nickname for the head teacher)の所へ行ってって go (to)断わって来なくっちあことわってなくっちあ unless (I) go and refuse気が済まないまない will not be satisfied

小倉小倉こくら (black) duck clothはかま (formal Japanese) pantsをつけてまた出掛けた出掛でかけた departed; set out大きなおおきな large; grand玄関玄関げんかん entryway突っ立ってって stand (in)頼むたのむ excuse me; hello (dated usage)云うう say; call outと、また例のれいの the aforementionedおとうと younger brother取次に出て来た取次とりつぎた came to answer the door。おれのかお face見てて see; look atまた来たかという眼付眼付めつき look; expressionをした。よう businessがあれば二度二度にど two timesだって三度三度さんど three timesだって来る。よる夜なかなか middle of the nightだって叩き起さないとは限らないたたおこさないとはかぎらない can't rule out waking with a knock (at the door)教頭教頭きょうとう head teacherの所へご機嫌伺い機嫌きげんうかがい paying one's respects; inquiring after a person's healthにくるようなおれと見損ってる見損みそくなってる misjudge; misreadか。これでも月給月給げっきゅう (monthly) salary入らないらない don't need; don't wantから返しかえし return; give backきた came; calledんだ。すると弟がいま now; at present来客中来客中らいきゃくちゅう entertaining a guestだと云うから、玄関でいいからちょっとお目にかかりたいにかかりたい want to see (a person)と云ったらおく interiorへ引き込んだ。足元足元あしもと area around one's feetを見ると、畳付きの畳付たたみつきの matted (material)薄っぺらなうすっぺらな thin; flimsyのめりののめりの forward-slanting駒下駄駒下駄こまげた low clogsがある。奥でもう万歳ですよ万歳ばんざいですよ well done; congratulationsと云う声が聞えるきこえる could be heardお客きゃく guestとは野だだ Noda (short for Nodaiko, nickname for Yoshikawa, the art teacher)だなと気がついたがついた realized。野だでなくては、あんな黄色い黄色きいろい whiny; shrill (voice)声を出して、こんな芸人じみた芸人げいにんじみた artsy下駄を穿く穿く wear (on one's feet)ものはない。

しばらくすると、赤シャツあかシャツ Red Shirt (nickname for the head teacher)がランプを持ってって bring; carry玄関玄関げんかん entrywayまで出て来てて came out (to)、まあ上がりたまえがりたまえ please come in外の人ほかひと stranger; unfamiliar personじゃない吉川吉川よしかわ Yoshikawa (a.k.a. Nodaiko)くん (suffix of familiarity for males)だ、と云うう sayから、いえここでたくさんです。ちょっと話せばはなせば talkいいんです、と云って、赤シャツのかお face見るる look at金時金時きんとき Kintoki (refers to Kintarō, a ruddy-faced child folk hero)のようだ。野だだ Noda (short for Nodaiko, nickname for Yoshikawa, the art teacher)こう lord (mockingly)一杯飲んで一杯いっぱいんで drinkingると見える。

「さっき僕のぼくの my月給月給げっきゅう (monthly) salary上げてげて raise; increaseやるというお話でしたが、少しすこし a bit考えかんがえ thoughts; consideration変ったかわった changedから断わりことわり refuse; declineに来たんです」

赤シャツはランプをまえ forward出してして thrust out; extendおく interiorほう side; directionからおれの顔を眺めたながめた gazed (at)が、とっさの場合とっさの場合ばあい for a brief moment返事をしかねて返事へんじをしかねて at a loss for an answer; unable to respond茫然としている茫然ぼうぜんとしている be stupefied; be stunned増給増給ぞうきゅう pay raiseを断わるやつ fellow世の中なか this worldにたった一人一人ひとり one (person)飛び出して来たしてた suddenly appeared (before him)のを不審に思った不審ふしんおもった thought suspicious; thought strangeのか、断わるにしても、いま just now帰ったかえった returned (home)ばかりで、すぐ出直して出直でなおして set out againこなくってもよさそうなものだと、呆れ返ったあきかえった be taken aback byのか、または双方合併双方合併そうほうがっぺい combination of the two; both togetherしたのか、妙なみょうな odd; strangeくち mouthをして突っ立ったままったまま standing thereである。

「あのとき time; occasion承知した承知しょうちした agreed; consentedのは、古賀古賀こが Koga (a.k.a. Uranari)君が自分の自分じぶんの one's own希望希望きぼう desire; volition転任転任てんにん transferするという話でしたからで……」

「古賀君は全くまったく absolutely自分の希望で半ばなかば in part転任するんです」

「そうじゃないんです、ここに居たいたい want to stay; want to remainんです。元のもとの previous; original月給でもいいから、郷里郷里きょうり one's hometown; one's native placeに居たいのです」

きみ you (used here as form of address)は古賀君から、そう聞いたいた heardのですか」

「そりゃ当人当人とうにん him; the person in questionから、聞いたんじゃありません」

「じゃだれ whomからお聞きです」

「僕の下宿下宿げしゅく lodgings婆さんばあさん old womanが、古賀さんのおっ母さんおっさん motherから聞いたのを今日今日きょう today僕に話したのです」

「じゃ、下宿の婆さんがそう云ったのですね」

「まあそうです」

「それは失礼ながら失礼しつれいながら with all due respect; if you'll pardon my saying so少し違うちがう different; mistakenでしょう。あなたのおっしゃる通りおっしゃるとおり just as (you) sayだと、下宿屋下宿屋げしゅくや lodging residenceの婆さんの云うこと facts; matter信ずるしんずる believeが、教頭教頭きょうとう head teacherの云う事は信じないと云うように聞えるが、そういう意味意味いみ meaning解釈して解釈かいしゃくして understand; interpret差支えない差支さしつかえない be okay; be alrightでしょうか」

おれはちょっと困ったこまった be troubled; be in a bind文学士文学士ぶんがくし degreed scholarなんてものはやっぱりえらいものだ。妙なみょうな odd; curiousところ place; pointへこだわって、ねちねちねちねち tenaciously (lit: sticky or glutinous)押し寄せてせて advance; bear down onくる。おれはよく親父親父おやじ one's own fatherから貴様貴様きさま you (condescending)そそっかしくてそそっかしくて careless; rash駄目駄目だめ no goodだ駄目だと云われたわれた was toldが、なるほど少々少々しょうしょう a little; somewhatそそっかしいようだ。婆さんばあさん the old womanはなし talk; story聞いていて heardはっと思っておもって think; react飛び出して来たしてた came running overが、実はじつは in truthうらなりうらなり Uranari (nickname for Koga, the English teacher)くん (suffix of familiarity for males)にもうらなりのおっ母さんおっさん motherにも逢ってって meet (with a person)詳しいくわしい detailed事情事情じじょう facts; circumstancesは聞いてみなかったのだ。だからこう文学士りゅう manner; style斬り付けられるけられる be cut upと、ちょっと受け留めにくいめにくい hard to fend off

正面正面しょうめん the front (side); head onからは受け留めにくいが、おれはもう赤シャツあかシャツ Red Shirt (nickname for the head teacher)に対してたいして regarding; concerning不信任不信任ふしんにん distrust; lack of faithこころ heart; soulうち inside; within申し渡してもうわたして announced; declaredしまった。下宿下宿げしゅく lodgingsの婆さんもけちん坊のけちんぼうの miserly; stingy欲張り屋欲張よくば avaricious type; grabberに相違ない相違そういない there's no doubt that ...が、うそ lies; falsehood吐かないかない doesn't tell; doesn't utterおんな womanだ、赤シャツのように裏表裏表うらおもて front and back; two sidesはない。おれは仕方がない仕方しかたがない could do nothing elseから、こう答えたこたえた answered

「あなたの云うこと facts; matters本当本当ほんとう truthかも知れないかもれない may beですが――とにかく増給増給ぞうきゅう pay raiseご免蒙ります免蒙めんこうむります beg off; respectfully decline

「それはますます可笑しい可笑おかしい unusual; strangeいま just nowきみ youがわざわざお出になったいでになった appeared; came overのは増俸増俸ぞうほう increase in compensation受けるける receiveには忍びないにはしのびない be reluctant (to do); have scruples about理由理由りゆ reason; justification見出した見出みいだした found; discoveredからのように聞えたが、その理由が僕のぼくの my説明説明せつめい explanation取り去られたられた was eliminated; was negatedにもかかわらず増俸を否まれるいなまれる refuse; declineのは少しすこし a bit解しかねるかいしかねる hard to understandようですね」

「解しかねるかも知れませんがね。とにかく断わりますことわります decline; turn downよ」

「そんなにいや disagreeableなら強いていて forcibly; against a person's willとまでは云いませんが、そう二三時間二三時間にさんじかん two or three hoursのうちに、特別の特別とくべつの particular理由もないのに豹変しちゃ豹変ひょうへんしちゃ suddenly change将来将来しょうらい in the future; going forward君の信用にかかわる信用しんようにかかわる affect one's credibility

「かかわっても構わないかまわない doesn't matterです」

「そんな事はないはずです、人間人間にんげん a personに信用ほど大切な大切たいせつな important; valuableものはありませんよ。よしんばよしんば even if; for sake of argument一歩一歩いっぽ one step譲ってゆずって give in; yield、下宿の主人主人しゅじん masterが……」

「主人じゃない、婆さんです」

「どちらでもよろしい。下宿の婆さんが君に話した事を事実事実じじつ the truthとしたところで、君の増給は古賀古賀こが Koga (a.k.a. Uranari)君の所得所得しょとく income削ってけずって shave; whittle得たた gotten; obtainedものではないでしょう。古賀君は延岡延岡のべおか Nobeoka (city in Miyazaki Prefecture)行かれるかれる go (to)。その代りかわり replacementがくる。その代りが古賀君よりも多少多少たしょう slightly低給低給ていきゅう lower salaryで来てくれる。その剰余剰余じょうよ surplus; remainderを君に廻わすわす provide (to)と云うのだから、君は誰にもだれにも (no) one気の毒がるどくがる pity; feel sorry for必要必要ひつよう necessityはないはずです。古賀君は延岡でただ今よりも栄進される栄進えいしんされる be promoted新任者新任者しんにんしゃ new appointee最初最初さいしょ start; beginningからの約束約束やくそく agreement安くやすく at low costくる。それで君が上がられればがられれば be increased、これほど都合のいい都合つごうのいい fortuitous事はないと思うですがね。いやなら否でもいいが、もう一返もう一返いっぺん one more timeうちでよく考えてかんがえて consider; think overみませんか」

おれのあたま head; brainはあまりえらくないのだから、いつもなら、相手相手あいて the other partyがこういう巧妙な巧妙こうみょうな clever; tactful弁舌弁舌べんぜつ speech揮えばふるえば wield; brandish、おやそうかな、それじゃ、おれが間違ってた間違まちがってた was mistaken; was wrong恐れ入っておそって be overwhelmed; feel small引きさがるきさがる retreat; back downのだけれども、今夜今夜こんや this nightそうは行かないそうはかない won't play out that way。ここへ来たた arrived最初最初さいしょ very firstから赤シャツあかシャツ Red Shirt (nickname for the head teacher)何だかなんだか somehow; in some way虫が好かなかったむしかなかった had a dislike for途中で途中とちゅうで along the way親切な親切しんせつな kind; gentle女みたようなおんなみたような effeminateおとこ manだと思い返したおもかえした thought twice (about); reconsideredこと act; occurrenceはあるが、それが親切でも何でもなさそうなので、反動反動はんどう reaction; backlash結果結果けっか result (of)いま now; at presentじゃよっぽどいや unpleasant; disagreeableになっている。だからさき the other party; heがどれほどうまく論理的に論理的ろんりてきに logically; rationally弁論弁論べんろん argument; debate逞くたくましく vigorously; robustlyしようとも、堂々たる堂々どうどうたる imposing; impressive教頭流教頭流きょうとうりゅう head teacher-likeにおれを遣り込めようめよう talk (a person) down; corner (a person) in argumentとも、そんな事は構わないかまわない doesn't matter議論議論ぎろん argument; debateのいいひと person善人善人ぜんにん good person; virtuous personとはきまらない。遣り込められるほう side; party悪人悪人あくにん bad person; scoundrelとは限らないとはかぎらない it's not necessarily the case that ...表向き表向おもてむき on the surfaceは赤シャツの方が重々重々しゅじゅ in every wayもっとももっとも reasonable; rationalだが、表向きがいくら立派立派りっぱ fine; splendidだって、腹の中まではらなかまで to heart; to one's core惚れさせるれさせる captivate one; earn one's devotion訳には行かないわけにはかない it isn't the case that ...かね money; wealth威力威力いりょく influence; authority理屈理屈りくつ reason; argument人間の人間にんげんの human; a person'sこころ heart; soul買えるえる can be boughtもの fact; caseなら、高利貸高利貸こうりがし usurerでも巡査巡査じゅんさ policemanでも大学教授大学教授だいがくきょうじゅ university professorでも一番一番いちばん most; best人に好かれなくてはならないかれなくてはならない must be loved中学中学ちゅうがく middle schoolの教頭ぐらいな論法論法ろんぽう logic; reasoningでおれの心がどう動くうごく be movedものか。人間は好き嫌いきらい likes and dislikes働くはたらく operate; functionものだ。論法で働くものじゃない。

「あなたの云うう say事はもっともですが、ぼく I増給増給ぞうきゅう pay raiseがいやになったんですから、まあ断わりますことわります decline; refuse考えたかんがえた considered; thought overって同じおなじ same事です。さようなら」と云いすててもん gate出たた left (through); departed (from)。頭のうえ aboveには天の川あまがわ stars; milky way一筋一筋ひとすじ a lineかかっている。