親譲り親譲おやゆずり by nature (lit: from one's parents)無鉄砲無鉄砲むてっぽう recklessness (lit: without a gun; from the idea of rushing into battle without a gun)小供の時小供こどもとき childhood; youth (usually 子供こども)から損ばかりそんばかり nothing but troubleしている。小学校小学校しょうがっこう elementary school; primary school居るる to be (outdated character usage)時分時分じぶん time; period学校学校がっこう school二階二階にかい second floorから飛び降りてりて jump; jump down (lit: fly down)一週間ほど一週間いっしゅうかんほど one week; as much as one week; extent of one week腰を抜かしたこしかした dislocated my hipこと act; factがある。なぜそんな無闇無闇むやみ rash; recklessをしたと聞くく to askひと person; peopleがあるかも知れぬかもれぬ may be; might be (equivalent to かもしれない)別段別段べつだん particularly深いふかい profound; deep理由理由りゆ reasonでもない。新築新築しんちく new constructionの二階からくび neck (but translates better as "head" in some cases)出してして stick outいたら、同級生同級生どうきゅうせい classmate一人一人ひとり individual; one person冗談に冗談じょうだんに jokingly、いくら威張って威張いばって brag; put on airsも、そこから飛び降りる事は出来まい出来できまい probably can't (older form of 出来ないだろう)弱虫弱虫よわむし coward; sissy; weakling (lit: weak insect)やーい。と囃したはやした bantered; jeeredからである。小使小使こづかい janitor負ぶさってぶさって ride on someone's shoulders帰って来たかえってた returned homeとき time; when ...おやじおやじ father大きなおおきな big eye; eyesをして二階ぐらいから飛び降りて腰を抜かすやつ guy; fellowがあるかと云ったった said (equivalent to 言った)から、このつぎ next; next timeは抜かさずに飛んで見せますせます show答えたこたえた answered

親類のもの親類しんるいのもの a relative (もの here refers to a person, not a thing)から西洋製西洋製せいようせい Western-made (imported from the West)のナイフを貰らってらって received (outdated character usage)奇麗奇麗きれい pretty; nice blade sun翳してかざして hold aloft; hold out友達友達ともだち friendに見せていたら、一人が光るひかる shine事は光るが切れそうれそう look like it can cutもないと云った。切れぬ事があるか、何でもなんでも anything切ってみせると受け合ったった guaranteed; vouched for。そんならきみ you (familiar; male)ゆび fingerを切ってみろと注文注文ちゅうもん request; orderしたから、何だ指ぐらいこの通りこのとおり like thisだとみぎ right (vs left) hand親指親指おやゆび thumb (lit: parent finger)こう back (of the hand)はすにはすに at an angle切り込んだんだ cut intoさいわい fortunatelyナイフが小さいちいさい smallのと、親指のほね bone堅かったかたかった was hard; was toughので、今だにいまだに still; to this day親指は手に付いているいている is attached。しかし創痕創痕きずあと scar (lit: injury mark)死ぬぬ die; deathまで消えぬえぬ will not disappear

にわ garden; yardひがし east二十歩二十歩にじゅっぽ twenty paces行き尽すつくす walk (go) through; walk (go) to the edge ofと、南上がり南上みなみあがり rising to the southにいささかばかりささかばかり small; slight; modest菜園菜園さいえん vegetable gardenがあって、真中真中まんなか middle栗の木くり chestnut tree一本一本いっぽん one (tree)立っているっている be standing。これはいのち lifeより大事大事だいじ precious; importantな栗だ。 nut; fruit熟するじゅくする ripen時分時分じぶん time; period起き抜けにけに on rising; as soon as one gets up背戸背戸せど back door出てて go out of落ちたちた fallenやつ ones拾ってひろって pick upきて、学校学校がっこう school食うう eat。菜園の西側西側にしがわ west side山城屋山城屋やましろや Yamashiroya (name)という質屋質屋しちや pawn shop庭続き庭続にわつづき adjoining yardで、この質屋に勘太郎勘太郎かんたろう Kantarō (name)という十三四十三四じゅうさんし 13 or 14せがれ son居たた to be (past tense; outdated character usage)。勘太郎は無論無論むろん of course弱虫弱虫よわむし coward; sissy; weakling (lit: weak insect)である。弱虫のくせ manner; habit四つ目垣目垣めがき lattice fence乗りこえてりこえて climb over、栗を盗みぬすみ stealにくる。ある day夕方夕方ゆうがた evening折戸折戸おりど gateかげ shadow隠れてかくれて hide、とうとう勘太郎を捕まえてつらまえて catch; seize; grabやった。そのとき time勘太郎は逃げ路みち escape route失ってうしなって lose一生懸命一生懸命いっしょうけんめい as hard as one can; frantically飛びかかってびかかって spring at; pounce uponきた。向うむこう the other party二つふたつ two (years of age)ばかり年上年上としうえ olderである。弱虫だがちから strength; power強いつよい strong鉢の開いた頭はちひらいたあたま flat-crowned head (lit: head like an open bowl)を、こっちのむね chest宛てててて apply; pressぐいぐいぐいぐい with all one's strength押したした pushed拍子拍子ひょうし the moment (one does something)に、勘太郎の頭がすべって、おれのあわせ a lined kimonoそで sleeveなか insideにはいった。邪魔邪魔じゃま hindranceになって arm (hand)使えぬ使つかえぬ can't useから、無暗に無暗むやみに indiscriminately手を振ったらったら shook、袖の中にある勘太郎の頭が、右左右左みぎひだり left and right (lit: right left)ぐらぐらぐらぐら reeling; wobbly靡いたなびいた yield; be swayed。しまいに苦しがってくるしがって suffering袖の中から、おれの二の腕うで upper arm食い付いたいた bit into痛かったいたかった was painfulから勘太郎を垣根垣根かきね fence押しつけてしつけて pushed intoおいて、足搦をかけて足搦あしがらをかけて trip up (one's opponent)向うもこう in his direction倒してたおして toppledやった。山城屋の地面地面じめん groundsは菜園より六尺がた六尺ろくしゃくがた about six shaku (182 cm; 6 feet)低いひくい low。勘太郎は四つ目垣を半分半分はんぶん half崩してくずして destroy; demolish自分の自分じぶんの one's own領分領分りょうぶん territory; domain真逆様真逆様まっさかさま completely upside downに落ちて、ぐうと云ったぐうとった made a thud。勘太郎が落ちるときに、おれの袷の片袖片袖かたそで one sleeveもげてもげて be torn off急にきゅうに suddenly手が自由自由じゆう freeになった。そのばん eveningはは Motherが山城屋に詫びび apologize行ったった wentついでに袷の片袖も取り返してかえして retrieved来たた came back

この外このほか apart from thisいたずらいたずら mischief大分大分だいぶ a good deal; quite a lotやった。大工大工だいく carpenter兼公兼公かねこう Kanekō (name)肴屋肴屋さかなや fish sellerかく Kaku (name)をつれて、茂作茂作もさく Mosaku (name)人参畠人参畠にんじんばたけ carrot patchあらしたあらした ravaged; laid waste toこと act; factがある。人参の sprout出揃わぬ出揃でそろわぬ not come out fullyところ place (old character usage)わら straw一面に一面いちめんに in one layer敷いていて spreadあったから、その上でうえで on top of三人三人さんにん the three of us半日半日はんにち half a day相撲相撲すもう sumō wrestlingをとりつづけに取ったらったら wrestled、人参がみんな踏みつぶされてみつぶされて were trampledしまった。古川古川ふるかわ Furukawa (name)持っているっている have; own田圃田圃たんぼ rice paddy井戸井戸いど well (water)埋めてめて fill in; bury尻を持ち込まれたしりまれた a complaint was lodged事もある。太いふとい thick; fat孟宗孟宗もうそう a species of bamboo節を抜いてふしいて hollow out (bamboo joint sections)深くふかく deep埋めた中からみず water湧き出てて bubble up、そこいらのいね rice plantにみずがかかる仕掛仕掛しかけ device; mechanismであった。その時分時分じぶん time; periodはどんな仕掛か知らぬらぬ don't knowから、いし stonesぼう sticksちぎれちぎれ fragments; piecesぎゅうぎゅうぎゅうぎゅう by applying pressure井戸の中へ挿し込んでんで stuffed into、水が出なくなったのを見届けて見届みとどけて ascertain; verify、うちへ帰ってかえって returnedめし a meal食ってって eatいたら、古川が真赤真赤まっか bright redになって怒鳴り込んで怒鳴どなんで yelling (at someone)来た。たしか罰金罰金ばっきん monetary compensation出してして paid済んだんだ settled (a matter)ようである。

おやじおやじ my fatherはちっともおれを可愛がって可愛かわいがって love; be affectionate towardくれなかった。はは Motherあに my older brotherばかり贔屓贔屓ひいき a favoriteにしていた。この兄はやに色が白くっていろしろくって be pale芝居芝居しばい theater真似真似まね imitationをして女形女形おんながた female roleになるのが好きき like; be fond ofだった。おれを見るる look at度にたびに each time ...こいつこいつ this guyはどうせ碌なろくな respectableものにはならないと、おやじが云ったった said乱暴乱暴らんぼう violent; hot-headedで乱暴で行く先さき destination; end point案じられるあんじられる be worried about; be anxious overと母が云った。なるほど碌なものにはならない。ご覧の通りらんとおり as you can see始末始末しまつ endingである。行く先が案じられたのも無理はない無理むりはない not unreasonable; warranted。ただ懲役懲役ちょうえき imprisonment行かないでかないで without going生きてきて live; be aliveいるばかりである。

母が病気病気びょうき illness死ぬぬ die; pass away二三日二三日にさんち two or three daysまえ before台所台所だいどころ kitchen宙返り宙返ちゅうがえり somersaultをしてへっついへっつい hearth; kitchen stoveかど corner肋骨肋骨あばらぼね ribs撲ってって hit大いにおおいに in a big way痛かったいたかった was painful。母が大層大層たいそう a great deal怒っておこって became angryお前まえ youのようなもののかお faceは見たくないと云うから、親類親類しんるい relatives泊りとまり stay (overnight)に行っていた。するととうとうとうとう finally; at last死んだと云う報知報知しらせ notice; notification (usual reading = ほうち)来たた came; arrived。そう早くはやく soon死ぬとは思わなかったおもわなかった didn't expect。そんな大病大病たいびょう serious illnessなら、もう少しもうすこし a little more大人しく大人おとなしく well-behavedすればよかったと思って帰って来たかえってた returned home。そうしたら例のれいの the aforementioned兄がおれを親不孝親不孝おやふこう disrespectful towards one's parentsだ、おれのために、おっかさんおっかさん Momが早く死んだんだと云った。口惜しかった口惜くやしかった was hard to takeから、兄の横っ面よこつら side of the face張ってって slapped大変大変たいへん seriously; terribly叱られたしかられた was scolded

はは Mother死んでんで died; passed awayからは、おやじおやじ Fatherあに my older brother三人三人さんにん the three of us暮してくらして livedいた。おやじは何にもせぬなんにもせぬ do-nothingおとこ manで、ひと person; someoneかお faceさえ見ればれば look at貴様貴様きさま you駄目駄目だめ no goodだ駄目だと口癖口癖くちぐせ favorite phrase; stock phraseのように云ってって sayいた。なに whatが駄目なんだかいま now; at present分らないわからない don't knowみょう strange; oddなおやじがあったもんだ。兄は実業家実業家じつぎょうか businessmanになるとか云ってしきりにしきりに incessantly英語英語えいご English勉強勉強べんきょう studyしていた。元来元来がんらい fundamentally; innatelyおんな womanのような性分性分しょうぶん temperamentで、ずるいずるい sly; dishonestから、なか relationshipがよくなかった。十日十日とうか ten days一遍一遍いっぺん onceぐらいのわり rate喧嘩喧嘩けんか quarrelをしていた。ある時あるとき one time将棋将棋しょうぎ shōgi (chess-like game)をさしたら卑怯卑怯ひきょう treachery; unfairness待駒待駒まちごま move blocking the kingをして、人が困るこまる be in difficulty; be distressed嬉しそううれしそう looking smug; looking glad冷やかしたやかした poke fun at; tease。あんまり腹が立ったはらった became angry (lit: belly rose up)から、 hand在ったった had; held飛車飛車ひしゃ hisha (one of the wooden shōgi tiles)眉間眉間みけん brow; middle of the forehead擲きつけてたたきつけて strike; hit やった。眉間が割れてれて split open少々少々しょうしょう a little blood出たた came out。兄がおやじに言付けた言付いつけた tell on a person (usually いいつけた)。おやじがおれを勘当する勘当かんどうする disown言い出したいいした declared

その時そのとき at that timeはもう仕方がない仕方しかたがない cannot be helped; have no choice観念して観念かんねんして be resigned to先方先方せんぽう he (the other party)云う通りどおり exactly as (he) said勘当されるつもりでいたら、十年来十年来じゅうねんらい of ten years (for over ten years)召し使っている使つかっている be in one's serviceきよ Kiyo (name)という下女下女げじょ maidservantが、泣きながらきながら cryingおやじに詫まってあやまって beg for someone's pardon、ようやくおやじの怒りいかり anger解けたけた subsided。それにもかかわらずあまりおやじを怖いこわい frightfulとは思わなかったおもわなかった didn't consider to be。かえってこの清と云う下女に気の毒どく feeling pityであった。この下女はもと由緒由緒ゆいしょ pedigree; noble birthのあるものだったそうだが、瓦解瓦解がかい downfall (of a government)のときに零落して零落れいらくして be ruined (financially)、つい奉公奉公ほうこう domestic serviceまでするようになったのだと聞いていて hearいる。だから婆さんばあさん old ladyである。この婆さんがどういう因縁因縁いんえん affinity; connection (usually いんねん)か、おれおれ me非常に非常ひじょうに very much; considerably可愛がって可愛かわいがって feel affection towardくれた。不思議不思議ふしぎ mysteriousなものである。母も死ぬ三日前三日前みっかまえ three days before愛想をつかした愛想あいそをつかした be disgusted with――おやじも年中年中ねんじゅう all throughout the year持て余してあまして not know what to do withいる――町内で町内ちょうないで about town乱暴者乱暴者らんぼうもの roughneck悪太郎悪太郎あくたろう bad boy (lit: bad Tarō); local villain爪弾き爪弾つまはじき ostracismをする――このおれを無暗に無暗むやみに for no clear reason珍重して珍重ちんちょうして value highly; treasureくれた。おれは到底到底とうてい by any possibilityひと people好かれるかれる be likedたち character; temperamentでないとあきらめてあきらめて give up; resign oneself toいたから、他人他人たにん others; other peopleから木の端はし worthless person (lit: block of wood)のように取り扱われるあつかわれる be treated asのは何とも思わない、かえってこの清のようにちやほやしてちやほやして indulge; spoilくれるのを不審不審ふしん doubt; distrust考えたかんがえた considered。清は時々時々ときどき sometimes台所台所だいどころ kitchen人の居ないひとない no one is there時に「あなたは真直真直まっすぐ straight; uprightよいよい goodご気性気性きしょう nature; dispositionだ」と賞めるめる praiseこと act; factが時々あった。しかしおれには清の云う意味意味いみ meaningが分からなかった。好いい good気性なら清以外以外いがい in addition toのものも、もう少しすこし a little善くく favorablyしてくれるだろうと思った。清がこんな事を云う度にたびに each timeおれはお世辞世辞せいじ adulation; flattery嫌いきらい repugnantだと答えるこたえる answerのがつね regular course of eventsであった。すると婆さんはそれだから好いご気性ですと云っては、嬉しそうにおれの顔を眺めてながめて gaze atいる。自分自分じぶん one's ownちから effortでおれを製造して製造せいぞうして manufacture; produce誇ってほこって be proud ofるように見えるえる appeared少々少々しょうしょう a bit気味がわるかった気味きみがわるかった disconcerting; creepy

はは Mother死んでんで died; passed awayからきよ Kiyo (name of Botchan's maidservant)いよいよいよいよ more than everおれを可愛がった可愛かわいがった showed affection toward時々時々ときどき sometimes小供心小供心こどもごころ childish mindになぜあんなに可愛がるのかと不審不審ふしん doubt; distrust思ったおもった thought of (as)。つまらない、廃せばせば cease (doing something)いいのにと思った。気の毒どく patheticだと思った。それでも清は可愛がる。折々折々おりおり every now and then自分の自分じぶんの one's own小遣い小遣こづかい pocket money金鍔金鍔きんつば a kind of sweet (made from sweet beans)紅梅焼紅梅焼こうばいやき a kind of rice cracker買ってって buyくれる。寒いさむい coldよる nightsなどはひそかにひそかに quietly; secretly蕎麦粉蕎麦粉そばこ soba (buckwheat) flour仕入れて仕入しいれて get a store of (goods)おいて、いつの間にかいつのにか unnoticed; before one knows it寝てて sleepingいる枕元枕元まくらもと bedside (lit: base of one's pillow)蕎麦湯蕎麦湯そばゆ soba broth持って来てってて bringくれる。時にはときには occasionally鍋焼饂飩鍋焼饂飩なべやきうどん udon (thick noodles) heated in a ceramic bowlさえ買ってくれた。ただ食い物もの foodばかりではない。靴足袋靴足袋くつたび socksももらった。鉛筆鉛筆えんぴつ pencils貰ったもらった received (outdated character usage)帳面帳面ちょうめん notebooksも貰った。これはずっとあと later in timeこと act; factであるがかね money三円三円さんえん three yenばかり貸してして lendくれた事さえある。何もなにも nothing at all貸せと云ったった saidわけ case; circumstanceではない。向うでもこうで of (her) own volition部屋部屋へや (my) roomへ持って来てお小遣いがなくてお困りこまり have difficultyでしょう、お使い使つかい use; spendなさいと云ってくれたんだ。おれは無論無論むろん of course入らないらない don't need; don't wantと云ったが、是非是非ぜひ in any case使えと云うから、借りてりて borrowedおいた。実はじつは actually大変大変たいへん a great deal嬉しかったうれしかった was delighted。その三円を蝦蟇口蝦蟇口がまぐち coin purse (lit: toad mouth)入れてれて put intoふところ pocketへ入れたなり便所便所べんじょ toilet行ったらったら went toすぽりとすぽりと cleanly; entirely (= すっぽりと)後架後架こうか pit toilet中へなかへ into落しておとして droppedしまった。仕方がない仕方しかたがない there was nothing I could doから、のそのそのそのそ in a sluggish manner出てきててきて came out実はこれこれだと清に話したはなした told; explainedところが、清は早速早速さっそく immediatelyたけ bambooぼう rod捜してさがして searched for来て、取ってって get上げますげます do (something) for someoneと云った。しばらくしばらく a whileすると井戸端井戸端いどばた by the wellでざあざあ音がするおとがする there comes a soundから、出てみたら竹のさき endへ蝦蟇口のひも string引き懸けたけた hooked overのをみず water洗ってあらって washいた。それからくち mouth (of the coin purse)をあけて壱円札壱円札いちえんさつ one yen notes改めたらあらためたら unfolded茶色茶色ちゃいろ brownになって模様模様もよう pattern; image消えかかってえかかって starting to disappearいた。清は火鉢火鉢ひばち hibachi (charcoal coals)乾かしてかわかして dry、これでいいでしょうと出したした take out; present to。ちょっとかいでかいで smellみて臭いくさい stinkingやと云ったら、それじゃお出しなさい、取り換えてえて exchange来て上げますからと、どこでどう胡魔化した胡魔化ごまかした pull something offさつ bills (money)代りにかわりに in exchange for銀貨銀貨ぎんか silver coinsを三円持って来た。この三円は何になんに for what使ったか忘れてわすれて forgotしまった。今にいまに soon返すかえす returnよと云ったぎり、返さない。今となっていまとなって now; the present十倍十倍じゅうばい ten timesにして返してやりたくてやりたくて want to do (something for someone)も返せない。

きよ Kiyo (name of Botchan's maidservant)もの thingsをくれるとき when; timeには必ずかならず invariablyおやじおやじ my fatherあに my older brother居ないない not present時に限るかぎる limited to。おれはなに what嫌いきらい distasteful; unpleasantだと云ってって say; mentionひと people隠れてかくれて hide (from)自分自分じぶん oneselfだけ得をするとくをする benefit; profitほど嫌いなこと act; factはない。兄とは無論無論むろん of course仲がよくないなかがよくない not on good termsけれども、兄に隠して清から菓子菓子かし sweets色鉛筆色鉛筆いろえんぴつ colored pencils貰いたくもらいたく want to receiveはない。なぜ、おれ一人おれ一人ひとり me aloneにくれて、兄さんにいさん older brotherには遣らないらない not give toのかと清に聞くく ask事がある。すると清は澄したものですましたもので in an unconcerned mannerお兄様兄様にいさま your older brotherお父様父様とうさま your father買ってって buyお上げなさるげなさる to do (something for someone)から構いませんかまいません there's no need to worryと云う。これは不公平不公平ふこうへい unfairである。おやじは頑固頑固がんこ hard-headed; stubbornだけれども、そんな依怙贔負依怙贔負えこひいき favoritismはせぬおとこ manだ。しかし清の eyes; viewpointから見るる look atとそう見えるのだろう。全くまったく completely愛に溺れてあいおぼれて dote (on me); indulge (lit: drown in love)いたに違いないちがいない no doubtもと origin身分のある身分みぶんのある of social standingものでも教育教育きょういく educationのない婆さんばあさん old ladyだから仕方がない仕方しかたがない it can't be helped単にたんに simply; onlyこればかりではない。贔負目は恐ろしいおそろしい frightfulものだ。清はおれをもって将来将来しょうらい future立身出世立身出世りっしんしゅっせ success in the worldして立派立派りっぱ splendidなものになると思い込んでおもんで convinced (herself)いた。その癖そのくせ in that same manner勉強勉強べんきょう studiesをする兄はいろ color; complexionばかり白くってしろくって white、とても役には立たないやくにはたない be of no use一人で一人ひとりで by oneselfきめてしまった。こんな婆さんに逢ってって meet叶わないかなわない be unable (to reason with)自分の自分じぶんの one's own好きき favoredなものは必ずえらい人物人物じんぶつ man of abilityになって、嫌いきらい dislikedなひとはきっと落ち振れるれる sink down in the worldものと信じてしんじて believedいる。おれはその時から別段別段べつだん in particularなん whatになると云う了見了見りょうけん idea; notionもなかった。しかし清がなるなると云うものだから、やっぱり何かなにか something成れるれる could becomeんだろうと思っておもって thoughtいた。今からいまから looking back (from the present)考えるかんがえる consider馬鹿馬鹿しい馬鹿馬鹿ばかばかしい absurd; asinine。ある時などは清にどんなものになるだろうと聞いてみた事がある。ところが清にも別段の考えもなかったようだ。ただ手車手車てぐるま rickshaw乗ってって ride in、立派な玄関玄関げんかん entry hallのあるいえ houseこしらえるこしらえる build相違ない相違そういない there's no doubtと云った。

それから清はおれがうちでも持ってって own独立独立どくりつ independence; self-sufficiencyしたら、一所一所いっしょ togetherになる intention; inclinationでいた。どうか置いていて provide a position for下さいください please何遍も何遍なんべんも often; many times繰り返してかえして repeatedly頼んだたのんだ requested。おれも何だかうちが持てるような気がして、うん置いてやると返事返事へんじ answerだけはしておいた。ところがこのおんな womanはなかなか想像想像そうぞう imagination強いつよい strong; vivid女で、あなたはどこがお好き、麹町麹町こうじまち Kōjimachi (area in central Tōkyō)ですか麻布麻布あざぶ Azabu (area in south-central Tōkyō)ですか、お庭にわ (your) yardぶらんこぶらんこ a swingをおこしらえ遊ばせあそばせ amuse; entertain西洋間西洋間せいようま western-style roomは一つでたくさんですなどと勝手な勝手かってな to one's own convenience計画計画けいかく plans独りでひとりで by herself並べてならべて lay out (plans)いた。その時は家なんか欲しくしく wantも何ともなかった。西洋館西洋館せいようかん western-style building日本建日本建にほんだて Japanese-style buildingも全く不用不用ふよう unnecessaryであったから、そんなものは欲しくないと、いつでも清に答えたこたえた answered。すると、あなたはよく desiresがすくなくって、こころ heart; soul奇麗奇麗きれい clean; pureだと云ってまた賞めためた praised。清は何と云っても賞めてくれる。

はは Mother死んでんで died; passed awayから五六年五六年ごろくねん five or six yearsあいだ interval (of time)はこの状態状態じょうたい condition暮してくらして livedいた。おやじおやじ my fatherには叱られるしかられる be scoldedあに my older brotherとは喧嘩喧嘩けんか quarrelをする。きよ Kiyo (name of Botchan's maidservant)には菓子菓子かし sweets貰うもらう receive時々時々ときどき sometimes賞められるめられる be praised別にべつに in particular望みのぞみ desire; wishもない。これでたくさんだと思っておもって thoughtいた。ほかの小供小供こども children一概に一概いちがいに for the most partこんなものだろうと思っていた。ただ清が何かにつけてなにかにつけて whenever the opportunity arises、あなたはお可哀想可哀想かわいそう to be pitiedだ、不仕合不仕合ふしあわせ unfortunateだと無暗に無暗むやみに indiscreetly云うう say; tellものだから、それじゃ可哀想で不仕合せなんだろうと思った。その外にほかに apart from苦になるになる worry aboutこと act; fact少しもすこしも in the leastなかった。ただおやじが小遣い小遣こづかい pocket moneyをくれないには閉口した閉口へいこうした be annoyed (by something)

はは Mother死んでんで died; passed awayから六年目六年目ろくねんめ sixth year正月正月しょうがつ New Yearにおやじも卒中卒中そっちゅう apoplexy (a stroke)亡くなったくなった passed away。そのとし year四月四月しがつ Aprilにおれはある私立私立しりつ private中学校中学校ちゅうがっこう middle school卒業卒業そつぎょう graduationする。六月六月ろくがつ Juneに兄は商業学校商業学校しょうぎょうがっこう business schoolを卒業した。兄は何とかなんとか a certain会社会社かいしゃ company九州九州きゅうしゅう Kyūshū支店支店してん branchくち openingがあって行かなければならんかなければならん had to go。おれは東京東京とうきょう Tōkyōでまだ学問学問がくもん studiesをしなければならない。兄はいえ house売ってって sell財産財産ざいさん property片付けて片付かたづけて handle; take care of任地任地にんち one's post出立出立しゅったつ departすると云い出したした propose; suggest。おれはどうでもするがよかろうと返事返事へんじ replyをした。どうせ兄の厄介厄介やっかい burdenになる intentionはない。世話世話せわ careをしてくれるにしたところで、喧嘩をするから、向うむこう the other partyでも何とかなんとか something云い出すす start (something)極っているきまっている certain; a givenなまじいなまじい halfhearted保護保護ほご care; guardianship受ければければ receiveこそ、こんな兄にあたま head下げなければならないげなければならない have to lower; have to bow (one's head)牛乳牛乳ぎゅうにゅう milk配達配達はいたつ deliveryをしても食ってって eat; (make a living)られると覚悟覚悟かくご readiness; resolutionをした。兄はそれから道具屋道具屋どうぐや second-hand dealer呼んでんで call; summon来てて come先祖代々の先祖代々せんぞだいだいの family; ancestral瓦落多瓦落多がらくた rubbish; odds and ends二束三文二束三文にそくさんもん dirt cheap; for a songに売った。家屋敷家屋敷いえやしき house and groundsはあるひと person周旋周旋しゅうせん mediation; brokerageである金満家金満家きんまんか person of wealth譲ったゆずった turned over; transferred title。このほう method; alternative大分大分だいぶ quite a lotかね moneyになったようだが、詳しいくわしい detailed事は一向一向いっこう (not) at all知らぬらぬ don't know。おれは一ヶ月一ヶ月いっかげつ one month以前以前いぜん priorから、しばらく前途前途ぜんと one's future方向方向ほうこう directionのつくまで神田神田かんだ Kanda (place name)小川町小川町おがわまち Ogawamachi (place name)下宿下宿げしゅく lodgingしていた。清は十何年十何年じゅうなんねん more than ten years居たた livedうちが人手人手ひとで others' hands渡るわたる pass over toのを大いにおおいに greatly残念がった残念ざんねんがった was disappointedが、自分自分じぶん one's ownのものでないから、仕様がなかった仕様しようがなかった there was nothing one could do。あなたがもう少し年をとってとしをとって aged; advanced in yearsいらっしゃれば、ここがご相続相続そうぞく inherit出来ます出来できます be possibleものをとしきりに口説いて口説くどいて persuade; entreatいた。もう少し年をとって相続が出来るものなら、今でもいまでも even now相続が出来るはずだ。婆さんばあさん old woman何もなんにも nothing知らないから年さえ取ればれば take (years)兄の家がもらえると信じてしんじて believeいる。

あに my older brotherとおれはかようかよう in this way分れたわかれた parted waysが、困ったこまった difficultのはきよ Kiyo (name of Botchan's maidservant)行く先さき destination; dispositionである。兄は無論無論むろん of course連れて行けるれてける can take someone (with him)身分身分みぶん status; social standingでなし、清も兄の尻にくっ付いてしりにくっいて following (a person)九州九州きゅうしゅう Kyūshū下りくんだり into the country (away from Tōkyō)まで出掛ける出掛でかける set out intention毛頭なし毛頭もうとうなし not in the leastと云ってって (that) being saidこのとき timeのおれは四畳半四畳半よじょうはん four and a half mats (about 7 square meters; about 75 square feet)安下宿安下宿やすげしゅく cheap lodgings籠ってこもって holed up (in)、それすらもいざとなれば直ちにただちに immediately引き払わねばならぬはらわねばならぬ must vacate; must clear out始末始末しまつ circumstancesだ。どうすること act; fact出来ん出来できん can't do (anything)。清に聞いていて askみた。どこかへ奉公奉公ほうこう domestic serviceでもする気かねと云ったらあなたがおうちを持ってって own奥さまおくさま wifeお貰いになるもらいになる take (a wife); receiveまでは、仕方がない仕方しかたがない there's nothing (else) to doから、おい nephew厄介厄介やっかい dependent on; under the care ofになりましょうとようやく決心した決心けっしんした resolved; decided返事返事へんじ replyをした。この甥は裁判所裁判所さいばんしょ court; courthouse書記書記しょき clerk; secretaryでまず今日には今日こんにちには for the present差支えなく差支さしつかえなく without difficulty暮してくらして live; make a livingいたから、いま now; the presentまでも清に来るなら来いるならい if (you're) coming then come二三度二三度にさんど two or three times勧めたすすめた offeredのだが、清はたといたとい even if下女奉公下女奉公げじょほうこう maidservantはしても年来年来ねんらい for years住み馴れたれた accustomed to living inうち houseほう alternativeがいいと云って応じなかったおうじなかった hadn't accepted。しかし今の場合場合ばあい situation知らぬらぬ unknown; unfamiliar屋敷屋敷やしき residence; estate奉公易え奉公易ほうこうがえ change of servitudeをして入らぬらぬ needless気兼気兼きがね deference仕直す仕直しなおす begin anewより、甥の厄介になる方がましまし preferableだと思ったおもった consideredのだろう。それにしても早くはやく soonうちを持ての、さい wifeを貰えの、来て世話をする世話せわをする take care of (someone)のと云う。親身親身しんみ blood relation; kindredの甥よりも他人他人たにん unrelated personのおれの方が好きき likedなのだろう。

九州へ立つつ depart (for)二日前二日前ふつかまえ two days before兄が下宿へ来てかね money六百円六百円ろっぴゃくえん six hundred yen出してして take out; presentこれを資本資本しほん capitalにして商買商買しょうばい business; tradeをするなり、学資学資がくし education fundにして勉強勉強べんきょう studyをするなり、どうでも随意随意ずいい as you wish使う使つかう useがいい、その代りそのかわり in exchangeあとは構わないかまわない is no concern (of mine)と云った。兄にしては感心な感心かんしんな admirableやり方やりかた course of actionだ、何のなんの (not) any六百円ぐらい貰わんでも困りはせんと思ったが、例に似ぬれいぬ unprecedented淡泊な淡泊たんぱくな candid; frank処置処置しょち treatment気に入ったった appreciated; was acceptable (to me)から、礼を云ってれいって saying thanks貰っておいた。兄はそれから五十円五十円ごじゅうえん fifty yen出してこれをついでに清に渡してわたして hand toくれと云ったから、異議なく異議いぎなく with no objection引き受けたけた took on (a task)。二日立ってって (time) passed新橋新橋しんばし Shinbashi停車場停車場ていしゃば station分れたわかれた parted (from someone)ぎり兄にはその after一遍も一遍いっぺんも even one time逢わないわない not see (a person)

おれは六百円六百円ろっぴゃくえん six hundred yen使用法使用法しようほう method of useについて寝ながらながら while lying down考えたかんがえた considered商買商買しょうばい businessをしたって面倒くさくって面倒めんどくさくって troublesome; tiresome旨くうまく successful; satisfactory出来る出来できる can doものじゃなし、ことに六百円のかね moneyで商買らしい商買がやれるわけ reason; expectationでもなかろう。よしやれるとしても、いま present (time)のようじゃ人の前ひとまえ before others出てて appear教育教育きょういく education受けたけた received威張れない威張いばれない can't be proud; can't hold one's head highからつまりそん loss; disadvantageになるばかりだ。資本資本しほん capitalなどはどうでもいいから、これを学資学資がくし education fundにして勉強勉強べんきょう studiesしてやろう。六百円をさん three割ってって divide (into)一年一年いちねん one year二百円二百円にひゃくえん two hundred yenずつ使えば使つかえば use (conditional tense)三年間三年間さんねんかん three yearsは勉強が出来る。三年間一生懸命一生懸命いっしょうけんめい with utmost effortにやれば何かなにか something出来る。それからどこの学校学校がっこう schoolへはいろうと考えたが、学問学問がくもん learning; scholarship生来生来しょうらい by natureどれもこれも好きき have a liking forでない。ことに語学語学ごがく language studyとか文学文学ぶんがく literatureとか云うう called; referred to asものは真平真平まっぴら by any meansご免めん excuse oneselfだ。新体詩新体詩しんたいし modern poetryなどと来てはては concerning二十行二十行にじゅうぎょう twenty lines (of text)あるうちで一行一行いちぎょう one line (of text)分らないわからない don't understand。どうせ嫌いなきらいな distasteful; offensiveものなら何をやっても同じおなじ the sameこと act; factだと思ったおもった thoughtが、幸いさいわい fortunately物理物理ぶつり physics学校学校がっこう schoolまえ front (of)通り掛ったらとおかかったら when passing by生徒生徒せいと student募集募集ぼしゅう recruiting; registration広告広告こうこく notice; announcement出てて be outいたから、何もえん affinityだと思って規則書規則書きそくしょ prospectus; regulationsをもらってすぐ入学入学にゅうがく enrollment手続き手続てつづき procedureをしてしまった。今考えるとこれも親譲り親譲おやゆずり by nature無鉄砲無鉄砲むてっぽう recklessnessから起ったおこった arose (from)失策失策しっさく blunderだ。

三年間まあ人並人並ひとなみ with average resultsに勉強はしたが別段別段べつだん particularlyたちのいいたちのいい of high qualityほう side; alternativeでもないから、席順席順せきじゅん class rankはいつでもした bottomから勘定する勘定かんじょうする count; calculate方が便利便利べんり easy; convenientであった。しかし不思議不思議ふしぎ strange; curiousなもので、三年立ったらったら passed (time)とうとうとうとう finally; in the end卒業卒業そつぎょう graduationしてしまった。自分でも自分じぶんでも even to me可笑しい可笑おかしい amusing; comicalと思ったが苦情苦情くじょう objectionを云う訳もないから大人しく大人おとなしく obediently; submissively卒業しておいた。

卒業してから八日目八日目ようかめ eighth day校長校長こうちょう school principal呼びび call来たた cameから、何かよう businessだろうと思って、出掛けて出掛でかけて set out行ったらったら went四国四国しこく Shikokuあたり regionのある中学校中学校ちゅうがっこう middle school数学数学すうがく mathematics教師教師きょうし instructor入るる be in need of月給月給げっきゅう monthly pay四十円四十円よんじゅうえん forty yenだが、行ってはどうだという相談相談そうだん offerである。おれは三年間学問はしたがじつ truthを云うと教師になる intentionも、田舎田舎いなか country; rural areaへ行く考えも何もなかった。もっとも教師以外に以外いがいに other than何をしようと云うあてもなかったから、この相談を受けたけた receivedとき time (when)、行きましょうと即席に即席そくせきに promptly; readily返事返事へんじ replyをした。これも親譲りの無鉄砲が祟ったたたった cursed; brought calamity onのである。

引き受けたけた took on (a task); committed to以上以上いじょう now that; so long as赴任赴任ふにん proceed to one's postせねばならぬ。この三年間三年間さんねんかん three years四畳半四畳半よじょうはん four and a half mat room (about 7 square meters; about 75 square feet)蟄居して蟄居ちっきょして keep house; be cooped up in小言小言こごと scolding; rebukeはただの一度も一度いちども even once聞いたいた heardこと act; factがない。喧嘩喧嘩けんか quarrelもせずに済んだんだ managed。おれの生涯生涯しょうがい lifetimeのうちでは比較的比較的ひかくてき relatively呑気呑気のんき easygoing; carefree時節時節じせつ period (of time)であった。しかしこうなると四畳半も引き払わなければならんはらわなければならん had to vacate生れてからうまれてから in one's life東京東京とうきょう Tōkyō以外以外いがい outside of踏み出したした stepped out ofのは、同級生同級生どうきゅうせい classmatesと一所に一所いっしょに together with鎌倉鎌倉かまくら Kamakura (about an hour southwest of Tōkyō by train)遠足した遠足えんそく school tripとき timeばかりである。今度今度こんど this timeは鎌倉どころではない。大変な大変たいへんな extreme遠くとおく far away (place)行かねばならぬかねばならぬ must go (to)地図地図ちず map見るる look at; view海浜海浜かいひん seashore; coast針の先はりさき tip of a needleほど小さくちいさく small見えるえる appear; seem。どうせ碌なろくな proper; respectableところ placeではあるまいあるまい likely not。どんなまち townで、どんなひと people住んでるんでる be living (in a place)分らんわからん don't know。分らんでも困らないこまらない not be troubled by心配心配しんぱい concernにはならぬ。ただ行くく goばかりである。もっとも少々少々しょうしょう a bit of; to some extent面倒臭い面倒臭めんどうくさい troublesome

いえ household畳んでたたんで fold up; wind up (one's affairs)からもきよ Kiyo (name of Botchan's former maidservant)の所へは折々折々おりおり occasionally行った。清のおい nephewというのは存外存外ぞんがい beyond expectation結構結構けっこう fine; splendidな人である。おれが行くく go; visitたびに、居りり be presentさえすれば、何くれとなにくれと in various ways款待なして款待もてなして treat; show hospitalityくれた。清はおれをまえ front; in front of置いていて set; place、いろいろおれの自慢自慢じまん praiseを甥に聞かせたかせた tell; inform今にいまに presently; soon学校学校がっこう school卒業する卒業そつぎょうする graduate麹町麹町こうじまち Kōjimachi (area in central Tōkyō)あたり vicinity屋敷屋敷やしき house and grounds買ってって purchase役所役所やくしょ government offices通うかよう go to work (in)のだなどと吹聴した吹聴ふいちょうした announced; proclaimed事もある。独りでひとりで by oneself極めてめて decide一人で一人ひとりで by oneself喋舌る喋舌しゃべる divulge; prattleから、こっちは困まってかお face赤くしたあかくした blushed (lit: made red)。それも一度一度いちど one time二度二度にど two timesではない。折々おれが小さい時寝小便をした寝小便ねしょうべんをした wet the bed事まで持ち出すす bring upには閉口した閉口へいこうした be embarrassed; be dumbfounded。甥はなん what思っておもって thought清の自慢を聞いていたか分らぬ。ただ清は昔風昔風むかしふう old-style; old-fashionedおんな womanだから、自分自分じぶん oneselfとおれの関係関係かんけい relationship封建時代封建時代ほうけんじだい feudal period主従主従しゅじゅう master and servant; lord and vassalのように考えてかんがえて consideredいた。自分の主人主人しゅじん masterなら甥のためにも主人に相違ない相違そういない surely; without a doubt合点した合点がてん understood (as)ものらしい。甥こそいい面の皮だいいつらかわだ shame on (him)

いよいよいよいよ finally約束約束やくそく arrangements; date極まってまって decided、もう立つつ departと云うう designated (date)三日前三日前みっかまえ three days beforeきよ Kiyo (name of Botchan's former maidservant)尋ねたらたずねたら visited北向き北向きたむき north-facing三畳三畳さんじょう three-mat (room)風邪風邪かぜ a cold引いていて catch (a cold)寝てて be in bedいた。おれの来たた arrived; cameのを見てて noticed; saw起き直るなおる get up (out of bed)早いはやい right awayか、坊っちゃんっちゃん Botchan (young master)いつうち houseお持ちなさいますちなさいます own聞いたいた asked卒業卒業そつぎょう graduationさえすればかね money自然と自然しぜん automaticallyポッケットのなか inside湧いていて bubble up来ると思っておもって thoughtいる。そんなにえらいひと personをつらまえて、まだ坊っちゃんと呼ぶぶ refer to (as)のはいよいよ馬鹿気て馬鹿気ばかげて idioticいる。おれは単簡に単簡たんかんに simply当分当分とうぶん for a whileうちは持たない。田舎田舎いなか the country行くく goんだと云ったらったら said非常に非常ひじょうに very much; greatly失望した失望しつぼうした disappointed容子容子ようす lookで、胡麻塩胡麻塩ごましお salt and pepper colored (lit: mixture of black sesame seeds and salt)びん side locks乱れみだれ loose (hair)しきりにしきりに intently撫でたでた stroked。あまり気の毒どく miserableだから「行くく goこと act; factは行くがじき帰るかえる return来年来年らいねん next year夏休み夏休なつやすみ summer vacationにはきっと帰る」と慰めてなぐさめて to comfort (someone)やった。それでもみょう odd; strangeかお faceをしているから「なに what見やげやげ gift (from a returning traveler)買ってって buy来てやろう、何が欲しいしい like; want」と聞いてみたら「越後越後えちご Echigo (old province in north-central Japan - now part of Niigata-ken)笹飴笹飴ささあめ sweet rice jelly wrapped in a bamboo leaf食べたいべたい want to eat」と云った。越後の笹飴なんて聞いた事もない。第一第一だいいち first of all方角方角ほうかく direction違うちがう wrong; different。「おれの行く田舎には笹飴はなさそうだ」と云って聞かしたら「そんなら、どっちの見当見当けんとう directionです」と聞き返したかえした asked in response。「西西にし westほう directionだよ」と云うと「箱根箱根はこね Hakone (about 50 km west of Tōkyō)のさきですか手前手前てまえ this side ofですか」と問うう ask随分随分ずいぶん quite; very much持てあましたてあました didn't know what to do with (someone)

出立出立しゅったつ departure dayにはあさ morningから来て、いろいろ世話をやいた世話せわをやいた offered unsolicited help。来る途中途中とちゅう on the way小間物屋小間物屋こまものや dry goods storeで買って来た歯磨歯磨はみがき toothbrush楊子楊子ようじ tooth pick手拭手拭てぬぐい washclothズックの革鞄ズックの革鞄かばん jute bag入れてれて put intoくれた。そんなもの things入らないらない don't needと云ってもなかなか承知承知しょうち acknowledgementしない。くるま cart; rickshaw並べてならべて ride in停車場停車場ていしゃば station着いていて arrived、プラットフォームのうえ onto出たた stepped out (onto)とき timeくるま railcar乗り込んだんで got into (railcar)おれの顔をじっと見て「もうお別れわかれ farewellになるかも知れませんかもれません may be。随分ご機嫌よう機嫌きげんよう take care」と小さなちいさな smallこえ voiceで云った。 eyesなみだ tears一杯一杯いっぱい fullたまっている。おれは泣かなかったかなかった didn't cry。しかしもう少しもうすこし a bit moreで泣くところであった。汽車汽車きしゃ (steam) trainがよっぽど動き出してうごして began to moveから、もう大丈夫大丈夫だいじょうぶ okay; alrightだろうと思って、まど windowから首を出してくびして stick ones head out (lit: neck)振り向いたらいたら looked back、やっぱり立ってって standingいた。何だか大変大変たいへん very; terribly小さく見えた。